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28.姉との再会
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執務室に到着し、オルクティスに中へ入るように促されると、入室したアズリエールにハミエルとエドワルドが驚きの表情を向けてきた。
「殿下? あの……」
「悪いけれど、隣でアズリルと大事な話をするから、しばらく入室は控えて貰ってもいいかな?」
「は、はい……」
そう言ってオルクティスに手を引かれながら、アズリエールは執務室の隣にある応接用の部屋へと案内された。そして部屋に入ると、席に着くように促される。
同時にオルクティスも向かいに腰掛けると、間髪入れずにアズリエールに質問を投げかけてきた。
「アズリル、母は一体君に何をしたんだい?」
「何って……その……」
「また君を試し始めた?」
「………………」
黙ってしまったアズリエールの様子にオルクティスが、盛大に息を吐く。
「これは僕が言わないとダメだね。もう母にはこういう事はやめるように進言する」
「ま、待って! もしかしたら私の勘違いかもしれないし……」
「わざわざ君の姉君をサンライズから招待して、君の反応を窺おうとしているのに?」
その切り返しにアズリエールが、ビクリと体を強張らせる。
やはりオルクティスには、アズリエールが姉に対して何らかの蟠りを持っている事に気付いていたのだろう。
だがそれはアズリエールにとって、知られたくない部分だ。
その事を誤魔化そうと、無意識にテイシアの行動を庇うような言葉を口にしてしまう。
「でも、もしかしたらテイシア様は、純粋に私が姉に会いたがってると思ってくださっ――」
「アズリル、それ本気で言ってる?」
「………………」
自分でも心にもない言葉だと認識しながら口にした為、一層誤魔化そうとした行動が浮き彫りとなる。
同時に先程からオルクティスが、静かに怒りを含む様子にアズリエールは、やや縮こまってしまった。
その様子に気付いたオルクティスが、我に返る。
「ごめん。アズリルに当たるつもりはなかったのだけれど……」
「分かってる……。気にしないで。でもね、テイシア様の事は本当に大丈夫だから」
「大丈夫そうに見えないから、僕は動こうとしているのだけれど?」
「本当に大丈夫。というか、こういう状況も少なからずなるだろうなとは思っていたから……」
「それはどういう意味?」
「どういう意味なのかな……。自分でも今の状況がよく分からないのだけれど。でもね、もう大丈夫だから」
そう言い切ったアズリエールの浮かべた笑みは、どこか悲し気なものになってしまった。その様子にオルクティスが、再び息を吐く。
「僕には全く大丈夫には見えないよ?」
「でももう大丈夫だから。そもそも姉がこの国に到着したら、その意味はオルクにも分かると思うし」
「どういう事?」
「上手くは説明出来ないけれど……明日になったら、きっと私が言っていた事が少しずつ分かるはずだから。だからオルクはこのままテイシア様の行動については、傍観する対応でお願い出来ないかな?」
「それは君の姉君がこちらに来る事で、アズリルが何か対策をする事が出来るという意味でいいのかな?」
「対策という感じではないけれど……でもそれなりの対処法が出来るかな……」
「分かった。でも本当に困った状況になったら、すぐに僕に言ってね。正直、母のあの態度は、流石に僕ももう我慢ならないから」
「うん。ありがとう……」
すると、オルクティスは隣の執務室にいるハミエルにお茶を用意するように指示を出す。
その行動にアズリエールが、ポカンとした。
「母とのお茶席では張り詰めた雰囲気だったと思うから、せめてここでは少しでもリラックスして貰おうか思って」
力のない笑みを浮かべながら、自分を気遣ってくれているオルクティスの動きに少しだけアズリルの表情が緩む。
すると、すでにお茶の準備をしていたらしいハミエルが、優しい笑みを浮かべながら、二人の前にハーブティーと、アズリエールの前だけにタルトケーキを出してくれた。
「どうぞ召し上がれ」
先程とは違い、優しい声に戻ったオルクティスの声掛けを合図にアズリエールが笑みを浮かべながら、タルトケーキにフォークを入れる。そして口に含むと、上に乗っていたフルーツの酸味とタルト生地の甘味が見事なバランスで口の中に広がり、段々と気持ちが落ち着いてきた。
「美味しい」
「良かった」
一見、穏やかな雰囲気に戻ったような状況だが……。
アズリエールの心境は、穏やかというよりも諦めという気持ちに支配されていた。
姉がマリンパールに来てしまう状況が確定してしまった現状では、もう何をやっても無駄なのだ。
それをアズリエールは経験上、嫌と言うほど今まで味わって来た。
だからテイシアが行ってくる試験的な対応に必死に応える必要もないのだ。
今後は何をやっても自分ではなく、姉の独壇場になってしまうのだから。
そんな後ろ向きな考えを抱きながら、アズリエールはオルクティスとのお茶を楽しむ事に集中した。
――――翌日。
テイシアの宣言通り、姉がマリンパールにやって来た。
「アズ! 会いたかった!!」
アズリエールの滞在している部屋に案内されて来たユリアエールは、入室するなりアズリエールに抱き付いてきた。部屋に控えていた侍女のエルザと見習いの二人の侍女達は、あまりにもそっくりな容姿の二人の再会に驚く。
だが姿顔立ちは、そっくりでもお互いがまとう雰囲気は真逆だ。
現に久しぶりに再会した姉ユリアエールは、淡いクリーム色がベースのふんわりとした白いレースがたくさん施されているドレスを着ていた。その姿はまるで慈愛に満ちた聖女のような柔らかな印象を受ける。
対してアズリエールは、鮮やかな黄緑色のドレスだ。
ふわりとした儚げで繊細な印象を与えやすい淡いパステルカラーが似合う姉とは違い、アズリエールに似合う色は、明るく元気が出るようなハッキリした中間色だ。
その事が全く同じ作りの見た目な二人の違いをより一層浮き彫りにし、周りの人間がどうしても二人を比較せずにはいられない状態にされる事をアズリエールは知っていた。
「ユリー、久しぶり。元気だった?」
「元気な訳ないじゃない……。こんなにアズと離れていた事なんてなかったのに。もう寂し過ぎてかなりの頻度で手紙を出してしまったわ」
「そういえば……ユリーはテイシア様ともお手紙のやり取りをしていたんだよね?」
さり気なさを装いつつも確信を突くようにアズリエールが探りを入れると、ユリアエールがやや困った様な表情を浮かべた。
「ごめんなさい……。余計な事をしているとは自覚はあったのだけれど。でも私、アズの事が本当に心配で……」
そのユリアエールの様子は、どこからどう見ても妹を心配する姉という印象だ。
しかしアズリエールの方では、姉が別の目的でテイシアとの手紙のやり取りを始めた事に気が付いてしまっている。
それでもその事には気づいていないふりをしながら、アズリエールは接した。
「ユリーは本当に心配性だね。私なら大丈夫なのに」
「『私』? アズ、自分の事を『僕』って言うのはやめてしまったの?」
「流石に第二王子の婚約者として来ているのにその振る舞いは問題になるから」
「そう……よね。もしかしてドレスを着ているのもそういう理由で?」
「うーん。それもあるけれど、週末は風巫女の仕事がお休みで、いつも王妃様と王太子妃様と三人でお茶をする事になっているから正装する事が多くなるんだよね」
「まぁ! 王族の女性二人と毎週末お茶をしているの? 凄いわ!」
「ユリーもこの後、お二人と一緒にお茶をすると思うよ?」
そのアズリエールの言葉が予言のように扉がノックされた。
「失礼致します。アズリエール様、王妃殿下より午後のお茶に是非お二人をご招待されたいとお言付けを預かってまいりました。本日のお二人のご都合はいかがでしょうか?」
「私は大丈夫。ユリーは?」
「私も荷物を整理したら、特にする事もないから大丈夫」
「では王妃殿下には、そのようにお伝えしておきます」
「お願いします」
そう言ってテイシア付きの侍女は退室していった。
「ところでユリーは、いつまで滞在出来るの?」
「ええと……とりあえず王妃様のご招待だから、滞在日数はお任せしてしまっていて私にもよく分からないの。でもね、お手紙では好きなだけ滞在していいとお返事を頂いているわ」
その姉の言葉にアズリエールは、心の中で小さくため息をつく。
ようするにテイシアは、アズリエールが苦手な状況で、どのように立ち回るかを自分が満足行くまで確認したいのだろう。
それを達成出来るまでは、姉をこの城に滞在させ続けるらしい。
そして姉の方も7年前から、ずっと家に引きこもっている状態なので社交関係は免除されている。
普段は父の領地経営の手伝いをしているが、現状は殆ど父親だけで手が回る状況なので、マリンパールに長期滞在しても特に問題はないのだろう。
その状況が一層アズリエールを憂鬱にさせた。
すると、ユリアエールが不安そうな表情を向けてくる。
「もしかしてアズは、私がここに長く滞在する事は……嫌?」
極力顔には出さないようにしていたアズリエールだが、やはり姉には通用しない。
しかし姉が敢えてこのように確認してくるのは、必ずアズリエールが否定してくれるという事を確信しているからだ。
もうこの流れのやり取りには慣れ過ぎてしまっているアズリエールは、ニッコリと微笑む。
「そんな事ないよ? 私もユリーが長く滞在してくれる方が嬉しいから」
「本当!? 良かった……」
「でもお父様達は、ユリーが長期不在になるのは大変ではないの?」
「実はね、お父様は私がここに来る事には大反対だったの……」
やはり父やアレクシスには、ギリギリまで姉はマリンパールに招待されている事を隠していたのだろう。
その為、二人は姉がこちらに来る事をアズリエールには、すぐに連絡出来なかったのだ……。
この分だと恐らく今日の夕方頃に二人から、この事についての謝罪の手紙が届きそうだ。
だが例え二人がもっと早くこの事を知っていたとしても姉のマリンパール行きは止められなかっただろう。
隣国の王族からの招待を断れる程、アズリエールの家格は高くはないので、父には無理だ。
同時にアレクシスの方でも小国サンライズでは、貿易国でもあるマリンパールとの国の規模が違い過ぎるので、姉のマリンパール行きの辞退は難しい。
テイシアもそれを狙って、手紙のやり取りをしながら姉の思惑に気付き、それに便乗するようにこの方法で姉を招待したのだろう。
そう考えると今回の姉の訪問は、かなり用意周到に計画されていたものになる。
もう起こってしまった事を後悔しても仕方がないと感じたアズリエールは、今後の姉の予定を確認する事に力を注ぐ事にした。
「ところでユリーは、荷物を整理した後はどうするの? もしよかったら城下町とか案内できるけれど……」
すると今度はユリアエールの方がニッコリと微笑む。
だがその笑みは先程のアズリエールとは違い、ふわりと柔らかさを感じさせながらもどこか妖艶な笑みだった。
「それならば是非、アズのご婚約者でもあるオルクティス殿下にご挨拶をしたいのだけれど」
その姉の要望に一瞬だけアズリエールが固まる。
だが、すぐに同じような笑みを浮かべ返した。
「分かった。オルクに時間が空いてるか確認してみるね?」
「ありがとう。私、ずっとオルクティス殿下がどんな殿方なのか気になっていたから。だって将来はアズの旦那様になるかもしれない方でしょ? アズとの関係も気になってはいたけれど、私自身もオルクティス殿下と仲良くお付き合い出来るか、少し心配だったの……」
姉が口にしたその言葉に微かな含みを感じながらもアズリエールは平常心を保つ。
この状態になってしまっては、もうなるようにしかならない。
例え今回も以前婚約していたリックスの時のようになったとしても、それは7年前にユリアエールに心の傷を負わせてしまった自分への罰だとアズリエールは甘んじるしかないのだから……。
だが今回に関しては、心の中である期待も抱いてしまっている。
オルクティスならば、リックスの時のようにはならないと。
それでも今までの姉の行動を思うと、不安が常に付きまとう。
そんな不安を抱きながらも結局アズリエールは、オルクティスに姉を紹介する為にこの後、執務室の方へと向かった。
「殿下? あの……」
「悪いけれど、隣でアズリルと大事な話をするから、しばらく入室は控えて貰ってもいいかな?」
「は、はい……」
そう言ってオルクティスに手を引かれながら、アズリエールは執務室の隣にある応接用の部屋へと案内された。そして部屋に入ると、席に着くように促される。
同時にオルクティスも向かいに腰掛けると、間髪入れずにアズリエールに質問を投げかけてきた。
「アズリル、母は一体君に何をしたんだい?」
「何って……その……」
「また君を試し始めた?」
「………………」
黙ってしまったアズリエールの様子にオルクティスが、盛大に息を吐く。
「これは僕が言わないとダメだね。もう母にはこういう事はやめるように進言する」
「ま、待って! もしかしたら私の勘違いかもしれないし……」
「わざわざ君の姉君をサンライズから招待して、君の反応を窺おうとしているのに?」
その切り返しにアズリエールが、ビクリと体を強張らせる。
やはりオルクティスには、アズリエールが姉に対して何らかの蟠りを持っている事に気付いていたのだろう。
だがそれはアズリエールにとって、知られたくない部分だ。
その事を誤魔化そうと、無意識にテイシアの行動を庇うような言葉を口にしてしまう。
「でも、もしかしたらテイシア様は、純粋に私が姉に会いたがってると思ってくださっ――」
「アズリル、それ本気で言ってる?」
「………………」
自分でも心にもない言葉だと認識しながら口にした為、一層誤魔化そうとした行動が浮き彫りとなる。
同時に先程からオルクティスが、静かに怒りを含む様子にアズリエールは、やや縮こまってしまった。
その様子に気付いたオルクティスが、我に返る。
「ごめん。アズリルに当たるつもりはなかったのだけれど……」
「分かってる……。気にしないで。でもね、テイシア様の事は本当に大丈夫だから」
「大丈夫そうに見えないから、僕は動こうとしているのだけれど?」
「本当に大丈夫。というか、こういう状況も少なからずなるだろうなとは思っていたから……」
「それはどういう意味?」
「どういう意味なのかな……。自分でも今の状況がよく分からないのだけれど。でもね、もう大丈夫だから」
そう言い切ったアズリエールの浮かべた笑みは、どこか悲し気なものになってしまった。その様子にオルクティスが、再び息を吐く。
「僕には全く大丈夫には見えないよ?」
「でももう大丈夫だから。そもそも姉がこの国に到着したら、その意味はオルクにも分かると思うし」
「どういう事?」
「上手くは説明出来ないけれど……明日になったら、きっと私が言っていた事が少しずつ分かるはずだから。だからオルクはこのままテイシア様の行動については、傍観する対応でお願い出来ないかな?」
「それは君の姉君がこちらに来る事で、アズリルが何か対策をする事が出来るという意味でいいのかな?」
「対策という感じではないけれど……でもそれなりの対処法が出来るかな……」
「分かった。でも本当に困った状況になったら、すぐに僕に言ってね。正直、母のあの態度は、流石に僕ももう我慢ならないから」
「うん。ありがとう……」
すると、オルクティスは隣の執務室にいるハミエルにお茶を用意するように指示を出す。
その行動にアズリエールが、ポカンとした。
「母とのお茶席では張り詰めた雰囲気だったと思うから、せめてここでは少しでもリラックスして貰おうか思って」
力のない笑みを浮かべながら、自分を気遣ってくれているオルクティスの動きに少しだけアズリルの表情が緩む。
すると、すでにお茶の準備をしていたらしいハミエルが、優しい笑みを浮かべながら、二人の前にハーブティーと、アズリエールの前だけにタルトケーキを出してくれた。
「どうぞ召し上がれ」
先程とは違い、優しい声に戻ったオルクティスの声掛けを合図にアズリエールが笑みを浮かべながら、タルトケーキにフォークを入れる。そして口に含むと、上に乗っていたフルーツの酸味とタルト生地の甘味が見事なバランスで口の中に広がり、段々と気持ちが落ち着いてきた。
「美味しい」
「良かった」
一見、穏やかな雰囲気に戻ったような状況だが……。
アズリエールの心境は、穏やかというよりも諦めという気持ちに支配されていた。
姉がマリンパールに来てしまう状況が確定してしまった現状では、もう何をやっても無駄なのだ。
それをアズリエールは経験上、嫌と言うほど今まで味わって来た。
だからテイシアが行ってくる試験的な対応に必死に応える必要もないのだ。
今後は何をやっても自分ではなく、姉の独壇場になってしまうのだから。
そんな後ろ向きな考えを抱きながら、アズリエールはオルクティスとのお茶を楽しむ事に集中した。
――――翌日。
テイシアの宣言通り、姉がマリンパールにやって来た。
「アズ! 会いたかった!!」
アズリエールの滞在している部屋に案内されて来たユリアエールは、入室するなりアズリエールに抱き付いてきた。部屋に控えていた侍女のエルザと見習いの二人の侍女達は、あまりにもそっくりな容姿の二人の再会に驚く。
だが姿顔立ちは、そっくりでもお互いがまとう雰囲気は真逆だ。
現に久しぶりに再会した姉ユリアエールは、淡いクリーム色がベースのふんわりとした白いレースがたくさん施されているドレスを着ていた。その姿はまるで慈愛に満ちた聖女のような柔らかな印象を受ける。
対してアズリエールは、鮮やかな黄緑色のドレスだ。
ふわりとした儚げで繊細な印象を与えやすい淡いパステルカラーが似合う姉とは違い、アズリエールに似合う色は、明るく元気が出るようなハッキリした中間色だ。
その事が全く同じ作りの見た目な二人の違いをより一層浮き彫りにし、周りの人間がどうしても二人を比較せずにはいられない状態にされる事をアズリエールは知っていた。
「ユリー、久しぶり。元気だった?」
「元気な訳ないじゃない……。こんなにアズと離れていた事なんてなかったのに。もう寂し過ぎてかなりの頻度で手紙を出してしまったわ」
「そういえば……ユリーはテイシア様ともお手紙のやり取りをしていたんだよね?」
さり気なさを装いつつも確信を突くようにアズリエールが探りを入れると、ユリアエールがやや困った様な表情を浮かべた。
「ごめんなさい……。余計な事をしているとは自覚はあったのだけれど。でも私、アズの事が本当に心配で……」
そのユリアエールの様子は、どこからどう見ても妹を心配する姉という印象だ。
しかしアズリエールの方では、姉が別の目的でテイシアとの手紙のやり取りを始めた事に気が付いてしまっている。
それでもその事には気づいていないふりをしながら、アズリエールは接した。
「ユリーは本当に心配性だね。私なら大丈夫なのに」
「『私』? アズ、自分の事を『僕』って言うのはやめてしまったの?」
「流石に第二王子の婚約者として来ているのにその振る舞いは問題になるから」
「そう……よね。もしかしてドレスを着ているのもそういう理由で?」
「うーん。それもあるけれど、週末は風巫女の仕事がお休みで、いつも王妃様と王太子妃様と三人でお茶をする事になっているから正装する事が多くなるんだよね」
「まぁ! 王族の女性二人と毎週末お茶をしているの? 凄いわ!」
「ユリーもこの後、お二人と一緒にお茶をすると思うよ?」
そのアズリエールの言葉が予言のように扉がノックされた。
「失礼致します。アズリエール様、王妃殿下より午後のお茶に是非お二人をご招待されたいとお言付けを預かってまいりました。本日のお二人のご都合はいかがでしょうか?」
「私は大丈夫。ユリーは?」
「私も荷物を整理したら、特にする事もないから大丈夫」
「では王妃殿下には、そのようにお伝えしておきます」
「お願いします」
そう言ってテイシア付きの侍女は退室していった。
「ところでユリーは、いつまで滞在出来るの?」
「ええと……とりあえず王妃様のご招待だから、滞在日数はお任せしてしまっていて私にもよく分からないの。でもね、お手紙では好きなだけ滞在していいとお返事を頂いているわ」
その姉の言葉にアズリエールは、心の中で小さくため息をつく。
ようするにテイシアは、アズリエールが苦手な状況で、どのように立ち回るかを自分が満足行くまで確認したいのだろう。
それを達成出来るまでは、姉をこの城に滞在させ続けるらしい。
そして姉の方も7年前から、ずっと家に引きこもっている状態なので社交関係は免除されている。
普段は父の領地経営の手伝いをしているが、現状は殆ど父親だけで手が回る状況なので、マリンパールに長期滞在しても特に問題はないのだろう。
その状況が一層アズリエールを憂鬱にさせた。
すると、ユリアエールが不安そうな表情を向けてくる。
「もしかしてアズは、私がここに長く滞在する事は……嫌?」
極力顔には出さないようにしていたアズリエールだが、やはり姉には通用しない。
しかし姉が敢えてこのように確認してくるのは、必ずアズリエールが否定してくれるという事を確信しているからだ。
もうこの流れのやり取りには慣れ過ぎてしまっているアズリエールは、ニッコリと微笑む。
「そんな事ないよ? 私もユリーが長く滞在してくれる方が嬉しいから」
「本当!? 良かった……」
「でもお父様達は、ユリーが長期不在になるのは大変ではないの?」
「実はね、お父様は私がここに来る事には大反対だったの……」
やはり父やアレクシスには、ギリギリまで姉はマリンパールに招待されている事を隠していたのだろう。
その為、二人は姉がこちらに来る事をアズリエールには、すぐに連絡出来なかったのだ……。
この分だと恐らく今日の夕方頃に二人から、この事についての謝罪の手紙が届きそうだ。
だが例え二人がもっと早くこの事を知っていたとしても姉のマリンパール行きは止められなかっただろう。
隣国の王族からの招待を断れる程、アズリエールの家格は高くはないので、父には無理だ。
同時にアレクシスの方でも小国サンライズでは、貿易国でもあるマリンパールとの国の規模が違い過ぎるので、姉のマリンパール行きの辞退は難しい。
テイシアもそれを狙って、手紙のやり取りをしながら姉の思惑に気付き、それに便乗するようにこの方法で姉を招待したのだろう。
そう考えると今回の姉の訪問は、かなり用意周到に計画されていたものになる。
もう起こってしまった事を後悔しても仕方がないと感じたアズリエールは、今後の姉の予定を確認する事に力を注ぐ事にした。
「ところでユリーは、荷物を整理した後はどうするの? もしよかったら城下町とか案内できるけれど……」
すると今度はユリアエールの方がニッコリと微笑む。
だがその笑みは先程のアズリエールとは違い、ふわりと柔らかさを感じさせながらもどこか妖艶な笑みだった。
「それならば是非、アズのご婚約者でもあるオルクティス殿下にご挨拶をしたいのだけれど」
その姉の要望に一瞬だけアズリエールが固まる。
だが、すぐに同じような笑みを浮かべ返した。
「分かった。オルクに時間が空いてるか確認してみるね?」
「ありがとう。私、ずっとオルクティス殿下がどんな殿方なのか気になっていたから。だって将来はアズの旦那様になるかもしれない方でしょ? アズとの関係も気になってはいたけれど、私自身もオルクティス殿下と仲良くお付き合い出来るか、少し心配だったの……」
姉が口にしたその言葉に微かな含みを感じながらもアズリエールは平常心を保つ。
この状態になってしまっては、もうなるようにしかならない。
例え今回も以前婚約していたリックスの時のようになったとしても、それは7年前にユリアエールに心の傷を負わせてしまった自分への罰だとアズリエールは甘んじるしかないのだから……。
だが今回に関しては、心の中である期待も抱いてしまっている。
オルクティスならば、リックスの時のようにはならないと。
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