欲しがり男はこの世のすべてを所望する!

相沢蒼依

文字の大きさ
73 / 83
白熱する選挙戦に、この想いを込めて――

24

しおりを挟む
***

 すぐ傍にいるのにどうしても落ち着かなくて、克巳さんのスーツの袖を掴んでしまった。

「ねぇ克巳さん、どうしよう。胸が苦しいくらいにドキドキする」
「俺が愛の告白をしたときと比べて、どっちがドキドキするだろうか?」

 元村との大差ある得票数を目の当たりにして、最初のうちは暗い顔をしていた克巳さん。だけど今は、こんな冗談が言えるくらいに明るくなった。

 落ち着かせるためなのか、スーツを掴んでいた俺の右手を手に取り、両手で撫でさすってくれる。白けた顔をしたはじめが、俺たちの様子を見ながら口を開いた。

「僕が考えた予想ほどではないですけど、いい線いってますよね」

 改めて3人そろって並んで、ホワイトボードに記入された数字を見やる。

葩御 8100 25800 59600 83000 114500
元村16500 42000 70500 88000 115600

 背後にいるスタッフも、歓喜を抑えながら最終結果を待っていた。

「はじめ、さっきの克巳さんの話だけど――」
「さっきの話とは?」
「俺の補佐をしないかってヤツ」

 言いながら二階堂の横にいる克巳さんに向かって、誘うようなウインクをした。それを合図に、黙ったまま頷く。

「陵さん、その話はお断りしたはずですが」
「俺はこの選挙に勝って、国会議員になる。目指すところは、自分の考えた政治をするのに手っ取り早い、内閣総理大臣になることなんだ」

 克巳さん以外に、自分の夢を語ったことはなかった。そんな俺の夢を聞いたはじめは驚きを隠せなかったのか、目を見開いたまま、ズリ下がっていないメガネを何度も押し上げる。

「二階堂、陵に返事をしてやってはくれないか。俺の誘いは断ったが、本人からの依頼だ。どうする?」

 焦れた克巳さんが、二階堂に返答を促してくれた。

「陵さんが内閣総理大臣……。そんなの――」
「はじめの言いたいことはわかってる。そんなの、無理な話だって言うことだよね」

 思慮を巡らせているのか、目を泳がせた言葉数少ない二階堂に、ズバリと突きつけてやった。

「陵さん。参ったな……」

 せわしなく触れていたメガネを外し、両目をつぶりながら目頭を押さえる。相変わらず、考え事をしているらしい。二階堂はなにかを深く考えるときに、よくこの仕草をしていた。

 そんな彼の考えを覆すことを言えるとは思えなかったが、やろうとしていることを伝えるべく、優しく語りかけた。

「国会議員になったら、まずは人脈を作るところからスタートしなきゃいけないと思ってる。芸能界でもそうしていたから」
「……そうですか」

 乾いた声の返事に戸惑ったけど、負けちゃいられないと両手をぎゅっと握りしめて奮起する。

「選挙プランナーとして、あちこちで仕事をしてるはじめと組めば、幅広い政治家と繋がることができるよね」
「秘書さんと同じ考えで、僕を雇いたいと言ってるのでしょうか」
「うん。そこがはじめの魅力的なところだし、今回一緒に仕事をして、有能な人材だということがわかっているからね」
「僕の人脈を有効活用したいと仰いますが、国会に行ってまで仕事をするメリットを感じません」

 ぴしゃりと言いきった彼を説得する言葉を、いろいろ考えてみたものの、うまい答えを導き出すことができなかった。

「陵……」

 傍にいた克巳さんが、首を横に振りながら俺を呼ぶ。諦めに似たその表情で、なにが言いたいのかわかった。だけど、簡単にあきらめるわけにはいかない。自分の夢を実現するために、はじめはどうしても必要な人物だから尚更だ。

 思いついたことを、ふたりに向かって静かに語りかける。

「昔の俺だったら、利用するに値する人間を見繕って、甘い蜜を吸わせて……。つまり自分の躰を餌にして、自分の思うどおりにしてきた。そういう取引は最終的には感情が絡んで、うまくいかなくなることを学んだよ。しちゃいけないことは、絶対にしない。失敗したくないからね」
「確かに。建設的とは言えません」
「はじめ、未来(さき)のことは誰にだってわからない。だけど言えることがあるんだ」

 ホワイトボードに書かれている、最初の得票数に指を差してから、10分前に聞かされた数字へと移動させる。

「ひとりでは無理なことも、俺を信じてくれる人と仕事をしたら、成し得ることができる。だからこそ総理大臣の椅子に、一歩ずつ近づくことができるんだよ。国会に向かって、一緒に殴り込みに行かないか?」
「陵さん?」
「てっぺんで仕事をする格好いいはじめを、俺に見せてほしい。ダメかな?」

 とても安易な誘い文句だと承知していた。頭のいい彼にそれが通じるとは思えなかったけれど、実現したい気持ちと一緒に告げてみた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

ひとりも、ふたりも

鈴川真白
BL
ひとりで落ち着く時間も、ふたりでいる楽しい時間も両方ほしい 1人を謳歌するマイペース × 1人になりたいエセ陽キャ

処理中です...