純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

文字の大きさ
40 / 126
冴木学の場合

35

しおりを挟む
(ああ、音だけじゃなく映像で見たかったな。きっとこのときの学くん、すごくカッコよかったのがわかる!)

 抱きしめられる胸の中に体重を預けながら、瞳を閉じて続きに耳を傾ける。安心できたおかげと薬が効いてきたこともあり、頭痛がかなりよくなった。

『こうして美羽を両腕に抱きとめているので、その証拠を堀田さんにお見せすることができないのが、とても残念ですけどね』

『証拠、しょっ……証拠、とは?』

『堀田さんは知ってますか? 準強制わいせつ罪と強制わいせつ罪の違い』

 質問を質問で切り返した学くんの声は、いつもより少しだけトーンがあがっていて、その様子はまるで先生が子どもに問いかけをしているような口ぶりだった。

 訊ねられた堀田課長は『はいぃ? わいせつ? えっ? 違いが?』なんていう、しどろもどろに脈絡のない言葉を並べる。

『相手にお酒や睡眠薬などを飲ませて、正常な判断ができない状態にさせた上で、性的行為を行った場合などが、準強制わいせつ罪です。ちなみに刑法で懲役刑しか規定されていないので、他の犯罪と比べると非常に重たい罪なんですよ』

 非常に重たい罪というところでアクセントをおき、重罪だというのをアピールしてくれたことに、拍手したくなった。

『そ、そんなこと、いっ言われてもっ!』

『強制わいせつ罪はですね――』

『待ってくれ、僕はなにもしていない!』

 辺りが静まり返っているせいで、堀田課長のセリフが妙に響いた。

『……なにもしていない? 美羽がこんなになっているというのに?』

『それはきっと、彼女の体調が悪かったんじゃないかな。たぶん……』

 誤魔化すことに必死になっているのが、言葉の端々に表れていて、聞いてるだけで胸糞悪くなっていく。

『へぇ、体調が悪かった部下を、堀田さんはわざわざ飲みに誘ったんですか? それってパワハラになるんじゃないですか?』

(学くんが堀田課長を、どんどん追い詰めてくれてる。すごい!)

『パワハラなんて、そんなことしてない。小野寺さんが断れるように誘っている。そのこと、彼女に聞いてみてくれないかい?』

『聞きたくても、この状態だと無理ですよね。ちなみに美羽は、俺の上司とあの店で飲んだことがあるんですけど、中ジョッキを5杯飲んでるんですよ』

『え、ご、5杯も……』

 副編集長さんと飲んだことをきちんと伝えた関係で、なにをどれくらい飲んだのかを学くんは知っていた。話の内容はオフレコのものを除いて、すべて報告している。実際、飲みすぎ注意と叱られてしまった経緯があった。

 しかしながらあのときのことが、このタイミングで生かされるなんて驚くほかない。

「美羽から送られてきたLINEの時間を考えても、いいとこ2杯目にいくかいかないかの時間だと思いますが、実際どうだったのでしょうか?」

「実際、は……その」

「俺の職場に行って、じっくりお話を聞きましょうか。どうします? ここで素直に話してくれたら、やったことを見逃しますが」

 ここで一旦、ボイスレコーダーを停めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...