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六道編
6.抜け忍となってでも
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影丸と六道は庵の中の荷物をまとめて、旅立つことにした。元々それほど荷は多くなかったのだ。すぐに出立することができた。
里を離れることに未練も、後悔の念も少しも沸かなかった。
師に、あそこの地から連れ出される日を本当は願っていたのかもしれない。
追っ手がかかり辛くなるという理由で、現在住んでいるの奥生国から隣国の由比を目指すことになった。
夜陰に紛れて駆け出した。師の後に続く。見張りの目をかいくぐりながら進む。
里を抜け出してしばらく走っていると、その速度が少し落ちてきたことに気付いた。
先を走る六道を見れば息を乱し、わずかに苦しげである。
「師匠、体調が思わしくないのでは」
先程まではその気配はなかったというのに。少し休みましょうと言う影丸に、六道は頭を振った。
「もう少し距離を稼いでおきたい。せめて夜明けまで」
「分かりました。ですが、無理は禁物ですよ」
森の中を走っていると、後方からこちらに迫ってくる複数の気配を感じた。里を抜け出したことに気付かれ、とうとう追い付かれてしまった。
「来ます!!」
腰の刀を引き抜き、風を切って放たれて来たくないを打ち払う。それは甲高い音を立てて背後の木の幹へ突き刺さる。
「伏せろ、影丸!」
六道の放った雷が襲撃者の傍で弾けた。
その数は三つ。居場所を教えてくれているのだ。
相手が目をくらませた瞬間、すかさず影丸は隠し持っていたくないを投げた。
樹上の襲撃者が体勢を崩して落ちてくる。すかさずその首を柄で殴って気絶させた。残る二人も返す刃で斬りつけ地に倒す。致命傷は与えていないので、命は無事だろう。
ふう、と息をつく。
「影丸、まだだ」
最後にもう一つの気配が現れる。
夜の森の中から現れたのは影丸の弟でもあり、雪隠れの里の頭首でもある夜斗だった。
影丸が家を追われた時に、弟である夜斗がその立場を継いだのだ。
容姿こそ似ていないものの、全く同じ色をした眼差しが重なり合う。
「すごいな。術も持たないのに里の忍びを倒してしまうとは。正直、予想外だったよ」
皮肉を浮かべた笑いを浮かべる。
血こそ繋がっているが、二人の間に肉親の愛情は一切ない。
言葉こそ賞賛を示しているが、夜斗の瞳に宿っているのは影丸への侮蔑、あるいは憎しみだ。
頭首の座を継げなかった影丸への侮蔑は分かる。だが何故憎まれているのか分からない。
夜斗の視線が影丸から、六道へと移る。
「里を逃げ出すことにしたんだね。その、男と」
今度ははっきりと憎しみだけを瞳に灯す。
六道と夜斗に繋がりがあったことに驚く。互いに睨み合う姿に並々ならぬ因縁があることが窺い知れた。
「もう里に戻るつもりは無い」
「そうか」
何が可笑しいのかくくく、と喉の奥で笑う夜斗。
「せいぜい束の間の幸せを。だが、すぐに後悔するだろう。兄上が泣き叫ぶ姿を見る日が楽しみでたまらない」
「何を!?」
「戯言だ、聞き流せ」
ひやりと冷えた六道の言葉が、影丸の問いかけを遮った。
「お前の思う通りにはならん。いつまでも亡者を追うのはよせ」
「貴様がそれを言うのか!? 貴様が!」
それまで笑みを浮かべていた夜斗の表情が一変し、激高した。
男の怒りを目の当たりにしても、六道の冷徹な瞳はわずかほども揺らがなかった。そのまま夜斗から背を向け「ゆくぞ」と影丸の着物を引っ張り、歩き出した。
手を握りしめ、怒りを堪えているらしい夜斗がそれ以上追ってくることはなかった。
しかし影丸の頭には夜斗の放った後悔するだろうという言葉が、嫌な予感と共に妙に印象的に響いた。
里を離れることに未練も、後悔の念も少しも沸かなかった。
師に、あそこの地から連れ出される日を本当は願っていたのかもしれない。
追っ手がかかり辛くなるという理由で、現在住んでいるの奥生国から隣国の由比を目指すことになった。
夜陰に紛れて駆け出した。師の後に続く。見張りの目をかいくぐりながら進む。
里を抜け出してしばらく走っていると、その速度が少し落ちてきたことに気付いた。
先を走る六道を見れば息を乱し、わずかに苦しげである。
「師匠、体調が思わしくないのでは」
先程まではその気配はなかったというのに。少し休みましょうと言う影丸に、六道は頭を振った。
「もう少し距離を稼いでおきたい。せめて夜明けまで」
「分かりました。ですが、無理は禁物ですよ」
森の中を走っていると、後方からこちらに迫ってくる複数の気配を感じた。里を抜け出したことに気付かれ、とうとう追い付かれてしまった。
「来ます!!」
腰の刀を引き抜き、風を切って放たれて来たくないを打ち払う。それは甲高い音を立てて背後の木の幹へ突き刺さる。
「伏せろ、影丸!」
六道の放った雷が襲撃者の傍で弾けた。
その数は三つ。居場所を教えてくれているのだ。
相手が目をくらませた瞬間、すかさず影丸は隠し持っていたくないを投げた。
樹上の襲撃者が体勢を崩して落ちてくる。すかさずその首を柄で殴って気絶させた。残る二人も返す刃で斬りつけ地に倒す。致命傷は与えていないので、命は無事だろう。
ふう、と息をつく。
「影丸、まだだ」
最後にもう一つの気配が現れる。
夜の森の中から現れたのは影丸の弟でもあり、雪隠れの里の頭首でもある夜斗だった。
影丸が家を追われた時に、弟である夜斗がその立場を継いだのだ。
容姿こそ似ていないものの、全く同じ色をした眼差しが重なり合う。
「すごいな。術も持たないのに里の忍びを倒してしまうとは。正直、予想外だったよ」
皮肉を浮かべた笑いを浮かべる。
血こそ繋がっているが、二人の間に肉親の愛情は一切ない。
言葉こそ賞賛を示しているが、夜斗の瞳に宿っているのは影丸への侮蔑、あるいは憎しみだ。
頭首の座を継げなかった影丸への侮蔑は分かる。だが何故憎まれているのか分からない。
夜斗の視線が影丸から、六道へと移る。
「里を逃げ出すことにしたんだね。その、男と」
今度ははっきりと憎しみだけを瞳に灯す。
六道と夜斗に繋がりがあったことに驚く。互いに睨み合う姿に並々ならぬ因縁があることが窺い知れた。
「もう里に戻るつもりは無い」
「そうか」
何が可笑しいのかくくく、と喉の奥で笑う夜斗。
「せいぜい束の間の幸せを。だが、すぐに後悔するだろう。兄上が泣き叫ぶ姿を見る日が楽しみでたまらない」
「何を!?」
「戯言だ、聞き流せ」
ひやりと冷えた六道の言葉が、影丸の問いかけを遮った。
「お前の思う通りにはならん。いつまでも亡者を追うのはよせ」
「貴様がそれを言うのか!? 貴様が!」
それまで笑みを浮かべていた夜斗の表情が一変し、激高した。
男の怒りを目の当たりにしても、六道の冷徹な瞳はわずかほども揺らがなかった。そのまま夜斗から背を向け「ゆくぞ」と影丸の着物を引っ張り、歩き出した。
手を握りしめ、怒りを堪えているらしい夜斗がそれ以上追ってくることはなかった。
しかし影丸の頭には夜斗の放った後悔するだろうという言葉が、嫌な予感と共に妙に印象的に響いた。
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