[完]異世界銭湯

18

「でしょ？だからリザちゃんもリラックスしてここではゆっくり楽しんでね。今からリザちゃんは領主の娘じゃなくてただのリザちゃんだよ」

「じゃあ一人で洗うのも大きな声出したりするのもここならいいの？」

「大きな声はマナー違反になっちゃうかな、でも少しなら大丈夫だよ。そうだ聞いてて！」

私は立ち上がると男湯の方に向かって声をかけた。

「ライリーさーん、そっちはどうですか？」

「おーその声はマキさんかな？相変わらずいい気持ちだー」

「え！声がする」

驚くリザちゃんに笑いかける。

「男湯と壁一枚で繋がってるんだよ。今なら向こうにジムさんもいるんじゃない？」

「お父さんが…」

リザちゃんは少し躊躇って緊張しているようだった。

なので代わりに私が声をかける。

「ジムさーん、湯加減どうですか？」

「マキさん、とてもいいです。ところでリザは大丈夫かな？」

心配そうなジムさんの声が返ってきた。
リザちゃんになにか言ってとジェスチャーするが嫌だと無言で首をブンブンと振っている。

なので私からまた返事を返した。

「リザちゃんになにかおすすめを教えてあげてください」

「そうだな…リザ、リンスを是非使ってみなさい驚くよ」

ジムさんの楽しそうな声にリザちゃんはなにか言いたそうにするがじっと堪えて口を閉じた。

まだまだ心がほぐれきって無いようだ。

「さぁリザちゃん私達も洗って入ろう。お父さんのおすすめのリンスも教えてあげる」

リザちゃんは頷いてまた椅子に腰掛けた。

「じゃあ洗おっか、さっき見せたみたいに泡立てて体を洗うんだよ」

私はネットを泡立てると腕から洗い出す、するとそれを見ながらリザちゃんが同じように真似をした。

最後に背中を洗おうと私はリザちゃんの方を向いた。

「な、何かしら？」

「銭湯では背中を洗い合うんだよ」

「背中？」

「そう、自分じゃ洗えないでしょ？だからお互い洗い合うの、まずは私がリザちゃんの洗ってあげるから次は私のを洗ってね」

リザちゃんの小さい背中はあっという間に洗い終わる。

そして私の背中を見せるとリザちゃんは立ち上がって一生懸命擦ってくれた。

「ありがとうー気持ちいいよ、お母さんが来たら洗ってあげてね」

「わ、私が！？」

「そうだよ、背中を洗うのは小さい子の役目だからね」

本当はそんな事ないがこのくらいの嘘は許してもらおう。

そのあとはシャンプーを教えてあげて髪の泡を流すといよいよジムさんのおすすめのリンスをつける。

「髪に馴染ませるように付けてしばらくしたら洗い流してね」

リザちゃんは髪を全部前に垂らしてゆっくりとリンスを付けていた。

そして言われた通りに少し置いて洗い流す。

「わ！すごいサラサラになった…」

「触らせて、わー！本当にリザちゃんサラサラ」

細い子供の髪がさらに指通りがなめらかになっていた。

「これは乾かしたら気持ちいいだろうな。じゃあお湯に浸からないように束ねておこうね」

私はリザちゃんの長い髪をお団子状にしてあげる。

「じゃあいよいよお湯に入ろっか！」

私が滑らないようにとリザちゃんに手を差し出した。

「広い！」

リザちゃんは湯船の大きさに圧倒されて差し出された手に戸惑うことなく手を置いた。

私は小さな手を掴んで一緒に湯船に足をつけた。