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冴木学の場合
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「学くんの職場に連れて行ったら、警察官じゃないことがバレるんじゃない?」
顔をあげて学くんを見つめると、いたずらっ子みたいな表情で私に笑いかける。
「連れて行ったら行ったで、副編集長の餌食にされるだろうから、ある意味警察よりも大変な目に遭うと思ったんだ。第二の上條良平にされる可能性大だよ」
冷ややかさを含んだ、意地の悪い微笑みを口元に浮かべた学くんは、弾んだ声で返事をした。
「だけど学くんの職業の濁し方が秀逸すぎて、吹き出すかと思った。同じ頭文字だからって、アルファベットを使うことをよく思いついたね」
「ああ、あれは偶然思いついただけ。しかも嘘はついてないわけだしさ。向こうが勝手に勘違いしてくれたら、ラッキーだよなぁって。後ろめたいことをしていなければ、ひっかかることないのに」
楽しげに語る学くんに、一番気になることをぶつけてみる。
「仕事は大丈夫だったの? 私を迎えに行くのに、無理してない?」
学くんの表情を見逃さないように、食い入るように見つめて、反応をしっかり確かめた。
「ちゃんと許可をとったよ」
私の視線に自分のまなざしをきちんと絡ませたことで、嘘をついていないのがわかったけれど。
「無理したんじゃない?」
装うことに長けている学くんに、もう一度訊ねた。
「ん~、どうかな……」
まぶたを伏せて斜め下を向き、私の視線を外して片手で首を擦りながら、微妙な様相になったのが決め手になった。
「学くん、ごめんね」
「本当に反省してる?」
「堀田課長の愚痴から解放されるために、一杯だけ付き合った行為がこんなことになるなんて、思いもしなかった。反省します」
謝罪を口にしたというのに、学くんはぷっと吹き出した。
「俺たち、似た者同士なのかな。さっきから謝ってばかりいる」
「本当だね。学くんだけじゃなくて、私も成長できているのかな」
「そんな頑張ってる美羽に、俺からプレゼントしていい?」
学くんは小さく笑った後に、私のおでこにキスしてから、シャツの胸ポケットから小さなものを取り出した。
「これは――」
大きなてのひらの上にのせられた、とても小さな指輪。それと学くんの顔を交互に眺める。
「本当は、給料三ヶ月分くらいするヤツをプレゼントしたかったんだけど、今の俺にはそれができなくて。予約の予約ってことで、受け取ってほしい」
「学くん……」
「美羽、結婚を前提に、俺と付き合ってくだしゃ、っ!」
言いかけた瞬間、学くんは空いた手で自分の頬をぺちんと叩く。
「悪い、やり直しする」
「うん、お願いします」
咳払いをした学くんに合わせて、私も背筋を伸ばしながら居ずまいを正した。
「俺は、えっと、俺は美羽と結婚するつもりで付き合ってる。自己判断になるけど、美羽が危ない目に遭いそうな気がしたら、仕事を投げ出してでも助けに行く覚悟ができてる」
「はい、私も同じ気持ちでいます」
熱のこもったまなざしを注がれながら、学くんの想いを聞いてるだけで、涙が出そうになって、返事をするのもやっとだった。
「それで、お願いがあって。なるべく危険なことに、首を突っ込まないでほしいです。俺の心臓がいくつあっても足りない。もちろん、俺自身も気をつける」
「わかりました」
「了承の証しに、指輪を嵌めてもいい?」
小さく頷くと、学くんは私の左手を掴み、薬指にそっと指輪を嵌めていく。ピンクゴールドの指輪には小さな小花がついていて、以前学くんがプレゼントしてくれたドライフラワーの花によく似ていた。
顔をあげて学くんを見つめると、いたずらっ子みたいな表情で私に笑いかける。
「連れて行ったら行ったで、副編集長の餌食にされるだろうから、ある意味警察よりも大変な目に遭うと思ったんだ。第二の上條良平にされる可能性大だよ」
冷ややかさを含んだ、意地の悪い微笑みを口元に浮かべた学くんは、弾んだ声で返事をした。
「だけど学くんの職業の濁し方が秀逸すぎて、吹き出すかと思った。同じ頭文字だからって、アルファベットを使うことをよく思いついたね」
「ああ、あれは偶然思いついただけ。しかも嘘はついてないわけだしさ。向こうが勝手に勘違いしてくれたら、ラッキーだよなぁって。後ろめたいことをしていなければ、ひっかかることないのに」
楽しげに語る学くんに、一番気になることをぶつけてみる。
「仕事は大丈夫だったの? 私を迎えに行くのに、無理してない?」
学くんの表情を見逃さないように、食い入るように見つめて、反応をしっかり確かめた。
「ちゃんと許可をとったよ」
私の視線に自分のまなざしをきちんと絡ませたことで、嘘をついていないのがわかったけれど。
「無理したんじゃない?」
装うことに長けている学くんに、もう一度訊ねた。
「ん~、どうかな……」
まぶたを伏せて斜め下を向き、私の視線を外して片手で首を擦りながら、微妙な様相になったのが決め手になった。
「学くん、ごめんね」
「本当に反省してる?」
「堀田課長の愚痴から解放されるために、一杯だけ付き合った行為がこんなことになるなんて、思いもしなかった。反省します」
謝罪を口にしたというのに、学くんはぷっと吹き出した。
「俺たち、似た者同士なのかな。さっきから謝ってばかりいる」
「本当だね。学くんだけじゃなくて、私も成長できているのかな」
「そんな頑張ってる美羽に、俺からプレゼントしていい?」
学くんは小さく笑った後に、私のおでこにキスしてから、シャツの胸ポケットから小さなものを取り出した。
「これは――」
大きなてのひらの上にのせられた、とても小さな指輪。それと学くんの顔を交互に眺める。
「本当は、給料三ヶ月分くらいするヤツをプレゼントしたかったんだけど、今の俺にはそれができなくて。予約の予約ってことで、受け取ってほしい」
「学くん……」
「美羽、結婚を前提に、俺と付き合ってくだしゃ、っ!」
言いかけた瞬間、学くんは空いた手で自分の頬をぺちんと叩く。
「悪い、やり直しする」
「うん、お願いします」
咳払いをした学くんに合わせて、私も背筋を伸ばしながら居ずまいを正した。
「俺は、えっと、俺は美羽と結婚するつもりで付き合ってる。自己判断になるけど、美羽が危ない目に遭いそうな気がしたら、仕事を投げ出してでも助けに行く覚悟ができてる」
「はい、私も同じ気持ちでいます」
熱のこもったまなざしを注がれながら、学くんの想いを聞いてるだけで、涙が出そうになって、返事をするのもやっとだった。
「それで、お願いがあって。なるべく危険なことに、首を突っ込まないでほしいです。俺の心臓がいくつあっても足りない。もちろん、俺自身も気をつける」
「わかりました」
「了承の証しに、指輪を嵌めてもいい?」
小さく頷くと、学くんは私の左手を掴み、薬指にそっと指輪を嵌めていく。ピンクゴールドの指輪には小さな小花がついていて、以前学くんがプレゼントしてくれたドライフラワーの花によく似ていた。
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