残火―ZANKA―愛しさのかたち

相沢蒼依

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しあわせのかたちを手に入れるまで

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(今日は朝から忙しない感じだな、小林さん)

 月はじめや月末じゃないのにも関わらず、なぜだか焦って仕事をこなしているように、竜馬の目に映った。小林のあたふたしている行動のせいで、傍で仕事をしているバイトのコやおばちゃんまでもが、流されるように仕事をしている始末。

 そんな姿を横目で捉えながら、配達で使うトラックの鍵を手にし、帽子をかぶって小林のデスクに赴いた。必死に仕事をしていた小林だったが、恋人の存在に気がつき、ほほ笑みながら顔を上げる。

「これから配達か、気をつけて行けよな」

「はい。あの、その前にちょっとだけいいですか?」

 竜馬は顎で扉を指し示し、一緒に外に出るように促した。

 忙しいのになと呟きながらも、先に出ていく背中を追いかけた小林。竜馬は、たくさん駐車されているトラックの荷台の隙間へと、恋人を誘導した。

「小林さん、今日はなにか、前倒しでやらなきゃならない、仕事でもあるんですか?」

 小林の仕事ぶりで、思いついたことを訊ねてみたら、目を見開いて固まる。ちょっとだけ焦りの見える表情は、らしくない感じだった。

「ちょっと、な……」

 小林は竜馬の視線を外し、斜め上を見ながら口を開いた。

「そんなに大変なら、配達が終わったあとに手伝いますよ?」

「大丈夫だ。それまでに、絶対終わらせる!」

「無理しちゃって。小林さんがそんなんだから、周りが気を遣っているのが、わからないんですか?」

「あ、まあ……。申し訳ないと思ってる」

 意味なく両手をにぎにぎして、落ち着きなく視線を彷徨わせる様子から、竜馬の頭の中に疑問符が浮かんだ。この感じはまるで、あのときのシチュエーション――海辺で指輪を貰ったときにしていた、小林の態度そのものだった。

「……小林さん、俺になにを隠しているんですか?」

「なにも隠してなんかねぇよ、怖い顔して睨んでくるなって」

 口元を思いっきり引きつらせながら苦笑いを浮かべる小林の表情で、隠し事をしていることが明白になった。

「竜馬、そんなおっかない顔をしてると、お客様に不審がられるぞ。ほらほら出発の時間だ」

 自分のしている腕時計を目の前に掲げて、わざわざ時間を教えて、竜馬を追い払おうとする、小林の無駄な努力に、渋々乗っかることにした。

「じゃあ俺がお昼に戻ったら、この話の続きをしますからね!」

「ぉ、おう! 気をつけて行けよな」

 竜馬は小林の隠し事を暴く宣言をして、颯爽とトラックに乗り込み、エンジンをかける。それなのに、どこか余裕そうな恋人の面差しに向かって、あっかんべーを見せつけてから、勢いよくアクセルを踏み込んだのだった。
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