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悪役令嬢への罠――試練の幕開け
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王太子アーサーと会話を交わして数日が経った。彼との冷え切った婚約関係を改めて痛感し、孤独に苛まれながらも、私は気丈に振る舞う日々を送っていた。婚約者としての役割を果たしつつも、自分の心を守るために、せめて屋敷での生活だけでも平穏に過ごしたいと願っていた。
その日、私は屋敷で書類を整理していた。婚約者としての役目や貴族としての義務、そして侯爵家の管理――次から次へと責任が押し寄せる中、しっかりと目を通しておくべき書類が山のように積まれていた。
「お嬢様、紅茶をお持ちいたしました」
静かに部屋に入ってきたメイドが、香り高い紅茶を差し出してくれた。その気遣いに、私は少し微笑みを浮かべて礼を述べた。
「ありがとう。あなたのおかげで、少し気分が落ち着くわ」
ここ数日で、少しずつ使用人たちとも親しみを持って接することができるようになってきた。私の態度が変わったことで、彼らもわずかに心を開いてくれているように感じられる。
だが、その穏やかな空気は、突然の報せによって打ち砕かれることになる。
その日、王宮から使者が訪れ、私は急ぎ王宮へと呼び出された。使者からの伝言は曖昧であり、理由は「緊急の要件」とだけ告げられた。何か不穏な予感が胸をよぎったが、貴族として王宮の召喚には従わねばならない。私はリカルドと共に馬車に乗り込み、急ぎ王宮へと向かった。
馬車の中で、私は不安な気持ちをリカルドに打ち明けた。
「突然の召喚だなんて、一体何があったのかしら……。最近、特に問題を起こした覚えはないのだけど」
リカルドは冷静な表情で私に答える。
「お嬢様、たとえどのような事態であろうと、私はお嬢様を全力でお守りいたします。どうか平常心を保たれてください」
その言葉に少しだけ安堵しながらも、私の心は不安で揺れていた。王太子アーサーとの冷たい関係、周囲の冷淡な視線、そして「悪役令嬢」という立場が、再び私に向けられるのではないかという恐怖が、じわじわと胸を締め付けていた。
王宮に到着し、案内された先は大広間だった。そこにはすでに多くの貴族たちが集まっており、皆が私に視線を向けていた。その中には、冷たく睨むような目つきで私を見つめる者もいた。
「エリザベス侯爵令嬢、お待ちしておりました」
声をかけてきたのは、王宮の重鎮であるサリヴァン卿だった。彼は鋭い眼差しで私を見つめ、少しも笑顔を見せない。
「サリヴァン卿、一体これはどういうことでしょうか?急に呼び出されるとは聞いておりませんでした」
私は礼儀を保ちつつも、不安な気持ちを隠しきれないまま尋ねた。サリヴァン卿はわずかに顔をしかめ、私に冷ややかな視線を向けた。
「エリザベス侯爵令嬢、先日、貴女が王宮に持ち込まれた書簡に、王太子殿下に対する侮辱的な内容が含まれていたとの報告がありました」
「え……?」
思わず声を漏らしてしまった。王太子殿下への侮辱的な内容の書簡?私はそんなものを王宮に持ち込んだ覚えは一切ない。
「そんなこと……私は決してそのようなことはしておりません!」
必死に弁明しようとするが、周囲の貴族たちは不信の目を向けたまま、私の言葉に耳を傾ける様子もない。サリヴァン卿は冷たく言葉を続ける。
「エリザベス侯爵令嬢、王太子殿下の婚約者でありながら、こうした問題が浮上することは非常に遺憾です。このままでは、貴女の立場が危うくなるでしょう」
「……そんな……」
私は自分が罠にかけられたのだと気づいた。誰かが私に罪をなすりつけるために、この書簡を仕組んだのだろう。しかし、どんなに訴えても、周囲の目は冷たく私を疑っている。私は孤立し、弁解の余地すらないまま追い詰められているのだ。
その時、後ろに控えていたリカルドが一歩前に進み出て、静かながらも力強い声で口を開いた。
「サリヴァン卿、お言葉ですが、エリザベス侯爵令嬢は常に王太子殿下への敬意を持って行動されております。このような侮辱的な行為に及ぶことは断じてありません」
彼の毅然とした態度と、私への信頼が伝わる言葉に、私は少しだけ心が救われる思いがした。しかし、サリヴァン卿は厳しい視線でリカルドを睨みつけ、冷たく言い放つ。
「護衛騎士の分際で、余計な口出しは無用です。これは王宮の規律に関わる問題なのです」
リカルドは黙ってその言葉を受け止めたが、私のそばを離れることはなかった。彼の存在が私の心を支えてくれている。だが、状況は依然として厳しいままだ。
そして、王太子アーサーが現れ、冷たい視線を私に向けてくる。婚約者として、少しずつでも信頼を築きたいと願ってきた相手だというのに、今の彼の目には、私を冷酷に切り捨てようとするような厳しさが宿っていた。
「エリザベス侯爵令嬢」
アーサーの低い声が広間に響き渡る。彼の眼差しは冷たく、微かな苛立ちさえ感じられる。
「これはどういうことだ」
「殿下、それは誤解です。私は決して、侮辱的な書簡などを送った覚えはありません」
私の必死な言葉にもかかわらず、アーサーの表情は一切変わらず、むしろ冷たい視線で私を見据えたままだ。
「誤解だと?エリザベス、私を裏切っていないというのなら、どうしてこんな書簡が君の名で届けられるのか、説明してくれないか」
裏切り――その言葉が私の胸に突き刺さる。婚約者である私に向けられた、疑惑と失望に満ちたその言葉に、私は息をのむ。彼は私を、信じてはくれないのだろうか?
「殿下、私は決してそのようなことをする人間ではありません。婚約者としての責任と敬意を持って、常に行動してきたつもりです。どうか、私の言葉を信じてください」
震える声で懸命に訴えたが、アーサーは少しも表情を崩さず、むしろ険しい目つきで私を見下ろしていた。その冷たい眼差しに、心がじわじわと凍りついていく。
「君は自分の役割を果たすために、表面上だけは敬意を払っていたのかもしれないが……裏でどのような思惑があるかまでは分からない」
その言葉に、私は深く傷ついた。表面上の敬意――まるで私が彼に敬意を示すふりをしていたかのように言われたことが、信じられないほどのショックだった。私は心の奥で、彼との婚約者としての関係に小さな信頼を寄せていたのに、それをあっさりと踏みにじられたような気がして、目頭が熱くなる。
「……殿下、私は婚約者として、貴方に誠実であることを心から望んでおりました。それが、貴方にとっては単なる『表面上の敬意』だったのでしょうか……」
震える声でそう言うと、アーサーは少しだけ視線を逸らしたが、すぐにまた冷たい表情に戻り、私に冷徹な声で返す。
「私は事実を見ているだけだ。貴族社会において、婚約者の名で侮辱的な書簡が出回るなど、あってはならないことだろう?もし君が無実だというのならば、証明するのは君の責任だ」
その言葉に、私は追い詰められるような感覚に襲われた。信じてもらえるどころか、彼は私に全責任を負わせるつもりなのだと理解した瞬間、私は自分の無力さを痛感せずにはいられなかった。
広間に響く沈黙の中、私は孤立感に苛まれ、どうしようもない絶望に包まれていた。誰もが私を疑い、信じてくれる者などいないのだろうかとさえ思えてしまう。
しかし、その時、私のそばに控えていたリカルドが、毅然とした態度で一歩前に進み出た。
「王太子殿下、恐れながら申し上げます。エリザベス侯爵令嬢は、私がこれまでお仕えしてきた中で、常に敬意と責任を持って行動されております。このような侮辱的な行為に及ぶことは、決してないと断言いたします」
リカルドの力強い声に、私は少しだけ救われる思いがした。彼は、私のことを信じてくれている。少なくとも、彼は私が誠実に行動していると理解してくれているのだ。
しかし、アーサーは冷笑を浮かべ、リカルドに対して厳しい視線を向けた。
「護衛騎士として君が主を守ろうとするのは分かるが、この件は王宮の秩序に関わる問題だ。護衛の立場を超えて口出しすることではないだろう」
リカルドはその言葉を静かに受け止めたが、決して引き下がることなく、私のそばを離れなかった。その毅然とした態度に、私は再び勇気を取り戻し、彼に心から感謝の念を抱いた。
その場の緊張が再び高まる中、リカルドは再び王太子に向かって静かに語りかけた。
「殿下、どうかお聞き入れください。この場で侯爵令嬢を疑いのままにしておくことは、王宮にとっても、貴族社会にとっても決して良いことではありません。もしお許しいただけるのであれば、私が責任を持って、エリザベス侯爵令嬢の潔白を証明するための調査を行わせていただきたく存じます」
リカルドの提案に、私は驚きと感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。彼は自らの立場をも顧みず、私のためにここまでしてくれている。私一人ではどうしようもなかった状況を、彼が支えてくれているのだ。
アーサーはリカルドの提案に一瞬考え込むような仕草を見せた後、わずかに目を細め、冷静な表情を崩さずに口を開いた。
「いいだろう。リカルド騎士、君にその任を任せる。ただし、一週間以内に潔白を証明できなければ、エリザベス侯爵令嬢の立場は危うくなるだろう。それで構わないか?」
期限を区切られたことで、私にかかるプレッシャーが一層強まった。しかし、リカルドの静かな眼差しに励まされ、私は自分が絶望の淵から救われていくのを感じた。彼がいる限り、私はこの試練に立ち向かえる。
「ありがとう、リカルド。あなたの存在が、今の私にとってどれほど大きな支えか分からないわ」
リカルドは深く頷き、私に力強い眼差しを向けて答えた。
「お嬢様、私は必ずあなたの無実を証明いたします。一緒にこの難局を乗り越えていきましょう」
アーサーとの会話は、私にとって大きな失望と悲しみをもたらしたが、リカルドの存在が私を支えてくれている。婚約者であるはずのアーサーには信頼されなかったが、リカルドが私を信じ、守り抜くと誓ってくれている限り、私はこの試練に立ち向かえるだろうと、再び決意を固めた。
エリザベスは新たな試練に直面し、陰謀の裏に隠された真実を探り始める。次回、第6話では、エリザベスとリカルドが証拠を探し、疑惑を晴らすための調査を開始する――。
その日、私は屋敷で書類を整理していた。婚約者としての役目や貴族としての義務、そして侯爵家の管理――次から次へと責任が押し寄せる中、しっかりと目を通しておくべき書類が山のように積まれていた。
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リカルドは冷静な表情で私に答える。
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その言葉に少しだけ安堵しながらも、私の心は不安で揺れていた。王太子アーサーとの冷たい関係、周囲の冷淡な視線、そして「悪役令嬢」という立場が、再び私に向けられるのではないかという恐怖が、じわじわと胸を締め付けていた。
王宮に到着し、案内された先は大広間だった。そこにはすでに多くの貴族たちが集まっており、皆が私に視線を向けていた。その中には、冷たく睨むような目つきで私を見つめる者もいた。
「エリザベス侯爵令嬢、お待ちしておりました」
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「サリヴァン卿、一体これはどういうことでしょうか?急に呼び出されるとは聞いておりませんでした」
私は礼儀を保ちつつも、不安な気持ちを隠しきれないまま尋ねた。サリヴァン卿はわずかに顔をしかめ、私に冷ややかな視線を向けた。
「エリザベス侯爵令嬢、先日、貴女が王宮に持ち込まれた書簡に、王太子殿下に対する侮辱的な内容が含まれていたとの報告がありました」
「え……?」
思わず声を漏らしてしまった。王太子殿下への侮辱的な内容の書簡?私はそんなものを王宮に持ち込んだ覚えは一切ない。
「そんなこと……私は決してそのようなことはしておりません!」
必死に弁明しようとするが、周囲の貴族たちは不信の目を向けたまま、私の言葉に耳を傾ける様子もない。サリヴァン卿は冷たく言葉を続ける。
「エリザベス侯爵令嬢、王太子殿下の婚約者でありながら、こうした問題が浮上することは非常に遺憾です。このままでは、貴女の立場が危うくなるでしょう」
「……そんな……」
私は自分が罠にかけられたのだと気づいた。誰かが私に罪をなすりつけるために、この書簡を仕組んだのだろう。しかし、どんなに訴えても、周囲の目は冷たく私を疑っている。私は孤立し、弁解の余地すらないまま追い詰められているのだ。
その時、後ろに控えていたリカルドが一歩前に進み出て、静かながらも力強い声で口を開いた。
「サリヴァン卿、お言葉ですが、エリザベス侯爵令嬢は常に王太子殿下への敬意を持って行動されております。このような侮辱的な行為に及ぶことは断じてありません」
彼の毅然とした態度と、私への信頼が伝わる言葉に、私は少しだけ心が救われる思いがした。しかし、サリヴァン卿は厳しい視線でリカルドを睨みつけ、冷たく言い放つ。
「護衛騎士の分際で、余計な口出しは無用です。これは王宮の規律に関わる問題なのです」
リカルドは黙ってその言葉を受け止めたが、私のそばを離れることはなかった。彼の存在が私の心を支えてくれている。だが、状況は依然として厳しいままだ。
そして、王太子アーサーが現れ、冷たい視線を私に向けてくる。婚約者として、少しずつでも信頼を築きたいと願ってきた相手だというのに、今の彼の目には、私を冷酷に切り捨てようとするような厳しさが宿っていた。
「エリザベス侯爵令嬢」
アーサーの低い声が広間に響き渡る。彼の眼差しは冷たく、微かな苛立ちさえ感じられる。
「これはどういうことだ」
「殿下、それは誤解です。私は決して、侮辱的な書簡などを送った覚えはありません」
私の必死な言葉にもかかわらず、アーサーの表情は一切変わらず、むしろ冷たい視線で私を見据えたままだ。
「誤解だと?エリザベス、私を裏切っていないというのなら、どうしてこんな書簡が君の名で届けられるのか、説明してくれないか」
裏切り――その言葉が私の胸に突き刺さる。婚約者である私に向けられた、疑惑と失望に満ちたその言葉に、私は息をのむ。彼は私を、信じてはくれないのだろうか?
「殿下、私は決してそのようなことをする人間ではありません。婚約者としての責任と敬意を持って、常に行動してきたつもりです。どうか、私の言葉を信じてください」
震える声で懸命に訴えたが、アーサーは少しも表情を崩さず、むしろ険しい目つきで私を見下ろしていた。その冷たい眼差しに、心がじわじわと凍りついていく。
「君は自分の役割を果たすために、表面上だけは敬意を払っていたのかもしれないが……裏でどのような思惑があるかまでは分からない」
その言葉に、私は深く傷ついた。表面上の敬意――まるで私が彼に敬意を示すふりをしていたかのように言われたことが、信じられないほどのショックだった。私は心の奥で、彼との婚約者としての関係に小さな信頼を寄せていたのに、それをあっさりと踏みにじられたような気がして、目頭が熱くなる。
「……殿下、私は婚約者として、貴方に誠実であることを心から望んでおりました。それが、貴方にとっては単なる『表面上の敬意』だったのでしょうか……」
震える声でそう言うと、アーサーは少しだけ視線を逸らしたが、すぐにまた冷たい表情に戻り、私に冷徹な声で返す。
「私は事実を見ているだけだ。貴族社会において、婚約者の名で侮辱的な書簡が出回るなど、あってはならないことだろう?もし君が無実だというのならば、証明するのは君の責任だ」
その言葉に、私は追い詰められるような感覚に襲われた。信じてもらえるどころか、彼は私に全責任を負わせるつもりなのだと理解した瞬間、私は自分の無力さを痛感せずにはいられなかった。
広間に響く沈黙の中、私は孤立感に苛まれ、どうしようもない絶望に包まれていた。誰もが私を疑い、信じてくれる者などいないのだろうかとさえ思えてしまう。
しかし、その時、私のそばに控えていたリカルドが、毅然とした態度で一歩前に進み出た。
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リカルドの力強い声に、私は少しだけ救われる思いがした。彼は、私のことを信じてくれている。少なくとも、彼は私が誠実に行動していると理解してくれているのだ。
しかし、アーサーは冷笑を浮かべ、リカルドに対して厳しい視線を向けた。
「護衛騎士として君が主を守ろうとするのは分かるが、この件は王宮の秩序に関わる問題だ。護衛の立場を超えて口出しすることではないだろう」
リカルドはその言葉を静かに受け止めたが、決して引き下がることなく、私のそばを離れなかった。その毅然とした態度に、私は再び勇気を取り戻し、彼に心から感謝の念を抱いた。
その場の緊張が再び高まる中、リカルドは再び王太子に向かって静かに語りかけた。
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リカルドの提案に、私は驚きと感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。彼は自らの立場をも顧みず、私のためにここまでしてくれている。私一人ではどうしようもなかった状況を、彼が支えてくれているのだ。
アーサーはリカルドの提案に一瞬考え込むような仕草を見せた後、わずかに目を細め、冷静な表情を崩さずに口を開いた。
「いいだろう。リカルド騎士、君にその任を任せる。ただし、一週間以内に潔白を証明できなければ、エリザベス侯爵令嬢の立場は危うくなるだろう。それで構わないか?」
期限を区切られたことで、私にかかるプレッシャーが一層強まった。しかし、リカルドの静かな眼差しに励まされ、私は自分が絶望の淵から救われていくのを感じた。彼がいる限り、私はこの試練に立ち向かえる。
「ありがとう、リカルド。あなたの存在が、今の私にとってどれほど大きな支えか分からないわ」
リカルドは深く頷き、私に力強い眼差しを向けて答えた。
「お嬢様、私は必ずあなたの無実を証明いたします。一緒にこの難局を乗り越えていきましょう」
アーサーとの会話は、私にとって大きな失望と悲しみをもたらしたが、リカルドの存在が私を支えてくれている。婚約者であるはずのアーサーには信頼されなかったが、リカルドが私を信じ、守り抜くと誓ってくれている限り、私はこの試練に立ち向かえるだろうと、再び決意を固めた。
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