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第一章「絶倫王」
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一方そのころ。
帝都エルドランドをめぐる動乱の最中、非戦論を唱えたことで皇太子アクセル二世から疎んじられた賢者グリフィムは、処刑を言い渡されて地下牢に囚われていた。
「おいでなさい」
ろうそくの明かりをともして階段を下りてきた魔女アンブローネは、輪に束ねられた鍵をたぐって鉄格子の扉を開ける。
「この老いぼれ、うら若き美女の手にかかって死ぬるなら本望でござる。さあ、遠慮はいりませぬ。思いきり鞭でぶってくだされ」
「戦争は終わりました。領主が代われば、囚人は無罪放免です」
「なぜじゃ! なにゆえ鞭でぶってくださらぬ! もはやとうに覚悟はできておる! 今はただ、全裸のまま座してお仕置きを待つのみ!」
賢者グリフィムはこの時、のべ百日あまりに及んだ投獄生活のせいで足腰が弱り、杖なしでは歩けなくなったと言われている。
「どうやら、しばらくこのまま放置しておいたほうがよさそうね。――そろそろ獄中から出てくる気になったかしら?」
賢者グリフィムは、のちに著した評伝の中で、魔女アンブローネの人物をこのように述べている。
身の丈高く細腕にして、物腰柔らかな女性なり。礼節をわきまえ学問にも秀でており、もしも息子あらば是非とも嫁に欲しいと願わん。
「これからご老公には、帝国のために死ぬまで働いていただきます。我が君ダリオン様の功績を広く世に知らしめ、子々孫々へ伝えるのです」
「先代の治世から王家に仕えてきたこのわしに、偽りの歴史を記せと申すのか……?」
こうして賢者グリフィムは、魔女アンブローネから登用されてふたたび宮廷へ出仕し、残りわずかな余生を年代記の執筆に費やすことになる。
帝都エルドランドをめぐる動乱の最中、非戦論を唱えたことで皇太子アクセル二世から疎んじられた賢者グリフィムは、処刑を言い渡されて地下牢に囚われていた。
「おいでなさい」
ろうそくの明かりをともして階段を下りてきた魔女アンブローネは、輪に束ねられた鍵をたぐって鉄格子の扉を開ける。
「この老いぼれ、うら若き美女の手にかかって死ぬるなら本望でござる。さあ、遠慮はいりませぬ。思いきり鞭でぶってくだされ」
「戦争は終わりました。領主が代われば、囚人は無罪放免です」
「なぜじゃ! なにゆえ鞭でぶってくださらぬ! もはやとうに覚悟はできておる! 今はただ、全裸のまま座してお仕置きを待つのみ!」
賢者グリフィムはこの時、のべ百日あまりに及んだ投獄生活のせいで足腰が弱り、杖なしでは歩けなくなったと言われている。
「どうやら、しばらくこのまま放置しておいたほうがよさそうね。――そろそろ獄中から出てくる気になったかしら?」
賢者グリフィムは、のちに著した評伝の中で、魔女アンブローネの人物をこのように述べている。
身の丈高く細腕にして、物腰柔らかな女性なり。礼節をわきまえ学問にも秀でており、もしも息子あらば是非とも嫁に欲しいと願わん。
「これからご老公には、帝国のために死ぬまで働いていただきます。我が君ダリオン様の功績を広く世に知らしめ、子々孫々へ伝えるのです」
「先代の治世から王家に仕えてきたこのわしに、偽りの歴史を記せと申すのか……?」
こうして賢者グリフィムは、魔女アンブローネから登用されてふたたび宮廷へ出仕し、残りわずかな余生を年代記の執筆に費やすことになる。
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