AFTER ZERO:Crisis Ⅳ ~定義される歪み~

AZ Creation

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第16章|検証プロトコル

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ORBITの穴は、静かだった。

空気が薄い。
温度が一定しない。
金属が、微妙に歪んでいる。

世界の裂け目。

崩壊後に残った廃墟とは違う。

ここは“再建の外側”だ。

GENESISが設計できなかった場所。

だから。

Δが息をする。

セイルが足を止め、周囲を見回す。

「……ここなら追跡ログが薄れる」

ユウが肩に担いだアルトを下ろす。

アルトは膝をつき、息を吐きながら笑った。

「……最悪だな」

「管理の外側に逃げて」

「管理に追われる」

シオンはその言葉を否定できなかった。

逃げた先が安全とは限らない。

むしろ穴は危険だ。

でも――

安全な場所なんて、この世界にない。

レムが小さく呟く。

「……ここ」

「ぼく、少し楽」

シオンが目を細める。

存在揺らぎの子が“楽”と言う場所。

それはつまり。

ここは“いないこと”が自然な場所だ。

それ自体が恐ろしい。

セイルが端末を起動する。

画面には、いくつもの項目が並んでいた。

《異常現象:Δ》
《観測ログ:断続》
《発生条件:未確定》
《代償:帳尻合わせ》
《拡散:連鎖》

アルトが顔を上げた。

目が少し戻っている。

判断が、少しだけ繋がる。

「……検証が必要だ」

ユウが眉を寄せる。

「検証って言ってもな」

「俺ら、学者じゃねえ」

アルトは静かに言った。

「学者じゃないから」

「現場で確かめる」

それは、BORDER REMAINSらしい答えだった。

机上で理解できるなら、世界は壊れていない。

壊れているから、現場で拾うしかない。

シオンは息を吸い、短く言う。

「ルールを掴む」

「そうしないと」

「救える未来が、一本も残らない」

その言葉に、ユウが黙った。

ユウはいつも、口で理屈を言わない。

でも痛みは分かっている。

救えなかった時の目を、知っている。

セイルが端末を見ながら、淡々と告げる。

「検証プロトコルを組む」

「ここでやるべきことは四つだ」

床の埃の上に、指で線を引く。

一本、一本。

まるで地図を描くように。

「一つ」

「Δは自発的には使えない」

「だが発生を“感じた時”に、宣言はできる」

シオンが頷く。

――ルールB。

能力名を短く宣言する。

叫びじゃなくてもいい。
でも“認識する”必要がある。

読者にも、仲間にも、分かるように。

「二つ」

「発動条件は状況依存」

「発動は意思ではなく“結果”」

ユウが吐き捨てる。

「つまり、勝手に起こる」

アルトが続ける。

「勝手に起こるけど」

「勝手に起こる状況を作れる」

ユウが眉を寄せる。

「……誘導できるってことか?」

アルトが頷く。

「そう」

「狙うんじゃない」

「寄せる」

シオンが胸を押さえた。

寄せる。

代償も寄せられる。

それは罪だ。

でも戦うなら必要だ。

「三つ」

セイルが続ける。

「代償はランダムじゃない」

「歪みに返る」

ユウが呟く。

「穴に流れる」

アルトは顔を歪めた。

「管理が届かない場所に」

「帳尻が集まる」

シオンは理解する。

だからORBITは危険。

代償が集まる。

裂け目が裂け目を呼ぶ。

「四つ」

セイルの声が少し低くなる。

「敵がいる」

「Δを“兵器化”する側だ」

ユウが鼻で笑う。

「もういるだろ」

「ヴェルナーが」

アルトは首を振る。

「ヴェルナーは削除担当」

「兵器化担当じゃない」

「兵器化担当が来たら」

「戦争になる」

シオンが息を吸う。

カリナ。

ラザル。

Θ07。

敵のΔが揃えば、世界は管理よりΔを優先する。

そして――

評価値の時代が終わる。

Δ適合値の時代が来る。

それは救済じゃない。

狩りだ。

ユウが腕を組んだ。

「で」

「どう検証する?」

セイルが端末を見せる。

画面には、地図が出ていた。

ORBIT穴の内部。

いくつかのポイントが光っている。

「ここに“異常反応”がある」

「遺物の残骸が散っている場所だ」

アルトがすぐに言う。

「そこへ行けば」

「拾遺干渉が起きやすい」

ユウが舌打ち。

「……起きてほしくないけどな」

シオンは言った。

「でも起きないと」

「扱えない」

ユウの目が少しだけ揺れた。

扱えるようにするために、起こす。

それは矛盾だ。

でもこの世界は矛盾でできている。

アルトが端末を覗き込み、冷たく言う。

「検証ミッションにする」

「一回ごとに」

「目的、条件、代償の観測を取る」

シオンが頷く。

説明は会話じゃなく、行動で入れる。

読者は“起きた現象”を見て理解する。

それがこの物語に合う。

最初のポイントへ向かう途中。

金属が鳴る。

キィ、と嫌な音。

セイルが足を止める。

「……来る」

ユウが即座に身構える。

「誰だ」

暗闇の奥。

影が滑るように現れた。

黒いコート。

足音がない。

でも気配はある。

レンカだ。

NIGHTの影。

影移動の使い手。

彼女は静かに言った。

「追跡、薄れたよ」

「でも」

「削除官は諦めない」

シオンが息を吸う。

「……来る?」

レンカは頷いた。

「来る」

「それより」

「NIGHTから取引」

ユウが眉を寄せる。

「取引?」

レンカの目が冷たく光る。

「Δは商品になる」

「世界がそれを理解したら」

「戦争の値札がつく」

シオンは背筋が凍る。

NIGHTは価値を売る。

価値改竄のノクスがいる。

選択肢強奪のクロウがいる。

彼らは戦場を市場に変える。

レンカが続ける。

「だから今のうちに」

「ルールを掴め」

「掴めなければ」

「君たちは商品として吊るされる」

アルトが目を伏せた。

正しい。

嫌になるほど正しい。

ユウが歯を食いしばる。

「……分かってる」

レンカはそれ以上言わず、影へ溶ける。

消える寸前、ひとことだけ残した。

「生き残り方を」

「売り渡すな」

その言葉は、ユウのΔを刺した。

拾うという行為。

生き残り方。

それが商品になったら。

世界は終わる。

最初の検証ポイント。

遺物の残骸が散乱している。

金属片が浮いて見えるほど、歪んだ空間。

セイルが息を吐く。

「ここで」

「ユウのΔが起きやすい」

ユウは拳を握った。

起きてほしくない。

でも起きなければ、次に死ぬ。

シオンは短く言う。

「検証開始」

アルトが端末を起動する。

「目標:拾遺干渉の“範囲”確認」

「条件:遺物残骸密度高」

「危険:帳尻がORBITへ集中」

ユウが一歩踏み込む。

その瞬間。

“拾える感覚”が来た。

背中がざわつく。

視界の端で、床の埃が跳ねた。

ユウは唾を飲み、短く宣言する。

「……Δ:拾遺干渉(リクレイム)」

次の瞬間。

ユウの足元に、落ちているはずのないものがあった。

小型の起動キー。

ORBITの認証タグ。

そして――

弾。

ユウがそれを拾った瞬間。

遠くの壁が、崩れた。

通路が繋がる。

逃げ道が生まれる。

まるで最初からそこにあったみたいに。

シオンの呼吸が止まる。

これがRECLAIM。

死なない未来を拾う力。

でも――

同時に。

遠くで金属の悲鳴が響いた。

ギギギ、と歪む音。

セイルが顔を歪める。

「……来る」

「帳尻だ」

アルトが低く言った。

「代償位置:ORBIT内部」

「歪み増幅」

「追跡の手掛かりになる」

ユウが歯を食いしばった。

「……だから嫌なんだ」

拾った瞬間、助かる。

でも拾った瞬間、別の場所が壊れる。

逃げ道を拾う代わりに、裂け目が広がる。

シオンは胸を押さえた。

救える未来は一本残った。

でもその一本の下に、救えない未来が積もっていく。

そしてその積み重ねは、いつか爆発する。

SAVE LINEの臨界。

まだ先。

でも確実に近づく。

その時。

端末が警告音を鳴らした。

《接近:是正執行官 LAZAR》
《Δ:是正執行(CORRECTION STRIKE)》
《到達予測:3分》

ユウが笑った。

乾いた笑い。

「来たな」

アルトの目が鋭くなる。

「兵器化担当だ」

シオンは息を吸う。

検証は始まったばかり。

でも敵が来る。

ここからは。

学ぶための戦いだ。

そして、戦争へ繋がる。

シオンは短く宣言する。

「……次のミッションへ」

「生き残りながら」

「理解する」
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