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だから、

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「先輩、さやかと相性良かったんじゃないですか?」
「なんで」
「だって、あの子もある意味みんなに求めすぎな人種だったし、馴染めてなかったから」

 あの子は、とにかく愚痴と悪口が会話のレパートリーだった。人の好き嫌いも激しいし、気に食わないことがあればすぐに私を捕まえてその愚痴をぶちまけて、それでも収まらなければ他の女子数人にも悪口を吹き込んだりしていた。
 ただ、それは先輩と同じように、ある種周囲に「期待してた」からこその振る舞いだったのだろう。私は、愚痴も悪口も、わざわざ口にするほどまで思いつかない。少し不愉快な、肌がべたつくほどの空気が触れてはすぐに離れていったくらいの不快感しか覚えない。
 クラスの大多数もそうだったはずだ。ある教師の奇妙な癖について、もしくは時間割の順番や、テストの日程なんかでも。わめきたてたり面白がったりする熱量を今の高校生は持っていないだろう。

「菜乃ちゃんって性格悪いね」
「そう思いますか」
「一回ふって、自殺未遂までさせた子について相性良かったんじゃないですかって」
「たしかに不謹慎かもしれませんね」
「さっきも言ったけど社交性を身に着けたら?」
「でも、学校で浮いてるのは私より先輩の方ですよ」

 先輩は、授業中に居眠りするみたいに腕に埋めていた頭を、少しだけ持ち上げて私を見上げた。上目遣いで、「こいつ、うざいな」って思ってるのがその視線から分かった。

「ねえ先輩」
「うん?」
「せっかくなので、先輩の気持ちが軽くなるようなことを教えましょうか」
「俺は浮いてないってこと?」
「そうじゃなくて、自殺未遂した時のあの子は、随分取り乱してたって話です」

 何でこんなことを話し始めたのか。自分でも分からないうちに、私はこの人に同情しつつあったのかもしれない。

「先輩にふられた後のあの子は、泣きながらトイレにこもったんです。教室に近い、普段私たちが使ってる方のトイレじゃなくて、化学実験室近くのトイレです」
「知ってるよ。そこから飛び降りたんでしょ」
「ええまあ。そして昼休み中に、私は一度そのトイレに呼び出されてたんですよ」

 もう告白は終わったかな。そんな風に私が考えていた頃に、さやかからLINEが来たのだ。「実験室横のトイレに来て」
 私はそれだけで、ああ、ふられたんだな、と内心思った。もし付き合えたのなら、クラス中に響き渡るような声で私に報告しに来ただろうから。

「だから、慰めてもらいたいんだろうな、って思いながらあの子のところに行きました。結果はその通りでした。でも、私が想像してたのよりずっとあの子は取り乱してたんです。なのでこの後に、突発的に何かし出してもおかしくはないなって思いました。何かって言っても、それは学校を抜け出すとか、貌鳥先輩のクラスに行って変なこと言いだすんじゃないかなとか、それくらいのものでした」

 だから、自殺したと聞いた時、私は本当に驚いたのだ。
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