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冴木学の場合
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私は無言で首を横に振った。副編集長さんは枝豆を食べて、ふたたびビールを飲み、喉を潤し終えてから独り言のように呟く。
「そこんとこ、白鳥は疑問に思わなかったみたいなんだけどねー」
「私が復讐を考えたとき、たくさんの数を思いつきました。そこから使えそうなものをピックアップして、現実的に着手できるのを決めるまでに、かなり時間がかかったんです」
だから私は一ノ瀬さんのように、淀みなく人に説明なんてできない。ノートに書き殴ったものを一旦整理して、それを見ながらじゃないと無理な話だった。
「いくら一ノ瀬の頭が良くても、思いつきを説明している様子は、傍から見ていて違和感しかなかったわ。それですぐに答えが導き出せたの、ああコイツは誰かに復讐したかったんだなぁって」
「あ……」
「復讐するために、アイデアをずっとあたためていて、たまたま使えそうなものがあったゆえに、それを白鳥に提供した。つまり復讐したい相手が、一ノ瀬にいるってことなの。その人物の心当たりが、ひとりだけいるってわけ」
「……一ノ瀬さんの元カノですか?」
百発百中の一ノ瀬さんだからこそ男女関係の絡みから、想像した言葉が口を突いて出た。
「ただの元カノじゃないわ。夫持ちの女なのよ、アイツの場合……」
「っ!!」
衝撃的な事実に、言葉を失った。だから副編集長さんは、学くんに話せないと言ったんだと。自分の尊敬する先輩が不倫をしていたなんて知ったら、失望するに決まってる。
「アイツが不倫してたのは、かなり前、今の白鳥くらいのときよ。一ノ瀬とは大学の同期でね、なんだかんだウマが合って就職先は違ったけど、しょっちゅう逢っていたの。仕事の愚痴を互いに言い合ったりして」
「おふたりを見ていて、すごく仲が良さそうに見えたのは、そういう間柄だったからなんですね」
私が指摘したら副編集長さんは照れたように、ジョッキを手の中でもてあそぶ。
「大学時代に一ノ瀬が住んでたアパートは、学生向けの安アパートでね。社会人になったら出て行かなきゃならないのに、駆け出しのカメラマンで安月給だからと大家さんのご好意に甘えて、居座ってる話を聞いたわ。それを知った時点で、疑問に思えばよかったのに」
「学くんと同じ、駆け出しのカメラマン……」
苦労が顔に滲み出ている感じではなく、上手に年齢を重ねているように、私の目に映った一ノ瀬さん。その彼の恋愛相手が主婦なんて。
(そういう学くんも、私のことが好きだったんだよな――)
ふたりの共通点に気づいて、ジョッキのビールに視線を落とすと、副編集長さんがより一層声を低くしながら語る。
「そんなある日、一ノ瀬が結婚したい人がいるって言い出したの。誰かと付き合ってる話を聞いていなかったのもあって、あいた口が塞がらなかったっけ」
「まさか――」
「相手を問いただしたら10も年上の主婦で、アパートの大家だって言うじゃない。一ノ瀬が心底惚れた女が、そんなヤツとは思わなかったから、度肝を抜いたわよぉ。お家賃と一緒に、自分の体を提供していたのねって」
ジョッキから視線をあげて目の前を見たら、悲しげなまなざしとかち合う。副編集長さんは無言を貫く私に、淡々と説明を続ける。
「そこんとこ、白鳥は疑問に思わなかったみたいなんだけどねー」
「私が復讐を考えたとき、たくさんの数を思いつきました。そこから使えそうなものをピックアップして、現実的に着手できるのを決めるまでに、かなり時間がかかったんです」
だから私は一ノ瀬さんのように、淀みなく人に説明なんてできない。ノートに書き殴ったものを一旦整理して、それを見ながらじゃないと無理な話だった。
「いくら一ノ瀬の頭が良くても、思いつきを説明している様子は、傍から見ていて違和感しかなかったわ。それですぐに答えが導き出せたの、ああコイツは誰かに復讐したかったんだなぁって」
「あ……」
「復讐するために、アイデアをずっとあたためていて、たまたま使えそうなものがあったゆえに、それを白鳥に提供した。つまり復讐したい相手が、一ノ瀬にいるってことなの。その人物の心当たりが、ひとりだけいるってわけ」
「……一ノ瀬さんの元カノですか?」
百発百中の一ノ瀬さんだからこそ男女関係の絡みから、想像した言葉が口を突いて出た。
「ただの元カノじゃないわ。夫持ちの女なのよ、アイツの場合……」
「っ!!」
衝撃的な事実に、言葉を失った。だから副編集長さんは、学くんに話せないと言ったんだと。自分の尊敬する先輩が不倫をしていたなんて知ったら、失望するに決まってる。
「アイツが不倫してたのは、かなり前、今の白鳥くらいのときよ。一ノ瀬とは大学の同期でね、なんだかんだウマが合って就職先は違ったけど、しょっちゅう逢っていたの。仕事の愚痴を互いに言い合ったりして」
「おふたりを見ていて、すごく仲が良さそうに見えたのは、そういう間柄だったからなんですね」
私が指摘したら副編集長さんは照れたように、ジョッキを手の中でもてあそぶ。
「大学時代に一ノ瀬が住んでたアパートは、学生向けの安アパートでね。社会人になったら出て行かなきゃならないのに、駆け出しのカメラマンで安月給だからと大家さんのご好意に甘えて、居座ってる話を聞いたわ。それを知った時点で、疑問に思えばよかったのに」
「学くんと同じ、駆け出しのカメラマン……」
苦労が顔に滲み出ている感じではなく、上手に年齢を重ねているように、私の目に映った一ノ瀬さん。その彼の恋愛相手が主婦なんて。
(そういう学くんも、私のことが好きだったんだよな――)
ふたりの共通点に気づいて、ジョッキのビールに視線を落とすと、副編集長さんがより一層声を低くしながら語る。
「そんなある日、一ノ瀬が結婚したい人がいるって言い出したの。誰かと付き合ってる話を聞いていなかったのもあって、あいた口が塞がらなかったっけ」
「まさか――」
「相手を問いただしたら10も年上の主婦で、アパートの大家だって言うじゃない。一ノ瀬が心底惚れた女が、そんなヤツとは思わなかったから、度肝を抜いたわよぉ。お家賃と一緒に、自分の体を提供していたのねって」
ジョッキから視線をあげて目の前を見たら、悲しげなまなざしとかち合う。副編集長さんは無言を貫く私に、淡々と説明を続ける。
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