天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第21章 ある国の終焉

7.誰かの不都合

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■■■前書き■■■
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今回は第三者視点のお話です。
■■■■■■■■■

シェニカを含めたウィニストラ側の全員が当事者控室に入ると、ディスコーニはシェニカに向き合った。

「少しバルジアラ様たちと話がしたいので、先に客室で休んでもらっていいですか?」

「うん、いいよ」

「終わったら私もすぐに行きますし、私の副官やトゥーベリアス殿らだけでなく、これ以降バルジアラ様の副官も警備に加わりますから安心してください。ルクトさん、レオンさん、お願いしますね」

ディスコーニが声をかけると2人の護衛は真剣な表情で頷き、シェニカたちは厳重な警備をされながら控室を出て行った。扉が閉じられ、シェニカの気配が遠ざかったのを確認すると、バルジアラと王太子はソファにどっかりと座り、同時に大きなため息を吐いた。


「何か動くなら対象はシェニカ様だと思ったんだが。まさか4人の『白い渡り鳥』様とトラント国王が暗殺されるとはなぁ」

「そうですね。シェニカ様に関しては、使用前に客室に侵入された形跡が見つかったくらいで、ほかに目立った動きはありませんでした」

「バルはどう思う?」

「憶測の域を出ませんが、説明にもあったように、地下牢の警備はランダムに選ばれた3国の元副官がチームを作って動いています。交流がない国や敵対心を抱く国と組むこともありますが、警備は決して脆弱なものではありませんから、衛兵が手にかけたか、手を貸した可能性が高いと考えるのが自然です。しかし、他国の目があるので暗殺の機会はほとんどないでしょうし、同じチームになった国と結託しようにも、国の組み合わせはクジで朝に決まり、どの人物と組むかも運次第で、事前に申し合わせることは困難です。もしそれらの問題をすべてクリアしたとしても、たいした情報を持っていない国王と、意思疎通が難しい『白い渡り鳥』様らを殺すメリットが見当たりません」

「だよね~」

「4人の『白い渡り鳥』様については、毒味役にあらかじめ解毒薬を飲ませておけば、毒が混入した食事を食べさせられるのではないか、と考えましたが、毒味を行った我が国の文官によりますと、普段と違うものを口にしていないそうですから、この方法ではないようです。いろいろ考えてみるのですが、現段階では毒の混入方法も動機もまったく見当がつきません。
トラント大使がこれ以上恥の上塗りをしたくない、と思うのはあり得る話ですが、愛国心があればウィニストラに身分の保障を求めてこないでしょうし、国王が尋問ではっきり大罪を認めている状態ですから、もはやトラントに未練はなかったと思います。そんな大使がトラント国王を手にかけて、何のメリットがあるのか分かりません。何者かが大使に強制催眠をかけ、国王を殺害させた可能性が高いと思います」

「なぜいま暗殺するんだろ。もっと前に試みることも出来ただろうに」

「これまで暗殺を試みなかったのは、黒幕と標的との間に物理的な距離があったとか、トラントによる大罪を確定的にした後が都合が良かった、国王を殺害するのがトラント大使である必要があった、とか何かしら理由があったのだと思います。
どれも毒を用いた手法ですし、同時に起こったので同一犯と考えがちですが、4人の『白い渡り鳥』様を手にかけた者と、トラント大使に強制催眠をかけた者は、それぞれ別の可能性もあります」

「もしかしてさ。トラントの王太子や宰相、将軍らが実は生きていて、このタイミングで暗殺したとか」

「彼らは国王がたいした情報を持っていないことを一番知っていますし、せっかく死の偽装をしたのに、放っておいても処刑される者たちを手にかけ、生存を匂わせるようなマネをしてもメリットはないと思います。もし彼らが生きていたとしても、大罪の責任はこのまま国王に取らせて、自分たちは第二の人生を歩む方がいいと考えると思います」

「まぁ、たしかに…。じゃあ、シェニカ様の客室に入り込んだのも、今回の暗殺に関係してたりする?」

「関係があるかどうかは分かりませんが、シェニカ様の一件については、どこかの国が客室に侵入できるように仕掛けを施したあと、同じ目的を持った別の国が侵入しようとして、仕掛けを作動させてしまった、という可能性も考えられます。
断定は出来ませんが、暗殺は非常に巧妙なのに対し、シェニカ様の客室の件は稚拙なので、別の者の可能性が高いと考えられるかもしれませんね」

「はぁ…。謎がいっぱい残る暗殺で俺の頭じゃ理解できないし、予想も立てられない」

「我々も色々推測してみるものの、必ず壁にぶつかってしまいます」

「う~ん。まぁ、なんだ。こんなことが起きて、こう言うのもアレだけど。国王が持ってる情報は聞き尽くしてたし、トラントの大罪は確定しているし、あの5人が死んで、処刑という面倒な仕事が省かれたと思う部分もあるんだよね」

「まぁ、それは一理ありますね。ディスコーニ。お前はどう思う?」

バルジアラは立ったまま考え込んでいたディスコーニに話を振ったが、ディスコーニはしばらく口を開かなかった。


「動機は私もよく分かりませんが…。今後各国から質問される内容に不都合があると考えた者が、口封じを行った可能性があるのではないかと思います」

「口封じ?各国に配布した報告書には、強制催眠をかけた国王に大罪の詳細を聞いた質問事項と返答も書いてたが、それじゃ聞き出せなかった情報があったってことか?」

「質問の仕方を変えてみれば違った返事があったのかもしれませんが、国王が内政も大罪の一件も人任せであったことには変わりありませんので、結果は同じだったと思います。ですが、我々にはどうでも良い内容でも、誰かには価値のある内容があったのかもしれません」

「そんな情報なんて持ってたか?」

「今はまだ何とも言えませんが…。時間と調査が必要かと思います」

「ならその調査はお前に任せる。もし何か分かったことがあれば、その時は報告しろよ」

ディスコーニは頷いて返事をすると、副官を連れてシェニカの待つ客室へと向かって行った。





微かな魔力の光が照らす薄暗い一室の扉が静かに開かれると、入ってきた人物は壁と同化するように立っていた数人の前を通り過ぎた。そして1人掛けのソファに座る主人の前に立って一礼をすると、主人は満足そうに目を閉じて小さく頷いた。


「想定外のことが起きる可能性は予想していたが、ここまで上手く運ぶとはな。よくやった。計画から実行まで、お前たちに任せて間違いはなかった。特にお前の働きは見事だった」

「身に余るお言葉ありがとうございます」

「お前たちのように機転が利く者が育ってきたのは喜ばしいことだ。今後も期待している」

一斉に恭しく一礼をすると、部屋にいた者たちは静かに部屋から出て行った。部屋に1人残る主人は目を閉じたまま天井を見上げ、満足そうに息を吐いた。
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