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出会い編
やさしくてかわいい僕の天使へ
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クロヴィスに名前と唯一をくれたのは、ひとりの天使みたいな女の子だった。
リーゼロッテ。彼女は蜂蜜色の金髪に、蝋燭の灯火みたいな温かい目をした少女で、友達もいなくて悪食で趣味の悪いクロヴィスに、「一番」をくれた。
リーゼロッテは、家庭教師のように領民みんなを平等に愛しましょう、なんて言わなかった。
ただ、全てを二番目に好きになればいいと言ってくれた。
リーゼロッテは、その言葉がどれだけクロヴィスを救ったのかわかっちゃいないのだ。
クロヴィスの異端も、クロヴィスの嫌いも、クロヴィスの苦手も、全部知ってなお、それでいいと手を握ってくれたリーゼロッテは、クロヴィスのお日様だった。孤独な世界に差し込んだ、たった一筋の光だったのだ。
父も母も好きだった。けれど、その愛はクロヴィスには重かった。どうして自分は犬が怖いのだろう。葡萄が好きなのだろう。百合を綺麗だと思うのだろう。
悩むたびにクロヴィスの心は擦り切れて、けれどその度にリーゼロッテが救い上げてくれた。
リーゼロッテと手をつないでいれば、クロヴィスは呼吸ができた。それが依存だってよかった。
ずっと与えられていれば、それが中毒による依存でも気付かず生きていけるのだから。
だからーーそう、だから。
リーゼロッテが狂人に刺された時、殴られた時、意識を失った、あの瞬間。クロヴィスは無我夢中で、男の関節を打った。
ずれた関節はおかしな方向に曲がり、痛みに絶叫しながら男は逃げ出した。
お茶の用意をして帰ってきた侍女がリーゼロッテを治療している間に、クロヴィスは話したことのない王太子の犬が死んだことを知った。
あの男がやったことだった。
けれど、その男を狂わせたのが、リーゼロッテだと言われた時、クロヴィスの中の何かが、決定的に土台からズレてしまったのだ。
ーーあはははは!
突然笑い出したクロヴィスに、衛兵たちは戸惑うように後ずさった。
こんな子供に怯えるのか!リズを生贄にしようとしたくせに!警備の穴の、責任転嫁のためだけに、クロヴィスの光を、リズを、殺そうとしたくせに!
ーー僕だよ、あの男をけしかけたのは。
奇妙な感覚だった。嘘っぱちを並べているのに、それが本当のように思えた。思い込んで、自分の罪にしていた。
かわいいリズ、やさしいリズ。僕の天使。
君が居てくれるなら、僕は生きていられる。だから、この可哀想な中毒者の糧を消さないでほしい。
祈るみたいに腕を組んで、口から出たら目の恨みを吐いた。
王太子が憎かった。愛犬が憎い。嫉妬したのだ。
だからーー薬を、盛った。
そんなことを支離滅裂に繰り返し、クロヴィスは、城の牢に入れられた。
心根の腐った衛兵隊に、駆けつけた父侯爵が抗議して。その時には、もうクロヴィスの体は血まみれだった。けれどクロヴィスは、それでも意識を保っていた。口から血を吐きながら、「リズは無事?」とリーゼロッテのことだけを想っていた。
クロヴィスは、父侯爵が慟哭するのを初めて見た。
リーゼロッテは無事だと、だからはやく元気になるんだと、衛兵に対する怒りを無理に押し込めて、父はクロヴィスを安心させるように笑った。
だから、クロヴィスは意識を失えたのだ。
あれ以上血を流していればクロヴィスは死んでいたらしいから、興奮が収まったのはいいことだった。
けれど、結論から言うと、リーゼロッテは無事ではなかった。
数日間生死をさまよい、目を覚ました彼女は壊れていた。
ごめんなさいと、からくり人形みたいに繰り返して泣くリーゼロッテを見て、クロヴィスは無理矢理に笑った。
ーーリズ、笑って。
その言葉で、またリーゼロッテは泣いた。
伸ばされた手が、他の誰でもなく、伸ばされた相手であるクロヴィスに押しとどめられ、シーツに落ちる。
僕のせいだね、そう言って跪き、謝る権利は、もはやクロヴィスにありはしなかった。
壊れたリーゼロッテ。かわそうな、かわいくてやさしい、クロヴィスの天使、リーゼロッテ。
偶然のせいで傷付き、クロヴィスにとどめを刺された彼女がこれ以上傷つかないように、幸せな世界を作ろうと思った。
扉の向こう、自分が死ねばよかったと繰り返すリーゼロッテの声を聞きながら、クロヴィスは、それはできないと唇をわななかせ、歪な笑顔を無理矢理に作った。そうしないと、今にも大声で泣きわめきそうだった。
ーー君が泣かないでいい世界を作るよ。
だから、リズ。
「……ごめんね、リズ」
もう一度、笑って。
リーゼロッテ。彼女は蜂蜜色の金髪に、蝋燭の灯火みたいな温かい目をした少女で、友達もいなくて悪食で趣味の悪いクロヴィスに、「一番」をくれた。
リーゼロッテは、家庭教師のように領民みんなを平等に愛しましょう、なんて言わなかった。
ただ、全てを二番目に好きになればいいと言ってくれた。
リーゼロッテは、その言葉がどれだけクロヴィスを救ったのかわかっちゃいないのだ。
クロヴィスの異端も、クロヴィスの嫌いも、クロヴィスの苦手も、全部知ってなお、それでいいと手を握ってくれたリーゼロッテは、クロヴィスのお日様だった。孤独な世界に差し込んだ、たった一筋の光だったのだ。
父も母も好きだった。けれど、その愛はクロヴィスには重かった。どうして自分は犬が怖いのだろう。葡萄が好きなのだろう。百合を綺麗だと思うのだろう。
悩むたびにクロヴィスの心は擦り切れて、けれどその度にリーゼロッテが救い上げてくれた。
リーゼロッテと手をつないでいれば、クロヴィスは呼吸ができた。それが依存だってよかった。
ずっと与えられていれば、それが中毒による依存でも気付かず生きていけるのだから。
だからーーそう、だから。
リーゼロッテが狂人に刺された時、殴られた時、意識を失った、あの瞬間。クロヴィスは無我夢中で、男の関節を打った。
ずれた関節はおかしな方向に曲がり、痛みに絶叫しながら男は逃げ出した。
お茶の用意をして帰ってきた侍女がリーゼロッテを治療している間に、クロヴィスは話したことのない王太子の犬が死んだことを知った。
あの男がやったことだった。
けれど、その男を狂わせたのが、リーゼロッテだと言われた時、クロヴィスの中の何かが、決定的に土台からズレてしまったのだ。
ーーあはははは!
突然笑い出したクロヴィスに、衛兵たちは戸惑うように後ずさった。
こんな子供に怯えるのか!リズを生贄にしようとしたくせに!警備の穴の、責任転嫁のためだけに、クロヴィスの光を、リズを、殺そうとしたくせに!
ーー僕だよ、あの男をけしかけたのは。
奇妙な感覚だった。嘘っぱちを並べているのに、それが本当のように思えた。思い込んで、自分の罪にしていた。
かわいいリズ、やさしいリズ。僕の天使。
君が居てくれるなら、僕は生きていられる。だから、この可哀想な中毒者の糧を消さないでほしい。
祈るみたいに腕を組んで、口から出たら目の恨みを吐いた。
王太子が憎かった。愛犬が憎い。嫉妬したのだ。
だからーー薬を、盛った。
そんなことを支離滅裂に繰り返し、クロヴィスは、城の牢に入れられた。
心根の腐った衛兵隊に、駆けつけた父侯爵が抗議して。その時には、もうクロヴィスの体は血まみれだった。けれどクロヴィスは、それでも意識を保っていた。口から血を吐きながら、「リズは無事?」とリーゼロッテのことだけを想っていた。
クロヴィスは、父侯爵が慟哭するのを初めて見た。
リーゼロッテは無事だと、だからはやく元気になるんだと、衛兵に対する怒りを無理に押し込めて、父はクロヴィスを安心させるように笑った。
だから、クロヴィスは意識を失えたのだ。
あれ以上血を流していればクロヴィスは死んでいたらしいから、興奮が収まったのはいいことだった。
けれど、結論から言うと、リーゼロッテは無事ではなかった。
数日間生死をさまよい、目を覚ました彼女は壊れていた。
ごめんなさいと、からくり人形みたいに繰り返して泣くリーゼロッテを見て、クロヴィスは無理矢理に笑った。
ーーリズ、笑って。
その言葉で、またリーゼロッテは泣いた。
伸ばされた手が、他の誰でもなく、伸ばされた相手であるクロヴィスに押しとどめられ、シーツに落ちる。
僕のせいだね、そう言って跪き、謝る権利は、もはやクロヴィスにありはしなかった。
壊れたリーゼロッテ。かわそうな、かわいくてやさしい、クロヴィスの天使、リーゼロッテ。
偶然のせいで傷付き、クロヴィスにとどめを刺された彼女がこれ以上傷つかないように、幸せな世界を作ろうと思った。
扉の向こう、自分が死ねばよかったと繰り返すリーゼロッテの声を聞きながら、クロヴィスは、それはできないと唇をわななかせ、歪な笑顔を無理矢理に作った。そうしないと、今にも大声で泣きわめきそうだった。
ーー君が泣かないでいい世界を作るよ。
だから、リズ。
「……ごめんね、リズ」
もう一度、笑って。
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