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29.穏やかな駆け引き
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ユリアエールが滞在する部屋で荷ほどきをしている間、アズリエールはオルクティスの執務室に向かった。
本当は姉をオルクティスに会わせたくない気持ちが強いアズリエールだが、そういう訳にもいかない状況だ……。同時に姉に会った事でオルクティスの態度が変わる事はないだろうとも思っている。
しかし人の心は変わりやすいという事を経験上、痛いほど理解しているアズリエールは、二人を会わせる事への不安は常に燻っている状態だ。
どんなにオルクティスを信じていてもその不安は、姉が滞在している間は、けして拭うことが出来ない不安なのだ……。そんな事を考えていたら、執務室の扉をノックする事に一瞬だけ躊躇してしまう。
「アズリエール様?」
すると、ちょうど執務室に戻ろうとしていたオルクティスの補佐官でもあるエドワルドが、声を掛けてきた。
「あっ、ごめん! 邪魔だよね?」
「いえ、オルクティス殿下に御用でしょうか?」
「うん。実は今日、私の双子の姉がテイシア様のご招待を受けて、こちらに遊びに来たのだけれど、オルクにも是非姉を紹介したいなと思って」
「アズリエール様は双子のご姉妹でいらっしゃったのですね? かしこまりました。どうぞ、お部屋へ」
そう言ってエドワルドは扉をノックした後、アズリエールと共に執務室に入る。
すると、書類を確認していたオルクティスが顔を上げた後、少し驚くような表情を浮かべた。
「アズリル? 今日は確か姉君のユリアエール嬢を接待するって……」
「うん。そのユリーが、是非オルクに挨拶をしたいんだって」
ニコリとしながらそう告げてきたアズリエールの顔を何故か、オルクティスがジッと見つめる。それでも笑みを崩さないアズリエールの態度にオルクティスが、小さく息を吐いた。
「構わないよ。ちょうど今、手が空いたところだし」
「忙しいのにごめんね……。それじゃ、今からユリーを連れて――」
「折角だから、中庭で軽く三人でお茶でもしようか?」
そのオルクティスの提案に一瞬、アズリエールの動きが止まる。
「でも……オルク、今日忙しいんだよね?」
「うん。でも午後を使えば今日中には全部終わる仕事量だから問題ないよ」
ニッコリと笑みを浮かべながら快く姉の要望を受け入れてくれたオルクティスに対してアズリエールは、どうしても不安ばかりが募っていってしまう。
それを察しているのか、オルクティスが優し気な笑みを向けてきた。
「大丈夫だよ、アズリル」
「私、何も言ってないよ?」
「そうだね。ごめん……」
そんなやり取りをしてアズリエールは一度、自室に戻る事にしたのだが……その間に何故か先程抱いてしまった不安が、どんどんとアズリエールを支配していく。
オルクティスは一体、姉と自分の関係をどこまで知っているのだろうか。
7年前の出来事はオルクティスには一切話してはいないが、婚約者候補に挙がっていた時点でその辺りも身辺調査をされて、耳には入っているはずだ。
もちろん、姉が何度もアズリエールの婚約者候補を魅了してしまう事も。
そうなると、オルクティスの方も姉の今後の行動をある程度予測してくれているはずだ。
しかしそれでもアズリエールは、どうしても安心する事が出来なかった。
どんなに警戒していたとしても姉は、するりと相手の心の隙間に入り込む。
アズリエールには出来ない、あのふわりとした柔らかい笑みを咲き誇らせて。
その甘い誘惑に対してオルクティスが、どのように対策を練っているのか検討もつかないが、出来る事ならその対策が効果あるものであって欲しいと、アズリエールは願ってしまう。
そんな事を考えながら自室に戻ると、姉のユリアエールが笑顔で出迎えてきた。
サンライズでは当たり前だった状況に何故かアズリエールの不安が更に膨らむ。
その膨らんだ不安を意識しないようにマリンパールであった出来事を語りながら姉と談笑していると、部屋の扉が控えめにノックされる。エルザが扉を開けると、護衛のラウルがお茶の準備が出来た事を伝えに来た。
すると、早くもユリアエールがラウルとの関係醸成を図りだす。
主の婚約者と全く同じ顔立ちをしたユリアエールに一瞬だけラウルが怯むが、その警戒心はすぐに解除された。
それは同じ顔立ちのアズリエールとの信頼関係が大きく影響しているからなのだが、問題なのはここから更に姉がラウルとの距離を縮められるという事だ。
このようにアズリエールがマリンパールで出会った人々を姉に紹介する度に姉は、徐々にその相手を自分の中に取り込んでいってしまう。
ラウルとの会話に盛り上がりを見せる姉の様子に、ますますオルクティスが待つ中庭に行く事に不安を募らせるくアズリエール。
しかし、あっという間に目的地に着いてしまう。
するとセッティングされたテーブル席に着いていたオルクティスの姿が見え、更にこちらに気付き優雅に立ち上がった。
「初めまして、ユリアエール嬢」
少し砕けた口調で、アズリエールと初めて会った時に浮かべていた穏やかな笑みを姉に向けながら、オルクティスが挨拶をした。
それに応えるように姉が、今日一番のふわりとした笑みを浮かべる。
「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません。姉のユリアエール・ウインド・エアリズムと申します。こちらでは妹が大変良くして頂いていると手紙にて伺っております。それだけではなく、姉のわたくしにもお気遣い頂き、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、彼女には風巫女としての協力だけではなく、色々な部分で助けて貰っております。このような素晴らしい妹君は姉であるユリアエール嬢にとって、さぞご自慢でしょう」
「ええ。アズは――妹はわたくしの自慢です」
そうニッコリほほ笑む姉の様子にアズリエールが、やや違和感を抱く。
何故か先程まで抱いていた姉の甘さが、一瞬だけ消えた気がしたのだ。
しかし、それはすぐに気のせいだったと気づく。
席に着くなり、姉はすぐに王妃テイシアと頻繁に手紙のやり取りをしていた事をオルクティスに告げた。
恐らくアズリエールとテイシアのそれぞれと手紙のやり取りをした結果、この関係が上手くいっていない事を察したのだろう。
だからこそ、自分がテイシアとの良好な関係である事をやんわりとオルクティスに仄めかすつもりなのだろう。
正直、この件に関しては事実なので、アズリエールは笑みを張り付けたまま、二人の会話を静かに聞き流す。恐らくこの話題に関しては、オルクティスが程よい匙加減で躱してくれるだろうと思っていたアズリエール。
しかし、そのオルクティスの返しは予想外なものだった。
「母より伺っておりますが、どうやらユリアエール嬢は母と趣味が合われるそうですね。その事で母は、あなたにお会い出来る事を楽しみにしていたそうです。もしよろしければ滞在中は、趣味関係での交流で母にお付き合い頂けませんか? 非常に残念な事なのですが、アズリル――あなたの妹君は母とは少々趣味が合わない様なので……」
そう眉を下げながら苦笑するオルクティスの切り返しにアズリエールが大きく目を見開き、ゆっくり自分の婚約者の方へと視線を向ける。
正直、この切り返し内容はアズリエールの心を深く抉るものだった。
しかし、その不安はオルクティスと目が合った瞬間、一気に消え失せる。
オルクティスは、いつも二人で会話をしている時によく見せる柔らかい笑みを浮かべたからだ。
まるで「安心して」と語りかけるように優しい眼差しを向けている。
その表情から、婚約者がした問題発言の理由を読み取ったアズリエールは、その一瞬であのような切り返し方をしたオルクティスの意図に気付く。
オルクティスは敢えて姉に王妃テイシアの相手をさせる方向に持っていき、自分の母がアズリエールと接せする機会を減らそうとしているのだ。
ユリアエールに誘導されているふりをしながら、やんわりと……無自覚を装いながら自分達にとってデメリットな行動をしてくるこの二人を敢えて親しくさせる事で、自分達に関わらせない方向に持って行こうとしているのだ。
正直、これ見よがしに相手の痛い所を突きながら気づかないふりを貫き通すアレクシスの腹黒さよりも、このオルクティスの穏やかな雰囲気で、そっと忍び寄るように相手に自分の想い通りの行動させようと図る腹黒さの方がタチが悪い……。
これではユリアエールにとって、オルクティスが自身の思い通りに動かしやすい人間かどうかの見極めが難しいだろう。
だが、姉の方もその辺りの人間観察眼は優れているはずだ。
それは双子であるアズリエールだから分かる。
案の定、姉はその話題についてはすぐに引く姿勢を見せる。
「そのような恐れ多い事……わたくしでは役不足ですわ。そもそもわたくしとしては、妹にもっと王妃様との親睦を深めて欲しい気持ちが強いので、是非王妃様と妹の仲を深める事に力を注がせて頂きたいです」
「それは是非お願いしたいですね。どうやら母は未だに私の婚約者である彼女を吟味する事をやめてくれないので……。是非姉であるユリアエール嬢のお力で彼女の魅力を母にとことん語って頂けると助かります」
「ええ! 是非お任せを!」
そういってお互いニッコリと微笑み合う二人。
しかし、その穏やかそうな会話のやりとりは、傍観していたアズリエールからすると、完全に腹の探り合いにしか見えなかった。
同時にこの瞬間からユリアエールが、オルクティスに直接働きかける事が無意味であると判断した事にも気付く。
となると、今後はオルクティス以外の人間――すなわちアズリエールの周りの交流関係に関与し、外堀を埋める方向で動き出すはずだ。
特にテイシアに関しては、姉のその行動の意図に気付きながらも便乗する可能性が高い……。
ならば先程、オルクティスが誘導したようになるべく姉と王妃テイシアが共に過ごせる時間を作り、自分は敢えてその場には参加しない事が一番の対応策だと思えて来た。
三人で過ごせば、必ず姉とテイシアは組む。
姉の方は、アズリエールがこの婚約に対して自信を無くすような方向に持って行きたいはずだ。
逆にテイシアにとっては、姉と組む事でアズリエールにプレッシャーをかけ、その際にどのように対応するかをじっくり観察したいという目的がある。
妹の婚約を壊したい姉ユリアエールと、息子の婚約が意義ある物か徹底的に吟味したい王妃テイシア。姉とは求めている結果は違えど、アズリエールを揺さぶりたいというテイシアの目的では、姉と組む事でその目的を達成出来る。
ならば二人が揃っている状況の際は、なるべく共に過ごさないようにすれば、少なくともテイシアから受ける試される事でのプレッシャーは回避する事が出来る。
その事に気付いたアズリエールは、今後はなるべく昨日のようにテイシアが姉と自分との三人で過ごす時間を求めて来ても、やんわりと回避してやりすごす事に決めた。
しかしこのアズリエールの判断は、かなり相手を見くびったものだったという事が後に判明する。
まさかこの対策法で王妃テイシアの姉への印象がかなり上がってしまい、その事でアズリエールにとんでもないお願いをしてくるとは夢にも思わなかったからだ。
その為、この時のアズリエールは、自分の周りの人間関係を取り込んで外堀を埋めようとしてくる姉への対策案しか考えていなかった……。
本当は姉をオルクティスに会わせたくない気持ちが強いアズリエールだが、そういう訳にもいかない状況だ……。同時に姉に会った事でオルクティスの態度が変わる事はないだろうとも思っている。
しかし人の心は変わりやすいという事を経験上、痛いほど理解しているアズリエールは、二人を会わせる事への不安は常に燻っている状態だ。
どんなにオルクティスを信じていてもその不安は、姉が滞在している間は、けして拭うことが出来ない不安なのだ……。そんな事を考えていたら、執務室の扉をノックする事に一瞬だけ躊躇してしまう。
「アズリエール様?」
すると、ちょうど執務室に戻ろうとしていたオルクティスの補佐官でもあるエドワルドが、声を掛けてきた。
「あっ、ごめん! 邪魔だよね?」
「いえ、オルクティス殿下に御用でしょうか?」
「うん。実は今日、私の双子の姉がテイシア様のご招待を受けて、こちらに遊びに来たのだけれど、オルクにも是非姉を紹介したいなと思って」
「アズリエール様は双子のご姉妹でいらっしゃったのですね? かしこまりました。どうぞ、お部屋へ」
そう言ってエドワルドは扉をノックした後、アズリエールと共に執務室に入る。
すると、書類を確認していたオルクティスが顔を上げた後、少し驚くような表情を浮かべた。
「アズリル? 今日は確か姉君のユリアエール嬢を接待するって……」
「うん。そのユリーが、是非オルクに挨拶をしたいんだって」
ニコリとしながらそう告げてきたアズリエールの顔を何故か、オルクティスがジッと見つめる。それでも笑みを崩さないアズリエールの態度にオルクティスが、小さく息を吐いた。
「構わないよ。ちょうど今、手が空いたところだし」
「忙しいのにごめんね……。それじゃ、今からユリーを連れて――」
「折角だから、中庭で軽く三人でお茶でもしようか?」
そのオルクティスの提案に一瞬、アズリエールの動きが止まる。
「でも……オルク、今日忙しいんだよね?」
「うん。でも午後を使えば今日中には全部終わる仕事量だから問題ないよ」
ニッコリと笑みを浮かべながら快く姉の要望を受け入れてくれたオルクティスに対してアズリエールは、どうしても不安ばかりが募っていってしまう。
それを察しているのか、オルクティスが優し気な笑みを向けてきた。
「大丈夫だよ、アズリル」
「私、何も言ってないよ?」
「そうだね。ごめん……」
そんなやり取りをしてアズリエールは一度、自室に戻る事にしたのだが……その間に何故か先程抱いてしまった不安が、どんどんとアズリエールを支配していく。
オルクティスは一体、姉と自分の関係をどこまで知っているのだろうか。
7年前の出来事はオルクティスには一切話してはいないが、婚約者候補に挙がっていた時点でその辺りも身辺調査をされて、耳には入っているはずだ。
もちろん、姉が何度もアズリエールの婚約者候補を魅了してしまう事も。
そうなると、オルクティスの方も姉の今後の行動をある程度予測してくれているはずだ。
しかしそれでもアズリエールは、どうしても安心する事が出来なかった。
どんなに警戒していたとしても姉は、するりと相手の心の隙間に入り込む。
アズリエールには出来ない、あのふわりとした柔らかい笑みを咲き誇らせて。
その甘い誘惑に対してオルクティスが、どのように対策を練っているのか検討もつかないが、出来る事ならその対策が効果あるものであって欲しいと、アズリエールは願ってしまう。
そんな事を考えながら自室に戻ると、姉のユリアエールが笑顔で出迎えてきた。
サンライズでは当たり前だった状況に何故かアズリエールの不安が更に膨らむ。
その膨らんだ不安を意識しないようにマリンパールであった出来事を語りながら姉と談笑していると、部屋の扉が控えめにノックされる。エルザが扉を開けると、護衛のラウルがお茶の準備が出来た事を伝えに来た。
すると、早くもユリアエールがラウルとの関係醸成を図りだす。
主の婚約者と全く同じ顔立ちをしたユリアエールに一瞬だけラウルが怯むが、その警戒心はすぐに解除された。
それは同じ顔立ちのアズリエールとの信頼関係が大きく影響しているからなのだが、問題なのはここから更に姉がラウルとの距離を縮められるという事だ。
このようにアズリエールがマリンパールで出会った人々を姉に紹介する度に姉は、徐々にその相手を自分の中に取り込んでいってしまう。
ラウルとの会話に盛り上がりを見せる姉の様子に、ますますオルクティスが待つ中庭に行く事に不安を募らせるくアズリエール。
しかし、あっという間に目的地に着いてしまう。
するとセッティングされたテーブル席に着いていたオルクティスの姿が見え、更にこちらに気付き優雅に立ち上がった。
「初めまして、ユリアエール嬢」
少し砕けた口調で、アズリエールと初めて会った時に浮かべていた穏やかな笑みを姉に向けながら、オルクティスが挨拶をした。
それに応えるように姉が、今日一番のふわりとした笑みを浮かべる。
「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません。姉のユリアエール・ウインド・エアリズムと申します。こちらでは妹が大変良くして頂いていると手紙にて伺っております。それだけではなく、姉のわたくしにもお気遣い頂き、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、彼女には風巫女としての協力だけではなく、色々な部分で助けて貰っております。このような素晴らしい妹君は姉であるユリアエール嬢にとって、さぞご自慢でしょう」
「ええ。アズは――妹はわたくしの自慢です」
そうニッコリほほ笑む姉の様子にアズリエールが、やや違和感を抱く。
何故か先程まで抱いていた姉の甘さが、一瞬だけ消えた気がしたのだ。
しかし、それはすぐに気のせいだったと気づく。
席に着くなり、姉はすぐに王妃テイシアと頻繁に手紙のやり取りをしていた事をオルクティスに告げた。
恐らくアズリエールとテイシアのそれぞれと手紙のやり取りをした結果、この関係が上手くいっていない事を察したのだろう。
だからこそ、自分がテイシアとの良好な関係である事をやんわりとオルクティスに仄めかすつもりなのだろう。
正直、この件に関しては事実なので、アズリエールは笑みを張り付けたまま、二人の会話を静かに聞き流す。恐らくこの話題に関しては、オルクティスが程よい匙加減で躱してくれるだろうと思っていたアズリエール。
しかし、そのオルクティスの返しは予想外なものだった。
「母より伺っておりますが、どうやらユリアエール嬢は母と趣味が合われるそうですね。その事で母は、あなたにお会い出来る事を楽しみにしていたそうです。もしよろしければ滞在中は、趣味関係での交流で母にお付き合い頂けませんか? 非常に残念な事なのですが、アズリル――あなたの妹君は母とは少々趣味が合わない様なので……」
そう眉を下げながら苦笑するオルクティスの切り返しにアズリエールが大きく目を見開き、ゆっくり自分の婚約者の方へと視線を向ける。
正直、この切り返し内容はアズリエールの心を深く抉るものだった。
しかし、その不安はオルクティスと目が合った瞬間、一気に消え失せる。
オルクティスは、いつも二人で会話をしている時によく見せる柔らかい笑みを浮かべたからだ。
まるで「安心して」と語りかけるように優しい眼差しを向けている。
その表情から、婚約者がした問題発言の理由を読み取ったアズリエールは、その一瞬であのような切り返し方をしたオルクティスの意図に気付く。
オルクティスは敢えて姉に王妃テイシアの相手をさせる方向に持っていき、自分の母がアズリエールと接せする機会を減らそうとしているのだ。
ユリアエールに誘導されているふりをしながら、やんわりと……無自覚を装いながら自分達にとってデメリットな行動をしてくるこの二人を敢えて親しくさせる事で、自分達に関わらせない方向に持って行こうとしているのだ。
正直、これ見よがしに相手の痛い所を突きながら気づかないふりを貫き通すアレクシスの腹黒さよりも、このオルクティスの穏やかな雰囲気で、そっと忍び寄るように相手に自分の想い通りの行動させようと図る腹黒さの方がタチが悪い……。
これではユリアエールにとって、オルクティスが自身の思い通りに動かしやすい人間かどうかの見極めが難しいだろう。
だが、姉の方もその辺りの人間観察眼は優れているはずだ。
それは双子であるアズリエールだから分かる。
案の定、姉はその話題についてはすぐに引く姿勢を見せる。
「そのような恐れ多い事……わたくしでは役不足ですわ。そもそもわたくしとしては、妹にもっと王妃様との親睦を深めて欲しい気持ちが強いので、是非王妃様と妹の仲を深める事に力を注がせて頂きたいです」
「それは是非お願いしたいですね。どうやら母は未だに私の婚約者である彼女を吟味する事をやめてくれないので……。是非姉であるユリアエール嬢のお力で彼女の魅力を母にとことん語って頂けると助かります」
「ええ! 是非お任せを!」
そういってお互いニッコリと微笑み合う二人。
しかし、その穏やかそうな会話のやりとりは、傍観していたアズリエールからすると、完全に腹の探り合いにしか見えなかった。
同時にこの瞬間からユリアエールが、オルクティスに直接働きかける事が無意味であると判断した事にも気付く。
となると、今後はオルクティス以外の人間――すなわちアズリエールの周りの交流関係に関与し、外堀を埋める方向で動き出すはずだ。
特にテイシアに関しては、姉のその行動の意図に気付きながらも便乗する可能性が高い……。
ならば先程、オルクティスが誘導したようになるべく姉と王妃テイシアが共に過ごせる時間を作り、自分は敢えてその場には参加しない事が一番の対応策だと思えて来た。
三人で過ごせば、必ず姉とテイシアは組む。
姉の方は、アズリエールがこの婚約に対して自信を無くすような方向に持って行きたいはずだ。
逆にテイシアにとっては、姉と組む事でアズリエールにプレッシャーをかけ、その際にどのように対応するかをじっくり観察したいという目的がある。
妹の婚約を壊したい姉ユリアエールと、息子の婚約が意義ある物か徹底的に吟味したい王妃テイシア。姉とは求めている結果は違えど、アズリエールを揺さぶりたいというテイシアの目的では、姉と組む事でその目的を達成出来る。
ならば二人が揃っている状況の際は、なるべく共に過ごさないようにすれば、少なくともテイシアから受ける試される事でのプレッシャーは回避する事が出来る。
その事に気付いたアズリエールは、今後はなるべく昨日のようにテイシアが姉と自分との三人で過ごす時間を求めて来ても、やんわりと回避してやりすごす事に決めた。
しかしこのアズリエールの判断は、かなり相手を見くびったものだったという事が後に判明する。
まさかこの対策法で王妃テイシアの姉への印象がかなり上がってしまい、その事でアズリエールにとんでもないお願いをしてくるとは夢にも思わなかったからだ。
その為、この時のアズリエールは、自分の周りの人間関係を取り込んで外堀を埋めようとしてくる姉への対策案しか考えていなかった……。
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