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第1話:アカツキの悪魔
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しおりを挟む封印されて以降、初めて出る外の風景をディアは冷めた目で見渡していた。
地下室の様子からある程度予想できていたが、人が頻繁に出入りしている様子もなく、町は以前の姿の見る影もない。
とはいえディアにとっては正直嫌いな国だったので何も思うところは無い。むしろ自分たちを邪魔するものが居ないことに安心するほどだった。
国の入り口付近に着く頃には外は日が暮れていた。
この場所は北部の山奥なのでかなり冷える。アカツキは入り口に置いてきた荷物を回収し、今日は国の跡地で野営をすることになった。
アカツキは慣れた手つきでテントを張り、火を起こして水を温める。ディアは手伝いをしたかったのだが見慣れない道具の扱いが分からず、見守ることしか出来なかった。
「いずれ覚えれば良いよ、君ならすぐに覚えられる」
「はい……主」
歯痒い思いで見ることしか出来ないディアに、アカツキは笑いながら言った。そうしている間にお湯は沸き、鍋から湯気が噴き出る。木製のカップに沸騰した湯を注ぎ、スプーンで黒い粉を混ぜると懐かしい匂いにディアの表情が綻んだ。
ディアの好物であるコーヒーがあっという間に完成した。
「はい、これコーヒー。好きだったよね? 口に合うと良いんだけど」
「有難うございます。良い香りですね。豆を挽かずともコーヒーが作れるとは不思議なものです」
「これはインスタントコーヒーって言う、お湯に溶かすだけで作れる便利なコーヒーだよ。豆を挽いて作るタイプもあるけど手間だから今はこれで我慢してほしい」
そう言ってアカツキは自分のコーヒーにミルクをたっぷり入れ、ぐいっと飲んで一息ついた。
その様子をディアはぼんやりと眺めながら、ブラックコーヒーを一口啜る。またこうやって話を出来る日が訪れるなど夢にも思っておらず、いまだに現実味が湧かない。
なにせあの封印の大剣は、当時のアカツキの存在全てを犠牲にして作ったと聞いて諦めていたのだ。疑問は残るが、かつての自分の主の魂を持つ人間が目の前にいるのは事実だった。
口に含むコーヒーがより頭を冴えさせる。舌に残る苦味が、冷たい夜風が、焚き火の温もりが、これが夢ではないと訴えかけてくる。不思議な気分だった。
「そうそうディア、その『主』って呼び方なるべくやめてほしいな」
コーヒーを全て飲み終えたアカツキは、カップを地面に置きながら口を開いた。
「おや、何か不都合でも?」
「いや、なんかこそばゆいというか……それに今の社会は昔といろいろ変わっていて、その呼ばれ方をすると悪目立ちするかもしれないし」
「悪目立ち、ですか」
「うん、それに今は名前で僕を呼んでほしい」
アカツキの言葉にディアは目を丸くする。名前で呼んでほしかったなんて思いもしなかった。
(そういえば主の名前は1000年前も呼んだことはほとんどなかったな)
言われてそう気付いた。
「まだ今の僕の名前を教えていなかったね。じゃあ改めて自己紹介。僕の名前は『アカツキ』。これからもよろしくね!!」
アカツキがそう言った瞬間、ひゅうと突風が吹き枯れ草が舞った。遠くの空ではゆっくり太陽が昇り、空の色が白み始め、夜が明けていく。太陽に背を向けて逆光になっているアカツキの姿が眩しくて、ディアは思わず目を細めた。
真っ直ぐディアを見るその姿は、どことなく神々しかった。
「はい、よろしくお願いします」
照れくさそうに笑うアカツキにディアははにかみながら返事をした。
まだどこか夢心地の気分だが、少しずつ噛み締めながらこの方と歩いてゆこうと決意を固めた。
遠くで小鳥が囀る声が聞こえた。
新しい1日が始まる。
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