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第2章 始まりは手探りで
1.2人旅のスタート
しおりを挟む「いい天気だな」
のんびりとした声でポツリと呟いたのはルクトだった。
今、私たちはディモアの街まで歩いている。
徒歩ではなく、乗合馬車や馬を借りて移動しても良かったのだが、急ぐことはないと思って歩くことにした。
「そうだねぇ」
「こうしてのんびり歩くなんていつぶりだろ…」
「ルクトはどこの国出身なの?」
「ドルトネア」
ドルトネアは鉱石の産出国として有名で、国の殆どが切り立った山などに囲まれている。
作物が育ちにくい不毛の地と言われているが、たくましい人間はそう言われた地にも住み着いて鉱山を掘り当てた。
良質の鉱石を売って潤った国は、周辺国から多くの作物を買って国民を養っていた。
だが他国でも鉱石の産出が始まると、高値で取引されていたドルトネア産の鉱石に値崩れが起きて、一気に国家は財政危機となった。
そうなれば豊かな自然の恵みを受けていた隣国へと侵攻して行くのは当然の流れで、ドルトネアを支えていた鉱山労働者達は優秀な兵士や傭兵へと変身した。
自国の国民の食糧を確保出来るまで侵攻に侵攻を重ね、瞬く間に領土を広げたドルトネアは小国から大国となった。
現在でも鉱石は特産ではあるが、鉱石を生み出す国ではなく「優秀な傭兵を生み出す国」として知られている。
「そっか。ドルトネアか。だからルクトはランクSSで強いの?」
「そういうわけじゃねぇよ。確かにドルトネア出身の傭兵は多かったけど、同郷で俺以上の奴なんてザラにいた。お前はどこ出身なんだ?」
「私はこのセゼルの出身だよ」
「この国?『白い渡り鳥』になったの最近なのか?」
「『白い渡り鳥』になったのは2年前。今まで8カ国くらい回ったかなぁ」
「そうなのか。これからどこの国を目指すんだ?」
「とりあえずはトラントかな。あの国はよく戦争してるから、私の需要もあると思ってさ」
「あ、そうだ。俺さ元々金髪だけど赤く染めてたんだよ。次の街で染めたいから金を先に貸してもらえるか?」
「染めなくて良いじゃん」
「は?」
私の答えが意外だったのか、ルクトは歩みを止めて呆然と私を見た。
「今の方が似合ってるよ。赤い髪より断然良いと思うんだけど」
「俺は嫌だ。長い事赤い髪に慣れてたんだから、落ち着かないんだよ。それに『赤い悪魔』のトレードマークなんだからさ」
「えー?『赤い悪魔』は休業です。戦地に行かないんだから『赤い悪魔』になる必要はないでしょうが」
「それでも!」
目つきが鋭くて怖い印象を受けるルクトだが、必死に食い下がってくる様子は何だか可愛く見える。
「ルクトにかけられていた怨珠の呪い。あれ、術を解呪したりすると術者に分かるようになってたよ?
多分、術者はもう『赤い悪魔』が生きてるって気付いてると思う。
もしルクトが私の護衛になってるって知れて、面倒なことに巻き込まれるのは避けたいんだよね」
「……まぁ、確かにそうだけど」
「だから染めるのはダメー!勝手に染めたら許さないからね!」
「はいはい。はぁ…」
夕暮れになってきたので、私達は街道から離れた川沿いにある森の中に入って野宿の支度を始めた。
「ルクト、お魚獲ってきてくれる?」
「何で俺が。俺はどっちかって言うと、ここでゆっくり酒を… ぐうっ!」
「お・さ・か・な。獲ってきてくれる?」
私が念じると、ルクトは苦しそうな顔をしてガクリと膝をついた。
「くそっ!分かったよ!やればいいんだろ?やれば!」
私は薪になりそうな枝を集めて薪の支度をしていると、川に行ったはずのルクトは大量の魚を持って帰ってきた。
「え?もう獲ってきたの?」
「雷の魔法で感電させた」
「な、なるほど…」
私は薪に炎の魔法をかけると、ボッと音を立てて薪が燃え始めた。
「お、お前…今の魔法でその程度の炎しか出ないわけ?」
ルクトは私の黒魔法の残念な威力を見て、目を見開いて驚いていた。
その表情から彼が心の中で思っていることが簡単に予想出来て、私は苦笑した。
「うん。黒魔法の適性がなくてね。どの属性でも中級の魔法でこんなもん。初級の魔法なんてまったく意味ないのよ」
「それはまた…難儀なことで」
ルクトは慰めにもならない一言を吐くと、切り株の上で魚を捌いて、落ちていた枝に魚を刺して焼き始めた。
「ちょっとそこに立って。今後のこともあるから、私の黒魔法のレベルを見せてあげる」
私はルクトに中級レベルの雷の魔法、風の魔法を放った。
ルクトのような黒魔法に長けた人が使えば大怪我をするレベルの魔法なのに、無防備なルクトに怪我1つさせられなかった。
「こ、これはまた…。こんなに適性のない奴初めて見たよ」
普段は目付きが鋭くて、無表情か不機嫌そうな顔をしているルクトだけど、驚いた表情も可愛く見える。
「でしょ?自分でも笑っちゃうわ。だから護衛が必要なのよ」
「まぁそうだろうな。これじゃあいくら『白い渡り鳥』として優秀でも、賊に襲われたら手も足も出ないだろうな」
「あら、『白い渡り鳥』として優秀って認めてくれてるの?」
「一応な。俺は白魔法なんてろくに使えないけど、呪いの解呪だって簡単にできるもんじゃないっていうのは知ってるし、それに古傷も消えてたからな」
「そっか、それは良かった。私さ、黒魔法の適性がないからずーっと神殿で白魔法の勉強とかしてたんだよね。
だから黒魔法は残念だけど、白魔法とか黒魔法とは関係ない便利な魔法なら普通の人よりも詳しいよ!」
「へぇ、便利な魔法なんてあんのか?例えばどんなのがあるんだ?」
「じゃあ、披露してあげる!私の恩師直伝の魔法よ!」
焼きあがった魚をお皿代わりの大きな葉っぱに乗せて、もう一枚大きな葉っぱを被せた。
その上から手を触れて私は目を閉じて呪文を口ずさんだ。
「じゃじゃーん!」
呪文を唱え終わると、かざしていた手を魚のエラから尻尾にかけてなぞり、被せていた葉っぱを開いた。
「あ?!なんだこれ!?」
「どう?骨取りの魔法よ!使い道は色々あるようでないんだけど…」
私は身から綺麗に剥がれた魚の骨をブラブラと見せた。
「へぇ。便利だな。お前すごいな」
「あははは!実はさ、白魔法の勉強ばっかりで暇だったから、恩師が持ってた古い魔導書の勉強をさせてもらったんだ。
今じゃ使われなくなった昔の魔法らしいんだけど、この魔法もその一つなの」
「なるほどねぇ」
2人で焼き魚を食べた後は食後のお茶を飲みながら他愛のない話をして、寝る支度を始めた。
ルクトは鞄から毛布を1枚取り出し、私は鞄から毛布と空気が抜けてペチャンコ状態の寝袋を取り出した。
それを膨らませやすいように地面の上に伸ばすと、風の初級の魔法をかけて寝袋を一気に膨らませた。
目を閉じて自分の周囲を思い浮かべ、外からの侵入を阻む半円形の結界を張った。
「何やったんだ?」
「んー?結界張ったの」
「結界?俺、眠りが浅いから誰か近付いたら目が覚めるけど」
「でも安心して寝たいじゃない。侵入不可の結界張っといたから。
この結界、私がここにいれば従者であるルクトは出入り自由なんだ。
主従の関係になると、私の張るどの結界にもルクトは問題なく出入り出来るけど、術の解除は出来ないから覚えておいて」
私は毛布を身体に巻きつけて寝袋に入り、焚き火の向かい側に座るルクトは毛布にくるまってあぐらをかいた。
「へー。主従の関係ってそういう効果もあるのか」
「主従の誓いの効果はこれくらいしか知らないけど、もっと色んな効果があるのかもね。お互いのために今度調べてみましょ」
ルクトは毛布を羽織ったまま立ち上がり、結界の外に出たと思ったらすぐに座っていた場所に腰を下ろした。
「へぇ、本当に自由に行き来できるんだ。外から入れないなら、この結界があれば行動を制限される寝袋でも大丈夫なのか。便利だな」
「毛布だけで眠るより、やっぱり温かいのに包まれたいじゃない?だから結界は便利よ。今までの護衛の人にも好評だったんだ」
「そうだろうなぁ。今までの護衛はどうやって探してたんだ?」
「私が治療した人で、大丈夫そうな人に声をかけて依頼するのが多かったかな」
「じゃあ俺はシェニカのお眼鏡に叶ったわけか」
「そういうこと。ルクトが強い人ってのは分かったけど、性格までは分からなかったし早く護衛が欲しかったから主従の誓いを結んじゃった」
「今までの護衛にも主従の誓いを結んだのか?」
「まさか!そんなことする訳ないでしょ?」
「お前、それで良く襲われなかったな…」
私は寝袋に入って星空を見上げていたが、ルクトの言葉が意外だったので思わず焚き火の向こう側に座る彼を見た。
「襲うって私を?
ないない。私を子どもだ子どもだって、妹みたいだって言ってたから、そんなことあるわけないじゃん」
今まで護衛は4人雇ったけど、私を子供扱いする人達ばかりだった。
それぞれ別れてしまったけど、みんなどこかで元気にやっているといいな…。
「とりあえず寝るか」
「そうね、おやすみ」
パチパチと木の爆ぜる音を聞いていると、私はいつの間にか眠っていた。
だから、まさか寝入っている夜中に盗賊が忍び寄っていたなんて思ってもみなかった。
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