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44.お願い
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「アズから誘ってくれるなんて、珍しいわね!」
マリンパール城内にある見事な薔薇園で同じ顔立ちの二人は、華やかな香りが漂う美しい庭を満喫していた。
本来ならば王族専用の薔薇園なので、簡単には見学など出来ないのだが、今回はハルミリアの計らいで特別に見学させて貰っている。
サンライズでは決して見られない原色系の色鮮やかな薔薇達に目をやったアズリエールは、これから始まる重苦しい会話の雰囲気を少しでも和らげてくれる事を少し期待した。
「ごめんね? マリンパールに来てから色々バタバタしていたから……。ユリーの事も放置気味になっちゃって……」
「気にしないで。それだけアズがこの国で必要とされているという事だもの。それにね、アズが忙しい間はオルクティス殿下にかなりお気遣い頂いていたから……」
そう言って、意味ありげに目を伏せる姉の様子にアズリエールの警戒心が高まる。
この間の衣裳部屋から連れ出された際のオルクティスの言い分とは、真逆な事を姉は言っているのだ。
恐らく、オルクティスは自分から姉に接触はしていない。
だが、この間からの姉の言い分では、自分は頻繁にオルクティスに声を掛けられているような言い方を敢えてしてくるのだ。
この様な行動をされてしまうと、尚更今回アズリエールが姉に確認したい内容を振りにくくなってしまう。
もしかしたら姉は、その事も警戒してこのような嘘を付いているのかもしれない。
「あの、ね。ユリー、私……」
「アズはすっかり一人称が『私』に定着してしまったわね」
「えっ? そ、そう言えばそうかも……」
「それは――オルクティス殿下が影響しているの?」
そう言った姉は、見事な程の綺麗な笑みを浮かべながらアズリエールに小首を傾げてくる。
まるでアズリエールを試す様な仕草で探りを入れてくるのは、毎回姉の得意技だ。
いつもその雰囲気に呑まれ動揺してしまうアズリエールだが、今回はかろうじて小さく息を吐く事で、冷静さを維持する。
「どうして……そう思ったの?」
「だって、アズはマリンパールに来てから大分変ったから。サンライズにいた頃と比べると、本当に楽しそうに笑う事が多いし、大人っぽい表情もするようになったもの」
「そう、かな?」
「自分では気づかないものね。だから私こちらに来た時、とても驚いたの。たった2カ月でアズが、別人のようになってしまったと感じてしまう程……」
「いくら何でもそこまでは――」
「ねぇ、アズ。恋をすると女性は、綺麗になるって本当だと思う?」
何の前触れもなく急に話題を変えてきた姉にアズリエールが戸惑う。
「急にどうしたの?」
「ロマンス小説でも急に冴えない主人公が周りから注目され始めたりするでしょ? 私ね、あれはお話の世界だけでなくて現実でも起こっている事だと思うの。だって恋をすれば、少しでも相手に良く見られたいと自分の容姿を気にし始めるでしょ? 同時にその意中の相手と、ほんの些細な交流があっただけでも、とても幸せな気持ちを抱く事が出来る……。そうすると自然と幸福そうな笑みが増えてくるから、周りの人にはその女性が、魅力的に見えてくる。だから人は……特に女性は恋をすると綺麗になると言われるのだと思うの」
「どうなのかな? それはそれで、とてもロマンチックな解釈だとは思うけれど……」
正直、姉が何を言いたいのか分からなかったアズリエールは、適当に返答を濁した。
しかし、そんなアズリエールを姉は真っ直ぐ見つめ返す。
「私には会えなかったこの二カ月近くで、アズが物凄く綺麗になったように感じたの」
そう言い切った姉は何故か挑む様な光を瞳に宿し、いつもの作り物のような美しい笑みを一切浮かべていなかった。その様子にアズリエーが、一瞬だけ息を呑む。
「アズは……オルクティス殿下に恋をしているの?」
ゆっくりと、語りかけるように質問してきた姉は、今日一番の美しい笑みを浮かべる。
その美し過ぎる笑みにアズリエールは、思わず背筋が凍り付く。
だが、そこで姉の雰囲気に呑まれてしまう訳にはいかない。
アズリエールは、敢えて冷静に今自分が抱いている正直な感情をそのまま姉に伝える事にした。
「よく、分からないけれど……。でも確かにマリンパールで過ごし始めてから、楽しい事が多かったから、笑顔は増えたと思う。でもそれが、ユリーの言う恋をしたからだというのは、ちょっと違うと思う……」
「じゃあ、アズは特にオルクティス殿下に特別な感情を抱いたりはしていないのね?」
「それは……」
正直、その感情も今のアズリエールにはハッキリとは分からない。
確かにオルクティスの隣は誰にも譲りたくないと言う気持ちはある。
しかし恋心のようにオルクティスに対して、情熱的な感情を抱いているかと問われてしまうと、返答に困ってしまう。
アズリエールのオルクティスに対する気持ちは、あくまでも全て受け身だ。
オルクティスの行動によって温かい気持ちや、優しい気持ちになれるのであって、アズリエール自身から恋い焦がれるような感情が単独で沸き上がる事は、まだ一度もないのだ。
これを『恋』と呼ぶには、何か違うような気がする。
そういう気持ちからアズリエールが、やや返答を渋った。
そもそも何故、いきなりこのような恋についての話になってしまったのか……。
アズリエールが疑問を感じ始めた時、急にユリアエールが顔を輝かせ始める。
「良かった……。アズがオルクティス殿下に恋心を抱いていなくて……」
「何で……良かったの?」
「だって、もしアズがオルクティス殿下に恋をしてしまっていたら、私達は恋敵になってしまうもの……」
俯きながら、やや恥じらうように姉から放たれた言葉にアズリエールが愕然とする。
「あのね、アズ。私、男性にこんなにも安心感を抱ける事って、あの事件以降、今回が初めてなの……」
秘密をそっと打ち明けるように語りだした姉の言葉にアズリエールは嫌な予感しかしない。
「私はこの7年間、ずっと男性から触れられる事に恐怖しかなかった……。一時期、お父様からも触れられる事に恐怖を感じてしまって……。その所為でもう結婚なんて絶望的で……。長女としての役割を全うする事も出来ない欠陥巫女としてエアリズム家を没落させるかもしれないという恐怖が、ずっと付きまとっていたの……」
姉のその告白にアズリエールの顔色が、一気に青くなっていく。
「リックがアズと婚約解消をして私との婚約を望んでくれた時、アズには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど……。でも幼少期からずっと仲良くしていたリックとなら、きっと夫婦としてやっていけると二年前までは本気で思っていたの……。でもね、リックが成長するにつれて男性的な特徴が目立ってくると、私の中で彼は心許せる幼馴染から、脅威を感じさせる男性という存在に変わっていってしまった。だから昨年、リックに事情を話して、婚約の申し出を取り下げて貰ったの……」
罪を告白するようにユリアエールが後悔を滲ませながら、静かに語る。
それをアズリエールは今にも泣き出しそうな表情で、黙って聞いていた。
「お父様もアレク様も結婚に関しては、無理に必死にならなくてもいいとおっしゃってくれていたけれど。でも、ずっと私は風巫女の家系の長女として役に立てない自分を責め続けてきた……。だけどオルクティス殿下に出会って、初めて脅威を感じない安心感を与えてくれる男性の存在を知ったの」
すると、今度は花が綻ぶ様な幸福そうな笑みを姉が浮かべた。
その様子にアズリエールの中で何かがピンっと胸を締め付ける用に張り詰める。
「リックの事もあるし……二度もアズにこんな事をお願いする私は、人としても姉としても本当に最低な人間だと思う……。だけどこの先、オルクティス殿下のように自分にとって、脅威を感じさせない男性に出会える機会は皆無だと思う……。だからアズ――」
途中で言葉を切ったユリアエールがズイっとアズリエールと距離を詰め、その両手を救い上げるように優しく手に取る。するとアズリエールは無意識に拒絶的な反応をしていまい、ビクリと肩を震わせた。
すると、今度は姉が泣き出しそうな笑みをアズリエールに向けてくる。
「オルクティス殿下の婚約者の立場を私に譲ってほしいの……」
その絶対に受け入れたくない願いを告げられたアズリエールが大きく瞳を見開き、そっとユリアエールから自分の両手を抜こうとした。
しかし姉は、それを許さない。
同情を乞うように瞳に美し過ぎる涙を溜め、懇願するようにアズリエールに見つめながら捕らえてくる。
儚さの中に絶対に諦めないという強い意志を宿した姉のその気迫にアズリエールが呑まれ掛け、自分が小さく震え出している事に気が付く。
だが、同じくそれに気が付いているはずのユリアエールは、その追撃を一切緩めてはくれない。
「アズ、お願い……。私、もう7年前の事件から解放されたいの。もうこれ以上、長女としての役割を果たせずに、お父様やサンライズ王家を落胆させたくない……。それぐらい安心感を与えてくれるオルクティス殿下との出会いは、私にとって奇跡的なものなの……」
7年前の事件……。
その事を出されてしまうと、アズリエールは何も拒絶できなくなる事を姉は、よく知っている。
知っていて、敢えてその部分を強調しているのだ。
それだけ姉は、必死でオルクティスの婚約者の立場を望んでいるのだろう。
だが、その受け入れがたい要望にアズリエールは、青い顔をしたまま小さく頭を振り、必死で抵抗をする。そして何とかして姉に掴まれてしまった両手を引き抜こうとした。
それでも姉は、一切アズリエールの両手を解放してくれない。
「お願い……アズ」
そう言って姉は、更にアズリエールの両手を強く握り締めて来た。
絶対に引かないと言うその姉の意志の強さにアズリエールの決意が、ボロボロと崩れかける。
そして姉はこの7年間、もっともアズリエールが罪悪感を抱いている部分をそっと口にする。
「私にもあなたのように男性と幸せに家庭を築けるかもしれない権利を頂戴……」
切実に懇願してくる姉の言葉に、ついにアズリエールの瞳から涙が溢れ出した。
マリンパール城内にある見事な薔薇園で同じ顔立ちの二人は、華やかな香りが漂う美しい庭を満喫していた。
本来ならば王族専用の薔薇園なので、簡単には見学など出来ないのだが、今回はハルミリアの計らいで特別に見学させて貰っている。
サンライズでは決して見られない原色系の色鮮やかな薔薇達に目をやったアズリエールは、これから始まる重苦しい会話の雰囲気を少しでも和らげてくれる事を少し期待した。
「ごめんね? マリンパールに来てから色々バタバタしていたから……。ユリーの事も放置気味になっちゃって……」
「気にしないで。それだけアズがこの国で必要とされているという事だもの。それにね、アズが忙しい間はオルクティス殿下にかなりお気遣い頂いていたから……」
そう言って、意味ありげに目を伏せる姉の様子にアズリエールの警戒心が高まる。
この間の衣裳部屋から連れ出された際のオルクティスの言い分とは、真逆な事を姉は言っているのだ。
恐らく、オルクティスは自分から姉に接触はしていない。
だが、この間からの姉の言い分では、自分は頻繁にオルクティスに声を掛けられているような言い方を敢えてしてくるのだ。
この様な行動をされてしまうと、尚更今回アズリエールが姉に確認したい内容を振りにくくなってしまう。
もしかしたら姉は、その事も警戒してこのような嘘を付いているのかもしれない。
「あの、ね。ユリー、私……」
「アズはすっかり一人称が『私』に定着してしまったわね」
「えっ? そ、そう言えばそうかも……」
「それは――オルクティス殿下が影響しているの?」
そう言った姉は、見事な程の綺麗な笑みを浮かべながらアズリエールに小首を傾げてくる。
まるでアズリエールを試す様な仕草で探りを入れてくるのは、毎回姉の得意技だ。
いつもその雰囲気に呑まれ動揺してしまうアズリエールだが、今回はかろうじて小さく息を吐く事で、冷静さを維持する。
「どうして……そう思ったの?」
「だって、アズはマリンパールに来てから大分変ったから。サンライズにいた頃と比べると、本当に楽しそうに笑う事が多いし、大人っぽい表情もするようになったもの」
「そう、かな?」
「自分では気づかないものね。だから私こちらに来た時、とても驚いたの。たった2カ月でアズが、別人のようになってしまったと感じてしまう程……」
「いくら何でもそこまでは――」
「ねぇ、アズ。恋をすると女性は、綺麗になるって本当だと思う?」
何の前触れもなく急に話題を変えてきた姉にアズリエールが戸惑う。
「急にどうしたの?」
「ロマンス小説でも急に冴えない主人公が周りから注目され始めたりするでしょ? 私ね、あれはお話の世界だけでなくて現実でも起こっている事だと思うの。だって恋をすれば、少しでも相手に良く見られたいと自分の容姿を気にし始めるでしょ? 同時にその意中の相手と、ほんの些細な交流があっただけでも、とても幸せな気持ちを抱く事が出来る……。そうすると自然と幸福そうな笑みが増えてくるから、周りの人にはその女性が、魅力的に見えてくる。だから人は……特に女性は恋をすると綺麗になると言われるのだと思うの」
「どうなのかな? それはそれで、とてもロマンチックな解釈だとは思うけれど……」
正直、姉が何を言いたいのか分からなかったアズリエールは、適当に返答を濁した。
しかし、そんなアズリエールを姉は真っ直ぐ見つめ返す。
「私には会えなかったこの二カ月近くで、アズが物凄く綺麗になったように感じたの」
そう言い切った姉は何故か挑む様な光を瞳に宿し、いつもの作り物のような美しい笑みを一切浮かべていなかった。その様子にアズリエーが、一瞬だけ息を呑む。
「アズは……オルクティス殿下に恋をしているの?」
ゆっくりと、語りかけるように質問してきた姉は、今日一番の美しい笑みを浮かべる。
その美し過ぎる笑みにアズリエールは、思わず背筋が凍り付く。
だが、そこで姉の雰囲気に呑まれてしまう訳にはいかない。
アズリエールは、敢えて冷静に今自分が抱いている正直な感情をそのまま姉に伝える事にした。
「よく、分からないけれど……。でも確かにマリンパールで過ごし始めてから、楽しい事が多かったから、笑顔は増えたと思う。でもそれが、ユリーの言う恋をしたからだというのは、ちょっと違うと思う……」
「じゃあ、アズは特にオルクティス殿下に特別な感情を抱いたりはしていないのね?」
「それは……」
正直、その感情も今のアズリエールにはハッキリとは分からない。
確かにオルクティスの隣は誰にも譲りたくないと言う気持ちはある。
しかし恋心のようにオルクティスに対して、情熱的な感情を抱いているかと問われてしまうと、返答に困ってしまう。
アズリエールのオルクティスに対する気持ちは、あくまでも全て受け身だ。
オルクティスの行動によって温かい気持ちや、優しい気持ちになれるのであって、アズリエール自身から恋い焦がれるような感情が単独で沸き上がる事は、まだ一度もないのだ。
これを『恋』と呼ぶには、何か違うような気がする。
そういう気持ちからアズリエールが、やや返答を渋った。
そもそも何故、いきなりこのような恋についての話になってしまったのか……。
アズリエールが疑問を感じ始めた時、急にユリアエールが顔を輝かせ始める。
「良かった……。アズがオルクティス殿下に恋心を抱いていなくて……」
「何で……良かったの?」
「だって、もしアズがオルクティス殿下に恋をしてしまっていたら、私達は恋敵になってしまうもの……」
俯きながら、やや恥じらうように姉から放たれた言葉にアズリエールが愕然とする。
「あのね、アズ。私、男性にこんなにも安心感を抱ける事って、あの事件以降、今回が初めてなの……」
秘密をそっと打ち明けるように語りだした姉の言葉にアズリエールは嫌な予感しかしない。
「私はこの7年間、ずっと男性から触れられる事に恐怖しかなかった……。一時期、お父様からも触れられる事に恐怖を感じてしまって……。その所為でもう結婚なんて絶望的で……。長女としての役割を全うする事も出来ない欠陥巫女としてエアリズム家を没落させるかもしれないという恐怖が、ずっと付きまとっていたの……」
姉のその告白にアズリエールの顔色が、一気に青くなっていく。
「リックがアズと婚約解消をして私との婚約を望んでくれた時、アズには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど……。でも幼少期からずっと仲良くしていたリックとなら、きっと夫婦としてやっていけると二年前までは本気で思っていたの……。でもね、リックが成長するにつれて男性的な特徴が目立ってくると、私の中で彼は心許せる幼馴染から、脅威を感じさせる男性という存在に変わっていってしまった。だから昨年、リックに事情を話して、婚約の申し出を取り下げて貰ったの……」
罪を告白するようにユリアエールが後悔を滲ませながら、静かに語る。
それをアズリエールは今にも泣き出しそうな表情で、黙って聞いていた。
「お父様もアレク様も結婚に関しては、無理に必死にならなくてもいいとおっしゃってくれていたけれど。でも、ずっと私は風巫女の家系の長女として役に立てない自分を責め続けてきた……。だけどオルクティス殿下に出会って、初めて脅威を感じない安心感を与えてくれる男性の存在を知ったの」
すると、今度は花が綻ぶ様な幸福そうな笑みを姉が浮かべた。
その様子にアズリエールの中で何かがピンっと胸を締め付ける用に張り詰める。
「リックの事もあるし……二度もアズにこんな事をお願いする私は、人としても姉としても本当に最低な人間だと思う……。だけどこの先、オルクティス殿下のように自分にとって、脅威を感じさせない男性に出会える機会は皆無だと思う……。だからアズ――」
途中で言葉を切ったユリアエールがズイっとアズリエールと距離を詰め、その両手を救い上げるように優しく手に取る。するとアズリエールは無意識に拒絶的な反応をしていまい、ビクリと肩を震わせた。
すると、今度は姉が泣き出しそうな笑みをアズリエールに向けてくる。
「オルクティス殿下の婚約者の立場を私に譲ってほしいの……」
その絶対に受け入れたくない願いを告げられたアズリエールが大きく瞳を見開き、そっとユリアエールから自分の両手を抜こうとした。
しかし姉は、それを許さない。
同情を乞うように瞳に美し過ぎる涙を溜め、懇願するようにアズリエールに見つめながら捕らえてくる。
儚さの中に絶対に諦めないという強い意志を宿した姉のその気迫にアズリエールが呑まれ掛け、自分が小さく震え出している事に気が付く。
だが、同じくそれに気が付いているはずのユリアエールは、その追撃を一切緩めてはくれない。
「アズ、お願い……。私、もう7年前の事件から解放されたいの。もうこれ以上、長女としての役割を果たせずに、お父様やサンライズ王家を落胆させたくない……。それぐらい安心感を与えてくれるオルクティス殿下との出会いは、私にとって奇跡的なものなの……」
7年前の事件……。
その事を出されてしまうと、アズリエールは何も拒絶できなくなる事を姉は、よく知っている。
知っていて、敢えてその部分を強調しているのだ。
それだけ姉は、必死でオルクティスの婚約者の立場を望んでいるのだろう。
だが、その受け入れがたい要望にアズリエールは、青い顔をしたまま小さく頭を振り、必死で抵抗をする。そして何とかして姉に掴まれてしまった両手を引き抜こうとした。
それでも姉は、一切アズリエールの両手を解放してくれない。
「お願い……アズ」
そう言って姉は、更にアズリエールの両手を強く握り締めて来た。
絶対に引かないと言うその姉の意志の強さにアズリエールの決意が、ボロボロと崩れかける。
そして姉はこの7年間、もっともアズリエールが罪悪感を抱いている部分をそっと口にする。
「私にもあなたのように男性と幸せに家庭を築けるかもしれない権利を頂戴……」
切実に懇願してくる姉の言葉に、ついにアズリエールの瞳から涙が溢れ出した。
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