暁の悪魔達の狂愛物語

ノノノ

文字の大きさ
5 / 5
第1話:アカツキの悪魔

1-5

しおりを挟む
 
 封印されて以降、初めて出る外の風景をディアは冷めた目で見渡していた。
地下室の様子からある程度予想できていたが、人が頻繁に出入りしている様子もなく、町は以前の姿の見る影もない。
 とはいえディアにとっては正直嫌いな国だったので何も思うところは無い。むしろ自分たちを邪魔するものが居ないことに安心するほどだった。

 国の入り口付近に着く頃には外は日が暮れていた。
 この場所は北部の山奥なのでかなり冷える。アカツキは入り口に置いてきた荷物を回収し、今日は国の跡地で野営をすることになった。

 アカツキは慣れた手つきでテントを張り、火を起こして水を温める。ディアは手伝いをしたかったのだが見慣れない道具の扱いが分からず、見守ることしか出来なかった。

「いずれ覚えれば良いよ、君ならすぐに覚えられる」

「はい……主」

 歯痒い思いで見ることしか出来ないディアに、アカツキは笑いながら言った。そうしている間にお湯は沸き、鍋から湯気が噴き出る。木製のカップに沸騰した湯を注ぎ、スプーンで黒い粉を混ぜると懐かしい匂いにディアの表情が綻んだ。
 ディアの好物であるコーヒーがあっという間に完成した。

「はい、これコーヒー。好きだったよね? 口に合うと良いんだけど」

「有難うございます。良い香りですね。豆をかずともコーヒーが作れるとは不思議なものです」

「これはインスタントコーヒーって言う、お湯に溶かすだけで作れる便利なコーヒーだよ。豆をいて作るタイプもあるけど手間だから今はこれで我慢してほしい」

 そう言ってアカツキは自分のコーヒーにミルクをたっぷり入れ、ぐいっと飲んで一息ついた。

 その様子をディアはぼんやりと眺めながら、ブラックコーヒーを一口啜る。またこうやって話を出来る日が訪れるなど夢にも思っておらず、いまだに現実味が湧かない。
 なにせあの封印の大剣は、当時のアカツキの存在全てを犠牲にして作ったと聞いて諦めていたのだ。疑問は残るが、かつての自分の主の魂を持つ人間が目の前にいるのは事実だった。

 口に含むコーヒーがより頭を冴えさせる。舌に残る苦味が、冷たい夜風が、焚き火の温もりが、これが夢ではないと訴えかけてくる。不思議な気分だった。

「そうそうディア、その『主』って呼び方なるべくやめてほしいな」

 コーヒーを全て飲み終えたアカツキは、カップを地面に置きながら口を開いた。

「おや、何か不都合でも?」

「いや、なんかこそばゆいというか……それに今の社会は昔といろいろ変わっていて、その呼ばれ方をすると悪目立ちするかもしれないし」

「悪目立ち、ですか」

「うん、それに今は名前で僕を呼んでほしい」

 アカツキの言葉にディアは目を丸くする。名前で呼んでほしかったなんて思いもしなかった。

(そういえば主の名前は1000年前も呼んだことはほとんどなかったな)

 言われてそう気付いた。

「まだ今の僕の名前を教えていなかったね。じゃあ改めて自己紹介。僕の名前は『アカツキ』。これからもよろしくね!!」

 アカツキがそう言った瞬間、ひゅうと突風が吹き枯れ草が舞った。遠くの空ではゆっくり太陽が昇り、空の色が白み始め、夜が明けていく。太陽に背を向けて逆光になっているアカツキの姿が眩しくて、ディアは思わず目を細めた。
 真っ直ぐディアを見るその姿は、どことなく神々しかった。

「はい、よろしくお願いします」

 照れくさそうに笑うアカツキにディアははにかみながら返事をした。
 まだどこか夢心地の気分だが、少しずつ噛み締めながらこの方と歩いてゆこうと決意を固めた。


 遠くで小鳥がさえずる声が聞こえた。
 新しい1日が始まる。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...