ピロトークを聴きながら

相沢蒼依

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ピロトーク:ゲイ能人の 葩御 稜(はなお りょう)②

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「お帰りなさい。あれっ、取立ては上手くいかなかったの?」

 ただいまと帰ってきた郁也さんの顔色が、えらく冴えないもので、思わず言葉に出してしまった。

「あー……いや、そういうんじゃないんだ」

 しかも、すっごく歯切れが悪い。心配事かなぁ、それとも隠し事なのかなぁ。

「あのね郁也さん、原稿進んだんだけど、ちょっと相談したくて」

「そうか、へぇ」

 反応、超うすっ!

 何なんだよ。せっかく人が原稿が少しでも締め切りに間に合うように、頑張って進めたのにさ。

 みるみる機嫌の悪くなる僕をじっと見て、苦笑いを浮かべてから、頭をくしゃりと撫でてくれた。

「原稿の相談の前に、ちょっと話がある。そこに座ってくれないか」

 そう言われたから、向かい合わせでダイニングテーブルの椅子に、渋々座ったんだけど――眉間に深いシワを寄せ、黙りこくっちゃって、なかなか話そうとしない。もしかして……。

 原稿の締め切りを、結構破りまくってるから呆れ果てた末に、別れ話を切り出そうとしているのかもしれない。

 それを言ったらきっと僕が傷つくと思い、別のところから理由をもってこようとして、アレコレと考えてる最中だったりして。

 それに家事だって一日中家にいる身なのに、全然お手伝いをしていない。愛想を尽かされるネタは、ホント山ほどあるよ。どうしよう……。

「涼一、あのな――」

「ごめんなさいっ! これからはちゃんと、締め切りを守る努力をするし、余裕があれば掃除とか料理のお手伝いもするから。お願いだから郁也さんっ、見捨てないでください!」

 テーブルにゴンッと、頭をぶつけながら謝ってみた。

「見捨てないでくださいって……。俺がお前を、見捨てるワケないだろう? 何を考えてるんだ、バカだな」

 さっきまでの神妙な顔は、どこへ――それはそれは優しい目をして、僕を見つめた。

「涼一がいいボケかましてくれたお陰で、肩の力がいい感じで抜けまくった。サンキューな」

「…………」

 僕は一切、ボケたつもりはない。真剣に普段の行いをしっかり反省し、本当に悪かったなぁと心の底から反省し、必死こいて謝ったのに。

 ――これじゃあ、謝り損じゃないか!

 しかも嬉しそうな顔をしてるもんだから、怒るに怒れないという、オマケつき。

「あのな、もうコレほぼ決定事項なんだが、葩御 稜と対談することが決まった」

 何であの有名なゲイ能人と、僕が対談しなきゃならないんだ!?

 不思議顔して首を傾げると、眉間にシワを寄せながら、はーっと大きなため息をついた、やつれ顔の郁也さん。

「再来月に発行する涼一の文芸の帯に、葩御 稜の言葉が載ることになってさ。ついでに対談して、文芸の巻末につけたらどうかって、俺の知らないトコで、勝手に話が進んでいたんだ」

「帯の言葉って、アイドルグループの誰かがっていう話だったよね? 突然変更になるって、どうして?」

「俺も分からない。社長が葩御 稜と寝たがために、変更になったのかもな」

 うんざりしながら言う郁也さんを、大変そうだなぁと思いながら、見つめてしまった。

 なるほど納得。これじゃあ無駄に疲れるのが、分かる気がした。会社員って大変だなぁ。

 しかし……僕があの葩御 稜と対談する。

 均整の取れたモデル体型に、他の芸能人に混じっても全然見劣りしない、とっても綺麗な顔。動きのひとつひとつに妙な色気があって、目を惹きつけられる存在。

 テレビで共演してる人たちを、魅惑的な瞳でじっと見つめ、甘く囁くだけで男女問わずに赤面させるパフォーマンスは、僕自身あまり好きではない。

 ――というか。目の前にいるこの人も間違いなく、赤面するだろうって想像ついちゃうから。

 彼と僕が同じ年齢と知って敗北感に余計、拍車がかかってしまったのだ。

「葩御 稜と僕が対談って、何を喋ったらいいんだろう。危険極まりないよなぁ」

「だよな。捕って食われちまうかもしれない」

「狙われるのは間違いなく、郁也さんだよ」

 面白くない顔をしながら、テーブルに頬杖をついて、ハッキリと言ってやった。本人、自分の身なりに対して、本当に無自覚なんだ。

「何、言ってるんだ、俺よりもお前だろ。可愛いんだからさ」

「あの人の男の趣味、可愛い系よりもどちらかというと、カッコイイ感じの人だよ。そういう人たちに対して、色目を使いまくってるし」

「よく見てるのな」

「…………」

 言えるワケない――同じ男の趣味しているなんて。

「とにかく、だ」

 コホンと咳払いをし、顔を引き締めた郁也さん。

「上からの命令に、逆らうことが出来ない。お互い気を引き締めて、対談に挑もう!」

「そーだね、これもお仕事だもんなぁ」

 ふたりして暗い雰囲気を醸し出し、一気に重苦しくなった家の中。

「今日の晩ご飯、気分を変えて外で食べないか?」

 その提案に二つ返事でOKしたのだけれど、まさかそこで葩御 稜に逢うとは、夢にも思っていなかった。
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