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冴木学の場合
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♡♡♡
昨夜、空が白んでくるまで、学くんに散々甘やかされてしまった。
本当は私よりあとにイってるくせに、天使の翼をばたつかせて困った顔を作り込み、しれっと嘘をついたと思ったら、手早くゴムを付け替えるなり私に抱きついて、余計なことを考えさせる暇を与えず、積極的に行為に励まれ――。
学くんの絶倫具合に困惑しつつも、それに合わせ私も付き合うことができてしまう自身の体に驚くしかない。
だけど彼と離れたあとに、やっぱり考えてしまうのは、少しでもかわいい雰囲気や格好を施して、なんとかしたいと思ってしまう。地味目な色づかいの服をちょっとだけ明るいものにしたり、化粧の仕方で若作りできやしないだろうかなんて。
自分から学くんにそのままでいいとは言ったけれど、努力すると言いきった彼に見合う恋人になれるように頑張りたい。
(堀田課長とのやり取りのときは、私がフォローしきれなかったことが、学くんの負担になっちゃったんだよなぁ)
幼なじみとして長い間一緒に過ごしているせいで、相手の心の内がわかってしまう。隠し事のできない間柄だからこそ、きちんと向き合って話ができるのは、すごくいいことなのに。
会社からの帰り道、重だるい体を引きずりながら額に手を当てつつ、深いため息をついた瞬間、バシンと背中を叩かれた。
「キャッ!」
「やーねぇ、湿気た面してたら、一気に老けるのよぉ」
聞き覚えのある声に振り返ると、予想どおりの人が笑いながら立っていた。
「あ、副編集長さん、お久しぶりです」
叩かれた背中の痛みを忘れて振り返り、深くお辞儀をする。
「美羽ちゃんおひさ! 元気そうじゃないわね。まぁウチの会社が白鳥をこき使ってるから、なかなか逢う時間がないでしょう?」
「逢えなくても、連絡はとれてますので」
「それなのに表情が暗いcry! そんなんだと老け込んで、白鳥とは余計に恋人に見えなくなるわよ」
「えっ?」
「私が相談されたネタじゃないんだけどね。立ち話もなんだから、ちょっと食事しながらお話しなーい?」
そう言って指を差した場所は、某居酒屋チェーン店だった。
「実はね、白鳥に聞かれたくない話もしたかったの。それと、個人的なお礼を兼ねたくて。無理にとは言わないわ。美羽ちゃんが決めてちょうだい」
ふたりきりで飲むことに躊躇したものの、学くんの上司が彼に聞かれたくない話をしたいだなんて、ただごとじゃない。
「私でよければ、お食事ご一緒させてください」
興味に惹かれて、副編集長さんと居酒屋の暖簾をくぐった。
「私たちの出逢いと雑誌の完売に、かんぱ~い!」
個室席でジョッキを鳴らして乾杯し、互いに喉を潤す。一気に半分くらい飲み干した。
「あら美羽ちゃん、いける口なのね」
「両親そろって、酒豪のせいなんでしょうか」
「白鳥は、かわいそうなくらいに弱いものね。美羽ちゃんが介抱する姿が目に浮かぶわ」
ふたたびジョッキに口をつけた副編集長さんが、三分の一くらい飲み干してから、静かに訊ねる。
「上條良平のロングインタビューを載せた先週号、お蔭さまで完売したんだけど、美羽ちゃん読んだかしら?」
「読んでません、興味ないので。会社の利益に貢献しなくてすみません……」
「無事に完売してるんだし、そんなこと気にしないで。美羽ちゃんの話がなかったら、ウチの雑誌の完売なんてなかったんだし。むしろ感謝しまくりよ」
なんとなく気まずくて、ビールを一口だけ飲む。
「あのね、美羽ちゃんの復讐計画をはじめて聞いたのは、白鳥が別室にいる一ノ瀬に相談したのを、監視モニターで偶然私が目にしたんだけど」
「そのこと、一ノ瀬さんから聞きました」
副編集長さんはチャームの枝豆を手でいじりながら、しらけた笑いを頬に滲ませて口をひらく。
「まぁぶっちゃけると、パソコンで盗撮したんだけどね。あのときの一ノ瀬がさぁ、春菜を犯罪者に導く作戦方法を白鳥に説明してたとき、世間話をするように、淀みなくスラスラ喋っていたのよ」
副編集長さんのセリフで、一ノ瀬さんとはじめて逢って、実際に話をしたときのことを思い出した。学くんのマンション前であのコを見ていた私に声をかけて、そのあと車に乗り込み、室内の様子を一緒に眺めていたとき。
ほんのちょっとしか会話をしていないというのに、一ノ瀬さんは『心に芯の強さがある感じ』と私を称し、復讐するのは悪いことばかりじゃないと笑顔で言いきった。あのひとことで、私の心はかなり救われた。
「あれだけの計画を思いつくなんて、一ノ瀬さんはとても頭のいい方なんだと思ったんですけど」
「ただのカメラマンのくせに、私より上よ。だからって考える間もなく、説明できる内容だと思う?」
昨夜、空が白んでくるまで、学くんに散々甘やかされてしまった。
本当は私よりあとにイってるくせに、天使の翼をばたつかせて困った顔を作り込み、しれっと嘘をついたと思ったら、手早くゴムを付け替えるなり私に抱きついて、余計なことを考えさせる暇を与えず、積極的に行為に励まれ――。
学くんの絶倫具合に困惑しつつも、それに合わせ私も付き合うことができてしまう自身の体に驚くしかない。
だけど彼と離れたあとに、やっぱり考えてしまうのは、少しでもかわいい雰囲気や格好を施して、なんとかしたいと思ってしまう。地味目な色づかいの服をちょっとだけ明るいものにしたり、化粧の仕方で若作りできやしないだろうかなんて。
自分から学くんにそのままでいいとは言ったけれど、努力すると言いきった彼に見合う恋人になれるように頑張りたい。
(堀田課長とのやり取りのときは、私がフォローしきれなかったことが、学くんの負担になっちゃったんだよなぁ)
幼なじみとして長い間一緒に過ごしているせいで、相手の心の内がわかってしまう。隠し事のできない間柄だからこそ、きちんと向き合って話ができるのは、すごくいいことなのに。
会社からの帰り道、重だるい体を引きずりながら額に手を当てつつ、深いため息をついた瞬間、バシンと背中を叩かれた。
「キャッ!」
「やーねぇ、湿気た面してたら、一気に老けるのよぉ」
聞き覚えのある声に振り返ると、予想どおりの人が笑いながら立っていた。
「あ、副編集長さん、お久しぶりです」
叩かれた背中の痛みを忘れて振り返り、深くお辞儀をする。
「美羽ちゃんおひさ! 元気そうじゃないわね。まぁウチの会社が白鳥をこき使ってるから、なかなか逢う時間がないでしょう?」
「逢えなくても、連絡はとれてますので」
「それなのに表情が暗いcry! そんなんだと老け込んで、白鳥とは余計に恋人に見えなくなるわよ」
「えっ?」
「私が相談されたネタじゃないんだけどね。立ち話もなんだから、ちょっと食事しながらお話しなーい?」
そう言って指を差した場所は、某居酒屋チェーン店だった。
「実はね、白鳥に聞かれたくない話もしたかったの。それと、個人的なお礼を兼ねたくて。無理にとは言わないわ。美羽ちゃんが決めてちょうだい」
ふたりきりで飲むことに躊躇したものの、学くんの上司が彼に聞かれたくない話をしたいだなんて、ただごとじゃない。
「私でよければ、お食事ご一緒させてください」
興味に惹かれて、副編集長さんと居酒屋の暖簾をくぐった。
「私たちの出逢いと雑誌の完売に、かんぱ~い!」
個室席でジョッキを鳴らして乾杯し、互いに喉を潤す。一気に半分くらい飲み干した。
「あら美羽ちゃん、いける口なのね」
「両親そろって、酒豪のせいなんでしょうか」
「白鳥は、かわいそうなくらいに弱いものね。美羽ちゃんが介抱する姿が目に浮かぶわ」
ふたたびジョッキに口をつけた副編集長さんが、三分の一くらい飲み干してから、静かに訊ねる。
「上條良平のロングインタビューを載せた先週号、お蔭さまで完売したんだけど、美羽ちゃん読んだかしら?」
「読んでません、興味ないので。会社の利益に貢献しなくてすみません……」
「無事に完売してるんだし、そんなこと気にしないで。美羽ちゃんの話がなかったら、ウチの雑誌の完売なんてなかったんだし。むしろ感謝しまくりよ」
なんとなく気まずくて、ビールを一口だけ飲む。
「あのね、美羽ちゃんの復讐計画をはじめて聞いたのは、白鳥が別室にいる一ノ瀬に相談したのを、監視モニターで偶然私が目にしたんだけど」
「そのこと、一ノ瀬さんから聞きました」
副編集長さんはチャームの枝豆を手でいじりながら、しらけた笑いを頬に滲ませて口をひらく。
「まぁぶっちゃけると、パソコンで盗撮したんだけどね。あのときの一ノ瀬がさぁ、春菜を犯罪者に導く作戦方法を白鳥に説明してたとき、世間話をするように、淀みなくスラスラ喋っていたのよ」
副編集長さんのセリフで、一ノ瀬さんとはじめて逢って、実際に話をしたときのことを思い出した。学くんのマンション前であのコを見ていた私に声をかけて、そのあと車に乗り込み、室内の様子を一緒に眺めていたとき。
ほんのちょっとしか会話をしていないというのに、一ノ瀬さんは『心に芯の強さがある感じ』と私を称し、復讐するのは悪いことばかりじゃないと笑顔で言いきった。あのひとことで、私の心はかなり救われた。
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