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救愛
今川目線5
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***
この微妙な空気を、何とかしたい――
それぞれ好きなコーヒーを頼んで席についたのだが、鎌田さんから放たれる威圧感に耐えながら言葉を選んでる俺。←年上のクセに情けない
そんな鎌田さんに、挑むような視線を送る蓮――まさに水と油、気が合いそうにない。そして油な鎌田さんに火をつけそうな意見を言う彼女も、結構厄介な存在と思われる。
早く、家に帰りたい……。
「ここのコーヒーショップで、山田と彼女は出会ったんです」
コーヒーを一口飲んだ、鎌田さんが話を切り出した。
「大学時代彼女に一目惚れした山田が、足しげく通って恋を成就させて現在に至る」
「随分、はしょったわね」
「アイツの話はムダに長いんだ。いちいち説明する必要性はない」
「でも鎌田先輩みたいに、ずっと片想いしてたワケじゃないんですね。すごいなぁ」
「へぇ、ムダに片想いしてたんだ。すごいなぁ」
「きっ、君はアイツに俺の情報を、うっかりと与えるんじゃない」
――3人のやり取りに、おじさん口を挟めません。
「話を変えます。これを見て下さい」
不機嫌丸出しの顔をしたまま、鎌田さんが手に持っていたスマホを見せてくれる。そこに写し出されてたのは、山田くんと蓮が並んで歩いている写真だった。
「随分と楽しそうに、腕を絡めて歩いてますね?」
チラッと横目で隣にいる蓮を見たら、しまったと顔に書いてあるじゃないか。
「だってあのとき、マットが冷たかったから」
「楽しくないと言ってたのは、どこの誰ですか?」
「痴話喧嘩なら、よそでやって下さい。はい、次!」
呆れ返りながら次の写真を見せてくれた。そこにはスレンダーな美人がもの悲しそうな表情を浮かべ、どこかを見ている写真だった。
「山田の彼女です」
「ゲッ! 山田の奴、こんな美人と付き合ってたの……!?」
――話は見えた……ふたりが仲良く歩いてる姿を偶然、彼女が目撃したんだな。
写真経由でも俺でさえこのふたりを見て、じりじりと嫉妬したんだ。ましてや直で見たとなると、ショックは相当なものだろう。
「この写メを、山田に送りました」
「何で!?」
蓮とシンクロして、同じ言葉を言い放ってしまった。
「事実を知らないのは一番の不幸ですし、彼女に呼び出される前に何かしら対策が練れるでしょう」
「鎌田先輩は山田さんの彼女が嫌いだから、送信したと思いましたよ」
感嘆の声で鎌田さんの彼女が言うと、また呆れた顔をする。
「まったく、思慮が浅いです」
「だってぇ、年上の女性が苦手だと聞いていたものだから」
「私は年上の彼女に山田がとられるのがイヤで、写真を送ったんだと思ったわ」
言いながら例の紙を、目の前にばばんと突きつける。
「蓮っ!? それは、いけないっ!」
紙を取り上げようとした刹那、一瞬早く鎌田さんの手によって握られてしまった。
あまりの事態に、顔を片手で押さえる。かなぁり、ヤバいですよ。
「こ……これは一体」
「あら、鎌田先輩の自然な笑顔、これ欲しいです」
「は!?」
今度は鎌田さんと蓮の声がシンクロした。
「君はこれを貰って、どうするつもりなんですか?」
「部屋に貼ってある、鎌田先輩のバンドのポスターの隣に貼ろうと思いますけど、何か?」
「……友人が自宅に来たら、どう説明するんです?」
顔を引きつらせながら彼女に聞く鎌田さんに、心の中でお疲れと囁いた俺。個性的な彼女をもつと、彼氏は苦労します。
「マット、私がマトモな彼女で良かったね」
コッソリ話しかけてくる君も、実は同じだとは口に出せなかった。
俺も鎌田さんみたいに、顔を引きつらせてしまう。
ああ、話が一向に進まない……。ここは年長者である、自分が仕切らねば。
「……あのですね、話を戻しましょうか」
おどおどしながら言うと彼女と口論していた鎌田さんの視線が、キッと俺に向けられた。
邪魔するな的な目線がグサグサと刺さりまくり、とても痛く顔を歪ませるしかない。
「この件に関して俺は、山田に余計なお世話はやめておけと進言しておいたんです」
「俺が彼に影武者として頼み込んでしまったから、こんな不幸な結果になってしまいました」
居たたまれなくて、すっと視線を伏せる。
「手を貸さずに、ずっと放置しておこうと思ったんですがね――」
「鎌田先輩……」
彼女が可愛らしく、ぐいぐいと袖を引っ張る。
「俺たちが上手くいったのも、実は山田のお陰なんです。アイツは誰にでも、お節介焼きだから」
「アンタ、何か考えがあるんでしょ?」
蓮が鎌田さんに言うと、片側の口角を上げて笑った。
「計画は進行中だ、あともう一踏ん張りってトコだな」
「さっすが、山田の彼氏!」
蓮が最悪といえる合いの手を入れてきた。
――誰か、彼女の口を止めてくれ。
「山田は大事な相棒だ、彼氏じゃないっ!」
「私とどっちが大事ですか?」
「彼氏と彼女、どっちが大事ですか?」
ううっ、また紛争が始まってしまった。おじさん、若者のテンションについていけません。とても美味しいコーヒーを飲んでるはずなのに、なぜだか苦味しか感じません。
「鎌田先輩、こんなにワイワイしながらお茶するのも結構楽しいですね」
楽しそうな彼女にどこか苦笑いで返して、俺をじっと見る。
「山田のことは大丈夫です。任せて下さい」
凛とした眼差しが俺の心の重さを、すっとぬぐい去ってくれた。
――さすが山田くんの相棒、ただ者ではない!
「ちなみにこの紙を、何で持ち歩いている?」
彼女が手にしている、蓮が作った恐喝グッズを指差す。
「会社で、アンタを捜すのに使った」
「っ……何だって!?」
絶句する鎌田さん、無理もない。
「今川さん、コイツの親でしょう。監督不行き届きです!」
「キィ、また親子扱いしてくれちゃって。すっごくムカつくんですけど!」
「や、もっ、申しわけない」
腕を組んで俺を睨んでくる鎌田さんに、ペコペコ頭を下げまくった。
「マット、こんな奴に頭を下げるこたぁないわよ」
「うふふ、仲の良いおふたりですね」
無茶苦茶なやり取りがぶわーっと展開されていく事態に、冷や汗がどばどば流れる。
――おじさん、お家に帰りたいです……。
この微妙な空気を、何とかしたい――
それぞれ好きなコーヒーを頼んで席についたのだが、鎌田さんから放たれる威圧感に耐えながら言葉を選んでる俺。←年上のクセに情けない
そんな鎌田さんに、挑むような視線を送る蓮――まさに水と油、気が合いそうにない。そして油な鎌田さんに火をつけそうな意見を言う彼女も、結構厄介な存在と思われる。
早く、家に帰りたい……。
「ここのコーヒーショップで、山田と彼女は出会ったんです」
コーヒーを一口飲んだ、鎌田さんが話を切り出した。
「大学時代彼女に一目惚れした山田が、足しげく通って恋を成就させて現在に至る」
「随分、はしょったわね」
「アイツの話はムダに長いんだ。いちいち説明する必要性はない」
「でも鎌田先輩みたいに、ずっと片想いしてたワケじゃないんですね。すごいなぁ」
「へぇ、ムダに片想いしてたんだ。すごいなぁ」
「きっ、君はアイツに俺の情報を、うっかりと与えるんじゃない」
――3人のやり取りに、おじさん口を挟めません。
「話を変えます。これを見て下さい」
不機嫌丸出しの顔をしたまま、鎌田さんが手に持っていたスマホを見せてくれる。そこに写し出されてたのは、山田くんと蓮が並んで歩いている写真だった。
「随分と楽しそうに、腕を絡めて歩いてますね?」
チラッと横目で隣にいる蓮を見たら、しまったと顔に書いてあるじゃないか。
「だってあのとき、マットが冷たかったから」
「楽しくないと言ってたのは、どこの誰ですか?」
「痴話喧嘩なら、よそでやって下さい。はい、次!」
呆れ返りながら次の写真を見せてくれた。そこにはスレンダーな美人がもの悲しそうな表情を浮かべ、どこかを見ている写真だった。
「山田の彼女です」
「ゲッ! 山田の奴、こんな美人と付き合ってたの……!?」
――話は見えた……ふたりが仲良く歩いてる姿を偶然、彼女が目撃したんだな。
写真経由でも俺でさえこのふたりを見て、じりじりと嫉妬したんだ。ましてや直で見たとなると、ショックは相当なものだろう。
「この写メを、山田に送りました」
「何で!?」
蓮とシンクロして、同じ言葉を言い放ってしまった。
「事実を知らないのは一番の不幸ですし、彼女に呼び出される前に何かしら対策が練れるでしょう」
「鎌田先輩は山田さんの彼女が嫌いだから、送信したと思いましたよ」
感嘆の声で鎌田さんの彼女が言うと、また呆れた顔をする。
「まったく、思慮が浅いです」
「だってぇ、年上の女性が苦手だと聞いていたものだから」
「私は年上の彼女に山田がとられるのがイヤで、写真を送ったんだと思ったわ」
言いながら例の紙を、目の前にばばんと突きつける。
「蓮っ!? それは、いけないっ!」
紙を取り上げようとした刹那、一瞬早く鎌田さんの手によって握られてしまった。
あまりの事態に、顔を片手で押さえる。かなぁり、ヤバいですよ。
「こ……これは一体」
「あら、鎌田先輩の自然な笑顔、これ欲しいです」
「は!?」
今度は鎌田さんと蓮の声がシンクロした。
「君はこれを貰って、どうするつもりなんですか?」
「部屋に貼ってある、鎌田先輩のバンドのポスターの隣に貼ろうと思いますけど、何か?」
「……友人が自宅に来たら、どう説明するんです?」
顔を引きつらせながら彼女に聞く鎌田さんに、心の中でお疲れと囁いた俺。個性的な彼女をもつと、彼氏は苦労します。
「マット、私がマトモな彼女で良かったね」
コッソリ話しかけてくる君も、実は同じだとは口に出せなかった。
俺も鎌田さんみたいに、顔を引きつらせてしまう。
ああ、話が一向に進まない……。ここは年長者である、自分が仕切らねば。
「……あのですね、話を戻しましょうか」
おどおどしながら言うと彼女と口論していた鎌田さんの視線が、キッと俺に向けられた。
邪魔するな的な目線がグサグサと刺さりまくり、とても痛く顔を歪ませるしかない。
「この件に関して俺は、山田に余計なお世話はやめておけと進言しておいたんです」
「俺が彼に影武者として頼み込んでしまったから、こんな不幸な結果になってしまいました」
居たたまれなくて、すっと視線を伏せる。
「手を貸さずに、ずっと放置しておこうと思ったんですがね――」
「鎌田先輩……」
彼女が可愛らしく、ぐいぐいと袖を引っ張る。
「俺たちが上手くいったのも、実は山田のお陰なんです。アイツは誰にでも、お節介焼きだから」
「アンタ、何か考えがあるんでしょ?」
蓮が鎌田さんに言うと、片側の口角を上げて笑った。
「計画は進行中だ、あともう一踏ん張りってトコだな」
「さっすが、山田の彼氏!」
蓮が最悪といえる合いの手を入れてきた。
――誰か、彼女の口を止めてくれ。
「山田は大事な相棒だ、彼氏じゃないっ!」
「私とどっちが大事ですか?」
「彼氏と彼女、どっちが大事ですか?」
ううっ、また紛争が始まってしまった。おじさん、若者のテンションについていけません。とても美味しいコーヒーを飲んでるはずなのに、なぜだか苦味しか感じません。
「鎌田先輩、こんなにワイワイしながらお茶するのも結構楽しいですね」
楽しそうな彼女にどこか苦笑いで返して、俺をじっと見る。
「山田のことは大丈夫です。任せて下さい」
凛とした眼差しが俺の心の重さを、すっとぬぐい去ってくれた。
――さすが山田くんの相棒、ただ者ではない!
「ちなみにこの紙を、何で持ち歩いている?」
彼女が手にしている、蓮が作った恐喝グッズを指差す。
「会社で、アンタを捜すのに使った」
「っ……何だって!?」
絶句する鎌田さん、無理もない。
「今川さん、コイツの親でしょう。監督不行き届きです!」
「キィ、また親子扱いしてくれちゃって。すっごくムカつくんですけど!」
「や、もっ、申しわけない」
腕を組んで俺を睨んでくる鎌田さんに、ペコペコ頭を下げまくった。
「マット、こんな奴に頭を下げるこたぁないわよ」
「うふふ、仲の良いおふたりですね」
無茶苦茶なやり取りがぶわーっと展開されていく事態に、冷や汗がどばどば流れる。
――おじさん、お家に帰りたいです……。
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