3 / 83
act:意外な優しさ
1
しおりを挟む
――翌日。朝からテンションが全然上がらない。昨日の出来事が、頭から離れないせいだった。
(あれは、カマキリの裏の顔だったのかな)
美少女フィギュアを握り締めて大通りを闊歩していた、憧れていた先輩を見たときのショックと同じくらい……。いいや、それ以上に衝撃的だった。
しかもショックなのが昨日ライブハウスで歌っているカマキリを、すっごくカッコイイと思ってしまった。何か悔しいじゃない、ヤツは私の天敵だったはずなのに~。
ムスッとしたまま持っていたカバンの持ち手をぎゅっと握り締めた瞬間、目の前に突然現れた見慣れたネクタイ。あっと思ったときには、両肩に手を置かれた感触がした。
あたたかくて大きな手だな……
「朝から、何を寝ぼけているんですか?」
ポカンとしながら聞いたことのある声の主を、恐るおそる見上げる。その顔を仰ぎ見て、昨日の姿と思わず重ねてしまった。
もしかして今、あの胸板に飛び込んでいってしまったの――!?
あまりの衝撃に声を出せずに唖然としたままでいると、無造作に肩の手を外されて半歩距離をとられる。
「……おはようございます」
特徴のある強い口調のカマキリの声に、ハッと我に返った。
「すっ、すみません。ぉ、おはようございますっ!」
ペコリと頭を下げ、慌てて挨拶をした。昨日の今日で、心の準備が全然出来ていないよ――
カマキリの顔を直視できなくて、無駄に視線があちこちに彷徨ってしまう。
「昨日――」
落ち着きなくモジモジしていたら、カマキリが突然切り出した。いつもより低いその声に、ビクビクしながら顔を見つめる。
「…………」
唇が微妙に動いているのに何だか二の句が告げない様子だったので、自分から口を開きかけた刹那、
「……っ、昨日頼んだ書類は、出来ていますか?」
早口で言われた問いかけに、ぼんやりしたままの頭では全然追いつけずにいた。
「書類?」
「今日の午後から、会議に使用する書類のことです。昨日までに作っておく約束でしたが? もしかして……」
ギロリとメガネの奥から、鋭い眼差しが私を襲う。背中にたらりと冷や汗が流れていった。
「ううっ、八割……いや九割くらい出来ていますっ!」
「それじゃあダメです、完璧に仕上げて下さい。制限時間は、午前十時ですよ」
「はい……っ」
「時間厳守です、分かりましたか?」
冷たく言い捨てて、さっさと部署に入って行ったカマキリ。
なんだ、いつも通りだった――
へなへなと一気に体の力が抜けていく。違う意味でひとりドキドキしていた私って、本当バカみたいだ。
パシパシッと両頬を叩き、気合を入れ直した。
カマキリがいつも通りなら、私も普段通りにすればいいや。とりあえず時間厳守の仕事を、さっさと片付けなきゃ!
気分を改め、意気揚々とカマキリのあとに部署に入って行った。
(あれは、カマキリの裏の顔だったのかな)
美少女フィギュアを握り締めて大通りを闊歩していた、憧れていた先輩を見たときのショックと同じくらい……。いいや、それ以上に衝撃的だった。
しかもショックなのが昨日ライブハウスで歌っているカマキリを、すっごくカッコイイと思ってしまった。何か悔しいじゃない、ヤツは私の天敵だったはずなのに~。
ムスッとしたまま持っていたカバンの持ち手をぎゅっと握り締めた瞬間、目の前に突然現れた見慣れたネクタイ。あっと思ったときには、両肩に手を置かれた感触がした。
あたたかくて大きな手だな……
「朝から、何を寝ぼけているんですか?」
ポカンとしながら聞いたことのある声の主を、恐るおそる見上げる。その顔を仰ぎ見て、昨日の姿と思わず重ねてしまった。
もしかして今、あの胸板に飛び込んでいってしまったの――!?
あまりの衝撃に声を出せずに唖然としたままでいると、無造作に肩の手を外されて半歩距離をとられる。
「……おはようございます」
特徴のある強い口調のカマキリの声に、ハッと我に返った。
「すっ、すみません。ぉ、おはようございますっ!」
ペコリと頭を下げ、慌てて挨拶をした。昨日の今日で、心の準備が全然出来ていないよ――
カマキリの顔を直視できなくて、無駄に視線があちこちに彷徨ってしまう。
「昨日――」
落ち着きなくモジモジしていたら、カマキリが突然切り出した。いつもより低いその声に、ビクビクしながら顔を見つめる。
「…………」
唇が微妙に動いているのに何だか二の句が告げない様子だったので、自分から口を開きかけた刹那、
「……っ、昨日頼んだ書類は、出来ていますか?」
早口で言われた問いかけに、ぼんやりしたままの頭では全然追いつけずにいた。
「書類?」
「今日の午後から、会議に使用する書類のことです。昨日までに作っておく約束でしたが? もしかして……」
ギロリとメガネの奥から、鋭い眼差しが私を襲う。背中にたらりと冷や汗が流れていった。
「ううっ、八割……いや九割くらい出来ていますっ!」
「それじゃあダメです、完璧に仕上げて下さい。制限時間は、午前十時ですよ」
「はい……っ」
「時間厳守です、分かりましたか?」
冷たく言い捨てて、さっさと部署に入って行ったカマキリ。
なんだ、いつも通りだった――
へなへなと一気に体の力が抜けていく。違う意味でひとりドキドキしていた私って、本当バカみたいだ。
パシパシッと両頬を叩き、気合を入れ直した。
カマキリがいつも通りなら、私も普段通りにすればいいや。とりあえず時間厳守の仕事を、さっさと片付けなきゃ!
気分を改め、意気揚々とカマキリのあとに部署に入って行った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる