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第56話 吾輩は仏壇なんて知らないのである
しおりを挟むいつものように商店街へ。
すると八百屋から大魔法の呪文が聞こえてくる。
声のする方へ猫足で近づき、家の中を覗きこむと……
「あなか~しこ~あなかし~こ」
俳句大会か?
おかしな着物姿の禿げ頭を先頭に、黒いタンスの前へ正座する八百屋一家。
なんだこの絵面は?
「ここで少し休憩をしましょう」
ハゲがそう言ったら、家族ともども違う部屋へ行ってしまった。
チャーンス!
忍者も羨む軽快な身のこなしで、黒いタンス前へ瞬時に到着する我輩。
しかし思いのほか扉のある位置が高く、中がよく見えない。
トントーンと小さな段差を利用して黒いタンスの上段へと駆けあがる。
するとそこは、金を贅沢に使用した素晴らしい小部屋となっていた。
そこで小さな額縁を発見、よーく見てみると……
やや!?
これは八百屋のジジイではないか?
キサマ死んだのではないのか?
しかもこんな小さくなりおってからに!
その上ガン無視か?
偉くなったもんだなジジイよ!?
ならばと挨拶代わりに爪を立ててガリガリ表面を削る。
が、何の音沙汰もない。
これでもまだダンマリかジジイめがっ!
腹が立ったから額縁ごと下に落としてやった。
その隣にあった黒くて小さい墓石のようなものも序にポイーっと。
それにしてもここは暑いな。
よく見れば左右に蝋燭、下段に火のついた抹茶素麺があるではないか。
先ずは臭い煙をだしながら燃えている素麺を小さい額縁と同じ場所へ捨てる。
そして次は蝋燭だ。
右側はすんなりフッと息で消すことに成功。
そして反対側の蝋燭を消すために振り返ろうと思ったその時!
「ニギャアアアアッ!」
{ガチャガチャガッチャーンッ}
熱い!
蝋燭に尻尾が触れて火の近くから半透明なお湯が降って来た!
不思議な事にソレは我輩の尻辺りに着くと白く固まって取れないではないか?
これには堪らず大慌てで黒いタンスから飛び出す。
そのまま近所の魚屋にある商品が並べられたケース目がけて猛ダッシュ!
丁度店主が居なかったから〝キンメ〟に腰をつけて冷やし、事なきを得た。
折角なので背中のいい部分を齧っておくか。
「あぁっ! 母さんっ! 仏壇の蝋燭が下に落ちて火がっ! しかも滅茶苦茶だぞ!? どうなってるんだこれは?」
などと八百屋の方からパニくった声が聞こえてくるも、我輩には一切関係ない。
それこそジジイの如く無視を決め込む。
尻も大したことはないようなので、帰る事にしよう。
それにしてもキンメの身は美味しいなぁ。
その後、八百屋へは消防車なる赤い大きなトラックが出動して一時騒然となるも、ボヤ程度で済んだと商店街の連中はホッと胸を撫でおろしたそうな。
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