残火―ZANKA―愛しさのかたち

相沢蒼依

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愛しさのかたち

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「愛菜ちゃんは愛菜ちゃんなりに、なにか思うことがあるんだよね? それを、パパに伝えに来たのかな?」

 小林と喋っているときよりも、竜馬は声色を上げて、愛菜に訊ねてみる。

「……あのね、パパがいないのはおかしいって、仲のいい友達に言われたの」

 ぼそぼそ呟くように告げた、愛菜の言葉を聞いて、竜馬は小林と目を合わせた。眉間に皺を寄せた小林は、どこか話しづらそうにしていたので、あえて自分から口火を切る。

「それ、俺も言われたことがある」

「竜馬も?」

 さっきよりも、ちょっとだけ明るい口調になった愛菜を見て、竜馬は柔らかくほほ笑んでみせた。

「うん。おまえの父さんは、どこに行ったんだって聞かれた。だけど、答えられなかったんだ。どこにいるか、わからなかったし」

「…………」

「愛菜ちゃんのパパは、一緒に暮らしていないけど、こうやって逢えるだろ? そのことを、お友達に伝えてみたらいいんじゃないかな」

 父親と母親がいつも傍にいる友達に、そのことについて、話をしてみても、離れて暮らす事情がわからない以上、納得するとは思えない。だけど人によって、家族のかたちはいろいろあるという現実を、愛菜の事情を使って説明してみるのも、一つの手なんじゃないかと竜馬は思った。

「そうだよね。こうやってパパに会えることを、まりあちゃんに伝えたらいいんだ」

「愛菜がクラスで仲のいいお友達は、まりあちゃんっていうのか?」

 愛菜の呟きに反応して、小林が優しく語りかけた。

「うんっ。席替えしてから、隣になってね、私が消しゴムを忘れたときに貸してくれたり、まりあちゃんが忘れたときは、貸したりしたんだ。髪の毛がすっごく長くて、とってもキレイなの」

「愛菜ちゃんだって、髪の毛は長いほうじゃないのかな?」

 ポニーテールをしている愛菜の毛先は、ちょうど肩の高さだったので、竜馬は長いと指摘した。

「まりあちゃんのほうが長いんだよ。背中の全部が隠れちゃうの」

 話し合いを始めたときとは一転、明るい雰囲気がリビングを包み込む。

 愛菜の弾んだ声に導かれるように、小林と竜馬も日常のことを口にした。竜馬の話から普段聞くことのない、小林の様子を聞いて、愛菜はお腹を抱えて笑い、小林はここぞとばかりにむくれた。

 三人三様で盛り上がる時間は、あっという間に過ぎていく。

「愛菜、明日も学校があることだし、これ以上は遅くなるから、駅まで送って行く。ママが迎えに来てくれるそうだ」

「そんな……」

 悲しげな表情を、ありありと浮かべた愛菜を見て、竜馬がそっと手を握りしめた。

「また来たらいいよ。そのときは事前に、きちんとパパとママの許可を、もらってからじゃないと、ダメだけどね」

 その言葉を聞き、愛菜は小林の顔を見やる。

「今日みたいな平日に、いきなり来られても、留守にしていることが多い。今日はたまたま、竜馬がいたからよかったが、いつも来てるわけじゃないしな」

「そういうこと。わかったかな?」

 竜馬は小林を見つめる愛菜に、視線を飛ばしながら訊ねると、瞼を伏せて俯いたまま口を開く。

「……竜馬に逢いたいときは、どうしたらいい?」

 予想をしていない問いかけをされて、竜馬と小林は同時に顔を見合わせた。互いの目が驚きと同時に、困惑の色を浮かべているのを確認する。

「りょ、竜馬に逢いたいって愛菜、それって――」

「小林さんっ、ストップです!」

「なんで、ストップかけるんだ。親としては、聞いておきたいことだろ!」

「とにかく、頭の中を真っ白にしてくださいっ」

 頭を指差しながらキツく言い放った竜馬の言葉に、小林は眉間に皺を寄せて押し黙った。

「愛菜ちゃん、俺に逢いたいってもしかして、今日一緒に料理を作ったのが、楽しかったのかな?」

 竜馬があてはまりそうなことを告げてみたら、愛菜は伏せていた瞼をあげるなり、喜びを示すように唇を綻ばせた。

「うん! 愛菜がお料理することは危ないからって、ママが許してくれないんだ。だから竜馬と一緒に、オムライスを作ったのが、すっごく嬉しかったの」

「なんだ、そんなことか……」

「小林さんっ!」

 咳払いをして牽制した竜馬に、小林はビクッと体を震わせる。
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