残火―ZANKA―愛しさのかたち

相沢蒼依

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愛しさのかたち

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 三人でアイスを食べたまでは、雰囲気はとても良かったと、竜馬は記憶している。そして今現在、正座している、竜馬を挟んで展開されている様子に、顔を引きつらせるしかなかった。まさに、お手上げ状態だったのである。

 というか、両腕をふたりに確保されている時点で、竜馬は動くことすらできなかった。

「愛菜、絶対に帰らない! 竜馬のそばにいるもん!」

 むくれ顔をそのままに、愛菜は言い放ち、縋りつくように、竜馬の左腕をぎゅっと抱きしめる。

「そんなワガママ、パパが許すはずないだろう!」

 父親の威厳を振りかざしつつ、恋人のように竜馬の右腕に、自分の腕を絡ませた小林。

「あ、あのぅ……」

「パパ、ズルいよ。竜馬をひとりじめ、しようとしてるでしょ!」

「そんなことはない。愛菜がママのところに帰ったら、竜馬も自分の家に帰るんだから」

 自分を中心に、引っ張り合いをする親子を前にして、竜馬は対処できずにいた。どちらかの肩を持てば、間違いなく片方の機嫌が悪くなるのが、容易に想像できるだけに、どうにも口を挟めない。

「竜馬、おうちに帰っちゃうの?」

「ぅ、うん。明日も仕事があるからね。帰るよ……」

 言いながら、右側にいる小林の顔を見たら、もの言いたげなまなざしとかち合った。

(これは俺の作った料理を食べたあとで、俺のことも食べようと思ったのにっていうのが、なんとなーく滲み出てる視線だな。目は口ほどに物を言うから――)

「愛菜、ママと喧嘩したことはわかったけど、他にもなにかあるんじゃないのか?」

 みんなでアイスを食べながら、今回の来訪について、小林と一緒に上手いこと聞き出していたので、大まかな理由はわかっていた。

 竜馬自身も母親と喧嘩したとき、なかなか家に帰りづらかった過去があったので、愛菜の気持ちを理解していただけに、他の理由があるなんて、思いつきもしなかった。

 父親として、有能な姿の小林を垣間見ることができて、竜馬の頬が自然と緩む。

「りっ理由なんて、そんなものないもん」

 ぷいっと、顔を背けてむくれる愛菜を見て、竜馬はふとしたことが閃いた。

「愛菜ちゃん、もしかして隠してることは、パパやママに関係のあることじゃない?」

 竜馬が指摘した途端に、ちょっとだけ愛菜の表情が変わった。困惑と悲しみの両方が、見え隠れする感情を目の当たりにしたからこそ、小さな右手を両手で包み込んであげる。

「さっき夕飯を作りながら、いろんなお話をしたよね。俺の家は愛菜ちゃんと同じく、お母さんと二人暮らしをしてるって」

「うん……」

 愛菜が共感しやすいであろう、自分の話を持ち出した。

「俺の家にはもともと、お父さんがいなかったっていうのもあるけど、愛菜ちゃんと同じくらいのときは、季節ごとのイベントが、すっごく嫌だった。周りの友達はみんなお父さんがいて、一緒に楽しくイベントを過ごしたことを、聞くのがつらかったんだ」

 華奢な右手の甲を指先で撫でながら、遠い昔のことを思い出しつつ、竜馬が語りかけると、愛菜の大きな瞳が、ちょっとだけ潤んだ。

「小さな竜馬、かわいそう。寂しかったでしょ?」

「寂しいよりも、羨ましかったな。そんなモヤモヤした気持ちのまま、家に帰っていたんだけど、母さんがいるから、変なことで落ち込んでいられなくてね。平気なふりして、学校であったことを、おもしろおかしく喋ってたよ。愛菜ちゃんはどうなのかな?」

 優しく問いかけた、竜馬の視線を避けるように、愛菜は顔を俯かせる。愛菜のまなざしは、擦られている右手を捉えていた。

「愛菜、竜馬がおまえに聞いてるんだ。きちんと答えなさい」

「…………」

「小林さん、無理強いは駄目ですって。言いたいことが言えなくなる」

 竜馬は焦れた小林に視線を飛ばしつつ、慌てて注意を促した。

「だけど――」

 母親に黙って、父親のもとを訪れた愛菜の気持ちを、竜馬は考えながら、自分の気持ちをまとめてみる。

「父親として、子どもの気持ちを知りたいのは、わかります。だけど、デリケートな問題だからこそ、そこのところは、慎重にいかないと」

 小林から隣に視線を移すと、なにか言いたげな表情の愛菜と、視線がぶつかった。
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