74 / 83
白熱する選挙戦に、この想いを込めて――
25
しおりを挟む
「はじめ、俺はね――」
「陵さん、本当に困るんです。……ちょっと待ってください」
困惑に満ち溢れた顔のはじめが、目の前に手をかざして俺の二の句を止めた。
「秘書さん、もう少し陵さんを教育していただかないと困ります」
「二階堂?」
俺との会話を中断して、克巳さんをいきなり呼んだはじめに、俺だけじゃなくスタッフのみんなで注目した。
「この間おこなった、街頭での謝罪会見みたいな感じで説得されるならまだしも、情熱的な視線で見つめられながら、あんなふうに誘われたりしたら、誰だって断れないと言ってるんです」
「ああ、確かに。陵は無自覚な18禁だからね」
「ちょっと、なんだよそれ。俺ってば、そんなキャラじゃないし」
微苦笑する克巳さんを前にして、愕然としながら周りを見渡すと、スタッフそろって何度も首を縦に振る。
「マジ……。俺は無自覚な18禁だったんだ」
じと目で克巳さんを見上げたら、すっと視線を逸らして隣にいるはじめに向かって、意味ありげに微笑む。すると二階堂は、その表情に応えるように笑いかけつつ、俺を見ながら口を開いた。
「陵さんが無自覚だからこそ、有効に利くんだと思います。ですが公の場では、絶対に使わないでくださいね。間違いなく、スキャンダルな問題に発展しますので」
クスクス笑いだしたはじめにつられるように、スタッフも笑いだした瞬間、テレビからニュース速報の音が流れた。
慌てて背後にあるテレビ画面に食らいつくと、開票速報の最終結果が表示されていた。
なかなか差の縮まらない開票の行方のせいで、暗い雰囲気に耐えられなくなった誰かが入れっぱなしにしていた、某テレビ局のバラエティー番組。賑やかな場面とは相反する無機質なその文字は、しっかりと勝敗を表していた。
「それでは僕はこれから、次の選挙に出る候補者のもとに向かいます」
「もう行くのか。せめて――」
手身近に持っていた物を、無造作にアタッシェケースに突っ込むはじめに、克巳さんが慌てて声をかけた。
「秘書さんの言いたいことくらいわかります。けれど僕自身は現在進行形で抱えている仕事が、山ほどあるんですよ。それをとっととやっつけたあとに、陵さんのもとに馳せ参じます。国会議事堂の中で人一倍映えるであろう、葩御議員の補佐をするために」
柔らかく微笑んだはじめの視線の先には、誰かが切り替えたテレビ画面があった。そこには俺の名前と当選の二文字が、大きく表示されていた。
当選 はなお りょう 127412
元村 和孝 127248
「はじめ、俺の補佐をしてくれるの!?」
予想していなかった言葉に、弾んだ声で訊ねてしまった。
当選の喜びと、はじめが補佐をしてくれるという事実で二倍喜んだ俺に、これまで働いてくれたスタッフ全員が集まって、おめでとうございますを連呼する。
「最後の最後まで、目が離せないハラハラな選挙をする議員なんですから、今後も間違いなくなにかあるに決まってます。僕がしっかり目を光らせて、スキャンダラスな問題を潰さないと駄目でしょう?」
はじめは労うように、克巳さんの肩を叩いてから事務所の扉を開け放ち、颯爽と出て行ってしまった。入れ替わって、外で待機していた報道陣がなだれ込んでくる。
「陵の夢が叶ってしまったせいで、この忙しさをやり過ごしながら、議員宿舎に近い物件探しをしなければいけないとは――」
出て行った背中を見送ってぼやく克巳さんに駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。すると周りからカメラのフラッシュがバシバシ焚かれ、俺たちを撮影しまくる。
「こらこら、駄目だろ陵。今の写真は、使わないでいただきたい!」
抱きついた俺を引き剥がしながら鋭い視線を周囲に飛ばしつつ、語勢を強くした克巳さんに、カメラを向けていた報道陣が一斉に距離をとった。
俺を守るように立ちはだかる克巳さんの雰囲気から、なんとも言えない殺気が漂っていた。
こんなふうに守ってくれるから、無意識のうちに頼ってしまう――有能な秘書として、そして最愛の恋人として接してくれる彼の気持ちに報いたいと、思わずにはいられない。
「二階堂が戻るまでに俺が包囲網をしっかり張って、君を守るしかないからな。これ以上、アイツに叱られたくないし」
「克巳さんってば今から気張りすぎて、ダウンしないでよ」
「俺に抱きついていいのは、あと3日はかかると思ったほうがいい。挨拶回りだってあるんだ。陵こそしっかりしてくれよ。ほら、みんながダルマを用意して待ってる。行っておいで」
両肩に置かれたあたたかい克巳さんの手が、笑顔に溢れるスタッフ目がけて押し出した。次の瞬間、目の前の景色が真っ白なもやに包まれる。
妙だなと思いながら目を擦ってもう一度見ると、ちょっとだけ老けた自分が大きなデスクを前にして座り、意味ありげにじっと見つめる。
椅子の背後には日本の国旗が掲げられているだけじゃなく、デスクの中央に置かれた大きなプレートには、これから俺が目指すものが印字されていた。
『ここに上りつめるまでには、たくさんの困難が待ち受けている。だけど自分自身と支えてくれる人たちを信じていれば、絶対に叶えられる』
「総理大臣執務室……?」
『愛する人に、この景色を見せてやらなきゃ。わかるでしょう?』
「陵?」
背後からかけられた克巳さんの声に驚いて振り返ると、見慣れた事務所の景色に早変わりした。
白昼夢といっても今の時間は夜だ。これまでの疲れでどこかに一瞬だけ、意識が飛んだだけかもしれないけれど――。
「陵、大丈夫か?」
心配して頬に手を当てる彼に、心を込めて微笑んであげた。
「陵さん、本当に困るんです。……ちょっと待ってください」
困惑に満ち溢れた顔のはじめが、目の前に手をかざして俺の二の句を止めた。
「秘書さん、もう少し陵さんを教育していただかないと困ります」
「二階堂?」
俺との会話を中断して、克巳さんをいきなり呼んだはじめに、俺だけじゃなくスタッフのみんなで注目した。
「この間おこなった、街頭での謝罪会見みたいな感じで説得されるならまだしも、情熱的な視線で見つめられながら、あんなふうに誘われたりしたら、誰だって断れないと言ってるんです」
「ああ、確かに。陵は無自覚な18禁だからね」
「ちょっと、なんだよそれ。俺ってば、そんなキャラじゃないし」
微苦笑する克巳さんを前にして、愕然としながら周りを見渡すと、スタッフそろって何度も首を縦に振る。
「マジ……。俺は無自覚な18禁だったんだ」
じと目で克巳さんを見上げたら、すっと視線を逸らして隣にいるはじめに向かって、意味ありげに微笑む。すると二階堂は、その表情に応えるように笑いかけつつ、俺を見ながら口を開いた。
「陵さんが無自覚だからこそ、有効に利くんだと思います。ですが公の場では、絶対に使わないでくださいね。間違いなく、スキャンダルな問題に発展しますので」
クスクス笑いだしたはじめにつられるように、スタッフも笑いだした瞬間、テレビからニュース速報の音が流れた。
慌てて背後にあるテレビ画面に食らいつくと、開票速報の最終結果が表示されていた。
なかなか差の縮まらない開票の行方のせいで、暗い雰囲気に耐えられなくなった誰かが入れっぱなしにしていた、某テレビ局のバラエティー番組。賑やかな場面とは相反する無機質なその文字は、しっかりと勝敗を表していた。
「それでは僕はこれから、次の選挙に出る候補者のもとに向かいます」
「もう行くのか。せめて――」
手身近に持っていた物を、無造作にアタッシェケースに突っ込むはじめに、克巳さんが慌てて声をかけた。
「秘書さんの言いたいことくらいわかります。けれど僕自身は現在進行形で抱えている仕事が、山ほどあるんですよ。それをとっととやっつけたあとに、陵さんのもとに馳せ参じます。国会議事堂の中で人一倍映えるであろう、葩御議員の補佐をするために」
柔らかく微笑んだはじめの視線の先には、誰かが切り替えたテレビ画面があった。そこには俺の名前と当選の二文字が、大きく表示されていた。
当選 はなお りょう 127412
元村 和孝 127248
「はじめ、俺の補佐をしてくれるの!?」
予想していなかった言葉に、弾んだ声で訊ねてしまった。
当選の喜びと、はじめが補佐をしてくれるという事実で二倍喜んだ俺に、これまで働いてくれたスタッフ全員が集まって、おめでとうございますを連呼する。
「最後の最後まで、目が離せないハラハラな選挙をする議員なんですから、今後も間違いなくなにかあるに決まってます。僕がしっかり目を光らせて、スキャンダラスな問題を潰さないと駄目でしょう?」
はじめは労うように、克巳さんの肩を叩いてから事務所の扉を開け放ち、颯爽と出て行ってしまった。入れ替わって、外で待機していた報道陣がなだれ込んでくる。
「陵の夢が叶ってしまったせいで、この忙しさをやり過ごしながら、議員宿舎に近い物件探しをしなければいけないとは――」
出て行った背中を見送ってぼやく克巳さんに駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。すると周りからカメラのフラッシュがバシバシ焚かれ、俺たちを撮影しまくる。
「こらこら、駄目だろ陵。今の写真は、使わないでいただきたい!」
抱きついた俺を引き剥がしながら鋭い視線を周囲に飛ばしつつ、語勢を強くした克巳さんに、カメラを向けていた報道陣が一斉に距離をとった。
俺を守るように立ちはだかる克巳さんの雰囲気から、なんとも言えない殺気が漂っていた。
こんなふうに守ってくれるから、無意識のうちに頼ってしまう――有能な秘書として、そして最愛の恋人として接してくれる彼の気持ちに報いたいと、思わずにはいられない。
「二階堂が戻るまでに俺が包囲網をしっかり張って、君を守るしかないからな。これ以上、アイツに叱られたくないし」
「克巳さんってば今から気張りすぎて、ダウンしないでよ」
「俺に抱きついていいのは、あと3日はかかると思ったほうがいい。挨拶回りだってあるんだ。陵こそしっかりしてくれよ。ほら、みんながダルマを用意して待ってる。行っておいで」
両肩に置かれたあたたかい克巳さんの手が、笑顔に溢れるスタッフ目がけて押し出した。次の瞬間、目の前の景色が真っ白なもやに包まれる。
妙だなと思いながら目を擦ってもう一度見ると、ちょっとだけ老けた自分が大きなデスクを前にして座り、意味ありげにじっと見つめる。
椅子の背後には日本の国旗が掲げられているだけじゃなく、デスクの中央に置かれた大きなプレートには、これから俺が目指すものが印字されていた。
『ここに上りつめるまでには、たくさんの困難が待ち受けている。だけど自分自身と支えてくれる人たちを信じていれば、絶対に叶えられる』
「総理大臣執務室……?」
『愛する人に、この景色を見せてやらなきゃ。わかるでしょう?』
「陵?」
背後からかけられた克巳さんの声に驚いて振り返ると、見慣れた事務所の景色に早変わりした。
白昼夢といっても今の時間は夜だ。これまでの疲れでどこかに一瞬だけ、意識が飛んだだけかもしれないけれど――。
「陵、大丈夫か?」
心配して頬に手を当てる彼に、心を込めて微笑んであげた。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる