恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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第3章 退院記

第1話 退院

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 四ヶ月入院していた精神病院を退院し、蒲田にある五畳ワン・ルームのアパートに帰ってきたのは、あまりにも寒い一月二十九日のことだった。入院中にも二泊三日の外泊で家に戻ってきたことはあったが、今回は完全に退院したので、入院する前のように、これからはずっとこのアパートにいることになる。小説と漫画で一杯になった本棚が四つあり、パソコン、ゲーム、モニタで五畳のアパートは一杯になっている。収納スペースがない代わりにロフトがあるが、梯子や脚立に登れない程の高所恐怖症である僕は、そこに上がるのは荷物を置くぐらいで、ロフトには二枚布団が敷いてあり、来客が宿泊するときに使うのみとなっていた。
 退院してまずしたことは、煙草を吸うことだった。入院中はほとんど吸えなかったため、ニコチンは全身に流れ、両手足が痺れた。味の方はよくわからなかった。美味しいとは思えなかった。しかし何本か吸う内に、体の方が慣れていった。四ヶ月間ほとんど禁煙をしていたのに、完全にまた喫煙者へと戻った。
 所持金は四千円しかなかった。僕は何年も前から生活保護を受給していたが、入院の間は生活保護費が削られ、七万五千円しか入らなかった。家賃で五万六千円が消え、そこから電気代にも消えた。本当はガスも止まったままで、再開したかったが、金がないからしかたがない。入浴はまだいい。この時期だと水シャワーは辛いが、どうせ誰にも会わないし――それには理由があるのだが――入らなければそれでいい。コンロが使えないのが困った。金はないのに腹は減る。だから五食で二百円の袋ラーメンを食べたいのだが、火が出ないから鍋を茹でることができない。しかしなぜか退院してから以前のような食欲は消え、一日一食で済むので、近くのファミリー・マートへ行ってカップ・ラーメンを買い、その場で湯を入れ、それを食べた。煙草も二日で一箱のペースなので、なんとかなる。三日には生活保護費が入るので、あと四日四千円で暮らせばいい。一日千円強だ。なんとかなる。
 一番の問題が携帯電話だった。一ヶ月二万もする携帯代が溜まりに溜まり――一部は親が肩代わりしてくれたのだが――停止処分となったため、四ヶ月間友人や知人に一切連絡が取れず、とりあえずは生きていることを皆に伝えたかったが、それも叶わない。近所で公衆電話を探し、母親の携帯電話に電話をかけ、金の催促をしようとしたが、当然の如く断られた。
 インターネットも止まっており、することが全くないので、入院中できなかった音楽を聴きながら読書をしていた。一日中暇なので、荒れ果てた部屋を片付けたりもした。ライフ・ワークである小説の執筆は一切しなかった。入院中は、入院記を書くために、ノートに一行日記と小説の下書きをしたので、それをパソコンに打ち込めばいいのだが、全然やる気が起きない。
 夜になっても眠気は来ない。入院中もそうだった。いくら睡眠薬を飲んでも寝つけない。それは入院前からあったが、二十錠近く薬を飲むことによりなんとか寝ていた。しかし入院中の主治医は、「あなたの不眠症は薬ではどうにもできません」とだけ吐き捨て、退院時の薬はハルシオン○.二五mg錠を二錠と、寝つけない時に飲む頓服として、マイスリー五mg錠だけ渡された。することはないのに眠気は来なくて、ただぼんやりと過ごしていた。
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