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白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
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すぐ傍にいるのにどうしても落ち着かなくて、克巳さんのスーツの袖を掴んでしまった。
「ねぇ克巳さん、どうしよう。胸が苦しいくらいにドキドキする」
「俺が愛の告白をしたときと比べて、どっちがドキドキするだろうか?」
元村との大差ある得票数を目の当たりにして、最初のうちは暗い顔をしていた克巳さん。だけど今は、こんな冗談が言えるくらいに明るくなった。
落ち着かせるためなのか、スーツを掴んでいた俺の右手を手に取り、両手で撫でさすってくれる。白けた顔をしたはじめが、俺たちの様子を見ながら口を開いた。
「僕が考えた予想ほどではないですけど、いい線いってますよね」
改めて3人そろって並んで、ホワイトボードに記入された数字を見やる。
葩御 8100 25800 59600 83000 114500
元村16500 42000 70500 88000 115600
背後にいるスタッフも、歓喜を抑えながら最終結果を待っていた。
「はじめ、さっきの克巳さんの話だけど――」
「さっきの話とは?」
「俺の補佐をしないかってヤツ」
言いながら二階堂の横にいる克巳さんに向かって、誘うようなウインクをした。それを合図に、黙ったまま頷く。
「陵さん、その話はお断りしたはずですが」
「俺はこの選挙に勝って、国会議員になる。目指すところは、自分の考えた政治をするのに手っ取り早い、内閣総理大臣になることなんだ」
克巳さん以外に、自分の夢を語ったことはなかった。そんな俺の夢を聞いたはじめは驚きを隠せなかったのか、目を見開いたまま、ズリ下がっていないメガネを何度も押し上げる。
「二階堂、陵に返事をしてやってはくれないか。俺の誘いは断ったが、本人からの依頼だ。どうする?」
焦れた克巳さんが、二階堂に返答を促してくれた。
「陵さんが内閣総理大臣……。そんなの――」
「はじめの言いたいことはわかってる。そんなの、無理な話だって言うことだよね」
思慮を巡らせているのか、目を泳がせた言葉数少ない二階堂に、ズバリと突きつけてやった。
「陵さん。参ったな……」
せわしなく触れていたメガネを外し、両目をつぶりながら目頭を押さえる。相変わらず、考え事をしているらしい。二階堂はなにかを深く考えるときに、よくこの仕草をしていた。
そんな彼の考えを覆すことを言えるとは思えなかったが、やろうとしていることを伝えるべく、優しく語りかけた。
「国会議員になったら、まずは人脈を作るところからスタートしなきゃいけないと思ってる。芸能界でもそうしていたから」
「……そうですか」
乾いた声の返事に戸惑ったけど、負けちゃいられないと両手をぎゅっと握りしめて奮起する。
「選挙プランナーとして、あちこちで仕事をしてるはじめと組めば、幅広い政治家と繋がることができるよね」
「秘書さんと同じ考えで、僕を雇いたいと言ってるのでしょうか」
「うん。そこがはじめの魅力的なところだし、今回一緒に仕事をして、有能な人材だということがわかっているからね」
「僕の人脈を有効活用したいと仰いますが、国会に行ってまで仕事をするメリットを感じません」
ぴしゃりと言いきった彼を説得する言葉を、いろいろ考えてみたものの、うまい答えを導き出すことができなかった。
「陵……」
傍にいた克巳さんが、首を横に振りながら俺を呼ぶ。諦めに似たその表情で、なにが言いたいのかわかった。だけど、簡単にあきらめるわけにはいかない。自分の夢を実現するために、はじめはどうしても必要な人物だから尚更だ。
思いついたことを、ふたりに向かって静かに語りかける。
「昔の俺だったら、利用するに値する人間を見繕って、甘い蜜を吸わせて……。つまり自分の躰を餌にして、自分の思うどおりにしてきた。そういう取引は最終的には感情が絡んで、うまくいかなくなることを学んだよ。しちゃいけないことは、絶対にしない。失敗したくないからね」
「確かに。建設的とは言えません」
「はじめ、未来(さき)のことは誰にだってわからない。だけど言えることがあるんだ」
ホワイトボードに書かれている、最初の得票数に指を差してから、10分前に聞かされた数字へと移動させる。
「ひとりでは無理なことも、俺を信じてくれる人と仕事をしたら、成し得ることができる。だからこそ総理大臣の椅子に、一歩ずつ近づくことができるんだよ。国会に向かって、一緒に殴り込みに行かないか?」
「陵さん?」
「てっぺんで仕事をする格好いいはじめを、俺に見せてほしい。ダメかな?」
とても安易な誘い文句だと承知していた。頭のいい彼にそれが通じるとは思えなかったけれど、実現したい気持ちと一緒に告げてみた。
すぐ傍にいるのにどうしても落ち着かなくて、克巳さんのスーツの袖を掴んでしまった。
「ねぇ克巳さん、どうしよう。胸が苦しいくらいにドキドキする」
「俺が愛の告白をしたときと比べて、どっちがドキドキするだろうか?」
元村との大差ある得票数を目の当たりにして、最初のうちは暗い顔をしていた克巳さん。だけど今は、こんな冗談が言えるくらいに明るくなった。
落ち着かせるためなのか、スーツを掴んでいた俺の右手を手に取り、両手で撫でさすってくれる。白けた顔をしたはじめが、俺たちの様子を見ながら口を開いた。
「僕が考えた予想ほどではないですけど、いい線いってますよね」
改めて3人そろって並んで、ホワイトボードに記入された数字を見やる。
葩御 8100 25800 59600 83000 114500
元村16500 42000 70500 88000 115600
背後にいるスタッフも、歓喜を抑えながら最終結果を待っていた。
「はじめ、さっきの克巳さんの話だけど――」
「さっきの話とは?」
「俺の補佐をしないかってヤツ」
言いながら二階堂の横にいる克巳さんに向かって、誘うようなウインクをした。それを合図に、黙ったまま頷く。
「陵さん、その話はお断りしたはずですが」
「俺はこの選挙に勝って、国会議員になる。目指すところは、自分の考えた政治をするのに手っ取り早い、内閣総理大臣になることなんだ」
克巳さん以外に、自分の夢を語ったことはなかった。そんな俺の夢を聞いたはじめは驚きを隠せなかったのか、目を見開いたまま、ズリ下がっていないメガネを何度も押し上げる。
「二階堂、陵に返事をしてやってはくれないか。俺の誘いは断ったが、本人からの依頼だ。どうする?」
焦れた克巳さんが、二階堂に返答を促してくれた。
「陵さんが内閣総理大臣……。そんなの――」
「はじめの言いたいことはわかってる。そんなの、無理な話だって言うことだよね」
思慮を巡らせているのか、目を泳がせた言葉数少ない二階堂に、ズバリと突きつけてやった。
「陵さん。参ったな……」
せわしなく触れていたメガネを外し、両目をつぶりながら目頭を押さえる。相変わらず、考え事をしているらしい。二階堂はなにかを深く考えるときに、よくこの仕草をしていた。
そんな彼の考えを覆すことを言えるとは思えなかったが、やろうとしていることを伝えるべく、優しく語りかけた。
「国会議員になったら、まずは人脈を作るところからスタートしなきゃいけないと思ってる。芸能界でもそうしていたから」
「……そうですか」
乾いた声の返事に戸惑ったけど、負けちゃいられないと両手をぎゅっと握りしめて奮起する。
「選挙プランナーとして、あちこちで仕事をしてるはじめと組めば、幅広い政治家と繋がることができるよね」
「秘書さんと同じ考えで、僕を雇いたいと言ってるのでしょうか」
「うん。そこがはじめの魅力的なところだし、今回一緒に仕事をして、有能な人材だということがわかっているからね」
「僕の人脈を有効活用したいと仰いますが、国会に行ってまで仕事をするメリットを感じません」
ぴしゃりと言いきった彼を説得する言葉を、いろいろ考えてみたものの、うまい答えを導き出すことができなかった。
「陵……」
傍にいた克巳さんが、首を横に振りながら俺を呼ぶ。諦めに似たその表情で、なにが言いたいのかわかった。だけど、簡単にあきらめるわけにはいかない。自分の夢を実現するために、はじめはどうしても必要な人物だから尚更だ。
思いついたことを、ふたりに向かって静かに語りかける。
「昔の俺だったら、利用するに値する人間を見繕って、甘い蜜を吸わせて……。つまり自分の躰を餌にして、自分の思うどおりにしてきた。そういう取引は最終的には感情が絡んで、うまくいかなくなることを学んだよ。しちゃいけないことは、絶対にしない。失敗したくないからね」
「確かに。建設的とは言えません」
「はじめ、未来(さき)のことは誰にだってわからない。だけど言えることがあるんだ」
ホワイトボードに書かれている、最初の得票数に指を差してから、10分前に聞かされた数字へと移動させる。
「ひとりでは無理なことも、俺を信じてくれる人と仕事をしたら、成し得ることができる。だからこそ総理大臣の椅子に、一歩ずつ近づくことができるんだよ。国会に向かって、一緒に殴り込みに行かないか?」
「陵さん?」
「てっぺんで仕事をする格好いいはじめを、俺に見せてほしい。ダメかな?」
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