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本編
21。朝
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目を開けた瞬間、視界に写ったのは築島先生だった。
いきなり目があって、そのままじっと見つめる……
わたしも先生も横になっていて、寝心地がとてもいいから、きっとここは先生の家のベッドの上だ。
「おはよう」
「……おはよう」
えーと、わたしは昨晩も先生の家に泊まったんだっけ。
ああ、そうだ。昨日は研究室でいっぱいして、疲れきっちゃって、先生に運んでもらったんだった。わたしは運んでもらってばかりだな……
でも、あんなに何回もできたってことは、わたしも体力がついたってことなのかな。いや、夢も見ないほどぐっすり寝ちゃうってことは、やっぱりまだまだで……うーん。
「腹減らないのか」
「?」
「夕食も食べずに寝ただろう」
「わたし、どのくらい寝てた?」
「ざっと十時間」
指摘されると、急に空くものだ。おなかもぐきゅーと鳴った。
「……おなかすいたぁ」
「朝食を買いに行くか」
顔を洗って、歯を磨いて。適当に着替えてから、先生と近くのパン屋さんに行った。
そこは赤レンガのかわいいお店。店内に入ると、焼きたてのパンの良いにおいがした。たくさんの種類のバケットやサンドイッチが並び、奥には階段が見えた。今日は看板が出ている。それによると、上が喫茶室になっているみたい。
「……今日はここで食べていくか」
「え、いいの?」
「買って帰って家で食べるのと変わらないだろう」
「やったぁ」
先生はクロックムッシュと生ハムのカスクルートをトングで取って、トレーに乗せた。
わたしはどれにしよう。一個は甘いパンにしようかな。カスタードデニッシュなんて美味しそう。でも絶対に食べたいクルミパンは小さめだし、それとカスタードデニッシュだけだと足りないな。かといってパン三つは食べられないし……
「決まったか?」
「うん。くるみパンとフォカッチャのサンドイッチをお願い」
先生に取ってもらって、お会計を済ませ、二階に上がる。
二階の喫茶室もやはり可愛らしかった。
朝日が眩しいから、赤いチェックのテーブルクロスがかかった内側の席に座って、ブラックコーヒーとロイヤルミルクティーを頼む。
先生はナイフとフォークを使って、丁寧に切り分けて食べた。
出掛けにシャワーを浴びてから来たからか、格好がいつもよりカジュアルだからか、先生がいつもとちょっと違う風に見えた。
わたしはなんか気恥ずかしくなって、目を伏せて、両手に持ったフォカッチャを黙々と食べた。
「どうした?」
そう聞かれて、顔を上げる。
「えーと、なんでかわからないんだけどね、こうして朝ごはんを一緒に食べるの、少し照れくさいなと思ったの」
「……」
「あと実は先生に”おはよう”って言われるのも、何か照れちゃうんだよね。嬉しいはずなんだけど……なんでだろうね?」
「それは……」
わたしは前のめりになった。先生は理由がわかるようだったから。
「きみは大人なのか、子どもなのか」
「? どういうこと?」
「いや……それより、甘いパンを買わなくて良かったのか」
「え?」
なんでわかったんだろう。
「あ、うん。パンを三つはたべきれないから」
「デザートならあるぞ」
先生はテーブルに立てかけてあったメニューを開いて渡してくれた。
「じゃあ、食後にスフレチーズケーキを頼んでもいい?」
「どうぞ。飲み物は何にする?」
「? まだロイヤルミルクティーいっぱいあるから、いらないよ?」
「……まさか、その砂糖を三つ入れた甘ったるい飲み物と一緒に食べる気か?」
「甘々でより嬉しいでしょ?」
先生は信じられない、という顔をした。
パンを食べ終わって、注文したデザートが届く。丸いココット皿に入ったふわふわスフレを堪能しながら、わたしは外を眺めた。
今日は本当にいい天気だな……
「このままどこかに出掛けたいか?」
「え?」
「そんな顔をしている」
先生はおかわりしたコーヒーをすすった。
「いいの? でも、お仕事は?」
「今日済ませなくてはならない仕事はない」
「いく! 行きたい! えーと、じゃあ一旦お家に帰って、着替えて、」
「別に服くらい出先で買ってやるが」
「本当?」
目が丸くなる。そんな発想はなかった。
「ただ、これ以上幼く見えるのはやめろよ。通報されかねない」
先生は、わたしのクマの耳がついたパーカーをジロッと見た。
「先生は、若くみえるから大丈夫だよ?」
「なぜ若いと言わない」
* * *
いきなり目があって、そのままじっと見つめる……
わたしも先生も横になっていて、寝心地がとてもいいから、きっとここは先生の家のベッドの上だ。
「おはよう」
「……おはよう」
えーと、わたしは昨晩も先生の家に泊まったんだっけ。
ああ、そうだ。昨日は研究室でいっぱいして、疲れきっちゃって、先生に運んでもらったんだった。わたしは運んでもらってばかりだな……
でも、あんなに何回もできたってことは、わたしも体力がついたってことなのかな。いや、夢も見ないほどぐっすり寝ちゃうってことは、やっぱりまだまだで……うーん。
「腹減らないのか」
「?」
「夕食も食べずに寝ただろう」
「わたし、どのくらい寝てた?」
「ざっと十時間」
指摘されると、急に空くものだ。おなかもぐきゅーと鳴った。
「……おなかすいたぁ」
「朝食を買いに行くか」
顔を洗って、歯を磨いて。適当に着替えてから、先生と近くのパン屋さんに行った。
そこは赤レンガのかわいいお店。店内に入ると、焼きたてのパンの良いにおいがした。たくさんの種類のバケットやサンドイッチが並び、奥には階段が見えた。今日は看板が出ている。それによると、上が喫茶室になっているみたい。
「……今日はここで食べていくか」
「え、いいの?」
「買って帰って家で食べるのと変わらないだろう」
「やったぁ」
先生はクロックムッシュと生ハムのカスクルートをトングで取って、トレーに乗せた。
わたしはどれにしよう。一個は甘いパンにしようかな。カスタードデニッシュなんて美味しそう。でも絶対に食べたいクルミパンは小さめだし、それとカスタードデニッシュだけだと足りないな。かといってパン三つは食べられないし……
「決まったか?」
「うん。くるみパンとフォカッチャのサンドイッチをお願い」
先生に取ってもらって、お会計を済ませ、二階に上がる。
二階の喫茶室もやはり可愛らしかった。
朝日が眩しいから、赤いチェックのテーブルクロスがかかった内側の席に座って、ブラックコーヒーとロイヤルミルクティーを頼む。
先生はナイフとフォークを使って、丁寧に切り分けて食べた。
出掛けにシャワーを浴びてから来たからか、格好がいつもよりカジュアルだからか、先生がいつもとちょっと違う風に見えた。
わたしはなんか気恥ずかしくなって、目を伏せて、両手に持ったフォカッチャを黙々と食べた。
「どうした?」
そう聞かれて、顔を上げる。
「えーと、なんでかわからないんだけどね、こうして朝ごはんを一緒に食べるの、少し照れくさいなと思ったの」
「……」
「あと実は先生に”おはよう”って言われるのも、何か照れちゃうんだよね。嬉しいはずなんだけど……なんでだろうね?」
「それは……」
わたしは前のめりになった。先生は理由がわかるようだったから。
「きみは大人なのか、子どもなのか」
「? どういうこと?」
「いや……それより、甘いパンを買わなくて良かったのか」
「え?」
なんでわかったんだろう。
「あ、うん。パンを三つはたべきれないから」
「デザートならあるぞ」
先生はテーブルに立てかけてあったメニューを開いて渡してくれた。
「じゃあ、食後にスフレチーズケーキを頼んでもいい?」
「どうぞ。飲み物は何にする?」
「? まだロイヤルミルクティーいっぱいあるから、いらないよ?」
「……まさか、その砂糖を三つ入れた甘ったるい飲み物と一緒に食べる気か?」
「甘々でより嬉しいでしょ?」
先生は信じられない、という顔をした。
パンを食べ終わって、注文したデザートが届く。丸いココット皿に入ったふわふわスフレを堪能しながら、わたしは外を眺めた。
今日は本当にいい天気だな……
「このままどこかに出掛けたいか?」
「え?」
「そんな顔をしている」
先生はおかわりしたコーヒーをすすった。
「いいの? でも、お仕事は?」
「今日済ませなくてはならない仕事はない」
「いく! 行きたい! えーと、じゃあ一旦お家に帰って、着替えて、」
「別に服くらい出先で買ってやるが」
「本当?」
目が丸くなる。そんな発想はなかった。
「ただ、これ以上幼く見えるのはやめろよ。通報されかねない」
先生は、わたしのクマの耳がついたパーカーをジロッと見た。
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「なぜ若いと言わない」
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