文字の大きさ
大
中
小
507 / 639
14章
656.条約
「あの子は…人族…なんですよね?それとも獣人?そうは見えないけど…」
バイオレッド様が不思議そうに私を見ている。
「もちろん人族です」
ベイカーさんがすかさず答えた。
「それにしては獣人に執着しているような…」
シリウスさんに引っ付いて撫で回している様子に驚いている…やはり人族が獣人を好きなどなかなか受け入れられないのだろう。
「それにシリウスがこんな風に体を触らせることも珍しいな…」
アトラス様が興味深そうにしている。
「その顔を見るに…嫌々やっているわけではないのだな?」
アトラス様がシリウスさんに確認した。
「勿論です。ミヅキにならどんなに触られても嫌ではありません」
シ、シリウスさん!
シリウスさんの言葉にキュンときた!
「それにミヅキは命の恩人ですから」
「え?もしかしてシリウスさんそれ気にしていつも触らせてくれるの?」
まさかそれが理由で無理してるとか…
不安になって撫でる手を止めた。
するとシリウスさんがそっと手を触って自分の耳を触らせる。
「そんな事ない、いつも言ってるだろ?ミヅキにやられて嫌な事などないと…」
「そ、そう?そんな嬉しい事言うと本当に好きにしちゃうよ」
「問題ない」
シリウスさんがいい笑顔で頷いた。
「おい!シリウス!なんだその顔!俺にはそんな顔しないじゃないか!」
黙って見ていたレオンハルト王子がたまらずにシリウスに怒鳴った!
「ミヅキもミヅキだ!そんなにシリウスを触って…」
悔しそうに見つめてくる。
そりゃそうだね、このシリウスさんのふわふわな耳触りたいに決まってるよね…
うんうんわかるよ…
私が一人納得するように頷いていると
「なんかまた、違うことでも考えてるんだろうな…その顔…」
ベイカーさんが一人満足そうな私の笑顔に苦笑した。
「凄く興味深い子だな…君は」
そんな私にアトラス様が優しく笑いかけた。
「よかったら私のも触って見るかい?」
手を差し出してきた!
「いいの!?」
ずっと狙っていた事だけに向こうから言ってくれるとは思わなかった。
思わず反応してしまった。
「ミヅキ、さすがに不味いだろ…」
ベイカーさんが止めるがアトラス様がひょいと私を抱き上げた。
もふもふのたてがみのような髪が目の前にある。
「触っていいぞ」
アトラス様がにっこりと笑った。
いいの?触るよ?
そっと触るとフワッと柔らかい感触がする。
これまた違った感触だ!
私は夢中で髪に顔を埋めた。
こ、これは…何とも言えないいい香り…でも強すぎず弱すぎず…こんなベッドあったら買っちゃうわ~
私は至福の時間を過ごした…
【ミヅキ、帰ってこいっ!】
するとシルバがクイッと私の服を噛んで引っ張った。
「ん?」
見るとシルバが不満そうな顔でこちらを見ている。
【あっ…シルバ嫉妬?もう可愛いなぁ~シルバ達が一番に決まってるのに】
私は苦笑すると
「アトラス様ありがとうございます!助けたお礼しっかりと頂きました」
私はアトラス様にペコッと頭を下げると
「これがお礼でいいのか?」
驚き聞き返す。
「はい!王様に抱っこして貰って触らせて貰うなんてなかなかできませんから!これでどっこいで」
アトラス様に下ろして貰うとシルバに抱きついた。
「それにあのハゲた人捕まえたのアトラス様とヴィーラ様ですからね、私達はロブさんに協力しただけです」
「しかし…」
アトラス様が眉を下げるとロブさんがアトラス様が何か言おうとするのを止めた。
「それでいい、わしらはただ獣人の国が困っていたから少し手を貸しただけだ。それに友を助けるのに礼など要らん!」
ロブさんかっこいい!
「そうですよね!友人を助けるのに理由なんていりませんよ」
ロブさん達を見るとウンウンと頷く。
「じゃああとは、偉い人達に任せて…私達はこれで…」
見合いから退散する仲人の如く部屋からそそくさと退散しようとすると…
「待て!」
あろうことかレオンハルト様に止められた!
ちょっと流れ考えてよ!今すごくスムーズに退散できそうだったのに…
「この後少し話したい…まだ獣人の国にいるよな?」
「えっ?」
私はベイカーさんを見ると
「結構予定より居ちまったからな…あと一日くらいなら」
「だって?」
「よし!じゃあさっさと条約結ぶから夜は一緒に飯を食おう!たまには俺にも時間をくれ!」
えー…どうしよう…
私が迷っていると
「こっちはシリウスとユリウスも来るぞ」
「行きます!」
私はすぐに返答した!
レオンハルト様が自分の言ったことなのに若干傷つきながら肩を落としてアトラス様の方に向かうとアトラス様が同情したように肩を叩いていた。
「じゃあアトラス、また今度な」
ロブさんがアトラス様に手を上げるとアトラス様は仕方なさそうに微笑んで頷くと無言で頭を下げた。
私達はどうにか王宮から脱出すると…
「はぁ!よかった~ロブさんありがとう。変に関わらないですんだよ」
ロブさんに改めてお礼を言った。
「お前達に迷惑かける訳にはいかんからな。で?どうするんだ一度ギルドに帰って休むか?」
「そうだね…なんかどっと疲れたよ。ギルドで少し休んで…その夜はシリウスさん達とご飯だね!」
私が喜ぶと
「レオンハルト様とだろ」
ベイカーさんがため息をついた。
「飯が食えるならなんでもいいや」
アランさんは早速夜のご飯が何になるのか気になっているようだ。
ミヅキ達が帰ったあとでアトラス達獣人とレオンハルト王子達のウエスト国の条約は滞りなく行われた。
「本当に大丈夫なのか?反対するものは?」
レオンハルトが再度確認すると
「王宮内は満場一致です。皆あの戦いを見た後ですからね、大臣側に付いてた者達も軽く洗脳されていたようで徐々に正気を取り戻しています」
「それはよかったです。戻らない方がいるなら私も力をお貸ししますよ」
アルフノーヴァが微笑むと
「ありがとう、その時はよろしく頼む」
アトラス様が頭を軽く下げた。
「では…」
アルフノーヴァが誓約聖書を取り出す、それにレオンハルトとアトラスが手を置き条約は交わされた。
「これを使えばウエスト国内でも獣人達が住みやすくなりますね」
「よかったな」
レオンハルトはシリウスとユリウスの方を振り返る。
二人は驚いた顔をしたがミヅキにする様に嬉しそうにレオンハルト王子を見つめかえした。
バイオレッド様が不思議そうに私を見ている。
「もちろん人族です」
ベイカーさんがすかさず答えた。
「それにしては獣人に執着しているような…」
シリウスさんに引っ付いて撫で回している様子に驚いている…やはり人族が獣人を好きなどなかなか受け入れられないのだろう。
「それにシリウスがこんな風に体を触らせることも珍しいな…」
アトラス様が興味深そうにしている。
「その顔を見るに…嫌々やっているわけではないのだな?」
アトラス様がシリウスさんに確認した。
「勿論です。ミヅキにならどんなに触られても嫌ではありません」
シ、シリウスさん!
シリウスさんの言葉にキュンときた!
「それにミヅキは命の恩人ですから」
「え?もしかしてシリウスさんそれ気にしていつも触らせてくれるの?」
まさかそれが理由で無理してるとか…
不安になって撫でる手を止めた。
するとシリウスさんがそっと手を触って自分の耳を触らせる。
「そんな事ない、いつも言ってるだろ?ミヅキにやられて嫌な事などないと…」
「そ、そう?そんな嬉しい事言うと本当に好きにしちゃうよ」
「問題ない」
シリウスさんがいい笑顔で頷いた。
「おい!シリウス!なんだその顔!俺にはそんな顔しないじゃないか!」
黙って見ていたレオンハルト王子がたまらずにシリウスに怒鳴った!
「ミヅキもミヅキだ!そんなにシリウスを触って…」
悔しそうに見つめてくる。
そりゃそうだね、このシリウスさんのふわふわな耳触りたいに決まってるよね…
うんうんわかるよ…
私が一人納得するように頷いていると
「なんかまた、違うことでも考えてるんだろうな…その顔…」
ベイカーさんが一人満足そうな私の笑顔に苦笑した。
「凄く興味深い子だな…君は」
そんな私にアトラス様が優しく笑いかけた。
「よかったら私のも触って見るかい?」
手を差し出してきた!
「いいの!?」
ずっと狙っていた事だけに向こうから言ってくれるとは思わなかった。
思わず反応してしまった。
「ミヅキ、さすがに不味いだろ…」
ベイカーさんが止めるがアトラス様がひょいと私を抱き上げた。
もふもふのたてがみのような髪が目の前にある。
「触っていいぞ」
アトラス様がにっこりと笑った。
いいの?触るよ?
そっと触るとフワッと柔らかい感触がする。
これまた違った感触だ!
私は夢中で髪に顔を埋めた。
こ、これは…何とも言えないいい香り…でも強すぎず弱すぎず…こんなベッドあったら買っちゃうわ~
私は至福の時間を過ごした…
【ミヅキ、帰ってこいっ!】
するとシルバがクイッと私の服を噛んで引っ張った。
「ん?」
見るとシルバが不満そうな顔でこちらを見ている。
【あっ…シルバ嫉妬?もう可愛いなぁ~シルバ達が一番に決まってるのに】
私は苦笑すると
「アトラス様ありがとうございます!助けたお礼しっかりと頂きました」
私はアトラス様にペコッと頭を下げると
「これがお礼でいいのか?」
驚き聞き返す。
「はい!王様に抱っこして貰って触らせて貰うなんてなかなかできませんから!これでどっこいで」
アトラス様に下ろして貰うとシルバに抱きついた。
「それにあのハゲた人捕まえたのアトラス様とヴィーラ様ですからね、私達はロブさんに協力しただけです」
「しかし…」
アトラス様が眉を下げるとロブさんがアトラス様が何か言おうとするのを止めた。
「それでいい、わしらはただ獣人の国が困っていたから少し手を貸しただけだ。それに友を助けるのに礼など要らん!」
ロブさんかっこいい!
「そうですよね!友人を助けるのに理由なんていりませんよ」
ロブさん達を見るとウンウンと頷く。
「じゃああとは、偉い人達に任せて…私達はこれで…」
見合いから退散する仲人の如く部屋からそそくさと退散しようとすると…
「待て!」
あろうことかレオンハルト様に止められた!
ちょっと流れ考えてよ!今すごくスムーズに退散できそうだったのに…
「この後少し話したい…まだ獣人の国にいるよな?」
「えっ?」
私はベイカーさんを見ると
「結構予定より居ちまったからな…あと一日くらいなら」
「だって?」
「よし!じゃあさっさと条約結ぶから夜は一緒に飯を食おう!たまには俺にも時間をくれ!」
えー…どうしよう…
私が迷っていると
「こっちはシリウスとユリウスも来るぞ」
「行きます!」
私はすぐに返答した!
レオンハルト様が自分の言ったことなのに若干傷つきながら肩を落としてアトラス様の方に向かうとアトラス様が同情したように肩を叩いていた。
「じゃあアトラス、また今度な」
ロブさんがアトラス様に手を上げるとアトラス様は仕方なさそうに微笑んで頷くと無言で頭を下げた。
私達はどうにか王宮から脱出すると…
「はぁ!よかった~ロブさんありがとう。変に関わらないですんだよ」
ロブさんに改めてお礼を言った。
「お前達に迷惑かける訳にはいかんからな。で?どうするんだ一度ギルドに帰って休むか?」
「そうだね…なんかどっと疲れたよ。ギルドで少し休んで…その夜はシリウスさん達とご飯だね!」
私が喜ぶと
「レオンハルト様とだろ」
ベイカーさんがため息をついた。
「飯が食えるならなんでもいいや」
アランさんは早速夜のご飯が何になるのか気になっているようだ。
ミヅキ達が帰ったあとでアトラス達獣人とレオンハルト王子達のウエスト国の条約は滞りなく行われた。
「本当に大丈夫なのか?反対するものは?」
レオンハルトが再度確認すると
「王宮内は満場一致です。皆あの戦いを見た後ですからね、大臣側に付いてた者達も軽く洗脳されていたようで徐々に正気を取り戻しています」
「それはよかったです。戻らない方がいるなら私も力をお貸ししますよ」
アルフノーヴァが微笑むと
「ありがとう、その時はよろしく頼む」
アトラス様が頭を軽く下げた。
「では…」
アルフノーヴァが誓約聖書を取り出す、それにレオンハルトとアトラスが手を置き条約は交わされた。
「これを使えばウエスト国内でも獣人達が住みやすくなりますね」
「よかったな」
レオンハルトはシリウスとユリウスの方を振り返る。
二人は驚いた顔をしたがミヅキにする様に嬉しそうにレオンハルト王子を見つめかえした。
感想 6,830
あなたにおすすめの小説
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(完結済ー本編16話+後日談6話)
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
一妻多夫の獣人世界でマッチングアプリします♡
具なっしー前世の記憶を持つソフィアは、綿菓子のような虹色の髪を持つオコジョ獣人の令嬢。
この世界では男女比が極端に偏っており、女性が複数の夫を持つ「一妻多夫制」が当たり前。でも、前世日本人だったソフィアには、一人の人を愛する感覚しかなくて……。
そんな私に、20人の父様たちは「施設(強制繁殖システム)送り」を避けるため、マッチングアプリを始めさせた。
最初は戸惑いながらも、出会った男性たちはみんな魅力的で、優しくて、一途で――。
■ 大人の余裕とちょっと意地悪な研究者
■ 不器用だけど一途な騎士
■ ぶっきらぼうだけど優しい元義賊
■ 完璧主義だけど私にだけ甘えん坊な商人
■ 超ピュアなジムインストラクター
■ コミュ力高めで超甘々なパティシエ
■ 私に一生懸命な天才年下魔法学者
気づけば7人全員と婚約していた!?
「私達はきっと良い家族になれます!」
これは、一人の少女と七人(…)の婚約者たちが、愛と絆を育んでいく、ちょっと甘くて笑える逆ハーレム・ラブコメディ。
という異世界×獣人×一妻多夫×マッチングアプリの、設定盛りだくさんな話。超ご都合主義なので苦手な人は注意!
※表紙はAIです
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。