人魚姫は鬼畜な王子様を短剣で刺さない

楓子(かえでこ)

文字の大きさ
17 / 39
本編

17。ー所有

しおりを挟む
「水、飲めるか?」

 クローゼットに横たわっていたら、先生がグラスに水を入れて持ってきてくれた。それを受け取って、ごくごく飲む。

「今晩はここに泊まれ。金曜日の夜でも構わないだろう」
「うん」
 その後、お風呂に移った。

 わたしは洗い場で髪の毛を洗った。この間も思ったけれど、いい匂いがする。シャンプーやボディーソープは、すべて商品名も成分表もないボトルに入ってるから、先生が作ったのかな。
 横で湯船に浸かる先生をちらりと見た。先生は夜なのに窓の方を向いていて、もしもまだ気にしてたら嫌だなと思った。

「先生……図書館には、英里香さんたちもいたんだよ?」
 髪を洗い流してから話しかけたら、先生はこっちを向いた。

「知っている」
 なんだ。知ってたのか。

 先生は立ち上がって、わたしの背後に回った。そして身体を洗うスポンジにボディーソープをつけて、わたしの背中に当てる。

「洗ってくれるの?」
「あぁ、きみが良ければ」
「うん? 嬉しいよ?」
 先生は、そうか、と言って洗い出した。

「……所有欲が強いんだ、僕は」
 わたしの身体をゴシゴシしながら、先生は珍しく自分の話をしようとしてくれた。

「自分のものは、自分のものとして手元に置いておきたい。誰のものかはっきりさせたい。他人が無断で使っているのを良しとしない——
 僕がこの業界で名が通っているのは、明確に自分で作った薬品の権利主張をしたからだ。会社の研究所にいるときから、自分で作ったものを、自分の名前で登録していた」

 そういえば、先生は教授職に就く前は大手の製薬会社に勤めている。これは先生の著書の経歴欄で知っていることだ。

「それは、普通のことじゃないの?」
「ああ、普通は研究者はどれだけ貢献しても、新薬の権利は勤めている会社のものになる。しかし僕は、自分の作った薬が会社の名前で勝手に使われることが許せなかった」

「でも先生は、会社が自己登録を認めざるを得ないほど、自分ひとりで作ってたんでしょ?」
「そう見ることもできるが……同じように単独で作成・完成までこぎつけても、まったく自分の手元から離れた研究者を何人も知っている。この差はやはり、薬学に関する能力ではなく、己のものとしてこだわったか否かだと思う」

「それに、」
 話が続かないから振り向くと、先生は口を閉じていた。

「……話しすぎた」
 先生はそれっきり自分のことを話すのをやめてしまった。わたしはもっと聞きたかったけれど、無理に聞き出しても仕方がないし、また先生が自分から話してくれるのを待っていようと思った。
 
「だからまぁ……今回にしても、きみに非があることはない。たとえ異性と二人だったとして、誰と会おうがきみの自由——きみを手元において置きたいけれど、僕の所有物でないことは百も承知だ」

 その声はいつもと同じトーンだけど、わたしにはなんだか寂しそうに聞こえた。
 わたしは振り返って、先生にむぎゅっと抱きついた。

「……わたし、先生のものでいいもん」
 濡れた身体が合わさる。

「いい子にしてるから」
 これからは誤解されるようなことさえ、避けるようにしよう。

「先生は、お仕事してて」
 だって先生は神様に愛されてるから。
 その話をしようか迷ったけど、別にいいやと思った。

「そんなことを言うと……どこででも抱くぞ」
「うん? いいよ?」
「……」
「だってもうリビングでもクローゼットでもしたでしょう?」

 あともうそんなに残ってないはずだ。


 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

小さくなった夫が可愛すぎて困ります

piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。 部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。 いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。 契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。 「おい、撫でまわすな!」 「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」 これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。 そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語 ※完結まで毎日更新 ※全26話+おまけ1話 ※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。 ※他サイトにも投稿

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...