天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第2章 始まりは手探りで

2.イタズラ心

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「ふぁ~。よく寝た!おはよー。って何これ」


「おはよ。これは盗賊だな」


私が目を覚まして寝袋から出て見たものは、結界の外の木に両手を縛り付けられた5人の男達で、ひと目で盗賊と分かるような風貌をしている。

全員気絶しているらしく、木の下に座り込んでいる身体はダラリと弛緩している。




「と、盗賊なのは分かるけど…。これ夜中に襲ってきたの?」


「そう」


「えー?!全然気付かなかった」


「奴らも寝入ってると思って静かに近付いてきたからな。そこを不意打ちで仕留めたから音も最小限だったはずだ。
護衛として合格もらえますか?ご主人様?」


何だか嫌味っぽく言われたが、からかうような顔をしているから別に不機嫌ではないらしい。





「うむ。合格点をあげよう。んで?この盗賊達どうするの?」


「一応主人の意見を聞くのがいいと思って、とりあえず木にくくりつけておいたんだが」


「そうね。じゃあ街の衛兵に引き渡しましょう」


「引き渡すってこいつら全員か?俺でも男5人は引きずって行くのは無理だぞ」


「大丈夫。自分たちで出頭してもらうから。見てて」







私は気を失っている盗賊の一人を揺さぶって、少々手荒な感じで目を覚まさせた。


「おーい、起きて!起きてー!!」


「んあ?あ!お前っ!」


「はいはい、暴れないで。悪いようにはしないからさ」

私はルクトに向かって何か言おうとした盗賊の額に指を当てて、呪文を口ずさんだ。





「あなたは、ここから一番近い町の衛兵に会いに行きたくて堪らない。
衛兵に会ったら、『俺は盗賊団の一人です、貴方のようなまっとうな人間になりたくてここまで来ました。俺を逮捕してください。俺は貴方に一目惚れしたんです。うふふ』と熱っぽく語りたくなる……はい!」


指を外すと盗賊はぼんやりとした顔になり、私が教えた言葉を延々と口ずさみ始めた。
それと同じことを残り4人の盗賊にも行えば、準備完了だ。




「これで大丈夫だよ。ルクト、この人達の縄を外してくれる?」


「あ、あぁ…」


呆気にとられていたルクトだったが、彼が縄を外すと盗賊たちは駆け足で町の方向へと向かって行った。

男達の後姿を見送ったルクトが、驚いた顔をして私に話しかけてきた。



「なんだあれ。強制催眠か?」


「そう」


強制催眠というのは、文字通り催眠術に強制的にかける白魔法の1つで、暴れる人を大人しくさせる場面でよく用いられる術だ。
解除のやり方は白魔法の授業で最初に習うから、白魔法の授業をちゃんとやっていた人ならば簡単に出来る。



「なんであんな気持ち悪いセリフを言わせたんだ?」


「だって面白いじゃない。こうやってからかうのって結構楽しくて。
あ、でも人の迷惑になるようなことはしないから安心して」


「あんた…随分な趣味してんだな」


「あんたじゃない、シェニカよ。
黒魔法がろくに使えないんだから、こういう白魔法で一矢報いた気になってるの」


「でも、あいつらだって、催眠封じの護符とか持ってるはずたろ?」


「普通はそれで対処出来るんだけど、術者の白魔法の適性の高さとか条件が揃うと、ああやって関係なくかけられるんだ。呪いと一緒で、術者の能力が高いと護符が効かなくなるの」


呪いは嫌がらせ程度のものなら護符があれば防げる。
でも、ルクトにかけられていたような、黒魔法の適性が高い人による高レベルの呪いになると、護符の有無に関わらず呪いを受けてしまう。

それと同じで、白魔法の適性がそんなに高くない人がかける強制催眠は、護符を持っていれば防げる。
でも、白魔法に適性の高い私がかける強制催眠は、護符の影響を受けずに術をかけることが出来る。



呪いと強制催眠の違いは、適性の高さに影響されるかどうかだ。

呪いは対象者の黒魔法や白魔法の適性に関係なく、誰にでもかけられる。
一方、強制催眠は術者が対象者の白魔法の適性より低いと、術をかけることが出来ない。


だから白魔法の適性が高い『白い渡り鳥』は、基本的に誰にでも強制催眠をかけられるし、強制催眠が効かない。




「そうなのか。初めて知ったよ」

ルクトに呪いとの違いなどを教えてあげると、地面に置いたままだった荷物を背負った。




「普通は護符があれば大丈夫だよ。護符に関係なくかけられるとしたら『白い渡り鳥』くらいだから。私がルクトにかけるつもりもないし」



「言うこと聞かせたきゃ押さえ込めばいいもんな」


ルクトは肩を竦めて悔しそうな顔をしたのを見て、私は思わずプッと吹き出して笑った。





そして私たちは盗賊達が向かった方向へと歩み始めた。
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