塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの

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11話 塔の魔術師と悩める仲間達

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 悪魔は黒き森の中に住んでいるということで、アゼリアの案内でその場所へと向かっている。
 年老いてしまったアゼリアだが、自らの足でしっかりと歩いていく。

「年は取っても足腰は強いままよ! でも、フレンちゃんかフェイロンちゃんがやさしくおんぶして介護してくれるなら遠慮なくしてもらうけどね!」

「馬鹿なことを言うな。フレンは駄目に決まっているだろう! それにフェイロンも周囲からの攻撃に警戒してもらう必要があるから駄目だ。自分で歩け」

「エーティアちゃんの意地悪! こんな時ぐらいおばあちゃんに優しくしてくれてもいいと思うの」

「誰がおばあちゃんだ。そんな軽口が叩けるなら問題無しだ」

「ひっどーい!」

 アゼリアは元気を取り戻したのか、段々といつもの調子が戻ってきている。
 ラークは引き続きエギルが背中に乗せて運んでいる。
 恐らくラークに関して言えば、精神的なショックも大きいと見える。「ツヤツヤの私の羽がこんな暗い色になってしまって……」と泣いているので。
 それでも主人であるアゼリアのためにアリシュランドの城まで飛んできたのだ。

「エギルさん、私は重くないですか?」

「大丈夫ですっ! ぼくはお父さんみたいに強いウサギになるですから。これぐらい平気です!」

「かっこいいです、エギルさん……!」

「そうですか? お父さんみたいですか?」

「はい。お父様のような立派なウサギになっています!」

「えへへ」

 ぶわりと涙を流して感動しているラークと、満更でもなさそうに照れているエギル。使い魔二匹の何とも微笑ましい光景だ。

 そういえば悪魔のところへ辿り着く前にやっておかなければならないことがある。

「フレン、悪魔のところへ行く前に魔力供給だ」

「はい、エーティア様」

 悪魔と対決する前に魔力を満たして万全の状態にしておかなければならない。何せ悪魔と対峙するのは初めてだからな。
 フレンに引き寄せられて唇同士が重なり、魔力を吹きこまれる。

「わぁっ、エ、エーティアさん、こんなところで大胆ですよ」

 フェイロンが真っ赤になった顔を手で覆い隠す。

「……?」

 首をひねる。これは純粋な魔力供給であって、いちゃついている訳ではない。照れる必要はないと思うのだ。

「ううん、僕、いまだにエーティアさんの照れる基準が分かりません。この間、リーレイが覗き見していた時はあんなに恥ずかしがっていたのに」

 フレンと一時期ぎくしゃくとして、サイラスの屋敷に逃げ込んだ時のことか。
 部屋に乗り込んで来たフレンと色々やり合って、それをリーレイに覗かれていた。あの時はものすごく恥ずかしいような気がして顔に血が昇ったのだ。

 確かにとても恥ずかしい時と、そうでない時がある。
 何故だかは自分でも分からない。
 代わりに答えたのはフレンだった。

「俺が思うに、エーティア様は不意打ちに弱いのかもしれません。ご自分から来る場合はあまり恥ずかしがらず、むしろ積極的であると言えますが、俺の方から迫っていくと恥ずかしそうに初々しく反応されます」

「んあっ!? な、何だその分析は」

 フレンときたら真面目な顔で何を答えているのか。フェイロンが「なるほど、不意打ちに弱い」とこれもまた真面目な顔で返している。

「ふふ。迫られると弱いって、初心でかわいいわねぇ」

 フードに隠れていて顔は見えないが、アゼリアがくつくつと笑っている様子が分かってしまって面白くない。

「勝手に言っていろ!」

 まったく緊張感のない奴らだ。



 悪魔のいるという森の中心に来ると、これ以上進めないほど薔薇の蔓が生い茂っていた。しかも今度のは棘付きで、うねうねと蠢いている。見た目からして凶悪だ。
 アゼリアが屋敷の前に出した薔薇には攻撃の意思は無かったが、こちらには攻撃の意思がある。

「悪魔の奴は俺達が来ることが分かっているのか?」

「そうね。私の目を通じて見ているんだと思うの。悪魔もエーティアちゃんを近づけまいと警戒しているのよ」

「ほう、お前の目を通じて見ているのか。ちなみに、これまでのこともか?」

「たぶんね。エーティアちゃんの弱点も知られていると思う。……やっぱり、止めましょう。勝てっこないわ。あの子、けっこう強いのよ」

 それはつまり、俺が魔力を自力で回復出来ないことも知られているのだ。
 アゼリアの魔力が高いことはすなわち悪魔の能力の高さを意味している。一筋縄ではいかない相手だろう。

「なかなか厄介な相手だな。悪魔を相手にするのは初めてだし、不安だな……それでもやるしかない」

 不安げな顔をして、小さく体を震わせる。できるだけ弱々しく見えるように。

「エ、エーティアちゃん?」

 アゼリアが訝し気に俺の名を呼ぶが、構わず怯えた表情をし続けた。そうしてしばし震えた後でフェイロンに声を掛ける。

「フェイロン、お前、ここを切り開いてみろ」

「ぼ、僕がこれを!?」

 フェイロンを指名すると、明らかにビクついた。
 剣を手にして敵と対峙すると雰囲気が変わり勇ましくなるフェイロンだが、どうも今日は精彩を欠いている。自信喪失がまだ少し尾を引いているのか。

「でも僕の剣で斬ってもこの植物はすぐに再生してしまいます」

「ふむ。それなら以前から試してみたいことがあったから協力して欲しい。これはお前にしか出来ないことだ」

「僕にしか、出来ない!?」

 フェイロンにしか出来ないこと、これをことさら強調してみせると興味を示してきた。
 よしよし、いい傾向だ。

「鞘から剣を抜いて前に掲げろ」

「え……こうですか?」

 不思議そうにしながらも大人しくこちらの指示に従ってフェイロンが剣を掲げた。

「いくぞ、しっかり構えていろ!」

 フェイロンの剣に魔術で作った炎をまとわせる。

「わ、すごい! 剣にエーティアさんの炎が!」

「それで蔓を斬ってみろ」

「はい!」

 メラメラと赤く燃える剣を一振りすると、凶悪な見た目の薔薇の蔓は燃えて消滅していく。

「蔓の再生が遅れています。これはエーティアさんの魔術の影響なんですか!?」

「そのようだな。ただ剣で斬りつけるよりも効果があるようだ。俺は悪魔とやり合うから蔓にまで気を配る余裕はない。足場の確保はフェイロンに任せる。出来るな?」

 魔術で一掃してもいずれ蔓は再生してくるだろう。その度に魔力を使って退治するよりも炎の剣でフェイロンに斬ってもらうのが一番だ。魔力の節約にもなる。
 フェイロンに任せると声を掛けると、その瞳が輝いた。

「はいっ! エーティアさんが僕に任せるって……。期待に応えてみせます! やるぞ!」

 生き生きとした表情で辺りの蔓を斬っていく。
 フェイロンの剣技は舞うような美しいものだ。力強さのあるサイラスやフレンのものとはそもそも性質が違う。それは比べるものではない。炎の光と合わさると神秘的ですらある。

「ふむ、なかなかいい仕事をしている」

 フェイロンの剣技は本来申し分のないものだ。必要なのは自信だけだった。
 ある程度斬り払ったところでこちらをチラッと見てくる。何かを期待しているような眼差しで。

「いいぞ、その調子で頼む。生えてきた蔓をひたすら斬ってくれ。それがお前の優先すべきことだ」

「はいっ!」

 パッと表情を明るくさせて良い返事をした。
 不思議だ。何故かフェイロンに犬の耳と尻尾が生えている幻が見える。パタパタと尻尾を千切れんばかりに振っている幻が。
 ひとまずフェイロンは大丈夫そうだな。

 さて、気になるのは隣から注がれるじとっとした視線だ。
 堪え切れず隣を振り向くと、フレンがこちらを見ていた。

「何だ、その顔は」

 分かりやすく拗ねた顔だ。ムスッとしている。

「俺もフェイロン様のようにエーティア様の魔術を剣にのせて戦いたいです」

「それは無理だと自分でも分かっているだろう」

 フレンの剣は魔力のこもるものならなんでも弾く。つまり俺が魔術を使って炎を剣にのせようとしたところ弾かれて飛んで行ってしまうだけだ。だからこそあれはフェイロンにしか出来ないことだと言った訳だが……。
 しかしその言葉はフレンの何かを刺激してしまったようだ。それでこの表情か。

「フェイロン様がうらやましい。俺もエーティア様に褒めていただきたいです」

「ぼくも褒めてもらいたいですっ!」

「私だって褒めてもらいたいわぁ、エーティアちゃん!」

 何故かエギルやアゼリアまでそこに乗っかってきた。この場にいる全員が褒めるよう求めてくる。

「何なんだ、褒めろ褒めろと。皆、褒められるのに飢えているのか?」

「違うのよ、フェイロンちゃんの場合は普段滅多に褒めることのない人に褒められて、嬉しくてキュウンとなってしまった状態なの」

 キュウンとなってしまった状態とは何なんだ?

「フレンちゃんの場合は、愛する人が他の人ばかり構って褒めるから自分も褒めてもらいたいという嫉妬のこもったものね。ちゃんと構ってあげないと近いうちに爆発するから気を付けてね」

 アゼリアの説明にフレンがうんうんと頷いている。合っているらしい。爆発するのか……。

「エギちゃんの場合はただただエーティアちゃんに褒めてもらいたいという気持ちね! そして私の場合はフェイロンちゃんの気持ちと一緒よ! だから褒めてちょうだい、エーティアちゃん!」

「お前は何もしていないだろうが!?」

 何もしていないくせに褒めろとは厚かましい。

「あーん、安定の塩対応!」

 アゼリアは深く被ったフードの中で泣く振りをする。

「フレン、お前もだ。フェイロンに嫉妬する必要などない。あいつにしか出来ないことがあるように、お前にしか出来ないこともある。いいか、今回のお前の役目はアゼリアを守ることだ」

「エーティア様、それは……」

 それでは俺を守ることが出来ないと言いたいのだろう。

「まあ話を聞けフレン」

 フレンの耳元に唇を寄せる。アゼリアの耳――すなわち悪魔の耳に届かないように。
 こちらの意図を察したアゼリアが、大きな声で騒ぎ出した。

「もー、エーティアちゃんもフレンちゃんもすぐにいちゃいちゃして! 戦いの前だっていうのに緊張感がないわねぇ」

 アゼリアが騒いでいる間にフレンに向けてひそひそと声をひそめて作戦を伝えた。




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