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番外編 運命の人
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「アンドレア、今ならまだ間に合うわ。頭の中に浮かんだものを消し去って、もとの生活を送り続ければいいだけですもの」
俺の身の上を思い、優しげに注がれる叔母様のまなざしを受けて、一瞬だけ心が揺らぐ。
「俺は次期当主になる以外、道はないと思ってた。どこかの令嬢と結婚して子どもを作り、伯爵家を存続していく立派な人間になるのを、執事のカールに見せて……悲しそうな顔をしてるアイツを無視して、俺は伯爵家当主として生きていけばいいと考えていたが」
一旦ここで言葉を飲み込み、首を横に振った。
「叔母様が導いてくれた、輝きに満ち溢れているもうひとつの道を忘れるなんて、俺には絶対にできない!」
「苦労をすることがわかっていても?」
「カールと一緒なら、どんな苦労でも乗り越えていける!」
キッパリと言い切った俺に、叔母様は安堵のため息をついた。
「この計画に私が加担したことを弟が知ったら、恨まれてしまうかもしれないけれど、可愛い甥っ子を見捨てるなんてできない。私も腹をくくって、計画に乗っかってあげるわ」
こうして叔母様から恋の手ほどきを受けることで、大好きなカールの誕生日にプレゼントを渡したり、伯爵家次期当主の座を退くために、俺自身がおこなうことや、父上の説得の仕方を伝授してもらった。
正直なところ、俺は優秀じゃない。それに輪をかけて悪評をたたせることによって、父上がげんなりするような行動をしようと考えた。
「叔母様、カールとの関係なんだけどさ、主と執事のつながりを緩和させて、恋人みたいな甘い関係を築いてみたくて」
難しいことを訊ねた俺に、叔母様も眉根を寄せた。
「アンドレアが小さいときから仕えていた彼と、恋愛関係を築くためにすることねぇ」
大きな胸を抱えるように腕を組み、しばらくの間、うんうん唸っていたが。
「貴方、主としての品位を落とすことはできて?」
「品位?」
「マゾになって、カールに蔑んでもらうの。それをしてもらったときは、すごく悦んでみせるのよ」
軽快な口調で告げられた内容を、頭の中で想像してみたけれど。
「叔母様、そんなことでカールと恋愛関係が築けるとは思えないぞ」
「だけどそれをすることで、立場を逆転させることができるわ」
「立場ったってバカな俺は、いつもカールに叱られてる立場なんだけどさ」
「違う違う。なんでもないときに、あえてそれをカールに強請って、性的に興奮しているところを見せるのよ」
楽しそうに語られても、イマイチ信用できなかったが、ちょっと待てと思いとどまる。それは叔母様が自信満々に、それを口にしているせい。
「……叔母様、まさかとは思うが、胸のメロン以外にそれを使って、皇太子殿下を落としたんじゃ――」
俺から猜疑心を含んだまなざしを受けても、なんのその。叔母様はおかしそうにカラカラ笑う。
「さすがはアンドレアね。気づいてしまうなんて、さすがだわ」
ソファから腰をあげ、備え付けのデスクからなにかを取り出すと、それを俺に手渡してくれた。
「私はもう使うことはないから、アンドレアに差し上げます。タイミングをみて使うのよ」
「タイミング……」
SとМの歴史から技まで、いろいろ詳しく記載されているマニュアルを手渡されたのだが、それを使うタイミングがさっぱりわからず、頭を悩ませるネタになったのは言うまでもない。
俺の身の上を思い、優しげに注がれる叔母様のまなざしを受けて、一瞬だけ心が揺らぐ。
「俺は次期当主になる以外、道はないと思ってた。どこかの令嬢と結婚して子どもを作り、伯爵家を存続していく立派な人間になるのを、執事のカールに見せて……悲しそうな顔をしてるアイツを無視して、俺は伯爵家当主として生きていけばいいと考えていたが」
一旦ここで言葉を飲み込み、首を横に振った。
「叔母様が導いてくれた、輝きに満ち溢れているもうひとつの道を忘れるなんて、俺には絶対にできない!」
「苦労をすることがわかっていても?」
「カールと一緒なら、どんな苦労でも乗り越えていける!」
キッパリと言い切った俺に、叔母様は安堵のため息をついた。
「この計画に私が加担したことを弟が知ったら、恨まれてしまうかもしれないけれど、可愛い甥っ子を見捨てるなんてできない。私も腹をくくって、計画に乗っかってあげるわ」
こうして叔母様から恋の手ほどきを受けることで、大好きなカールの誕生日にプレゼントを渡したり、伯爵家次期当主の座を退くために、俺自身がおこなうことや、父上の説得の仕方を伝授してもらった。
正直なところ、俺は優秀じゃない。それに輪をかけて悪評をたたせることによって、父上がげんなりするような行動をしようと考えた。
「叔母様、カールとの関係なんだけどさ、主と執事のつながりを緩和させて、恋人みたいな甘い関係を築いてみたくて」
難しいことを訊ねた俺に、叔母様も眉根を寄せた。
「アンドレアが小さいときから仕えていた彼と、恋愛関係を築くためにすることねぇ」
大きな胸を抱えるように腕を組み、しばらくの間、うんうん唸っていたが。
「貴方、主としての品位を落とすことはできて?」
「品位?」
「マゾになって、カールに蔑んでもらうの。それをしてもらったときは、すごく悦んでみせるのよ」
軽快な口調で告げられた内容を、頭の中で想像してみたけれど。
「叔母様、そんなことでカールと恋愛関係が築けるとは思えないぞ」
「だけどそれをすることで、立場を逆転させることができるわ」
「立場ったってバカな俺は、いつもカールに叱られてる立場なんだけどさ」
「違う違う。なんでもないときに、あえてそれをカールに強請って、性的に興奮しているところを見せるのよ」
楽しそうに語られても、イマイチ信用できなかったが、ちょっと待てと思いとどまる。それは叔母様が自信満々に、それを口にしているせい。
「……叔母様、まさかとは思うが、胸のメロン以外にそれを使って、皇太子殿下を落としたんじゃ――」
俺から猜疑心を含んだまなざしを受けても、なんのその。叔母様はおかしそうにカラカラ笑う。
「さすがはアンドレアね。気づいてしまうなんて、さすがだわ」
ソファから腰をあげ、備え付けのデスクからなにかを取り出すと、それを俺に手渡してくれた。
「私はもう使うことはないから、アンドレアに差し上げます。タイミングをみて使うのよ」
「タイミング……」
SとМの歴史から技まで、いろいろ詳しく記載されているマニュアルを手渡されたのだが、それを使うタイミングがさっぱりわからず、頭を悩ませるネタになったのは言うまでもない。
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