109 / 126
番外編
文藝冬秋編集長 伊達誠一9
しおりを挟む
(伊達編集長は、いろんな顔をもってるんだな。その中でもやっぱり、笑ってる顔が一番素敵かも)
「なぁ付き合うって話したの、覚えてる?」
「へっ?」
「やっぱりか。とりあえず――」
伊達編集長は大きな手で私の前髪に触れて、額をあらわにさせると、そこに唇をゆっくり押しつけた。額の皮膚から、伊達編集長の唇の柔らかい感触が直に伝わり、あまりの衝撃に首を掴んでいた両手を、意味なく空中で上下させた。
「これからよろしくということで、住所を教えてくれ」
ゴンッ!
端正な顔から距離をとろうとしたら、窓ガラスに頭を強打させてしまった。
「おいおい、ドアウィンドウ大丈夫かよ?」
なぜか私の心配よりも、車の心配をする。と見せかけて、打ちつけた私の頭にきちんと手を当てて撫でてくれた。
「伊達編集長~っ……」
(どうしよう。この人、本当に一筋縄ではいかない。心が翻弄されっぱなしで、いつもの自分じゃいられない!)
「いきなり困らせて悪かったな。とりあえずふたりきりのときは、編集長呼びはやめるか。臥龍岡になんて呼ばれてるんだ?」
訊ねながらも、ずっと私の頭を優しく撫でてくれる。
「さっちゃんです」
「ふーん。だったら俺は、サヨって呼ぶことにする」
テキパキと物事を決めていくスピードが速すぎて、頭がついていかない。
「それでサヨ、住所を教えてくれ」
伊達編集長は、痛めた私の頭を撫でていた手の人差し指でリズムをとるように頭をぽんぽんしてから、やんわりと外した。そしてその手でナビを手早く操作し、ふたたび私を見つめる。
「サヨ、住所!」
「は、はい! あのですね――」
背筋を伸ばして住所を教えると、伊達編集長は手際よくそれを打ち込み、案内を開始すると同時にシートベルトを締めて、車が出発した。私も慌ててシートベルトを締める。
「それでサヨ、俺のことはなんて呼ぶんだ?」
ワクワクしてる様子が、なんとなく雰囲気で伝わった。それに応えるべく、呼びたい名前を口に出せばいいのだけれど。
「そ、それじゃあ伊達さんで……」
「本当に、それでいいんだな?」
「いいです、それで」
とてもじゃないけど、いろんな意味で恐れ多くて、名前呼びなんてできない!
「顔が思いっきり不満そうだけど?」
「そっ、そんなこと!」
「出てる出てる。名前で呼んでみたいって、顔に書いてある」
「伊達編集長は車を運転しているのに、私の顔なんてまじまじと見ることができないじゃないですか」
それを確認するように隣を見たら、チラッと一瞬だけ横目で私を見下ろす。自信満々な感じが、まなざしに表れているのを悟った。
「見えないと思うだろ? でもな、サイドミラーにばっちり映っているとしたら?」
その言葉で慌てて、助手席側のサイドミラーに視線を注いだ。すると本当に、私の顔が映っているという!
「あ……」
「サヨ、遠慮することはない」
短いセリフなのに、やけに耳に残った。とても優しい響きに導かれるように、彼の名前を呟く。
「誠一、さん」
「ハハッ、よくできました」
目の前の信号がタイミングよく赤に変わり、伊達編集長の大きな手が、ふたたび私の頭を撫でる。
「サヨはよくやってると思う。会社の問題児たちをまとめあげるだけでも骨が折れるのに、苦労を感じさせずに頑張ってるよな」
「あ、ありがとうございます……」
「しかも素直。だから簡単に騙される!」
語尾で私の額を軽くデコピンした伊達編集長の左手が、ハンドルを握った。信号が青に変わり、車がゆっくり走り出す。
「騙される?」
デコピンされてた額を撫でながら訊ねた私に、伊達編集長のやけに明るい声が続く。
「サイドミラーにサヨの顔が映っていたら、サイドミラーの意味がないだろ?」
「あっ!」
言われてみたら、確かにそうだった。車内にいる私がミラーに映っていたら、左右の安全確認ができない。
「つまり俺の位置からは、サヨの顔は映っていないというわけ。きちんと左外側の景色が映ってる」
「しっかり騙されました」
普段車を運転していないことが、これでバレてしまっただろう。免許を持っているけど、ペーパードライバーだったりする。
「それと今日編集部に俺が乗り込んで、サヨを拉致ったことも作戦だからな」
「え? あれが作戦?」
またまた明かされるタネに、疑問符が頭の中に浮かびまくった。
「文藝冬秋のこわ~い編集長が自分たちの上司を叱る姿は、めちゃくちゃ奇異に映っているハズなんだ。やっぱり若い女だから弱いよなって。だから間違いなく明日から部下たちは、サヨを見下した態度で接するだろうな」
そのことを予想しながら、私を攫った伊達編集長の横顔を、食い入るように見つめてしまった。大好きなこの人の期待に応えたいと、自然に思える強い自分がいる。
「なぁ付き合うって話したの、覚えてる?」
「へっ?」
「やっぱりか。とりあえず――」
伊達編集長は大きな手で私の前髪に触れて、額をあらわにさせると、そこに唇をゆっくり押しつけた。額の皮膚から、伊達編集長の唇の柔らかい感触が直に伝わり、あまりの衝撃に首を掴んでいた両手を、意味なく空中で上下させた。
「これからよろしくということで、住所を教えてくれ」
ゴンッ!
端正な顔から距離をとろうとしたら、窓ガラスに頭を強打させてしまった。
「おいおい、ドアウィンドウ大丈夫かよ?」
なぜか私の心配よりも、車の心配をする。と見せかけて、打ちつけた私の頭にきちんと手を当てて撫でてくれた。
「伊達編集長~っ……」
(どうしよう。この人、本当に一筋縄ではいかない。心が翻弄されっぱなしで、いつもの自分じゃいられない!)
「いきなり困らせて悪かったな。とりあえずふたりきりのときは、編集長呼びはやめるか。臥龍岡になんて呼ばれてるんだ?」
訊ねながらも、ずっと私の頭を優しく撫でてくれる。
「さっちゃんです」
「ふーん。だったら俺は、サヨって呼ぶことにする」
テキパキと物事を決めていくスピードが速すぎて、頭がついていかない。
「それでサヨ、住所を教えてくれ」
伊達編集長は、痛めた私の頭を撫でていた手の人差し指でリズムをとるように頭をぽんぽんしてから、やんわりと外した。そしてその手でナビを手早く操作し、ふたたび私を見つめる。
「サヨ、住所!」
「は、はい! あのですね――」
背筋を伸ばして住所を教えると、伊達編集長は手際よくそれを打ち込み、案内を開始すると同時にシートベルトを締めて、車が出発した。私も慌ててシートベルトを締める。
「それでサヨ、俺のことはなんて呼ぶんだ?」
ワクワクしてる様子が、なんとなく雰囲気で伝わった。それに応えるべく、呼びたい名前を口に出せばいいのだけれど。
「そ、それじゃあ伊達さんで……」
「本当に、それでいいんだな?」
「いいです、それで」
とてもじゃないけど、いろんな意味で恐れ多くて、名前呼びなんてできない!
「顔が思いっきり不満そうだけど?」
「そっ、そんなこと!」
「出てる出てる。名前で呼んでみたいって、顔に書いてある」
「伊達編集長は車を運転しているのに、私の顔なんてまじまじと見ることができないじゃないですか」
それを確認するように隣を見たら、チラッと一瞬だけ横目で私を見下ろす。自信満々な感じが、まなざしに表れているのを悟った。
「見えないと思うだろ? でもな、サイドミラーにばっちり映っているとしたら?」
その言葉で慌てて、助手席側のサイドミラーに視線を注いだ。すると本当に、私の顔が映っているという!
「あ……」
「サヨ、遠慮することはない」
短いセリフなのに、やけに耳に残った。とても優しい響きに導かれるように、彼の名前を呟く。
「誠一、さん」
「ハハッ、よくできました」
目の前の信号がタイミングよく赤に変わり、伊達編集長の大きな手が、ふたたび私の頭を撫でる。
「サヨはよくやってると思う。会社の問題児たちをまとめあげるだけでも骨が折れるのに、苦労を感じさせずに頑張ってるよな」
「あ、ありがとうございます……」
「しかも素直。だから簡単に騙される!」
語尾で私の額を軽くデコピンした伊達編集長の左手が、ハンドルを握った。信号が青に変わり、車がゆっくり走り出す。
「騙される?」
デコピンされてた額を撫でながら訊ねた私に、伊達編集長のやけに明るい声が続く。
「サイドミラーにサヨの顔が映っていたら、サイドミラーの意味がないだろ?」
「あっ!」
言われてみたら、確かにそうだった。車内にいる私がミラーに映っていたら、左右の安全確認ができない。
「つまり俺の位置からは、サヨの顔は映っていないというわけ。きちんと左外側の景色が映ってる」
「しっかり騙されました」
普段車を運転していないことが、これでバレてしまっただろう。免許を持っているけど、ペーパードライバーだったりする。
「それと今日編集部に俺が乗り込んで、サヨを拉致ったことも作戦だからな」
「え? あれが作戦?」
またまた明かされるタネに、疑問符が頭の中に浮かびまくった。
「文藝冬秋のこわ~い編集長が自分たちの上司を叱る姿は、めちゃくちゃ奇異に映っているハズなんだ。やっぱり若い女だから弱いよなって。だから間違いなく明日から部下たちは、サヨを見下した態度で接するだろうな」
そのことを予想しながら、私を攫った伊達編集長の横顔を、食い入るように見つめてしまった。大好きなこの人の期待に応えたいと、自然に思える強い自分がいる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる