上 下
20 / 36
番外編 運命の人

しおりを挟む
「アンドレア、今ならまだ間に合うわ。頭の中に浮かんだものを消し去って、もとの生活を送り続ければいいだけですもの」

 俺の身の上を思い、優しげに注がれる叔母様のまなざしを受けて、一瞬だけ心が揺らぐ。

「俺は次期当主になる以外、道はないと思ってた。どこかの令嬢と結婚して子どもを作り、伯爵家を存続していく立派な人間になるのを、執事のカールに見せて……悲しそうな顔をしてるアイツを無視して、俺は伯爵家当主として生きていけばいいと考えていたが」

 一旦ここで言葉を飲み込み、首を横に振った。

「叔母様が導いてくれた、輝きに満ち溢れているもうひとつの道を忘れるなんて、俺には絶対にできない!」

「苦労をすることがわかっていても?」

「カールと一緒なら、どんな苦労でも乗り越えていける!」

 キッパリと言い切った俺に、叔母様は安堵のため息をついた。

「この計画に私が加担したことを弟が知ったら、恨まれてしまうかもしれないけれど、可愛い甥っ子を見捨てるなんてできない。私も腹をくくって、計画に乗っかってあげるわ」

 こうして叔母様から恋の手ほどきを受けることで、大好きなカールの誕生日にプレゼントを渡したり、伯爵家次期当主の座を退くために、俺自身がおこなうことや、父上の説得の仕方を伝授してもらった。

 正直なところ、俺は優秀じゃない。それに輪をかけて悪評をたたせることによって、父上がげんなりするような行動をしようと考えた。

「叔母様、カールとの関係なんだけどさ、主と執事のつながりを緩和させて、恋人みたいな甘い関係を築いてみたくて」

 難しいことを訊ねた俺に、叔母様も眉根を寄せた。

「アンドレアが小さいときから仕えていた彼と、恋愛関係を築くためにすることねぇ」

 大きな胸を抱えるように腕を組み、しばらくの間、うんうん唸っていたが。

「貴方、主としての品位を落とすことはできて?」

「品位?」

「マゾになって、カールに蔑んでもらうの。それをしてもらったときは、すごく悦んでみせるのよ」

 軽快な口調で告げられた内容を、頭の中で想像してみたけれど。

「叔母様、そんなことでカールと恋愛関係が築けるとは思えないぞ」

「だけどそれをすることで、立場を逆転させることができるわ」

「立場ったってバカな俺は、いつもカールに叱られてる立場なんだけどさ」

「違う違う。なんでもないときに、あえてそれをカールに強請って、性的に興奮しているところを見せるのよ」

 楽しそうに語られても、イマイチ信用できなかったが、ちょっと待てと思いとどまる。それは叔母様が自信満々に、それを口にしているせい。

「……叔母様、まさかとは思うが、胸のメロン以外にそれを使って、皇太子殿下を落としたんじゃ――」

 俺から猜疑心を含んだまなざしを受けても、なんのその。叔母様はおかしそうにカラカラ笑う。

「さすがはアンドレアね。気づいてしまうなんて、さすがだわ」

 ソファから腰をあげ、備え付けのデスクからなにかを取り出すと、それを俺に手渡してくれた。

「私はもう使うことはないから、アンドレアに差し上げます。タイミングをみて使うのよ」

「タイミング……」

 SとМの歴史から技まで、いろいろ詳しく記載されているマニュアルを手渡されたのだが、それを使うタイミングがさっぱりわからず、頭を悩ませるネタになったのは言うまでもない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢の中身が私になった。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:639pt お気に入り:2,628

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:624pt お気に入り:134

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:3,277

幼い少年が、盗賊の青年に身も心も囚われるお話

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:42

冒険旅行でハッピーライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:405pt お気に入り:17

ロマンドール

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:2,330pt お気に入り:26

子悪党令息の息子として生まれました

BL / 連載中 24h.ポイント:10,416pt お気に入り:293

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,081pt お気に入り:281

処理中です...