悪役令嬢は騎士との恋に生きる〜囚われの運命を変えるために〜

arina

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婚約者としての役割――王太子との冷たい距離

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エリザベス・エルフリート侯爵令嬢としてこの異世界に転生して以来、王太子であるアーサーとは婚約者として幾度か顔を合わせてきた。だが、それは形式的な場面ばかりで、彼の視線が私に注がれることはほとんどなかった。もともと「悪役令嬢」であるエリザベスは、王太子に疎まれているという設定だ。私はその運命を何とか変えようと努力しているものの、彼との距離が縮まる気配はまったくない。

ある日、私は正式な婚約者としての挨拶と、最低限の会話をするため、王太子が滞在している離宮に向かうことになった。貴族として、そして婚約者としての義務を果たすために、私は心を落ち着かせながら離宮へと向かう馬車に乗り込んだ。隣にはいつも通り、護衛騎士のリカルドが控えている。

「リカルド、今日は特に緊張しているわ」

小さく息を吐きながらそう告げると、リカルドは私を真剣に見つめ、穏やかな声で答えてくれた。

「お嬢様、どうか平常心を保たれてください。たとえどのような場面であっても、私はお嬢様の味方であり続けます」

その言葉に、私は少しだけ緊張が和らいだ。リカルドがいることで、私はこの厳しい立場でも耐えることができているのだ。

離宮に到着し、重厚な扉が開かれると、アーサーの待つ部屋へと案内された。彼はすでに部屋の中央に立ち、私が来るのを待っていたようだ。しかし、彼の表情は硬く、私を見ても特に喜んだ様子はない。

「エリザベス侯爵令嬢、お久しぶりだね」

冷ややかな口調で告げられ、私は心に小さな痛みを感じつつも、微笑みを浮かべて頭を下げた。

「王太子殿下、お目にかかれて光栄です。婚約者として、このような機会をいただけることを嬉しく思います」

アーサーは視線をわずかに逸らし、形だけの微笑を浮かべた。私たちの間には張り詰めた緊張が漂っている。彼にとって、この時間はあくまで形式的なものに過ぎないのだろう。

「今日は話すべきことがあるのかい?」

冷たい声に、私は一瞬言葉を詰まらせたが、気を取り直して答えた。

「はい。お聞きしたいことがございます。殿下は、婚約者として私との未来をどのようにお考えでしょうか?」

アーサーは私の質問に対して、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにその目に冷淡な光を宿らせた。

「未来……?エリザベス、君は自分の役割をよく理解していると思っていたが」

その言葉に、胸が強く締めつけられるような感覚を覚えた。彼の態度からは、私に対する期待や愛情といったものは一切感じられない。まるで私を「婚約者」としてしか見ていないような、冷たい壁が私たちの間に立ちふさがっている。

「私がどのような役割か……それは、殿下の期待に応えるために尽力することだと理解しております」

かろうじて口にした言葉は、自分でも空虚に感じられた。アーサーは私に一瞬視線を向け、冷たい笑みを浮かべる。

「君はそれでいい。君が侯爵家の後継としてふさわしい行動を取り続ける限り、私も君の婚約者としての立場を守ろう」

その言葉には、彼の冷淡な本心が滲んでいた。彼にとって私は「婚約者」という役割でしかなく、個人としての私には関心がないのだ。再び胸が痛みを覚えるが、私は感情を表に出さず、冷静を装った。

「……殿下のお言葉、ありがたく受け止めます」

アーサーはそれ以上何も言わず、形式的に頭を下げただけで私に背を向けた。私の存在は、彼にとってまったく心に響いていないようだ。婚約者としての立場を超えて、彼に何かを望むことが無意味だと痛感させられた。

離宮を出た私は、心に重たい影を落としながら、リカルドが待っている馬車に戻った。馬車の中で一人静かに座ると、ふいに胸の奥から込み上げる悲しみを感じた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

私が顔を伏せていたことに気づいたリカルドが、心配そうに声をかけてくれる。その優しさに触れた瞬間、私は感情が堰を切ったようにこぼれ出した。

「リカルド、私は……私は、どうしてこんなにも婚約者として孤立しているのかしら。婚約者であるのに、彼は私をまるで人形のようにしか見ていない」

リカルドはしばらく黙って私の言葉を受け止めていたが、やがて穏やかに話し始めた。

「お嬢様、たとえ周囲がどのように見ていようと、私はお嬢様をただの『役割』としてではなく、一人の人間としてお守りします」

その言葉に、私は彼の真摯な眼差しを感じ、胸が温かくなるのを覚えた。リカルドだけが、私を「婚約者」でも「役割」でもなく、一人の人間として見てくれている――そのことが、どれほど救いになるのかを改めて実感した。

「ありがとう、リカルド。あなたがそう言ってくれるだけで、私はどれだけ救われているかわからないわ」

リカルドは静かに微笑み、再び私の隣に座り直した。彼は、どれだけ孤独を感じていようと私を支えてくれる。そう確信したことで、私は再び前を向く決意をした。

「婚約者としての役割を全うしつつも、私は私自身であることを忘れずにいようと思う。あなたがいてくれる限り、私はこの先も頑張っていける」

リカルドは小さく頷き、私の言葉を真摯に受け止めてくれた。

離宮からの帰路、私はリカルドと共に、王宮の華やかな景色を眺めながら静かに過ごした。アーサーとの婚約がこの先どのように変わるかはわからないが、リカルドがそばにいてくれる限り、私はこの厳しい世界でも自分らしく生きていけると信じた。

次回、エリザベスは新たな試練に直面し、さらに孤立を深める中で、リカルドの存在の大切さに気づいていく――。
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