精霊徒然日記

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消えゆく命7

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「カエデ様!!」

カエデの体が白い光りに包まれ、霧散して光になった。

カエデの身体を形どっていた光も、やがて宙に消えた。

その事実をようやく頭で理解すると、こらえていた涙が次々と溢れて出て来た。

初めて声を上げて泣いた。

側にはタイカもいたが、彼は何も言わずにいてくれた。

胸が押しつぶされそうな圧迫感のせいで、言葉らしい言葉が出なかった。

「あぁ……っ!」

 しばらく地面だけを見て泣き続けていると、瞳から零れ落ちた涙が突然、光を帯びた。

「……えっ……?」

 
光りは徐々に膨れ上がり、シキとタイカを包んでいく。

「――これはっ……!」

タイカは何かを確信したように呟いた。

シキには何が起こっているのか分からない。

ただ、何かが生まれようとしていることは確かだった。

 
シキが落とした涙を中心にして、光りの波紋が広がる。 それは手、足となり、顔となり、人の形をとった。

「……君は」

   
目の前にいたのは、自分より幼い女の子だった。光沢のあるやや長めの黒髪に、白くて細い手足。 開いた大きな瞳は自分と同じ紫色の瞳で、紫水晶を思わせた。

呆然と少女を見つめていると、タイカが口を開いた。

「精霊だ。お前の涙が、こいつを生んだんだ」

「……精霊」

 
カエデやタイカのような精霊に会ったことはあっても、生まれる瞬間に立ち会うのは、初めてだった。

精霊の誕生とは、これほどまでに神々しいものだと理解する。

「ねぇ、あなただぁれ?」

 
少女の声でようやく正気に戻った。

「え……えぇと」

いきなりのことだったので、どう返答していいか分からず、口ごもる。

「私はね、私の名前はね、カエデっていうの」

「……えっ」

 
 カエデ、の名前を聞いて耳を疑った。

 当然、生まれたばかりの精霊には名前がない。たとえ知っていたとしても、先程消えてしまった精霊の長と同じ名前など、ありえないことだ。 偶然とは思えない。

 
 ――だとしたら

「ねぇ。あなた、どうして泣いているの? 泣かないでよ。ねぇ、側にいるから。私がずっと側にいるから」

 
また涙が溢れ出す。

側にいるから、と言う少女の声があの長の声と重なった気がした。

「泣かないで。ねぇ?」

「……うん。……うん」

 
彼は消えてしまった。それは事実だ。だが、彼の想いは、こうして帰って来た。 自分を慰めるために、また戻ってきてくれたのかもしれない。

「ねぇ……あなた。えっと……そうだ。あなたのお名前は? 何ていうの?」

 小さなカエデは必死にシキを泣き止ませようと、話を変える。 こんな小さな子に慰められる自分は、どれほど今みっともない顔をしているのだろうか。

シキは両腕で涙を拭う。

「……シキ。僕は、シキと言います。初めまして。カエデ様」

「――シキね。シキ、とってもいい名前ね」

 
以前、長と再会したときも同じことを言われたのを思い出し、シキは苦笑する。

『シキか。とてもいい名前だな』

そう言って笑った彼の笑顔は、今でも鮮明に覚えている。

「シキ。あなたが住んでいる所を案内してよ。行こう!」

 
 差し伸ばされた小さな手を、若い子鹿の霊が握る。

「はい……!」

 
流れるときの中で、姿形を変え、やがて次の世代へと引き継がれていく。

大切なものを胸に抱え、今を生きる者達はまた何かを求め、歩き出していくのだろう。

『オレはカエデ。よろしくな、シキ』



end

次回
タイカの願い
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