人魚姫は鬼畜な王子様を短剣で刺さない

楓子(かえでこ)

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本編

26。女子会

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 次に目が覚めたときは、窓の外は明るくなっていた。
 先生は、わたしが眠りについたときと同じ場所にいて、サイドテーブルにもたれてウトウトしていた。

 わたしは自分の体調を確認した。
 頭は冴えている。たくさん寝て、身体も元気たっぷり。昨日食べた栄養たくさんのフレンチが、身体に行き届いているみたいだ。
 動いたら下腹部が痛くなったりするかなと思ったけれど、特にそういうこともなかった。英里香さんたちの予定をキャンセルする必要もなさそうだ。

 わたしは先生を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。毛布をかけてあげようかなと思ったけど、些細な動きでも起きちゃうと思ったから、やめておいた。
 先生にいってきますとメールをしておいて、身支度を整えにお家に帰る。

 英里香さんたちの待ち合わせは、明治神宮前。
 わたしが一足お先に交差点の一角を占める大型モールの前に立っていると、二人は横断歩道の反対側から、手を振りながらやってきた。

「蛍ちゃん、きょうも可愛いのぉ」
「そのベレー帽、よく似合ってる」

 やったぁ。被ってきて良かったな。
 二人はさっそくショッピングだと言って、キャットストリートに向かって歩んでいった。

 買い物をしながらも、近況報告の会話が弾む。英里香さんはすごく元気でパワフルだし、華さんも打たれ強くて、何があってもへっちゃらって感じの人で、二人といると自分も強くなれた気分になれる。

「英里香さん、それ彼氏さんにですか~?」
「うん、一応誕プレ。まぁこう付き合い長いと、お歳暮みたいなもんだけど」

 お洋服や靴や小物類のお店を見て回り、たまにメンズ店も覗く。二人はそれぞれ目当てのものを獲得して、わたしも冬用の赤い手袋を手に入れてから、一度休憩することにした。

 連れてきてもらったのは、とてもおしゃれな喫茶店。
 デンマーク出身のフラワーデザイナーの人が内装を作っているという店内は、至るところに旬のお花が飾られていた。
 真ん中のソファの席に通してもらう。キャラメルマキアートを頼んだら、子猫のラテアートが描かれていた。

 ここでもわたしは受身的に話を聞いていた。
 英里香さんと華さんは、騙されてはいけない男性の言動とか、中身がペラペラの男性の特徴とか、ついて行ってはいけない男性の口説き文句とか……とにかく男の人のことをたくさん教えてくれた。

「それにしても、なかなかちょうどいい男の子いませんね」
「ほんと。結構探してるのに、理想通りには会えないね~」

 たくさん出会いの場に行っているけれど、ぴったりの人がいないとお困りのご様子。

「英里香さんと華さんは、どういう人が理想なんですか?」
 
 わたしは一口飲んで聞いてみた。
 あ。がんばって残していたアートが、くずれちゃった。

「顔がかわいい子っ!」
「性格は大人しくて、寛容で」
「頭はちょっと足りないくらいでいい」
「定職に就いてなくても、家事をしてくれるなら仕事はアルバイト程度でいいし」

 そういう感じかぁ。
 あれ。でもそれだと、さっきの話に出てきた”中身ペラペラな人”とか”ヒモになりそうな人”とは違うのかな。

「私たち、働く気はあるからさ」
「美味しいご飯作ってくれるなら、他はできなくても家に置いちゃいますよね」
「家で手料理を作って待ってて、仕事の疲れ癒してくれる人がほしい~」
「かわいい顔で、うんうんって話聞いてくれるのが一番」

 なんか、一昔前の”男性が女性に求める像”に似てる気がする……男女逆転バージョンか。
 あれ、でもそういえば、二人ってお付き合いしている人がいたよね?
 あれれ? わたしはますます分からなくなってしまった。


 * * *


「これ、わたしも”お歳暮”用として買っておこうかな」
「いいんじゃん? 日にちが近づいて慌てるより、かさばらないものならさ」

 カフェを出て、再び探索。二人が男性用のアクセサリー店を見ている間、わたしは外で待っていた。

 わたしは築島先生のことが気になっていた。
 先生は、あれからどうしているだろう。わたしはなんとなく、先生が自分でも自分の性格に手を焼いているような気がした。昨日はひどく落ち込んでいたみたいだけれど、もう気に病んでないといいんだけどな。

 わたしは、ふと目に留まった反対側の店先がかわいくて、近づいていった。テイクアウト専用のケーキ屋さんだ。ショーウィンドウの中のケーキには、動物の顔が描いてある。

 このくまちゃんとうさちゃんのケーキ、かわいいなぁ……
 これを買って帰って、今晩ゼミの飲み会が終わったら、また築島先生のお家に行こうかな。先生はたぶん食べないけれど、でも怒ってないよっていうのを示すのに、いいんじゃないかな。

「家に帰るのが深夜なのですが、どのくらい保ちますか?」
「ケーキは保冷剤を入れても最大三時間ですね」
「そうですか……」
「でも同じ絵柄のこちらのカップケーキでしたら、常温保存なので夜中まで保ちます」
「じゃあ、この二つを、」
「あー! 蛍ちゃん、さては彼氏へのプレゼントですね~」
 後ろからそう言われて、ギクっとする。

「英里香さん……その台詞言いたいのはわかりますけど、動物プリントのケーキを買うときには、厳しくないですか?」
「んー、無理があったか」
「えーと……自分で食べます」
 食べるのがわたしであるのは、事実なはず。

「やっぱり~」
「蛍ちゃん、夜中にこんなの二つ食べても太らないんだから羨ましい~」
 よかった、何も勘ぐられていないようだ。
 それに先生を彼氏というのは、違う感じがするし……

 気がつくと、もう日が落ちる時間で。
 わたしたちは他の先輩たちとの待ち合わせ場所に向かった。 


 * * *
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