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第7話 「拠点」
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ハイドアウトと呼ばれる場所は、私が想像していたよりも、ずっと素っ気なかった。
コンクリート打ちっぱなしの部屋。
窓は小さく、外の光はほとんど入らない。
天井の配線は露出したままで、ところどころが黒く焼けている。
安全、という言葉から連想する要素は、ほとんどない。
だが、撃たれない。
追われない。
それだけで、この場所は「外」とは明確に違っていた。
私は入口を閉め、鍵をかけた。
金属音が、やけに大きく響く。
室内にあるのは、簡易ベッドと、作業台らしき鉄の台、それから床に直置きされた空の棚枠。
棚枠、と言っても、ただの骨組みだ。
板も、固定具もない。
私はリュックを下ろし、スタッシュから持ち帰った物を床に並べた。
ネジ。
配線。
バッテリー。
どれも、小さくて地味だ。
だが、この空間では、やけに存在感がある。
作業台に近づき、表面を指でなぞる。
油と錆の感触。
使われていた時代の名残。
壁際に寄せられたマニュアルを手に取る。
ページは擦り切れ、ところどころが破れている。
だが、図は分かりやすい。
――棚の組み方。
私は小さく息を吐いた。
銃の扱い方でも、戦闘のコツでもない。
最初に必要なのが、これなのか。
床にしゃがみ込み、棚枠を立てる。
ネジを一本、指でつまむ。
長さを確かめる。
ドライバーは、作業台の下にあった。
持ち手は欠けているが、使える。
ネジを締める。
きし、と金属が鳴る。
私は動きを止めた。
音が、耳に残る。
ここは安全だ。
だが、体はまだ「中」にいる。
少し間を置いて、もう一度締める。
今度は、音が小さい。
私は、その差に満足した。
こういう積み重ねが、生き残ることに直結する。
棚は、一段だけの簡単なものだった。
だが、床に直置きするより、ずっといい。
配線を使って、作業台の照明を安定させる。
バッテリーを繋ぐと、光が途切れなくなった。
部屋が、少しだけ「使える場所」になる。
私は、完成した棚に、スタッシュから持ってきた物を置いた。
順番を考える。
すぐ使う物。
次に使う物。
まだ使わない物。
整理するだけで、頭の中も整う。
ベッドに腰を下ろし、壁にもたれた。
背中に、冷たい感触。
ようやく、緊張が抜けてきた。
私は、天井の配線を見上げながら、考える。
次は、何が必要か。
収納。
照明。
作業スペース。
それらはすべて、
外へ行く理由になる。
ハイドアウトは、休む場所じゃない。
ここは、次のレイドを決める場所だ。
私は、棚に置いたネジの袋を一度持ち上げ、また戻した。
減っている。
だが、その減り方は、悪くない。
失ったわけじゃない。
形を変えただけだ。
私は、ふと笑いそうになるのをこらえた。
この世界に来てから、初めての感覚だ。
――残せた。
――変えられた。
それは、どこか懐かしい感覚でもあった。
だが、そこまで考えて、私は首を振る。
今は、まだ、過去に触れる時じゃない。
ハイドアウトの扉を見た。
外は、まだ崩壊したままだ。
私は、もう一度、そこへ行く。
次は、もう少し準備を整えて。
棚の前に立ち、手のひらを置く。
冷たい。
だが、確かだ。
この場所がある限り、
私は、戻ってくる。
戻ってきて、
また、積み上げる。
それが、この世界で生きるということだ。
コンクリート打ちっぱなしの部屋。
窓は小さく、外の光はほとんど入らない。
天井の配線は露出したままで、ところどころが黒く焼けている。
安全、という言葉から連想する要素は、ほとんどない。
だが、撃たれない。
追われない。
それだけで、この場所は「外」とは明確に違っていた。
私は入口を閉め、鍵をかけた。
金属音が、やけに大きく響く。
室内にあるのは、簡易ベッドと、作業台らしき鉄の台、それから床に直置きされた空の棚枠。
棚枠、と言っても、ただの骨組みだ。
板も、固定具もない。
私はリュックを下ろし、スタッシュから持ち帰った物を床に並べた。
ネジ。
配線。
バッテリー。
どれも、小さくて地味だ。
だが、この空間では、やけに存在感がある。
作業台に近づき、表面を指でなぞる。
油と錆の感触。
使われていた時代の名残。
壁際に寄せられたマニュアルを手に取る。
ページは擦り切れ、ところどころが破れている。
だが、図は分かりやすい。
――棚の組み方。
私は小さく息を吐いた。
銃の扱い方でも、戦闘のコツでもない。
最初に必要なのが、これなのか。
床にしゃがみ込み、棚枠を立てる。
ネジを一本、指でつまむ。
長さを確かめる。
ドライバーは、作業台の下にあった。
持ち手は欠けているが、使える。
ネジを締める。
きし、と金属が鳴る。
私は動きを止めた。
音が、耳に残る。
ここは安全だ。
だが、体はまだ「中」にいる。
少し間を置いて、もう一度締める。
今度は、音が小さい。
私は、その差に満足した。
こういう積み重ねが、生き残ることに直結する。
棚は、一段だけの簡単なものだった。
だが、床に直置きするより、ずっといい。
配線を使って、作業台の照明を安定させる。
バッテリーを繋ぐと、光が途切れなくなった。
部屋が、少しだけ「使える場所」になる。
私は、完成した棚に、スタッシュから持ってきた物を置いた。
順番を考える。
すぐ使う物。
次に使う物。
まだ使わない物。
整理するだけで、頭の中も整う。
ベッドに腰を下ろし、壁にもたれた。
背中に、冷たい感触。
ようやく、緊張が抜けてきた。
私は、天井の配線を見上げながら、考える。
次は、何が必要か。
収納。
照明。
作業スペース。
それらはすべて、
外へ行く理由になる。
ハイドアウトは、休む場所じゃない。
ここは、次のレイドを決める場所だ。
私は、棚に置いたネジの袋を一度持ち上げ、また戻した。
減っている。
だが、その減り方は、悪くない。
失ったわけじゃない。
形を変えただけだ。
私は、ふと笑いそうになるのをこらえた。
この世界に来てから、初めての感覚だ。
――残せた。
――変えられた。
それは、どこか懐かしい感覚でもあった。
だが、そこまで考えて、私は首を振る。
今は、まだ、過去に触れる時じゃない。
ハイドアウトの扉を見た。
外は、まだ崩壊したままだ。
私は、もう一度、そこへ行く。
次は、もう少し準備を整えて。
棚の前に立ち、手のひらを置く。
冷たい。
だが、確かだ。
この場所がある限り、
私は、戻ってくる。
戻ってきて、
また、積み上げる。
それが、この世界で生きるということだ。
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