天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第18.5章 流れる先に

2.運命が動いた日

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■■■前書き■■■
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2020年も残りわずかとなりました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。m(_ _)m

■■■■■■■■■

流される毎日を繰り返していると、気付いたら卒業まであと2ヶ月になっていた。
卒業式の日だけは通達されているものの、卒業後の配属先などについては『必要な時期が来れば発表する』としか説明されていないから、困惑した表情を浮かべる生徒がたくさんいた。


「卒業後ってどうなるのかなぁ。自分より親がソワソワしちゃってるよ」
「俺も!ここ最近『直轄部隊に入るのか?どの将軍の部隊に入るんだ?』って何度も聞かれるけど、分からないから返事のしようもないよ」
「直轄部隊って地方の下級兵士よりも給料が良い上に、出世が見込めるらしいから、入れるといいんだけど。でもさ、そもそもどうすれば入れるんだろう?」
「上級生に話を聞く機会もなかったから誰にも分からないもんなぁ」
「フラシールがさ、兄ちゃんもここの出身だから色々聞いたらしいんだ。でも『毎日頑張るしかない』って言うだけで全然教えてくれなかったんだって」
「え~!どういう意味だよ!」
「優秀な軍人になるには、毎日のたゆまぬ努力が必要!ってことなのかなぁ」
「まぁ、たしかにそういう意味なのかも?」
「将軍とか副官は俺たちの成績じゃ無理そうだけど、上級兵士にはなりたいなぁ」
「俺も~!かっこいい二つ名がつくような軍人になれればいいなぁ」
「よし!明日も1日頑張るぞ!」
「だな!」

同じ学年の誰もが卒業後のことを気にしている様子だが、将来に大した希望もない自分には興味の湧かないことで。前向きな未来を口にする彼らを、どこか遠い世界の人を見るような感覚で眺めていた。



そんな日が続いたある日。1日の授業が終わると、25人の将軍の名前と『希望先』と題された解答欄がある1枚の紙が配布された。


「このアンケートは配属先を決める時の参考資料として使われるが、希望した部隊に必ず配属されるわけではない。提出期限の1週間後まで、この件については他言無用だ」

目標を見出すことが出来ないまま、ここまで来てしまったからなのか。立派な軍人を目指して努力する級友たちとのギャップを感じるからなのか。
アンケートを見ていると、なんとなくで生きている自分が国防を担う軍人になって良いのだろうか、別の職業に就いた方が良いのではないか。軍に入らないとすれば、どういう仕事をすればいいのかという疑問が湧いてきた。

軍に入らないとしてもアンケートは提出しなければならないと思い、とりあえず将軍たちの情報を得ようと夕食までの自由時間に図書館に行ってみた。すると過去の世界新聞を読んでいる同じ学年の生徒が沢山いて、彼らも将軍たちについて調べているらしい。
彼らの熱心な姿を見ながら本棚ではなく司書達の使うコの字型のテーブルに向かうと、目的の物は今日も無造作さに積み上げられていて、誰も読んでいる様子はなかった。
以前ファイルの雪崩を起こしてしまった司書と一緒に片付けをしたから、将軍1人1人の活躍をまとめた編纂中の本は閲覧出来なくても、資料にしている新聞記事の切り抜きなどをまとめたファイルは図書館内での閲覧は可能と知っている。過去の新聞を見るよりこのファイルを見た方が効率的だが、司書の机にあるそれが閲覧可能な物だと思わないのも当然かと思った。


「ここにあるファイル、閲覧してもいいですか?」
「いいわよ~。必要になったら声かけるから、その時は返してね」

顔なじみになっている司書に許可を得ると、積み上げられたファイルを数冊手に取り空いた席に持って行った。

現役の将軍ごとに活躍がまとめられたファイルを見ていると、誰もが将軍になる前から輝かしい戦果を上げているが、後進の育成と活躍も重要な能力と考えているのか、将軍だけでなくその副官達の戦果についての新聞記事の切り抜きもあった。
ファイルには新聞の切り抜きやその将軍が出した通達書、吟遊詩人の報告書なども入っていたが、その中に父の名前が書かれたものを見つけた。ファイルはたくさんある上に、限られた自由時間内で読まなければならないのだが、こんなところで再会出来るとは思わなくて、父が書いた報告書だけは文字をなぞりながらゆっくり読んだ。



「なぁなぁ。アンケートどうする?」
「知らない」
「さぁ?」
「え~?ケチケチすんなよ。俺も言うから教えてよ」

その日の夜、級友たちと談話室でトランプをしていると、隣のテーブル席で同じようにトランプをしていたグループの1人の声が聞こえてきた。そのグループは同じクラスの自分達と大して変わらない成績の人たちの集まりで、その話題を振られた同じテーブルの人たちは誰も相手にしなかった。その態度が気に食わなかったのか、彼はしばらく不機嫌そうな顔でトランプをしていたが、遅れてやってきた気の弱い生徒を強引に隣に座らせた。


「お前ってリュバルス様に憧れてたよな」
「え?」
「やっぱり将軍達を束ねる筆頭将軍となるとかっこいいよなぁ」
「そ、そうだね」
「一番人気だろうから競争率は高そうだけど、俺はリュバルス様の部隊に入ってみたいと思ってるんだ。お前もそう思うだろ?」
「わ、わかんないな」
「なんだよ。絶対思ってるくせに。はっきり言えばいいのに」

思い通りの返事をもらえなかった彼は、納得のいかない顔をしながらも静かにトランプをしていたのだが。しばらくすると、彼は勢いよく椅子から立ち上がった。


「よっしゃ!俺の勝ちだな!じゃあ、1人ずつアンケートに書く名前を言え!」

彼は得意げな顔をしながら椅子に座り直すと、カードを持ったままの仲間たちにそう命令した。最初に勝った者が命令出来るルールにしていたらしいが、彼と気の弱い生徒以外はトランプを机の上に静かに置いて立ち上がった。


「悪いけどその命令は受けられない。お前も部屋に戻ろう」
「う、うん」

気の弱い生徒も促されるようにトランプを置いて立ち上がると、彼を1人残して談話室を出ていった。


「なんだよ。ここには教官いないのに。あ~あ、つっまんねーの!」

彼はブツブツと文句を言いながらトランプを片付けて談話室から出ていったが、敢えて教官が『他言無用』と言うのには理由があるのだろうと予想がつくというのに。教官がいない時なら問題ないと、なぜ思えるのだろうか。


ファイルをすべて読み終えたが誰にも興味を惹かれることはなく、解答欄が白い状態で提出期限の朝を迎えてしまった。
この1週間、誰の部隊を希望するのか、軍に入らないのなら何の仕事をすればいいのかと悩んだのだが、だんだん『悩む』こと自体が面倒に感じるようになった。
かといって白紙で提出するわけにもいかず、朝の集合時間のギリギリまで悩んでみた結果、何も考えず軍に入った方が楽だと思って一番上にあった将軍の名前を書いた。
そしてその日の夜、いつもと変わらず談話室の片隅で級友たちと集まると、すぐに配属希望先についての話題になった。


「どこの部隊を希望した?俺はダラエス様!」
「俺、エメルバ様!知略に長けた戦い方って、なんか格好良いよなぁ」
「俺はリュバルス様だな。筆頭将軍の部隊に入れたら、あっという間に昇進出来そうだし」
「お前は野望に満ちてるなぁ。俺は同郷のファルデア様だな。ディスコーニは?」
「私はアスティード様の部隊を希望しました」
「なんだ。全員バラバラなのか。希望通りに配属されるわけじゃないけど、どうなるかなぁ」



それから数週間が経った頃。
1日の予定を伝える朝の時間に、いつもは最初の授業を担当する教官が1人で入ってくるのに、この日は戦術論を教える教官と、黒魔法を教える教官が同時に教室に入り、いつも以上に険しい表情で並んで教壇に立った。


「今から、お前たちのこの2年間の成果を将軍方に見て頂く最終演習を行う。相手は銅の階級章を与えられた上級兵士だ。相手に遠慮はいらない。殺す気で臨め」

「今日の最終演習だけでなく、2年の間に行われた全ての筆記試験と実技試験の結果を提出した上で、将軍方による協議によって配属先が決められる。だが、この最終演習が最重要の試験になるのは間違いない。機会は1度だけだ。勝ち負けにこだわらず、今までやってきたことを発揮できるように励め」

突然の知らせに教室内は小さなざわめきが起きたのだが、いつもなら咎める教官はそれを無視するように言葉を続けた。


「地方の養成学校の出身であれば、卒業後は地方拠点配属の下級兵士から始まり、配属された部隊の中で少しずつ階級を上げていく。飛び抜けた成果をあげなければ出世に時間がかかるが、この演習で成績が優秀であると認められれば、地方の配属ではなく将軍の直轄部隊の下級兵士として配属されるから出世は早い。
地方の下級兵士は平時なら街の治安維持や工事などを行い、戦時は前線に配置されるのに対し、直轄部隊の下級兵士は平時はひたすら鍛錬を積み、戦時は中級兵士がまとめる小部隊に組み込まれ、副官の指示に従って敵に向かって行く。ただし、直轄部隊に入ることが出来ても、その後の成績次第では地方に異動になることもある」

「この演習は地方学校の者たちには与えられない貴重な機会だ。直轄部隊の一員として選ばれない場合、養成学校出身者と同様、地方配属の下級兵士からのスタートになる。
この最終演習がお前たちの将来を左右する。いつも以上に気を引き締めて臨めよ。ではこれより演習場に移動だ」


事前の通達もなく、今日将来が決まる最終演習が行われると誰も知らなかったから、移動中は誰も口を開かず困惑した空気だった。

ーー未熟な自分たちに格上の相手なんて無理な話で。忙しい将軍たちがわざわざ来ても、生徒が負けるだけの演習を見続けるなんて、つまらないだけだろう。大した結果にならない最終演習に何の意味があるのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えながら演習場に行くと、何もないだだっ広い砂地に長机と椅子が楕円になるように置かれ、その内側には結界を張る白魔道士、試合を行う銅の階級章を胸につけた人たちが待機していた。
どの席にも金の階級章をつけた将軍と銀の階級章をつけた副官たちが5人座っていて、演習場に入ってきた自分たちを射抜くような鋭い目で見ている。
将軍や現役の副官なんて初めて見るが、元副官である教官よりも威圧感がすごい。目を合わせるだけでも萎縮するような独特の圧力があって、演習場内は重々しい空気が漂っている。それは自分以外も感じているようで、今まで使っていた刃をつぶした剣ではなく、本物の剣を受け取ると全員の顔に浮かんでいた不安と緊張の色が濃くなった。


「では演習を始める。名前を呼ばれた者は中に進め」

あっという間に決着が着く現実が続き、誰もが『格上を相手にどう足掻いても勝てる見込みはない』と分かっているだろうに。自分が末端の軍人になるのか、出世が見込まれる軍人になるのか、という運命がここで決まると言っても過言ではないからか、誰もが気合の入った顔になっている。そんな彼らの表情を見ていると、冷めた自分がとても異質に感じた。



「次。ディスコーニ・シュアノー」
「はい」

名前を呼ばれて中に進むと、今までの魔法の応戦によって砂地は泥になっていて、歩くたびに足元でピチャリピチャリと音がする。
結界が張られ、将軍たちの視線を感じながら「はじめ!」という掛け声がかかった瞬間、相手は早口で唱えた水の中級魔法を放って来た。少し出遅れたものの、生み出した風の槍が自分を飲み込もうとする水を切り裂いて相手に向かっていったが、相手はヒラリと避けて剣を抜いてこっちに走ってきた。
苦手な剣での応戦は不利だと判断して水の魔法を発動させれば、地面に溜まった水が大きくうねり、相手の足元から這い上がって動きを止めようとしたのだが。流石に相手の方が上手で、どこからか落とした小石をおとりにして避けられてしまった。
剣を振り下ろそうとする相手に自分も剣を抜いて一撃を受け止めようとすると。

「う、ぁ!!」

相手は剣を合わせる瞬間くるりと翻って、自分のがら空きだった脇腹に蹴りを入れた。


「そこまで!」

ぬかるむ地面に吹っ飛ばされて泥だらけになったが、痛む脇腹を抑えながらどうにか立ち上がり、相手に向かって礼をして外に出ると、白魔道士に治療魔法と浄化の魔法をかけてもらえた。
あっという間に全員の演習が終わったが、銅の階級章を持つ相手に対して食らいついていたのは成績が上位の者だけで、ほとんどの生徒が自分と同じように呆気なく負けた。悔しそうに顔を顰めて目に涙を浮かべる人、力を発揮出来なくて落胆した様子の人が多い中、予想通りの結果となった自分には悔しいとか落胆する気持ちは微塵も生まれなかった。
この状況だと良い結果は見込めないだろうから、地方配属の下級兵士となって、なんとなく生きていくだろう。そう思うと、自分に一番見合う未来が見えたようで、妙な安堵感を覚えた。




「今から配属先を通達する。直轄部隊への配属が決まった者は、全員の通達が終わった後、演習場に行くように」

そして卒業式を翌日に控えた今日。教室では教官から1人1人に今後の配属場所の通達が行なわれていた。
希望する部隊への配属が決まって喜ぶ顔をする者、直属部隊ではあるものの希望先ではなかったのか暗い顔をする者、地方配属になって茫然自失する者。どの人たちも決して声にはしないものの、悲喜こもごもの状況が広がっていく中、自分の名前を呼ばれる番が近付いてきた。



「次。ディスコーニ・シュアノー」

教壇に立つ教官の前に姿勢を正して立つと、教官は自分を鋭い目で一瞬見た。


「お前はバルジアラ様の直轄部隊に配属だ」
「わかり、ました」

図書館で読んだファイルには、バルジアラ様は特別クラスを出てアディニベラス将軍の直轄部隊に入ったら、その強さで他を圧倒し、僅か1年で下級兵士から副官に。更にその1年後には腹心の副官になった。戦場では激しく動き回り、向かってくる相手を一瞬で倒すと次の敵もすぐに倒してしまうため、遠くで見ている戦場詩人には髪の色しか残像に残せない、ということで『銀の副官』という二つ名がついた。そして、つい最近最年少で将軍になったと書いてあったと思う。

この2年間の成績は大して良くなかった上に、演習でなんの結果も残せなかったのに。自分よりも成績が良い人が地方配属になったりしているのに、なぜ自分が選ばれたのだろうか。
理解できないまま困惑していると、いつの間にか全員の配属先が言い渡されていた。


「アンケートの話題をした奴、全員地方配属になってたな」
「やっぱりそうなのか」
「気になってたけど話題にしなくてよかった~!」
「だな!しかしどうやって分かったんだろ?」
「誰かがチクったのかな」
「それが一番ありえるな!」


無事に直轄部隊に入ることになった級友たちと一緒に小声で話しながら演習場に行くと、そこは将軍の数と同じ25の区画に分けられていて、将軍と副官が使う長机が1つと、そこに向き合うように置かれた学生が座る椅子が整然と置かれていた。
この場所には特別クラスだけでなく普通クラスの生徒もいるのだが、先にこの場所に来ていた生徒は、将軍と副官を前に緊張した面持ちで座っている。どの区画も最前列にいるのは上位の成績を収めた生徒達で、彼らは緊張しているようだが表情には自信が漲っている。
そして一番奥にあるバルジアラ様のいらっしゃる区画が見えてきたのだが、なぜかそこに用意されている椅子は1脚だけだった。


「ディスコーニ・シュアノーです」

椅子の横に姿勢を正して立つと、目の前にいる銀髪の大柄な方は灰色の瞳で射抜くように自分を見た。
いざ目の前にしてみると、最終演習で感じた以上に存在感がすごく、自分の奥底までを見透かすような恐ろしいプレッシャーを与えられた。

確か自分より5歳年上の23歳だったと思うが、その両脇に座る副官達よりも若いと思われるのに、彼らよりも明らかに年上に見える。それだけ身体に実績と経験が染み込んで、この威圧感を生んでいるのだろうか。


「おぅ、座っていいぞ。お前は別の所を希望してたが、俺のところに来てもらった。これからは俺が直接鍛えてやるから心してついて来い」

「よろしくお願いします。あの、私以外の者は…」

「俺のところに来るのはお前だけだ」

「え?」

「俺は最年少で将軍になったから妬まれてんだよ。通常、士官学校の生徒の配属先は過去の訓練や演習の結果、本人の希望を元に、将軍達が1人ずつ欲しい者を指名し、誰かと被ればくじ引きで決めているんだが、指名の順番をわざと飛ばして最後に回すっていう、ありがたい洗礼を受けたってわけだ。
まぁ、俺は気に入った奴しか部隊に入れないって決めてるから、目をつけてたお前が手に入れば他はいらんと断ってやったがな!その時の奴らの顔は面白かったなぁ。あっはっはっ!」

「選んで頂き、光栄です…。あの、なぜ私なのでしょうか。目立った成績でもないのに…」

バルジアラ様が大きな笑い声を上げると、距離はあるが隣の区画に座る将軍から冷たい視線を浴びせられたが、まったく意に介さない様子だ。大柄な体躯ということもあってその場にいるだけで威圧感があるのだが、豪快な笑い声をあげたからなのか、なんだか意外と喋りやすい人のような印象を受けた。隣に座る副官達の表情も、豪快な笑い声と同時に柔らかくなったのが印象的だ。
だから思い切って、なぜ自分が選ばれたのか聞いてみることにした。


「お前がすんげーつまんなそうにしてたからだ」

「え?」

「あの最終演習はな、最初から勝敗なんて誰も見てないんだよ。圧倒的な実力差のある相手にどんな気概で挑むのか、どんな作戦を練ったのか、追い込まれた時にどんな態度を取るのか。それを見るんだ。
他のやつらがどうにか爪痕を残そうと必死になってるっていうのに、お前は手を抜くことはしなかったが、食らいつこうとする気概はなかった。
ここまで覇気のない奴も珍しいと思って記録を見たら、黒魔法の適性は高いし頭も良いが、技術面ではヤル気が見られないと指摘されている。怠惰なひねくれ者かと思ったが、性格は従順で真面目と評価されてるから、そういうわけでもないらしい。
それを見たら、すんげぇつまんなそうにしてるお前にすごく興味が湧いてね。こいつは、根性を叩き直せば俺好みに育ちそうだと思ったからだ」

「そう、ですか」

自分の感情を表情に出していたつもりはないが、つまらなそうな顔をしていたらしい。もしそうだとしても、それは決して良い意味で捉えないと思うのだが、この方はそう見なかったようだ。


「俺が防衛戦を成功させても、核となる直轄部隊を壊滅させてしまえば『無様な姿を晒すのは将軍として不適格』と烙印を押して、失脚させることが出来る。
俺にまともな直轄部隊を組織させずに困らせ、『援軍をお願いします』って言わせてやろうと考えて、成績の良い奴を根こそぎ取っていったんだよ」

万が一バルジアラ様が負けたら、国の領土が奪われてしまう上に、大国は侵略戦争が出来ないから奪われた領土を取り返すことは出来ないのに。それでもそんな嫌がらせをするというのは、ライバル視している様子の他の将軍たちも、この方の実力を認めざるを得ないのだろう。自分が見聞きしてきた嫌がらせのレベルとは比べ物にならない仕打ちを受けているというのに、この方はまったく気にしていないようだ。


「逆に考えれば、まともな部隊じゃない状況で結果を残せば、奴らの悔しがる顔が拝めるってわけだ。
育つまでには時間がかかるかもしれんが、俺の直轄部隊は俺が見込んだ将来有望な奴ばかりだ。出陣することがあれば地方の一般兵士を連れて行くし、援軍が必要と判断すればちゃんと呼ぶが、俺が一番働けば良いだけの話だ」

逆境へ立ち向かう意識の高さからしても、厳しい鍛錬が待ち受けているのだろうと思うが、今まで出会ったことのない豪快な人柄、前向きな言動、どこかイタズラっ子の少年のような無邪気さを感じると、心の奥底に石を投げ入れられたような衝撃を受けた。


「ちなみに、俺の部隊にいる士官学校の出身は俺と副官5人、そしてお前だけだ。今は他の部隊に劣るかもしれないが、そのうち俺の部隊を一番強くする。そうなるように俺がしっかり可愛がってやるから、安心して鍛錬に励め。これからが楽しみだな!あはははは!」

「は、はい」

まだどういう方なのか分からないが、どうやら自分や他の人達とは違った視点で物事を見れる人物らしい。
他の将軍達からの冷たい視線を豪快に笑い飛ばすバルジアラ様を見ていると、自分が流される川の形が何かに引っ張られるように変わっていくような気がした。


■■■後書き■■■
更新が遅くなっておりますが、気長に待っていただき本当にありがとうございます。
来年も資格試験を予定しているため更新が遅くなる見通しではありますが、頑張って更新していきますのでどうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
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