21 / 23
愛しさのかたち
4
しおりを挟む
「愛菜ちゃんは愛菜ちゃんなりに、なにか思うことがあるんだよね? それを、パパに伝えに来たのかな?」
小林と喋っているときよりも、竜馬は声色を上げて、愛菜に訊ねてみる。
「……あのね、パパがいないのはおかしいって、仲のいい友達に言われたの」
ぼそぼそ呟くように告げた、愛菜の言葉を聞いて、竜馬は小林と目を合わせた。眉間に皺を寄せた小林は、どこか話しづらそうにしていたので、あえて自分から口火を切る。
「それ、俺も言われたことがある」
「竜馬も?」
さっきよりも、ちょっとだけ明るい口調になった愛菜を見て、竜馬は柔らかくほほ笑んでみせた。
「うん。おまえの父さんは、どこに行ったんだって聞かれた。だけど、答えられなかったんだ。どこにいるか、わからなかったし」
「…………」
「愛菜ちゃんのパパは、一緒に暮らしていないけど、こうやって逢えるだろ? そのことを、お友達に伝えてみたらいいんじゃないかな」
父親と母親がいつも傍にいる友達に、そのことについて、話をしてみても、離れて暮らす事情がわからない以上、納得するとは思えない。だけど人によって、家族のかたちはいろいろあるという現実を、愛菜の事情を使って説明してみるのも、一つの手なんじゃないかと竜馬は思った。
「そうだよね。こうやってパパに会えることを、まりあちゃんに伝えたらいいんだ」
「愛菜がクラスで仲のいいお友達は、まりあちゃんっていうのか?」
愛菜の呟きに反応して、小林が優しく語りかけた。
「うんっ。席替えしてから、隣になってね、私が消しゴムを忘れたときに貸してくれたり、まりあちゃんが忘れたときは、貸したりしたんだ。髪の毛がすっごく長くて、とってもキレイなの」
「愛菜ちゃんだって、髪の毛は長いほうじゃないのかな?」
ポニーテールをしている愛菜の毛先は、ちょうど肩の高さだったので、竜馬は長いと指摘した。
「まりあちゃんのほうが長いんだよ。背中の全部が隠れちゃうの」
話し合いを始めたときとは一転、明るい雰囲気がリビングを包み込む。
愛菜の弾んだ声に導かれるように、小林と竜馬も日常のことを口にした。竜馬の話から普段聞くことのない、小林の様子を聞いて、愛菜はお腹を抱えて笑い、小林はここぞとばかりにむくれた。
三人三様で盛り上がる時間は、あっという間に過ぎていく。
「愛菜、明日も学校があることだし、これ以上は遅くなるから、駅まで送って行く。ママが迎えに来てくれるそうだ」
「そんな……」
悲しげな表情を、ありありと浮かべた愛菜を見て、竜馬がそっと手を握りしめた。
「また来たらいいよ。そのときは事前に、きちんとパパとママの許可を、もらってからじゃないと、ダメだけどね」
その言葉を聞き、愛菜は小林の顔を見やる。
「今日みたいな平日に、いきなり来られても、留守にしていることが多い。今日はたまたま、竜馬がいたからよかったが、いつも来てるわけじゃないしな」
「そういうこと。わかったかな?」
竜馬は小林を見つめる愛菜に、視線を飛ばしながら訊ねると、瞼を伏せて俯いたまま口を開く。
「……竜馬に逢いたいときは、どうしたらいい?」
予想をしていない問いかけをされて、竜馬と小林は同時に顔を見合わせた。互いの目が驚きと同時に、困惑の色を浮かべているのを確認する。
「りょ、竜馬に逢いたいって愛菜、それって――」
「小林さんっ、ストップです!」
「なんで、ストップかけるんだ。親としては、聞いておきたいことだろ!」
「とにかく、頭の中を真っ白にしてくださいっ」
頭を指差しながらキツく言い放った竜馬の言葉に、小林は眉間に皺を寄せて押し黙った。
「愛菜ちゃん、俺に逢いたいってもしかして、今日一緒に料理を作ったのが、楽しかったのかな?」
竜馬があてはまりそうなことを告げてみたら、愛菜は伏せていた瞼をあげるなり、喜びを示すように唇を綻ばせた。
「うん! 愛菜がお料理することは危ないからって、ママが許してくれないんだ。だから竜馬と一緒に、オムライスを作ったのが、すっごく嬉しかったの」
「なんだ、そんなことか……」
「小林さんっ!」
咳払いをして牽制した竜馬に、小林はビクッと体を震わせる。
小林と喋っているときよりも、竜馬は声色を上げて、愛菜に訊ねてみる。
「……あのね、パパがいないのはおかしいって、仲のいい友達に言われたの」
ぼそぼそ呟くように告げた、愛菜の言葉を聞いて、竜馬は小林と目を合わせた。眉間に皺を寄せた小林は、どこか話しづらそうにしていたので、あえて自分から口火を切る。
「それ、俺も言われたことがある」
「竜馬も?」
さっきよりも、ちょっとだけ明るい口調になった愛菜を見て、竜馬は柔らかくほほ笑んでみせた。
「うん。おまえの父さんは、どこに行ったんだって聞かれた。だけど、答えられなかったんだ。どこにいるか、わからなかったし」
「…………」
「愛菜ちゃんのパパは、一緒に暮らしていないけど、こうやって逢えるだろ? そのことを、お友達に伝えてみたらいいんじゃないかな」
父親と母親がいつも傍にいる友達に、そのことについて、話をしてみても、離れて暮らす事情がわからない以上、納得するとは思えない。だけど人によって、家族のかたちはいろいろあるという現実を、愛菜の事情を使って説明してみるのも、一つの手なんじゃないかと竜馬は思った。
「そうだよね。こうやってパパに会えることを、まりあちゃんに伝えたらいいんだ」
「愛菜がクラスで仲のいいお友達は、まりあちゃんっていうのか?」
愛菜の呟きに反応して、小林が優しく語りかけた。
「うんっ。席替えしてから、隣になってね、私が消しゴムを忘れたときに貸してくれたり、まりあちゃんが忘れたときは、貸したりしたんだ。髪の毛がすっごく長くて、とってもキレイなの」
「愛菜ちゃんだって、髪の毛は長いほうじゃないのかな?」
ポニーテールをしている愛菜の毛先は、ちょうど肩の高さだったので、竜馬は長いと指摘した。
「まりあちゃんのほうが長いんだよ。背中の全部が隠れちゃうの」
話し合いを始めたときとは一転、明るい雰囲気がリビングを包み込む。
愛菜の弾んだ声に導かれるように、小林と竜馬も日常のことを口にした。竜馬の話から普段聞くことのない、小林の様子を聞いて、愛菜はお腹を抱えて笑い、小林はここぞとばかりにむくれた。
三人三様で盛り上がる時間は、あっという間に過ぎていく。
「愛菜、明日も学校があることだし、これ以上は遅くなるから、駅まで送って行く。ママが迎えに来てくれるそうだ」
「そんな……」
悲しげな表情を、ありありと浮かべた愛菜を見て、竜馬がそっと手を握りしめた。
「また来たらいいよ。そのときは事前に、きちんとパパとママの許可を、もらってからじゃないと、ダメだけどね」
その言葉を聞き、愛菜は小林の顔を見やる。
「今日みたいな平日に、いきなり来られても、留守にしていることが多い。今日はたまたま、竜馬がいたからよかったが、いつも来てるわけじゃないしな」
「そういうこと。わかったかな?」
竜馬は小林を見つめる愛菜に、視線を飛ばしながら訊ねると、瞼を伏せて俯いたまま口を開く。
「……竜馬に逢いたいときは、どうしたらいい?」
予想をしていない問いかけをされて、竜馬と小林は同時に顔を見合わせた。互いの目が驚きと同時に、困惑の色を浮かべているのを確認する。
「りょ、竜馬に逢いたいって愛菜、それって――」
「小林さんっ、ストップです!」
「なんで、ストップかけるんだ。親としては、聞いておきたいことだろ!」
「とにかく、頭の中を真っ白にしてくださいっ」
頭を指差しながらキツく言い放った竜馬の言葉に、小林は眉間に皺を寄せて押し黙った。
「愛菜ちゃん、俺に逢いたいってもしかして、今日一緒に料理を作ったのが、楽しかったのかな?」
竜馬があてはまりそうなことを告げてみたら、愛菜は伏せていた瞼をあげるなり、喜びを示すように唇を綻ばせた。
「うん! 愛菜がお料理することは危ないからって、ママが許してくれないんだ。だから竜馬と一緒に、オムライスを作ったのが、すっごく嬉しかったの」
「なんだ、そんなことか……」
「小林さんっ!」
咳払いをして牽制した竜馬に、小林はビクッと体を震わせる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる