涙あふれる断罪劇(未遂)

ハチ助

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1.覚悟はしていた断罪劇

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―――【★読まれる前の注意事項★】―――
・当作品にざまぁ展開はございません。読まれる際は、ご理解の上でお願いします。
・テンプレ要素がっつりですが、それは設定のみです。
・作者はかなりの元鞘好きです。その展開が地雷の方はご注意ください。
・登場人物達に過度に感情移入せず、お話を傍観するような感覚でお読みください。
※当作品は作者が考えた架空の登場人物がおりなすフィクションのお話です。非現実的でありえない設定と世界観でのお話になります。
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 未成年者としては、最後に過ごせる王侯貴族達が通う学園の卒業パーティー。
 その残りわずかな貴重な時間を王宮内の舞踏会会場にて、卒業生たちが全力で楽しんでいる中、会場の中央で突如として始まった断罪劇……。

「オレリア……。この三年間、僕は君に失望する事が多かった……。そしてこの晴れやかな日でもある学園生活の最終日にこのような事を君に告げる事は、とても非常識な振る舞いだと重々承知している。だが、君がこの三年間、フェシリーナにしていた事は、とても許せそうにない……」

 そう言ってこの国の第二王子であるエセルフリスは、悲しげな表情を浮かべながら視線を床に落とした。その傍らには、ふわふわとした淡いピンクブロンドの髪に濃厚なエメラルドのような瞳をした小柄な少女が、怯えた子猫のように震えながら、エセルフリスの袖に両手でしがみついている。

 少女の名前はフェシリーナ・プロテア。
 父親は子爵家の人間だが、母親が平民で4年前まで王都から離れた田舎町で平民としてくらしていた少女だ。

 三年前に王立アカデミーに高等部から入学してきた生徒で、今ではすっかりオレリアの婚約者であるエセルフリスの隣を当たり前のように陣取っている。
 もはやお馴染みとなった二人の近い立ち位置を目の前で見せつけられたオレリアは、痛みでも堪えるかのように顔を顰め、思わず視線を逸らした。

 対して婚約者から断罪対象として名を上げられたしまったオレリアは、伯爵家であっても王族が臣籍降下するに相応しい由緒ある家柄の一人娘だ。
 婚約者である銀髪の第二王子とは対照的に眩いばかりの見事な金の髪をサイドアップにして、美しい縦ロールを作っている。やや感情が読み取りづらいが、雲一つない青空のように澄んだ水色の瞳は、まるで彼女を作り物ではないかと思わせる程の完璧な美を強調させているが、同時に温度を感じない冷たい印象も与えた。

 そんなオレリアが第二王子のエセルフリスと婚約を交わしたのは、今から12年前の6歳の頃だ。その当時からお人形のように整い過ぎたオレリアと、同じく陶器のような透明感を感じさせる絶世の美少年と言われていたエセルフリスが並ぶと、多くの貴婦人達が思わず感嘆の声を上げる程、愛らしい組み合わせとして社交界を賑わせていた。

 だが、オレリア達当人は、お互いに仲の良い遊び相手という感覚を抱いたまま成長した。その為、成長後の二人は特に甘酸っぱい雰囲気にはならず、お互いに安心して背中を任せられるパートナーという感覚が強かったのだが、それでも婚約者としての良好な関係は築けていた。
 だが、そんな二人の関係は、フェシリーナがこの学園に入学してきた三年前に一変してしまう……。

 現在は子爵令嬢のフェシリーナだが、実は14歳まで王都から少し離れた田舎町で暮らしていた元平民で、なかなかの波乱万丈な人生を歩んでいた。
 まず母親はフェシリーナが8歳の頃に病で倒れ、そのまま亡くなっている。
 次に父親だがフェシリーナが14歳の時に過労で倒れ、そのまま病も発症し、寝たきり状態になってしまったそうだ。その際、もう先が見えている事を悟っていた父親は、子爵家の家督を継いでいた自分の弟夫妻に手紙を書き、娘のフェシリーナの事を託したのだ。

 そんなフェシリーナの父親だが、実は元子爵家長男の令息であり、邸のメイドであった母親と恋仲になって、駆け落ちをしたという過去があった。
 そしてその家督を継いだ弟夫妻は、たまたま子宝に恵まれなかった為、病に倒れた兄共々、娘のフェシリーナの事も温かく迎い入れてくれた。

 だがフェシリーナの父親は、すでに手の施しようが無い程、病状が悪化していたらしい。フェシリーナ達が子爵家で暮らすようになってから半年後に息を引き取り、その後のフェシリーナは父を看取ってくれた叔父夫妻の元で、子爵令嬢として暮らしていたそうだ。

 その間、叔父夫妻は本当の娘のように姪のフェシリーナを溺愛したのだろう。
 平民から突然子爵令嬢となったフェシリーナはその後、16歳になった際に貴族子女が通うこの王立アカデミーに高等部から入学して来たのだが……。貴族令嬢としてのマナーはあまり身に着けておらず、平民特有の天真爛漫で自由奔放な振る舞いから、学園内でも悪目立ちしてしまう存在だった。

 だが、その令嬢らしからぬ部分が、王侯貴族の令息達には魅力的に映ったらしい。フェシリーナは高等部内では皆の注目的存在だった第二王子エセルフリスと、その側近候補である令息達全員とそれぞれ偶然出会う機会があり、そのまま気に入られた状態から、この学園生活をスタートさせたのだ。

 ちなみに彼女と最初に接触したのは、オレリアの婚約者でもある第二王子のエセルフリスである。何でも巣から落ちてしまった雛鳥を戻そうと、木に登っているところをエセルフリスに目撃され、その事が切っ掛けで会話をするようになったらしい。
 その当時、エセルフリスから「木登りをするご令嬢なんて初めて遭遇したよ」と面白おかしく話を聞かされたので、オレリアも二人の出会いの詳細を知っている。

 次にフェシリーナが接触したのは、宰相の息子のトルキスだ。
 高等部から入学した彼女は学園内で迷ってしまい、その時に遭遇したらしい。次が移動教室の授業だった為、そのままトルキスが教室まで案内した事で親しくなったそうだ。

 三番目に接触したのが騎士団長の息子のヴィクターである。
 放課後、フェシリーナが学生寮に戻ろうとしていたところ、同じクラスの令息達に元平民という部分で絡まれてしまい、そこを丁度通りかかったヴィクターに助けて貰った事で知り合ったらしい。

 最後は外交官の息子のフリッツだ。
 休み時間の教室で、またしても元平民という部分を令嬢達に指摘され、嫌味を言われている際、温和な雰囲気でその場を収めてくれたのが、フリッツだったそうだ。その際に過去にもそういう事があった事を話したらしく、エセルフリス達へ相談する事を勧められ、現在の囲い込みのようなフェシリーナへの守備体勢が結成された。

 何故、ここまで第二王子達が元平民の子爵令嬢を必死で守ろうとするのか……。それは恐らく、この学園での平民生徒の受け入れを最近本格的に検討しているからだ。
 もし元平民であるフェシリーナを入学させた事で問題が起こるような事があれば、折角検討され始めた平民生徒の受け入れ体制が、再び撤回されるかもしれない可能性をエセルフリスは懸念しているのだろう……。
 その結果、フェシリーナを過剰護衛するという形になってしまったようだ。

 だが、フェシリーナが嫌がらせを受けてしまう経緯は、何も『元平民』という部分だけではない。彼女は貴族令嬢としてのマナーや、知識を学びに来ているはずなのに全く淑女らしい振る舞いを身に付けようとする姿勢が、見受けられなかったからだ。

 実際に平民感覚のフェシリーナは、無自覚で令嬢として問題視される行動が多く、身分差の線引き意識が強い令嬢達から、必要以上にきつい口調で注意される事が多々あった。場合によっては嫌がらせ行為も受けていたらしい。

 そんなフェシリーナの事を何故か第二王子であるエセルフリスと、その側近候補でもある三人の令息達が、この三年間まるで忠誠心の高い騎士のように囲いながら守ってきたのだ。

 そして当然だが、その他三人の令息達にもそれぞれ婚約者が存在する。
 その婚約者である令嬢達は、周囲から『婚約者に蔑ろにされている令嬢』という視線に静かに耐え、苦しんでいた。

 同じ立場であったオレリアもその気持ちが痛い程分かっていたので、自身の婚約者であるエセルフリスに何度もその事を訴え、エセルフリス自身もフェシリーナとの交流を少しだけ控えて欲しいと懇願した。

 またフェシリーナにも婚約者を持つ令息達と親しげに接する事は、あらぬ誤解を招くだけでなく、淑女としてもあるまじき行為なので、控えて欲しいと訴えたのだが……。平民感覚のフェシリーナにとっては、友人として親しくしているだけで、はしたないと非難されたと取ってしまったらしい……。

 どうやらそのようにオレリアから注意を受けた事をエセルフリスや側近令息達に相談したらしく、その際に何故かオレリア達に嫌がらせをされているという流れで伝わってしまったようだ。
 気が付けばこの三年間で、オレリアがフェシリーナを虐げている令嬢の筆頭という扱いになっていた。

 その傾向が強くなり出したのが、高等部二学年の半ば過ぎくらいである。
 エセルフリス達は、まるでお姫様を守る騎士のようにフェシリーナの周囲を固め、オレリアや側近候補達の婚約者に遭遇すると、何故か「フェシリーナへ嫌がらせ行為をする事はやめて欲しい」と強く訴えてくるようになったのだ。

 当然、学園内でも注目の的である彼らが、廊下等で声高々にそういう事を訴えてくる状況は、他の生徒達の目にもしっかりと映っていた。
 その為、フェシリーナの可憐で繊細な容姿から庇護欲をそそられた令息達や、彼女の被害に直接遭っていない令嬢達は、本当にオレリア達が嫌がらせをしていると勘違いする生徒が、かなり増えてしまった……。

 そんな状況下で不思議だったのが、あるフェシリーナの反応だった。
 オレリアに遭遇した時のフェシリーナは、大抵エセルフリスの後ろに隠れ、生まれたての小鹿のようにふるふると震えている事が多かったのだが、明らかに誤った内容でオレリア達が犯人扱いされ始めると、そこはしっかりと「その嫌がらせはオレリア様達ではございません!」と否定してくるのだ。

 そしてそういう嫌がらせの内容は、もはや犯罪に近い内容の事が多かった。例えば階段から突き落とされたり、人の出入りがほぼない準備室に閉じ込められたり、私物を破損させられたり窃盗されたり等の酷い嫌がらせだ。

 恐らく、これらの嫌がらせの犯人の正体をフェシリーナは、薄々気付いてはいるのだろう……。だが、実行犯ではないのか確証がないようで、ましてや身分が低い子爵令嬢という立場では、下手にその相手を訴える事が出来ないのだろう。もしその事をエセルフリス達に告げてしまえば、犯人は証拠を握り潰した後、更に苛烈な嫌がらせをしてくると懸念を抱いている様子だった。
 だからと言って、明らかに犯人でないオレリア達の所為にされるのもフェシリーナの中では、納得がいかなかったようだ。

 しかしオレリア達の苦言が嫌がらせとして扱われている件に関しては否定せず、エセルフリス達の後ろに隠れながら、俯き気味で傍観していた。
 彼女の学園内での振る舞いについては、確かにオレリア達も口頭での注意と頻繁に行っていた為、それをフェシリーナが苛めと取ってしまったのならば、誤解を解かない限り苛めになってしまうのだ……。
 何よりも現在のフェシリーナとって、大半の女子生徒は自分に敵意を向けていると思い込んでいる節がある。

 そしてそういう状況に彼女を無自覚に追い込んでいるのが、実は過剰にフェシリーナを囲っているエセルフリス達なのだ……。彼らがフェシリーナを強固に守ろうとすればする程、フェシリーナは他の人間と交流する機会が得られず、同性同士で何かをしなければならない状況時は自然と孤立してしまう。

 そもそも中等部までは、王族教育で培った複雑な人間関係に上手く立ち回れるスキルを発揮していたエセルフリスが、フェシリーナと出会ってからは、ほぼ無能と化している今の状態にオレリアは疑問を感じていた。

 そんなエセルフリスは、今オレリアの目の前で更に彼らしからぬ軽率な行動に出ようとしている。こんな人目の多い大規模なパーティー会場で、あろう事か婚約者に対して断罪劇を始めようとしているのだ……。

 三年前のエセルフリスであれば、有り得ない行動だ。
 だがこの三年間でオレリアの婚約者である第二王子は大分変ってしまった。
 しかも彼の側近候補の令息達も同様に……。

 そんな激変したエセルフリス達に対し、オレリアと側近候補の令息達の婚約者である令嬢達は、この一年間である程度の覚悟を決めていた。恐らくこの後に彼らが行う事は、身分差を理由にオレリア達がフェシリーナに対して嫌がらせをしていたと、声を大にして訴えてくるはずだ……。
 そして最終的にオレリア達の婚約は彼女達の有責で解消されるか、あるいは破棄される事になるのだろう。

 この一年間、エセルフリスに対して何も期待を抱けなくなってしまったオレリアは、今から婚約者から放たれる言葉を全て受け入れ、そして彼との関係を諦める事に覚悟を決める。
 それは側近候補である令息達の婚約者達も同じはずだ。

 だがその場合、誰かが彼らの行おうとしている断罪劇の矢面に立たなくてはならない……。そしてそれは、身分が一番高い婚約者を持ったオレリアの役目だ。
 その事を再度自分に言い聞かせ、オレリアはゆっくりと口を開く。

「エセルフリス殿下。恐れ入りますが、わたくしがフェシリーナ様に対して行った殿下が許せないと思われる内容の詳細を伺ってもよろしいでしょうか?」

 オレリアの質問に一瞬だけエセルフリスの動きが止まった。
 だが、すぐに盛大なため息をついて見せる。

「君はフェシリーナに対して行った愚行をこちらで一つずつ上げていかないと、罪の意識を抱けないかわいそうな女性なのだね……。ならば君の望み通り、一つずつ彼女に行った酷い仕打ちを教えてあげるよ……」

 まるで憐れむ様な視線を向けてきたエセルフリスを真っ向から見据え、これから行われる断罪劇を甘んじて受けようと覚悟を決めたオレリアが、強い光を瞳に宿しながら見据える。そんなオレリアの態度にまたしてもエセルフリスが、怯むような素振りを見せた。だがすぐに先程のオレリアを非難するような鋭い視線を返してくる。

「オレリア……。覚悟してくれ」

 呟くようにそう口にしたエセルフリスは、隣に立つ宰相の息子であるトルキスより、書状のような報告書らしきものを受け取り、それを上下に広げ内容を読み上げだした。
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