Escape ――崩壊後の世界だと思ってたら、命が数値化されない本物のサバイバルだった件

AZ Creation

文字の大きさ
8 / 10

第8話 「慣れ」

しおりを挟む
 二度目のレイドは、最初ほど緊張しなかった。

 それに気づいた瞬間、私は自分を少しだけ疑った。
 緊張しないことは、良い兆候でもあり、悪い兆候でもある。

 準備は早かった。
 棚ができたおかげで、必要なものがすぐに見つかる。
 包帯、凝固剤、予備の水。
 前回と同じ構成。増やしていない。

 私は、装備を整えながら、自然と「戻るルート」を考えていた。
 侵入経路。
 遮蔽物。
 脱出地点までの距離。

 前回は、すべてが未知だった。
 今回は、少なくとも「知っている場所」がある。

 それが、油断につながらなければいい。

 待機所に集まった班の顔ぶれは、前回とほぼ同じだった。
 短髪の男もいる。
 彼は私を見ると、小さく頷いた。

 それだけで、十分だった。

 ゲートが開く。
 音。
 風。

 私は、前よりも一歩だけ深く息を吸った。
 肺が、ちゃんと動く。

 閉鎖区域に入ると、世界は前回と同じ顔をしていた。
 同じ建物。
 同じ道路。
 同じ崩れ方。

 それでも、違って見える。

 私は、足音の反響を前回より正確に捉えていた。
 この床材は、音が広がる。
 この壁際は、反射が強い。

 身体が、少しだけ学習している。

 短髪の男が、進路を変える。
 前回は通らなかった道だ。

 私は、その理由を考える。
 ――視界が広い。
 ――逃げ場が多い。
 ――音が分散する。

 なるほど、と心の中で頷く。

 倉庫街に入る。
 私は、前回と違う倉庫を選んだ。

 理由は単純だ。
 前回、人が通っていた形跡がある場所は、次も危険だ。

 シャッターが半分閉じた倉庫。
 隙間は狭いが、入れる。

 私は、しゃがんで中を覗いた。
 暗い。
 だが、匂いは薄い。

 中へ入る。

 床に落ちているのは、木箱と、割れたプラスチックケース。
 私は、まず天井を見る。
 動く影はない。

 木箱を開ける。
 中には、古い医療キットがあった。
 未使用ではない。
 だが、まだ使える。

 私は、少し迷ってから、それを取った。

 医療品は、次につながる。
 それだけで、持ち帰る価値がある。

 プラスチックケースには、電子部品が入っていた。
 基板。
 小型の端末。
 状態は悪くない。

 私は、すぐに重量を計算する。
 走れるか。
 戻れるか。

 問題ない。

 リュックに入れた瞬間、外で足音がした。
 一人。
 ゆっくり。

 私は、動かない。
 呼吸を浅くする。

 足音は、倉庫の前で止まった。
 誰かが、外を見ている。

 ――気づかれたか?

 私は、出口の位置を確認する。
 反対側に、小さな隙間がある。

 足音が、離れた。

 私は、その瞬間を逃さず、倉庫を出た。
 音を立てない。
 走らない。

 合流地点に戻ると、短髪の男が一瞬だけ眉を上げた。
 ――拾えたな。

 私は、ほんの少しだけ頷いた。

 移動は順調だった。
 衝突はない。
 気配はあるが、距離がある。

 脱出地点が見えたとき、私は前回より冷静だった。
 開けた場所。
 遮蔽物の位置。

 配置が、頭に入っている。

 短髪の男が合図を出す。
 全員、散開。

 私は、フェンスの影に入り、視線を固定した。
 音はない。
 気配もない。

 指定範囲へ。
 動かない。

 時間が流れる。
 今回は、長く感じない。

 無線が鳴る。
 一回。

 成功。

 私は、静かに息を吐いた。

 戻る途中、ふと思う。
 ――前回より、楽だった。

 それは、成長だ。
 だが同時に、慣れでもある。

 慣れは、判断を速くする。
 そして、死を近づける。

 スタッシュに戻ると、棚が少しだけ埋まった。
 医療キット。
 電子部品。

 私は、それらを並べながら、意識して一つだけ自分に言い聞かせた。

 慣れたと思った瞬間が、一番危ない。

 だから私は、次も、慎重に行く。

 ――戻るために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...