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大変だ!
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大樹に会った。
記憶の中だけにしか存在しなかった大樹が。本当にいた。多分ネットで事故の記事を読んだときより興奮したと思う。でもいつまでもそこにいるわけにもいかないので俺は後ろ髪を引かれる思いでバイクに跨がりコーポを後にしたのだった。
バイト先に帰ると配達後の作業が待っている。伝票と代金を出していると
「お疲れ様神谷君、初めての配達どうだった?」
バイトの先輩の杉山さんが声を掛けてくれた。彼はバイトを始めてから何かと気に掛けてくれる。
「なんとか行けましたよ。お届け先がコーポで建物も一軒家より大きくてわかりやすかったから助かりました」
緊張した?どんな人だった?俺の反応を知りたいみたいで配達の様子を聞いてくる。杉山さんはさっき処理した伝票を見ながら、あーあのニートっぽいおっさんの家かと言った。
「あの人よく注文してこられるんですか?」
「週に1回くらいは注文が来るよ。いつ行っても「ああ」とか「どうも」くらいしか声聞いたことないけどな」
今日だけじゃなくていつもあんな感じなんだ。不健康そうだったし、心配になってきた。
「杉山さん、俺がいるときに染谷さんから注文入ったら配達行ってもいいですか?」
「いいけど心配だな~、毎回行ったら目をつけられないかさ、神谷君かわいいし」
「何言ってるんですか、俺男ですよ」
そんな会話をしながらも頭の中は大樹のことでいっぱいだった。
バイトを始めて1ヶ月が経ち、その間に大樹の部屋に2回程デリバリーした。相変わらずそっけなく、顔色も良くないし、昔と違い無精ひげのラフすぎる姿の大樹。何があって今の状態なのか少しずつ聞き出すことはできないかな。そう考えていたらまた注文が入った。
もう慣れた大樹のコーポへの道をバイクで走り目的地に到着した。インターフォンを鳴らすと大樹が出てくる。やはりいつも通り、切ってから大分経ったような髪の毛に数日剃っていない髭の彼。代金を受け取ろうと近づく。あれ、いつも顔色は良くないけれど今日は更に青白い気がする。大丈夫ですか?と聞こうとする前に大樹の体がぐらっと揺れた。倒れるすんでの所で堪えたようだけど玄関に座り込んでしまった。これはまずい。
「どこが辛いですか?手を貸しますから横になれるところに行きましょうよ」
「問題ない、いいから放っておいてくれ」
伸ばした手を押し返されたけど懲りずにピザ片手にもう片方の手で大樹の背中をさする。
「ちょっとピザ、玄関に置かせて下さいね。俺の肩に体重掛けていいですよ」
「おい、勝手に入ってくるな、ちょっと待…」
立ち上がろうとしてまたふらつく大樹。
「いいから掴まって下さい!何も悪いことしませんから!名前言います、俺、神谷要、名東大学1年生です」
有無を言わさず大樹の手を俺の肩に乗せ靴を脱ぎ部屋に上がる。短い廊下の右にはバスルームのようなドア、左には簡易キッチン、突き当たりの開いたドアの奥にベッドが見えた。重いけどこれくらいの距離なら大丈夫。それより大樹の体が熱い。
「熱ありますよ、染谷さん。病院行きました?薬もらってます?」
「行ってないし薬もないが、大丈夫だ、もう帰ってくれ」
「大丈夫なわけないじゃないですよ、さっき倒れそうだったじゃないですか!そもそもそんな体調でピザ食べられないでしょ。ちょっと俺、一旦店に帰ってから早退してきます。風邪薬と何か胃に優しそうな食べ物買ってきますから待っててください」
「な、何を勝手なことを」
「じゃあ、すぐ行ってきますからね!」
後ろからまだ何か声が聞こえていたけれど俺は大樹の体の心配でそれどころではなく、返事もせずに店への道を急いだ。
記憶の中だけにしか存在しなかった大樹が。本当にいた。多分ネットで事故の記事を読んだときより興奮したと思う。でもいつまでもそこにいるわけにもいかないので俺は後ろ髪を引かれる思いでバイクに跨がりコーポを後にしたのだった。
バイト先に帰ると配達後の作業が待っている。伝票と代金を出していると
「お疲れ様神谷君、初めての配達どうだった?」
バイトの先輩の杉山さんが声を掛けてくれた。彼はバイトを始めてから何かと気に掛けてくれる。
「なんとか行けましたよ。お届け先がコーポで建物も一軒家より大きくてわかりやすかったから助かりました」
緊張した?どんな人だった?俺の反応を知りたいみたいで配達の様子を聞いてくる。杉山さんはさっき処理した伝票を見ながら、あーあのニートっぽいおっさんの家かと言った。
「あの人よく注文してこられるんですか?」
「週に1回くらいは注文が来るよ。いつ行っても「ああ」とか「どうも」くらいしか声聞いたことないけどな」
今日だけじゃなくていつもあんな感じなんだ。不健康そうだったし、心配になってきた。
「杉山さん、俺がいるときに染谷さんから注文入ったら配達行ってもいいですか?」
「いいけど心配だな~、毎回行ったら目をつけられないかさ、神谷君かわいいし」
「何言ってるんですか、俺男ですよ」
そんな会話をしながらも頭の中は大樹のことでいっぱいだった。
バイトを始めて1ヶ月が経ち、その間に大樹の部屋に2回程デリバリーした。相変わらずそっけなく、顔色も良くないし、昔と違い無精ひげのラフすぎる姿の大樹。何があって今の状態なのか少しずつ聞き出すことはできないかな。そう考えていたらまた注文が入った。
もう慣れた大樹のコーポへの道をバイクで走り目的地に到着した。インターフォンを鳴らすと大樹が出てくる。やはりいつも通り、切ってから大分経ったような髪の毛に数日剃っていない髭の彼。代金を受け取ろうと近づく。あれ、いつも顔色は良くないけれど今日は更に青白い気がする。大丈夫ですか?と聞こうとする前に大樹の体がぐらっと揺れた。倒れるすんでの所で堪えたようだけど玄関に座り込んでしまった。これはまずい。
「どこが辛いですか?手を貸しますから横になれるところに行きましょうよ」
「問題ない、いいから放っておいてくれ」
伸ばした手を押し返されたけど懲りずにピザ片手にもう片方の手で大樹の背中をさする。
「ちょっとピザ、玄関に置かせて下さいね。俺の肩に体重掛けていいですよ」
「おい、勝手に入ってくるな、ちょっと待…」
立ち上がろうとしてまたふらつく大樹。
「いいから掴まって下さい!何も悪いことしませんから!名前言います、俺、神谷要、名東大学1年生です」
有無を言わさず大樹の手を俺の肩に乗せ靴を脱ぎ部屋に上がる。短い廊下の右にはバスルームのようなドア、左には簡易キッチン、突き当たりの開いたドアの奥にベッドが見えた。重いけどこれくらいの距離なら大丈夫。それより大樹の体が熱い。
「熱ありますよ、染谷さん。病院行きました?薬もらってます?」
「行ってないし薬もないが、大丈夫だ、もう帰ってくれ」
「大丈夫なわけないじゃないですよ、さっき倒れそうだったじゃないですか!そもそもそんな体調でピザ食べられないでしょ。ちょっと俺、一旦店に帰ってから早退してきます。風邪薬と何か胃に優しそうな食べ物買ってきますから待っててください」
「な、何を勝手なことを」
「じゃあ、すぐ行ってきますからね!」
後ろからまだ何か声が聞こえていたけれど俺は大樹の体の心配でそれどころではなく、返事もせずに店への道を急いだ。
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