純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

文字の大きさ
21 / 126
冴木学の場合

16

しおりを挟む
「あ、済まないね。仲が良さそうだったから、てっきりご姉弟かと思って……」

 失言したのを気にしたのか、堀田課長は口元に手を当てる。そこで左手の薬指に気づいた。

 妻帯者なら美羽姉に手を出さない、なんて思えるハズがない。美羽姉の元旦那さんの浮気現場を、自分の目で実際見ているだけに、一切気が抜けなかった。

 ここぞとばかりに仲がいいアピールをするために、美羽姉に視線を向ける。

「美羽、仲が良さそうだって。堀田さん、ありがとうございます。僕としては、そういうふうに見られるだけでも、嬉しいことに繋がります」

 美羽姉から堀田課長に視線を移動し、喜んでいることを示すために、瞳を細めながら笑って声を弾ませた。俺を見つめる美羽姉は、それとは対照的に微妙な表情だった。

「小野寺さんを駅まで送ろうかと思ったけど、お役御免みたいだね。お疲れ様でした、明日もよろしくお願いします」

 堀田課長は空気を読んだのか、早口で告げるなり、さっさと退散する。

「学くん、ごめんね。いろいろ気を遣ったよね」

「気を遣う? どうして?」

 美羽姉は拳を握りしめる俺の右手を掴み、両手で優しく包み込む。それだけでピリついていた気持ちが、少しだけ穏やかになった。

「だって姉弟って言われたことを否定するのに、堀田課長に不快感を与えないことを言っていたじゃない。私もなんて言えばいいのか、言葉に迷っちゃったんだ」

(……そうか。俺だけじゃなく、美羽姉も気にしていたんだ――)

「姉弟って言われたくらいで、美羽姉の上司に食ってかかる物言いをしたら、ダメなことくらいわかってるし。当然じゃね?」

 俺が腰を屈めて、曇り顔を覗き込んだら。

「当然かもしれないけれど、でも――」

 なにかを言いかけて、やんわりと口を噤んだ。美羽姉の視線はまっすぐ俺に注がれているせいで、どうしてもわかってしまう。悲しげなまなざしが、美羽姉の心を表していた。

「なんで美羽姉が、俺に気を遣ってるのかわからないな。弟に見える俺を憐れんでいるとか?」

「違うよ、そんなんじゃない!」

「じゃあなに?」

 俺は至近距離で、ズルい質問を投げかけた。美羽姉の答えがわかっているのに、それをわざと引き出そうとしてしまう。

「学くん……」

 いつもより低い声の俺の問いかけに委縮した美羽姉が、包み込んでいる手に視線を落とした。直視していた視線を振り切られたことで、心の中に嫌な自分が現れる。

「ごめん。こんな言い合いしなくてもいいのに。美羽姉の前だと、どうしても甘えてしまう。俺の全部を知ってるせいで、上手に装えないから」

「装わなくていいんだよ。だって私は学くんの恋人なんだから」

「だったら受け止めてくれる? 俺の気持ち」

 卑怯で気弱な俺は、美羽姉が断れないセリフを告げた。心にいる嫌な自分が、それを言えと言ったから。

「学くんの気持ち?」

 訊ねながら俺に視線を戻す。不思議そうにしている美羽姉に、俺は真顔で迷いなく喋りかける。

「どんな気持ちであの場にいたのか、美羽姉全部受け止めて」

 優しい美羽姉が無理して受け止めることを知って、俺はこの言葉を告げた。そして返事を聞かずに、美羽姉に包まれている手を使って利き手を握りしめ、俺のマンションに向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...