みんなあたまがおかしいようです

尾持ち

文字の大きさ
22 / 29

供述(男子生徒)

しおりを挟む

「へえ。校長室ってこうなってるんですね。あれ、あの金ピカの球みたいなやつはなんですか? サッカー部が県大会まで行った時のもの? 強いんですねうちの高校。初めて知りました」

「……そんなに怒ることないじゃないですか。ただのアイスブレイクみたいなもんですよ。不謹慎? 真剣さが足りないって? そりゃどうも、すみませんでした」

「でも、そんな怒ります? 俺は高校生ですよ。そりゃ十八だから、選挙権もあるし大人と同じかもしれませんけど。まだ高校二年の子供ですよ。それで、こんな風に事情聴取されてるけど、俺はどちらかというと被害者じゃないですか。この事件に関しては」

「……被害者じゃなかったら何なんですか? 加害者とは言いませんよね? 俺は殺してませんよ。わざと自殺するような言葉も言ってません。ひどい振り方だってしてませんもん」

「この聞き取りも三回目? 四回目でしたっけ。前は会議室だかに呼ばれたんで、一気に仰々しくなったじゃないですか。単に他生徒が通りかからない空き部屋が無かった? へえ。まあ、そうですか」

「それで、その時に何度も言った通り、俺は無実ですよ。刑事さんだってこの前そう認めましたよね?」

「……はぁ、被疑者。そういう呼び方もあるんですね。確かにそんな風に呼ばれてるのを刑事ドラマで聞いた気がします。科捜研の女とかですかね」

「で、俺はまだ殺人の疑いがあるって言いたいんですか? 散々現場検証にも付き合って、あの子のスマホに遺書やらLINEの履歴やらが残ってないか確かめた後に、俺が無実だって証明されたでしょう? ……今のは俺の疑問に答えただけ? そうですか。こっちは脅されてるみたいな気持ちでしたよ」

「それで、もう三回も聞き取りをしたのに、まだ確かめたいことがあるんですか? 前回はたしか、当日の夜から朝に逆に遡るかたちで自分の行動を刑事さんにお話ししたんでしたっけ? あれ、帰ってから調べたんですけど犯人の供述の矛盾点を突く時に便利なやり方なんですね。残念ながら、俺の喋った一日の振り返りに矛盾は一つもありませんでしたけど」

「……生意気ですか? すみませんね。こういう時にどんな風に喋ればいいのかお手本を知らないので。生まれて初めてなんですよ事情聴取なんて。いや、もう四回目だから初めてじゃないか。あはは……。いや、反抗するつもりなんてありませんけど、もう四回目ですよ。この取り調べも。態度がいい加減になるのも仕方ないと思いませんか? 俺だって一度目はしおらしくしていたじゃないですか。……その時も俺は態度が良くなかった? そうですか」

「当日のことについて、俺から言うことはもうありませんよ。何度も答えた通りです。告白は、最初にちゃんと断りました。そして『どうして付き合ってくれないのか』って聞かれたので、タイプじゃないんだって答えました。断った後もその子はその場に立ち尽くして泣いたままだったけど、俺は置き去りにして自分の教室に戻りました。その後、実験室前に引き返したりなんかもしていません。教室に戻ったことは、同じクラスの奴がちゃんと見てるはずですよ」

「どうしてもっと優しい言葉で断れなかったのか、ですか? 充分優しく言いましたよ。ああ、タイプじゃなかったって言ったことについてですか? それは、もうどうしようもないじゃないですか。タイプじゃないって一番優しい断り方だと思うんです。例えば歯が黄ばんでて嫌だとか、歩き方が変だから付き合いたくないって時でも理由を濁して使えるでしょう?」

「こんなこと言うと、また生意気だって思われるかもしれませんけど、告白とかうんざりしてたんです。俺は悪い意味で有名人だから、罰ゲームで嘘の告白とか、される側になるのも多かったんですよ。断ったら、それはそれでその女の子がグループ内の子に馬鹿にされるし、だからといって俺がOKしたら『本気で付き合いたいわけないじゃん』って怒られるか、もしくは本気で泣かれるかみたいなこともあったんですよ。全然知らない三年の誰々先輩と付き合ってるんだ、って噂まで流されたりして」

「だから、俺はもう断る時ははっきり断ろうと思ったんです。変に濁したりした方が、相手の子も変な噂の標的になりそうだし、もし断って逆ギレされるだけなら俺一人が嫌な思いをするだけで済むからまあいいやって思って」

「……まあいいんですけどね。ちゃんと捜査してくれるならそれで。俺は絶対にやってないんですから、どんな証拠が出てきても俺のせいにはならないです」

「……そういえばあの子、そう、さやかちゃんはまだ意識が戻らないんですか? いえ、別に個人的に伝えたいことがあるわけじゃないんですけど、もし意識が戻ってくれたら、俺の無実を証言してくれるだろうなって思って。ただまあ、自殺未遂した本人にあれは自殺だったって断言させるのはちょっと気まずいかもしれませんけどね。……そこは『心苦しい』って言うべきところだ? そうですか。小論文の授業の時にでも思い出しておきますよ」

「ああ、それで、最後に一つだけ聞きたいんですが、もしこれから先、明確な『証拠』が出て来たりなんかしたら、捜査ってどんな風になるんですか? ……証拠がどういうものかって、例えば会話の録音とか、遺書とか、メールとか。散々捜査して調べ尽くした、っていうのは分かってるんですけど、もし新しくそういうのが出てきたらどうなるんです?」

「……別に、後ろめたいことがある訳じゃないですよ。ただ、もしそういう確かな証拠があれば、その子が意識を取り戻すより早く、俺の嫌疑が晴れるんじゃないかと思いまして。もう被疑者ではない? そうは言っても、こうやって四回目の聞き取りに呼ばれてる時点で残り一パーセントくらいは疑われてるんじゃないですか? 一パーセントどころじゃないかもしれないけど」

「もし見つかったら会議にかける? ええ、まあ、そうですか。そうでしょうね。いい証拠が見つかるといいですね。頑張ってください」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました

蓮恭
恋愛
 恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。  そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。  しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎  杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?   【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

処理中です...