純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一5

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 肩を竦めて、やれやれと呆れたポーズを見せつけた。おまえは臥龍岡に騙されてるんだぞというのを、俺なりにアピールしたつもりである。

(しかしなんだって臥龍岡は、雲母編集長をうまいことそそのかし、俺を好きだと思わせるなんて、信じられないことをしやがったんだ?)

 タチの悪い嫌がらせ――違う意味で、背後から刺された気分。編集部でコンビを組んでいる以上、恨まれる理由がありすぎて、お手上げ状態だった。

「伊達編集長!」

「へっ? な、なんでしょう?」

 食い入るようなまなざしを向けられたせいで、思わず後退りしてしまった。しかしながら狭いエレベーター内、一瞬で背中が壁に触れる。

「伊達編集長はお付き合いしている女性、ならびに男性はいらっしゃるのですか?」

「女性はともかく、男性ってどうして」

「誰とも噂になったことがないので、もしかしたらそうなのではないかという噂が、社内でまことしやかに流れてます」

 すごいことを口走りながら、後退りした距離をゼロにした雲母編集長。下から見上げる迫力は、すごいものがある。

「雲母編集長も、社会部の編集長としての仕事量がわかっているでしょう? 恋人を作って遊ぶ、そんな暇なんてない」

 その迫力に気圧された俺は、たどたどしい口調で言い訳めいたことを喋るしかない。しかも注がれる雲母編集長の視線を外したら、もれなく隙を見せることになり、なにかされるかもしれなくて、ずっとヒヤヒヤしっぱなしだ。

「本当に仕事のできる人は、自分の時間をきちんと確保することのできる人間だと、臥龍岡先輩は言ってました。伊達編集長はそれができるから、あまり残業せずに帰宅してるんだって」

「野郎……余計なことを言いやがって」

 一瞬だけ顔を横に逸らし、チッと舌打ちした。絶妙なタイミングで臥龍岡の名前が出てくることに、妙な違和感を覚える。

「それで、誰かと付き合ってるんですか?」

「そんなのいませんよ。職場と家の往復だけで精一杯です」

 嘘を言ってないかを確かめるように、下からまじまじと見つめられる、複雑な俺の心境を考えてほしい。そして早くエレベーターが起動することを、神様と仏様に激しく祈った!

「雲母編集長が俺を憧れたことは、すごくわかりました。でもそれは、好意と違うんじゃないかと思います!」

 このままでは取って食われる恐れを感じ、臥龍岡に洗脳されている気持ちを目覚めさせるべく、説得を試みることにした。

「どうすれば、私の気持ちが伝わるのでしょうか」

 雲母編集長はそう言うなり、胸に抱きしめていたファイル類を丁寧な所作で足元に置き、いきなり俺に抱きついた。なされたことに慌てふためいた俺は、両腕をバンザイして、彼女に触れないように施す。

「伊達編集長、私のドキドキ伝わりませんか?」

「なにやってんですか! 放してください、これは逆セクハラですよ!」

「すごいドキドキしてますね。伊達編集長の早い鼓動が、耳に聞こえます」

 嬉しそうな顔で胸元に顔を埋められても、違う意味でドキドキするっちゅーの!

「こんな場所で抱きつかれたら、誰だってドキドキしますから!」

(どうして臥龍岡信者は、揃いも揃って暴走するんだ! 異性だと、行動をとめるのにも気を遣う)

「伊達編集長、私の気持ちをさりげなくセクハラ扱いするなんて、酷くないですか?」

「酷いことしてるのは、雲母編集長です。これじゃあマトモに話ができません、お願いしますから放してください」

 エレベーターの中で逃げる場所なんてないことがわかっているのに、無駄に首を動かしてしまう。追い詰められた現状が久しぶりすぎて、うまく対処できない。

「じゃあ伊達編集長が、私の悩みを聞いてくれたら放してあげます」

「な、悩み?」

 ひょんな提案に首の動きを止めて、胸元にいる雲母編集長を見下ろした。

「編集長としての悩みです」

「仕事関連なら喜んで聞きますよ。なので放してください」

 恋の悩みなんて言われても、当然対処できなかったので、これには正直助かった。

 俺の言葉を聞いた雲母編集長は、すんなり腕を外して数歩ほど退く。
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