【完結】私を殺したあなたと、あなたを殺した私

ノエル

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9 最終話 前半セイラン視点 後半リヴィア視点

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【セイラン視点】

次の人生──
私は再び王子として生まれた。
両親のつけた名前はセリオスだった。
前の人生の記憶は、物心ついたときからあった。


リヴィア。
あの夜、ベッドで抱き合って眠った君の顔を、私はずっと忘れなかった。

そして、君が最後にくれた言葉も、ちゃんと空から聞いていたんだよ。

「次は、最初からあなたを愛したいわ」

その約束を、今度こそ果たすために。
私はまた生まれてきた。


そして、十五の春。
両親は私に婚約者候補を絞り込んだ。
今日は、その令嬢との正式な対面の日。

顔合わせ会場は王宮の一室。
格式ばった場に、私はどこか緊張しながら扉を開いた。

先に着いていた令嬢が、椅子から立ち上がる。

──その瞬間、時が止まった。

「はじめまして。第一王子、セイランです」

「……はじめまして」

そう言って、彼女は微笑んだ。

──その笑顔を、私は知っている。

何百回、夢の中で呼んだ名前が、喉元までこみ上げる。

けれど彼女は、まるで何も覚えていないように、公爵家の娘らしく、淑やかに頭を下げた。

「リヴィア・カリステアと申します。以後、お見知りおきを」

心臓が跳ねた。

ああ、また君に出会えたんだ。
また君は、リヴィアとして生まれてくれた。

リヴィアという名はよくある名だ。
でも、その名を聞いたときから少し期待していたんだ。

私はその場に立ち尽くしたまま、彼女の名を呼ぶ。

「リヴィア」

彼女がはっと顔を上げる。
その目が、一瞬、深く揺れた。
──記憶の底から、何かがこぼれたように。

私は迷わず言った。

「婚約者は、君に決まりだ」

家臣がざわつくのをよそに、
私はただ、彼女の瞳を見つめていた。

驚きに目を見開いたままのリヴィアが、
ぽつりと、問いかける。


「お名前は確かセリオス様じゃなかったですか?」


私は笑って、こう答えた。

「今、変えたんだよ。昔の名前に。やっと君を見つけたから」





部屋に入ってきた彼を見て、私は一瞬、息を呑んだ。
姿を見た瞬間、理由もなく涙が出そうになった。

「……はじめまして」

名前を聞いた瞬間に、何かがうずいた。

「第一王子、セイランです」

──その名に、懐かしさとも痛みともつかない、言葉にならない何かが、胸を打った。

でも私は、それを自分でも信じようとしなかった。
まさか、そんなはずはない、と。

確か、王子の名前は「セリオス」だったはず。
どういうこと?

「リヴィア・カリステアと申します。以後、お見知りおきを」

口元だけは、礼儀正しく笑ったつもりだった。
けれど、あの人が私の名を呼んだ瞬間──

「リヴィア」

その声を聞いた途端、世界が、音を立てて崩れた。

心の奥で何かがはじけた。
閉じ込めていた記憶が、溢れ出してきた。

──火刑台の前で見た俯いた顔。
──小さな部屋で交わした言葉。
──椅子の上で眠るミラ。
──そして、あの日。私がセイランを裏切ってしまった、あの最期の日。

涙が、頬を伝っていた。
止めようとしても、止まらなかった。

なのに、彼は笑って言った。

「婚約者は、君に決まりだ」

「……お名前は確かセリオス様じゃなかったですか?」

震える声で問いかける私に、彼は静かに、まっすぐに答える。

「今、変えたんだよ。昔の名前に。やっと君を見つけたから」

その言葉に、私のすべてが、崩れた。

私は、ずっと……
ずっと、あなたに会いたかった。
何度も夢に見て、何度も後悔して、
何度、呼びかけても応えてくれなかったあなたに──

今、ようやく、再会できた。

「……やっと、会えたのね」

私は笑った。涙をこぼしながら。
今度は、なんの障害もなく、この人を愛していい。
そう思えた瞬間だった。

「ねえ、セイラン。私、今度こそ……あなたを、ちゃんと愛せる気がする」

彼の目が、大きく見開かれて、それから、優しく細められる。

「今度は、最初から一緒にいよう。何も隠さずに、何も失わずに」

「うん」

「また一緒に猫を飼おうか。ミラという名の」

「飼いたいわ」

私は頷いた。
そして、この手を、彼に差し出す。

それは、百年以上かけて、ようやくつながった手だった。


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