純愛カタルシス💞純愛クライシス

相沢蒼依

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番外編

文藝冬秋編集長 伊達誠一8

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♡♡♡

 伊達編集長に担がれながら、周囲に視線を注いでみる。就業時間はとっくにすぎているので、社内をうろつく社員はあまりいないのだけれど。

「伊達編集長、降ろしてくださいっ」

 私がそう言ったのに、エレベーターに向かう足はとまる気配すらない。

「伊達編集長!」

「降ろさない理由その1、雲母きらら編集長は連日残業続きで疲れてる。その2は俺よりも身長が低いので、歩くのが遅い。故に時間がもったいないから、こうして運んでる」

「せめて、お姫様抱っこがいいかと。見た目の関係もありますし」

 肩に担がれた状態なので、伊達編集長がどんな顔をしているのか、まったくわからないけど、周囲の景色から、エレベーターホールに着いたのがわかった。

「雲母編集長を肩に担ぐもうひとつの理由は、こうして片手が空いて自由になる。エレベーターに乗ることや、扉の開閉だってできるだろ。横抱きにしたら、それができないから、無駄に時間がかかってしょうがない。俺としては一秒でも早く、雲母編集長を自宅に送りたい」

(自身の合理主義を展開しながらも、最後に私の体をいたわることを言うあたり、伊達編集長の優しさを表しているみたい。と思っておくことにしておくか……)

 エレベーターホールに響いた音を耳にしたら、颯爽と中に乗り込み、スムーズに操作してエレベーターを動かす。次にエレベーターの扉が開いたのは、地下駐車場だった。

 伊達編集長は易々と私を抱えたまま、まったくふらつくことなく歩き、黒い軽自動車に近づくと助手席のドアを開け、私をそこに座らせた。

「ありがとうございます……」

「強引に連れ出して悪かったな」

 済まなそうな表情を浮かべながら、私の頭を大きな手でくしゃくしゃと軽く撫でて素早く身を引き、車のドアを閉じた。

 突然なされたことに、最初は呆然としていたけれど、撫でられた感触が消えかけたら、ブワッと頬が赤くなった。

(んんんんっ! 大好きな伊達編集長に抱き抱えられたあとに、担がれただけでもすごい接触だというのに、それを超える頭ぽんぽんにも近い、優しく撫でるという行為! 加減がわからないから軽くしたのか、それともやり慣れないことをしたから軽くなったのか――)

 頬を両手で押さえて俯く私の隣に、伊達編集長が座った。ベンチシートになってる車なので、その距離感の近いこと! 軽自動車バンザイ!

「雲母編集長、ナビに自宅の住所を打ち込んで」

 エンジンをスムーズにかけながら話しかけられたことで、このあと起こることを勝手に妄想していたことが、見事に空中分解した。

「雲母編集長?」

 狭い車内で端正な顔が目の前に近づけられた衝撃は、声にならない声をあげることに繋がった。

「ひゃぁっ」

「相当疲れてるみたいだな、住所を口頭で教えてくれ。俺が打ち込む」

 見惚れてしまう顔が遠のきかけたのがわかった刹那、頬を押さえていた両手が伊達編集長の首を捕まえた。本当に衝動的な行為だった。

「どうした?」

 捕らえられたことに驚いたのだろう。伊達編集長は抵抗することなく動きをとめて、まじまじと目の前にある顔を見つめた。

「あ、ぁああのですね、伊達編集長こそ疲れませんでしたか? 私、そこそこ体重ありますし」

 ところどころ声をひっくり返して問いかけたことを疑問にも思わない顔つきが、伊達編集長の瞳に表れる。優しく細めながら口角をあげて、微笑まれてしまった。

 それを間近で見たせいで、胸が軋むように痛んだ。この人が大好きだって示すように、ぎゅっと締めつけられた痛みが、腕の力に変換されてしまう。引き寄せた力で、ほんの少しだけ伊達編集長の顔が近づいた。

「ビックリするくらいに軽すぎて、ちゃんと飯を食ってるのか心配するレベルだったけど」

「たくさん食べてます。どんぶり茶碗で、いつもご飯を食べてますよ!」

「どんぶり茶碗って、なんかすげぇな」

 顔をくしゃっと崩して笑い出すその表情も見逃したくなくて、じっと見つめてしまった。
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