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本編
24。雨の日
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車が先生の家の近くまで着くと、通りに郵便局の赤いトラックが停まっているのが見えた。どうやら先生の家への宅配らしく、配達の人が不在で帰ろうとしている。
「車を入れていたら間に合わないな……悪いがここで少し待っていてくれ。受け取ってくる」
そう言って、先生が車を降りた。
雨の中、小走りで玄関に向かう先生を目で追った。
この後、どんな顔で先生と接したらいいんだろう……
わたしは先ほど言われたことに、ショックを隠せなかった。せっかく楽しい一日だったし、最後に暗い顔を向けたくないけれど、とてもではないが笑顔なんて作れそうになかった。
今日は帰ろうかな……
一緒にいて楽しかった雰囲気を壊してしまうなら、一人になった方がいい気がした。それに、冷静になって気持ちの整理をしたほうがいい。
”今晩は帰ります。幸せな一日をどうもありがとう”
先生にメールをして、わたしは車から降りた。
しとしとと雨が降っている。
傘はなかったけれど、頭を冷やしたいと思ってたし、ちょうどいいや。駅までの道を静かに歩いた。
わたしは、小さい頃憧れていたヒーローが仮面を脱いだ瞬間を見たような、そんな気分だった。うつむいて、顔についた雨を拭う。先生も、勝手に期待されて迷惑だよね……
こういうことは、もちろん初めて聞いた話ではなかった。薬学部に入ってまず習うことは、薬は毒だということだから。
築島先生ほどはっきりいう人はいないけれど、他の先生たちは薬の効用を説明したあと、目を晒して、”でもきみたちは飲まないようにね”と、そんなことを付け加えていた。あくまで売る側の人間なんだからと。
ただわたしは、それについてあまり考えないようにしていた。理由は単純で、信じたくなかったから。
お父さんの薬は魔法——
わたしはこっちを信じたかった。
それに、先生たちの言うことを認めてしまったら、わたしはどうしてそんなものを売る仕事につけるのだろう。だから形だけでも正義ということにしなければいけない。
つまりわたしは、ただ現実に目を背けていただけなのかな。
わたしも、成長しないなぁ。
もう大人になったはずなのに。いつまで薬は正義の味方だと思っているんだろう。
携帯がブルブル振動した。
カバンから取り出す。画面を見ると築島先生からだった。ちょっと迷ったけれど、鳴り続けるから出た。
『すぐに戻れ。今すぐにだ』
開口一番にそういわれて、むっとした。勝手に立ち去ったのはわたしだけど、なんでそんな風に指示されなくてはならないのか。
「なんで……っ、なんで命令されなきゃいけないのっ。わたし、今日は帰るっ」
『戻るんだ』
築島先生の声は、すごく怖かった。
* * *
あのまま帰ってしまおうかとも思ったけれど、わたしは先生の家に戻った。
自分のお家に帰ってもモヤモヤし続けると思ったし、それに先生が怒ったままなのは嫌だったから。
先生と対面する——先生は、この間高山くんと二人でいたときとは次元が違うみたいに怒っていた。
「きみが立ち去った理由は想像がつく……しかしどんな理由であっても、僕の前から無言で消えるな。これに関しては口答えを許さない」
「……はい」
わたしはそう答えたけれど、納得はしていなかった。なんで怒られなきゃいけないのか、わからないよ。
「分かってないな」
先生に心を読まれたみたいで。腕を掴まれて、寝室に連れて行かれた。わたしは、うろたえる。
「せん、せい……?」
「すべて脱いで、うつ伏せになれ」
怖かった。
だけど、嫌だと言えなかった。
恐る恐る服を脱いで、顔を下にベッドに寝る。
ものの数秒で先生は背後に立ち、腰を持ち上げられた。そして、いきなり体の入り口に充てがわれる。
「えっ、先生っ、」
「身体に教え込む」
「いやっ、待ってっ、」
「自己中心的にされて反省しろっ」
嫌だよ。
怖いよ。
助けて。
そう言ったけれど、先生はやめてくれなかった。
涙が出てくる。
力で敵うはずなんてなく。わたしの抵抗は皆無に等しかった。
乾いた身体を大きなものが出入りするのは激痛で。先生がいつもの先生じゃないみたいで。恐怖でこわばったまま泣き続けた。
* * *
「車を入れていたら間に合わないな……悪いがここで少し待っていてくれ。受け取ってくる」
そう言って、先生が車を降りた。
雨の中、小走りで玄関に向かう先生を目で追った。
この後、どんな顔で先生と接したらいいんだろう……
わたしは先ほど言われたことに、ショックを隠せなかった。せっかく楽しい一日だったし、最後に暗い顔を向けたくないけれど、とてもではないが笑顔なんて作れそうになかった。
今日は帰ろうかな……
一緒にいて楽しかった雰囲気を壊してしまうなら、一人になった方がいい気がした。それに、冷静になって気持ちの整理をしたほうがいい。
”今晩は帰ります。幸せな一日をどうもありがとう”
先生にメールをして、わたしは車から降りた。
しとしとと雨が降っている。
傘はなかったけれど、頭を冷やしたいと思ってたし、ちょうどいいや。駅までの道を静かに歩いた。
わたしは、小さい頃憧れていたヒーローが仮面を脱いだ瞬間を見たような、そんな気分だった。うつむいて、顔についた雨を拭う。先生も、勝手に期待されて迷惑だよね……
こういうことは、もちろん初めて聞いた話ではなかった。薬学部に入ってまず習うことは、薬は毒だということだから。
築島先生ほどはっきりいう人はいないけれど、他の先生たちは薬の効用を説明したあと、目を晒して、”でもきみたちは飲まないようにね”と、そんなことを付け加えていた。あくまで売る側の人間なんだからと。
ただわたしは、それについてあまり考えないようにしていた。理由は単純で、信じたくなかったから。
お父さんの薬は魔法——
わたしはこっちを信じたかった。
それに、先生たちの言うことを認めてしまったら、わたしはどうしてそんなものを売る仕事につけるのだろう。だから形だけでも正義ということにしなければいけない。
つまりわたしは、ただ現実に目を背けていただけなのかな。
わたしも、成長しないなぁ。
もう大人になったはずなのに。いつまで薬は正義の味方だと思っているんだろう。
携帯がブルブル振動した。
カバンから取り出す。画面を見ると築島先生からだった。ちょっと迷ったけれど、鳴り続けるから出た。
『すぐに戻れ。今すぐにだ』
開口一番にそういわれて、むっとした。勝手に立ち去ったのはわたしだけど、なんでそんな風に指示されなくてはならないのか。
「なんで……っ、なんで命令されなきゃいけないのっ。わたし、今日は帰るっ」
『戻るんだ』
築島先生の声は、すごく怖かった。
* * *
あのまま帰ってしまおうかとも思ったけれど、わたしは先生の家に戻った。
自分のお家に帰ってもモヤモヤし続けると思ったし、それに先生が怒ったままなのは嫌だったから。
先生と対面する——先生は、この間高山くんと二人でいたときとは次元が違うみたいに怒っていた。
「きみが立ち去った理由は想像がつく……しかしどんな理由であっても、僕の前から無言で消えるな。これに関しては口答えを許さない」
「……はい」
わたしはそう答えたけれど、納得はしていなかった。なんで怒られなきゃいけないのか、わからないよ。
「分かってないな」
先生に心を読まれたみたいで。腕を掴まれて、寝室に連れて行かれた。わたしは、うろたえる。
「せん、せい……?」
「すべて脱いで、うつ伏せになれ」
怖かった。
だけど、嫌だと言えなかった。
恐る恐る服を脱いで、顔を下にベッドに寝る。
ものの数秒で先生は背後に立ち、腰を持ち上げられた。そして、いきなり体の入り口に充てがわれる。
「えっ、先生っ、」
「身体に教え込む」
「いやっ、待ってっ、」
「自己中心的にされて反省しろっ」
嫌だよ。
怖いよ。
助けて。
そう言ったけれど、先生はやめてくれなかった。
涙が出てくる。
力で敵うはずなんてなく。わたしの抵抗は皆無に等しかった。
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