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第9話 「失う」
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三度目のレイドは、計画通りに始まった。
侵入経路は前回と同じ。
時間帯も、気温も、ほとんど変わらない。
準備も、十分だった。
私は、リュックの中身をもう一度思い出す。
医療キット。
電子部品。
予備の包帯。
欲張ってはいない。
戻れる重さだ。
それでも――胸の奥に、落ち着かない感覚があった。
理由は分からない。
数字にできない。
言葉にもならない。
私は、その違和感を無視しなかった。
無線を確認し、足元を確かめ、周囲を見る。
問題はない。
短髪の男が、進路を示す。
私は、それに従った。
建物の影に入ったときだった。
遠くで、乾いた音がした。
銃声。
前回までは、聞こえなかった音だ。
短髪の男が、即座に合図を出す。
停止。
伏せ。
私たちは、瓦礫の影に身を隠す。
音は、単発。
続かない。
誰かが、別の誰かと遭遇した。
それだけだ。
問題は、距離だった。
音は、近い。
こちらへ来る可能性がある。
短髪の男が、撤退を示す。
早い判断。
正しい判断。
私は、すぐに動いた。
だが、その瞬間――足元で、嫌な感触がした。
金属が、わずかに動く。
次の瞬間、鋭い音。
――罠。
床に仕掛けられていた、簡易的な警報装置だった。
大きな音ではない。
だが、この距離では十分すぎる。
短髪の男が振り返る。
目が、ほんの一瞬だけ見開かれる。
遅れは、一拍。
それだけで、状況が変わる。
遠くの足音が、速くなる。
こちらを向いた。
「走るぞ!」
誰かが、初めて声を出した。
私は走った。
全力ではない。
戻るための速度。
だが、背後で、何かが弾ける音がした。
銃声。
近い。
私は、身体を捻り、壁に飛び込んだ。
衝撃。
肩が、焼けるように痛む。
倒れない。
倒れたら、終わる。
私は、歯を食いしばり、立ち上がった。
だが、走ろうとした瞬間、足がもつれた。
重い。
リュックが、重すぎる。
私は、一瞬だけ迷った。
――捨てるか?
医療キット。
電子部品。
ここまで積み上げたもの。
短髪の男が、前方で振り返る。
彼の視線が、私のリュックを見る。
言葉はない。
だが、意味は伝わる。
――今だ。
私は、リュックの留め具に手をかけた。
そして、止めた。
捨てれば、走れる。
だが、捨てたら――何も残らない。
判断は、ほんの一瞬だった。
私は、脇道に飛び込んだ。
狭い通路。
身体が擦れる。
銃声が、もう一度。
壁が砕ける。
私は、転がるように逃げた。
だが、その先にあったのは――行き止まりだった。
一瞬、世界が止まる。
逃げ場がない。
私は、息を吸い、吐く。
心臓が、耳の内側で鳴る。
足音が近づく。
一人。
確実に。
私は、リュックを下ろした。
ゆっくりと。
床に置いた瞬間、身体が軽くなる。
それでも、もう遅い。
影が、入口に現れる。
私は、武器を構えなかった。
構えても、意味がない。
相手の銃口が、こちらを向く。
引き金が引かれる前に、私は目を閉じた。
――ああ。
――また、持ち帰れなかった。
そう思った瞬間、衝撃が走った。
痛み。
音。
そして、暗転。
次に目を開けたとき、私は待機所にいた。
床に座り込み、息を荒くしている。
身体は、無傷だった。
周囲に、人がいる。
声が、遠い。
係員が言う。
「負傷判定は軽度。離脱扱いだ」
離脱。
生存。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
だが、背中が――軽い。
リュックが、ない。
スタッシュに戻っても、棚は空だった。
医療キットも。
電子部品も。
持ち帰れなかった。
私は、その場に立ち尽くす。
判断は、間違っていなかった。
撤退は、正しかった。
動きも、悪くなかった。
それでも、失った。
係員が、淡々と告げる。
「この結果は、記録される」
私は、何も答えなかった。
スタッシュの空を見つめながら、胸の奥に、古い感覚が蘇る。
――あのときも、そうだった。
正しかった。
それでも、失った。
私は、棚に手を置く。
冷たい。
何も、残っていない。
この世界では、
正しい判断でも、すべては守れない。
それを、ようやく思い知った。
侵入経路は前回と同じ。
時間帯も、気温も、ほとんど変わらない。
準備も、十分だった。
私は、リュックの中身をもう一度思い出す。
医療キット。
電子部品。
予備の包帯。
欲張ってはいない。
戻れる重さだ。
それでも――胸の奥に、落ち着かない感覚があった。
理由は分からない。
数字にできない。
言葉にもならない。
私は、その違和感を無視しなかった。
無線を確認し、足元を確かめ、周囲を見る。
問題はない。
短髪の男が、進路を示す。
私は、それに従った。
建物の影に入ったときだった。
遠くで、乾いた音がした。
銃声。
前回までは、聞こえなかった音だ。
短髪の男が、即座に合図を出す。
停止。
伏せ。
私たちは、瓦礫の影に身を隠す。
音は、単発。
続かない。
誰かが、別の誰かと遭遇した。
それだけだ。
問題は、距離だった。
音は、近い。
こちらへ来る可能性がある。
短髪の男が、撤退を示す。
早い判断。
正しい判断。
私は、すぐに動いた。
だが、その瞬間――足元で、嫌な感触がした。
金属が、わずかに動く。
次の瞬間、鋭い音。
――罠。
床に仕掛けられていた、簡易的な警報装置だった。
大きな音ではない。
だが、この距離では十分すぎる。
短髪の男が振り返る。
目が、ほんの一瞬だけ見開かれる。
遅れは、一拍。
それだけで、状況が変わる。
遠くの足音が、速くなる。
こちらを向いた。
「走るぞ!」
誰かが、初めて声を出した。
私は走った。
全力ではない。
戻るための速度。
だが、背後で、何かが弾ける音がした。
銃声。
近い。
私は、身体を捻り、壁に飛び込んだ。
衝撃。
肩が、焼けるように痛む。
倒れない。
倒れたら、終わる。
私は、歯を食いしばり、立ち上がった。
だが、走ろうとした瞬間、足がもつれた。
重い。
リュックが、重すぎる。
私は、一瞬だけ迷った。
――捨てるか?
医療キット。
電子部品。
ここまで積み上げたもの。
短髪の男が、前方で振り返る。
彼の視線が、私のリュックを見る。
言葉はない。
だが、意味は伝わる。
――今だ。
私は、リュックの留め具に手をかけた。
そして、止めた。
捨てれば、走れる。
だが、捨てたら――何も残らない。
判断は、ほんの一瞬だった。
私は、脇道に飛び込んだ。
狭い通路。
身体が擦れる。
銃声が、もう一度。
壁が砕ける。
私は、転がるように逃げた。
だが、その先にあったのは――行き止まりだった。
一瞬、世界が止まる。
逃げ場がない。
私は、息を吸い、吐く。
心臓が、耳の内側で鳴る。
足音が近づく。
一人。
確実に。
私は、リュックを下ろした。
ゆっくりと。
床に置いた瞬間、身体が軽くなる。
それでも、もう遅い。
影が、入口に現れる。
私は、武器を構えなかった。
構えても、意味がない。
相手の銃口が、こちらを向く。
引き金が引かれる前に、私は目を閉じた。
――ああ。
――また、持ち帰れなかった。
そう思った瞬間、衝撃が走った。
痛み。
音。
そして、暗転。
次に目を開けたとき、私は待機所にいた。
床に座り込み、息を荒くしている。
身体は、無傷だった。
周囲に、人がいる。
声が、遠い。
係員が言う。
「負傷判定は軽度。離脱扱いだ」
離脱。
生存。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
だが、背中が――軽い。
リュックが、ない。
スタッシュに戻っても、棚は空だった。
医療キットも。
電子部品も。
持ち帰れなかった。
私は、その場に立ち尽くす。
判断は、間違っていなかった。
撤退は、正しかった。
動きも、悪くなかった。
それでも、失った。
係員が、淡々と告げる。
「この結果は、記録される」
私は、何も答えなかった。
スタッシュの空を見つめながら、胸の奥に、古い感覚が蘇る。
――あのときも、そうだった。
正しかった。
それでも、失った。
私は、棚に手を置く。
冷たい。
何も、残っていない。
この世界では、
正しい判断でも、すべては守れない。
それを、ようやく思い知った。
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