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第1章 白い渡り鳥
7.消えた悪魔
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ウィニストラの首都に向けて馬を走らせていると、『赤い悪魔』にかけた怨珠の呪いの反応が消えたことに気付いた。
「消えた…?」
「バルジアラ様、どうかなさいましたか?」
隣を走る馬に跨る自分の腹心の副官ディスコーニが、耳にかかる金髪をたなびかせ、青いタレ目を細めて俺の異変に早速気付いた。
「いや……。『赤い悪魔』にかけた怨珠の呪いの反応が消えた」
「怨珠の呪いは白魔道士が解呪するか、対象者が死なないと解けない呪いですから、死んだということでは?」
「致命傷は負っていないから死ぬのが早い。ディスコーニ、人を出して『赤い悪魔』の状況を確認してこさせろ。
ネームタグではなく死体があればそれを持ち帰らせ、もし生きていればその場で殺して死体を持ち帰らせろ」
「分かりました」
ディスコーニは馬を後ろに下がらせて、部下に指示を出した。
「死んでいないとすれば、誰かが術を解呪したということになるが……。あの呪いの解呪が出来るのは高位の白魔道士だけだ。一体どうなってる?」
頭の片隅に生まれた「誰かの手による解呪」という可能性が妙に引っかかったが、それを振り切るように馬のスピードを少し早めた。
それから数日後。
国境線に再び柵を設けたことの報告書、自国が失った兵士の数の報告書などに目を通していると、扉をノックする音が聞こえた。
「バルジアラ様、失礼します」
執務室に入ってきたのは、副官のディスコーニと2人の下級兵士だった。
「バルジアラ様、この2名は『赤い悪魔』の様子を見に行った者です。先程この2名から受けた報告を致します。
戦場跡に到着したのは我々が去ってからおよそ12時間後の夜。光で照らして確認したところ、戦場のどこにも『赤い悪魔』の姿はありませんでした」
「姿がない…?」
「はい。念のため夜が明けてからもう一度探したものの、『赤い悪魔』の姿はやはりなかったそうです」
「お前ら本当にきちんと調べたんだろうな?髪が赤い者だけを調べたということではないだろうな?」
「はい。1人1人ネームタグと死因がどんなものであるのか、時間をかけて調べて参りました。
ですが戦地でのよくある死因の死体ばかりで、ランクSSの傭兵と一致するネームタグを持つ死体はなく、また致命傷のない衰弱死体などはひとつもありませんでした」
まさか命令を適当にやったとは思っていないが、射抜く様に下級兵士の2人を見れば、視線をそらさず背筋を正してハッキリと答えた。
「ひとつもない…ねぇ。そこの2名は下がって良い」
「はっ!」
下級兵士は礼を取って部屋から去って行くのを見届けると、軽くため息を付いた。
部屋に残ったディスコーニは、持っていた報告書を俺の目の前に静かに置いた。
「『赤い悪魔』は生きているということでしょうか?」
「そういうことだろうな。だがあの状況で生き延びるには、高位の白魔道士がいないと話にならんのだが。
アルベルトの白魔道士が、我々の撤退後に奴を見つけて解呪したのか?
だが普通に考えて白魔道士が戦場跡に来ることなどない。ということは『白い渡り鳥』様か……?」
「どうしましょうか。調べてみましょうか?」
「いや、良い。今は各地の戦況を安定させる方を優先しなければならないからな。下級兵士でも人手は必要だ。
それに生きていれば『赤い悪魔』はどこかの戦場で姿を現すだろうし、プライドの高い奴はいつか必ず俺のところへ来るだろう。
だが死亡したはずの『赤い悪魔』は生きている、とだけ訂正して伝えておけ」
「分かりました」
ディスコーニが部屋から去って一人になると、窓から鍛錬に励む兵士達の姿を見下ろした。
彼らが戦地に赴いて無事に帰ってこれるように、これから厳しく指導しなければ。
「しかし、あの状況で生きているとはなぁ…。今度会った時は確実に仕留めてやらないとな」
俺に血まみれになりがらも悪態をつく『赤い悪魔』を思い出したが、どうやら思った以上に悪運の強い男だったようだ。
近い将来、奴が再び自分の前に姿を現すことを思い浮かべると、思わず笑いが込み上がってきた。
「消えた…?」
「バルジアラ様、どうかなさいましたか?」
隣を走る馬に跨る自分の腹心の副官ディスコーニが、耳にかかる金髪をたなびかせ、青いタレ目を細めて俺の異変に早速気付いた。
「いや……。『赤い悪魔』にかけた怨珠の呪いの反応が消えた」
「怨珠の呪いは白魔道士が解呪するか、対象者が死なないと解けない呪いですから、死んだということでは?」
「致命傷は負っていないから死ぬのが早い。ディスコーニ、人を出して『赤い悪魔』の状況を確認してこさせろ。
ネームタグではなく死体があればそれを持ち帰らせ、もし生きていればその場で殺して死体を持ち帰らせろ」
「分かりました」
ディスコーニは馬を後ろに下がらせて、部下に指示を出した。
「死んでいないとすれば、誰かが術を解呪したということになるが……。あの呪いの解呪が出来るのは高位の白魔道士だけだ。一体どうなってる?」
頭の片隅に生まれた「誰かの手による解呪」という可能性が妙に引っかかったが、それを振り切るように馬のスピードを少し早めた。
それから数日後。
国境線に再び柵を設けたことの報告書、自国が失った兵士の数の報告書などに目を通していると、扉をノックする音が聞こえた。
「バルジアラ様、失礼します」
執務室に入ってきたのは、副官のディスコーニと2人の下級兵士だった。
「バルジアラ様、この2名は『赤い悪魔』の様子を見に行った者です。先程この2名から受けた報告を致します。
戦場跡に到着したのは我々が去ってからおよそ12時間後の夜。光で照らして確認したところ、戦場のどこにも『赤い悪魔』の姿はありませんでした」
「姿がない…?」
「はい。念のため夜が明けてからもう一度探したものの、『赤い悪魔』の姿はやはりなかったそうです」
「お前ら本当にきちんと調べたんだろうな?髪が赤い者だけを調べたということではないだろうな?」
「はい。1人1人ネームタグと死因がどんなものであるのか、時間をかけて調べて参りました。
ですが戦地でのよくある死因の死体ばかりで、ランクSSの傭兵と一致するネームタグを持つ死体はなく、また致命傷のない衰弱死体などはひとつもありませんでした」
まさか命令を適当にやったとは思っていないが、射抜く様に下級兵士の2人を見れば、視線をそらさず背筋を正してハッキリと答えた。
「ひとつもない…ねぇ。そこの2名は下がって良い」
「はっ!」
下級兵士は礼を取って部屋から去って行くのを見届けると、軽くため息を付いた。
部屋に残ったディスコーニは、持っていた報告書を俺の目の前に静かに置いた。
「『赤い悪魔』は生きているということでしょうか?」
「そういうことだろうな。だがあの状況で生き延びるには、高位の白魔道士がいないと話にならんのだが。
アルベルトの白魔道士が、我々の撤退後に奴を見つけて解呪したのか?
だが普通に考えて白魔道士が戦場跡に来ることなどない。ということは『白い渡り鳥』様か……?」
「どうしましょうか。調べてみましょうか?」
「いや、良い。今は各地の戦況を安定させる方を優先しなければならないからな。下級兵士でも人手は必要だ。
それに生きていれば『赤い悪魔』はどこかの戦場で姿を現すだろうし、プライドの高い奴はいつか必ず俺のところへ来るだろう。
だが死亡したはずの『赤い悪魔』は生きている、とだけ訂正して伝えておけ」
「分かりました」
ディスコーニが部屋から去って一人になると、窓から鍛錬に励む兵士達の姿を見下ろした。
彼らが戦地に赴いて無事に帰ってこれるように、これから厳しく指導しなければ。
「しかし、あの状況で生きているとはなぁ…。今度会った時は確実に仕留めてやらないとな」
俺に血まみれになりがらも悪態をつく『赤い悪魔』を思い出したが、どうやら思った以上に悪運の強い男だったようだ。
近い将来、奴が再び自分の前に姿を現すことを思い浮かべると、思わず笑いが込み上がってきた。
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