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本編
17。ー所有
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「水、飲めるか?」
クローゼットに横たわっていたら、先生がグラスに水を入れて持ってきてくれた。それを受け取って、ごくごく飲む。
「今晩はここに泊まれ。金曜日の夜でも構わないだろう」
「うん」
その後、お風呂に移った。
わたしは洗い場で髪の毛を洗った。この間も思ったけれど、いい匂いがする。シャンプーやボディーソープは、すべて商品名も成分表もないボトルに入ってるから、先生が作ったのかな。
横で湯船に浸かる先生をちらりと見た。先生は夜なのに窓の方を向いていて、もしもまだ気にしてたら嫌だなと思った。
「先生……図書館には、英里香さんたちもいたんだよ?」
髪を洗い流してから話しかけたら、先生はこっちを向いた。
「知っている」
なんだ。知ってたのか。
先生は立ち上がって、わたしの背後に回った。そして身体を洗うスポンジにボディーソープをつけて、わたしの背中に当てる。
「洗ってくれるの?」
「あぁ、きみが良ければ」
「うん? 嬉しいよ?」
先生は、そうか、と言って洗い出した。
「……所有欲が強いんだ、僕は」
わたしの身体をゴシゴシしながら、先生は珍しく自分の話をしようとしてくれた。
「自分のものは、自分のものとして手元に置いておきたい。誰のものかはっきりさせたい。他人が無断で使っているのを良しとしない——
僕がこの業界で名が通っているのは、明確に自分で作った薬品の権利主張をしたからだ。会社の研究所にいるときから、自分で作ったものを、自分の名前で登録していた」
そういえば、先生は教授職に就く前は大手の製薬会社に勤めている。これは先生の著書の経歴欄で知っていることだ。
「それは、普通のことじゃないの?」
「ああ、普通は研究者はどれだけ貢献しても、新薬の権利は勤めている会社のものになる。しかし僕は、自分の作った薬が会社の名前で勝手に使われることが許せなかった」
「でも先生は、会社が自己登録を認めざるを得ないほど、自分ひとりで作ってたんでしょ?」
「そう見ることもできるが……同じように単独で作成・完成までこぎつけても、まったく自分の手元から離れた研究者を何人も知っている。この差はやはり、薬学に関する能力ではなく、己のものとしてこだわったか否かだと思う」
「それに、」
話が続かないから振り向くと、先生は口を閉じていた。
「……話しすぎた」
先生はそれっきり自分のことを話すのをやめてしまった。わたしはもっと聞きたかったけれど、無理に聞き出しても仕方がないし、また先生が自分から話してくれるのを待っていようと思った。
「だからまぁ……今回にしても、きみに非があることはない。たとえ異性と二人だったとして、誰と会おうがきみの自由——きみを手元において置きたいけれど、僕の所有物でないことは百も承知だ」
その声はいつもと同じトーンだけど、わたしにはなんだか寂しそうに聞こえた。
わたしは振り返って、先生にむぎゅっと抱きついた。
「……わたし、先生のものでいいもん」
濡れた身体が合わさる。
「いい子にしてるから」
これからは誤解されるようなことさえ、避けるようにしよう。
「先生は、お仕事してて」
だって先生は神様に愛されてるから。
その話をしようか迷ったけど、別にいいやと思った。
「そんなことを言うと……どこででも抱くぞ」
「うん? いいよ?」
「……」
「だってもうリビングでもクローゼットでもしたでしょう?」
あともうそんなに残ってないはずだ。
* * *
クローゼットに横たわっていたら、先生がグラスに水を入れて持ってきてくれた。それを受け取って、ごくごく飲む。
「今晩はここに泊まれ。金曜日の夜でも構わないだろう」
「うん」
その後、お風呂に移った。
わたしは洗い場で髪の毛を洗った。この間も思ったけれど、いい匂いがする。シャンプーやボディーソープは、すべて商品名も成分表もないボトルに入ってるから、先生が作ったのかな。
横で湯船に浸かる先生をちらりと見た。先生は夜なのに窓の方を向いていて、もしもまだ気にしてたら嫌だなと思った。
「先生……図書館には、英里香さんたちもいたんだよ?」
髪を洗い流してから話しかけたら、先生はこっちを向いた。
「知っている」
なんだ。知ってたのか。
先生は立ち上がって、わたしの背後に回った。そして身体を洗うスポンジにボディーソープをつけて、わたしの背中に当てる。
「洗ってくれるの?」
「あぁ、きみが良ければ」
「うん? 嬉しいよ?」
先生は、そうか、と言って洗い出した。
「……所有欲が強いんだ、僕は」
わたしの身体をゴシゴシしながら、先生は珍しく自分の話をしようとしてくれた。
「自分のものは、自分のものとして手元に置いておきたい。誰のものかはっきりさせたい。他人が無断で使っているのを良しとしない——
僕がこの業界で名が通っているのは、明確に自分で作った薬品の権利主張をしたからだ。会社の研究所にいるときから、自分で作ったものを、自分の名前で登録していた」
そういえば、先生は教授職に就く前は大手の製薬会社に勤めている。これは先生の著書の経歴欄で知っていることだ。
「それは、普通のことじゃないの?」
「ああ、普通は研究者はどれだけ貢献しても、新薬の権利は勤めている会社のものになる。しかし僕は、自分の作った薬が会社の名前で勝手に使われることが許せなかった」
「でも先生は、会社が自己登録を認めざるを得ないほど、自分ひとりで作ってたんでしょ?」
「そう見ることもできるが……同じように単独で作成・完成までこぎつけても、まったく自分の手元から離れた研究者を何人も知っている。この差はやはり、薬学に関する能力ではなく、己のものとしてこだわったか否かだと思う」
「それに、」
話が続かないから振り向くと、先生は口を閉じていた。
「……話しすぎた」
先生はそれっきり自分のことを話すのをやめてしまった。わたしはもっと聞きたかったけれど、無理に聞き出しても仕方がないし、また先生が自分から話してくれるのを待っていようと思った。
「だからまぁ……今回にしても、きみに非があることはない。たとえ異性と二人だったとして、誰と会おうがきみの自由——きみを手元において置きたいけれど、僕の所有物でないことは百も承知だ」
その声はいつもと同じトーンだけど、わたしにはなんだか寂しそうに聞こえた。
わたしは振り返って、先生にむぎゅっと抱きついた。
「……わたし、先生のものでいいもん」
濡れた身体が合わさる。
「いい子にしてるから」
これからは誤解されるようなことさえ、避けるようにしよう。
「先生は、お仕事してて」
だって先生は神様に愛されてるから。
その話をしようか迷ったけど、別にいいやと思った。
「そんなことを言うと……どこででも抱くぞ」
「うん? いいよ?」
「……」
「だってもうリビングでもクローゼットでもしたでしょう?」
あともうそんなに残ってないはずだ。
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